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65 :Chains of pain [sage] :2009/04/04(土) 04:38:23 ID:cCFA0o5R
「春斗君、今日はお弁当?」
昼休み、購買部へ行こうとしていた僕の元へ七海が弁当を
片手に歩いてきた。
「あぁ、七海……ううん、今日は違うよ」
「そうなんだ。……えっとさ、今日は春斗君の分も作ってきたんだ」
「え、本当? ありがとう。それじゃあ……」
「……屋上で食べようか」
二人で歩き出す。
階段を登り、屋上に出ると、雨はすっかり上がり、
雲を蹴散らすかのように日が差し込んでいた。
屋上のベンチに二人で座ると、お弁当をひざの上に広げる。
七海がお弁当を作ってくれるのは何も珍しいことじゃない。
高校に入ってからは基本的に優花が作ってくれるお弁当を食べている。
けれども元々、朝の手間を掛けさせない様に購買部で昼食を
済ませようとしていた僕は、優花にその旨を打ち明けたところ、
あたしの料理を食べたくないんだとか何とか泣きつかれてしまった。
しかし、何とか説得することに成功し、週に二日は購買部で昼食を買う、
ということで同意してもらったのだ。
もちろんその事は親しい七海も知っている。
だから僕がお弁当で無い日には僕の分を作ってくれるのだ。
「ごめんね……いつもいつも、本当に僕はパンでいいのに……」
「……だめだよ。春斗君は顔に似合わず夜食したりするんだから、
お昼ぐらいはちゃんとしたご飯を食べなきゃ」
なんて鋭い指摘。確かに昨日も深夜にカップラーメンを食べた。
……って、ん? なんだか違和感が……
「で……でもさ、ちゃんと夜は優花の作ってくれた料理を食べ……」
「またすぐ優花ちゃんに頼ってる! 自分でも意識しなきゃ意味ないじゃない!」
「…………ご、ごめんなさい……」
なんだか優花と同じ事を言っているような……
「こんなダメな兄さんじゃ優花ちゃんも大変だわ……」
七海はため息をつきながらも箸を進めた。
「……う~ん、やっぱり自分で弁当を作らなきゃダメなのかな……」
これは今咄嗟に思いついた事ではなく、前々から考えていた。
七海が言った通り、確かに僕は優花に頼りっぱなしだ。
それは他人に言われるまでもなく自分が一番わかっていることだし、
どうにかしなければならないとも思っている。
もちろん、余りにも優花が何でも出来てしまうのでついつい頼ってしまっている
僕の頼り癖をどうにかしない事には何も始まらないのだが……


66 :Chains of pain [sage] :2009/04/04(土) 04:39:45 ID:cCFA0o5R
「…………お料理……覚えたい?」
七海の箸が止まる。
決してこっちを見ることはなかったが、はっきりとした声で言った。
「そうだね、出来るのなら……」
お弁当に入っていた卵焼きを箸で切り分けながら答えてみた。
「……じゃあさ、今日の放課後、あいてるよね」
「うん、よくわかったね……空いてるよ……って、あれ? もしかして……」
七海の方を少しだけ見た。
「……今日、家で料理を教えてあげるよ」
「ほ、本当!? ありがとう、本当にありがとう! 家で作れないからさ……」
それは願ってもない事だ。七海の料理のレパートリーの多さや
上手さはいつもご馳走になっている僕が良くわかっているし、
自宅のキッチンは使えない……まぁ、理由は言うまでも無いが……
「うん、それじゃあ帰ったら家に来てよ。あたし待ってるから」
「それじゃあ……お邪魔しようかな」
七海は笑顔でうなずくと、おにぎりをその小さな口でかぶりついた。
その笑顔は乱暴な日の光よりも強くて……柔らかな気持ちにさせてくれた。

……そう、微かな違和感を残したまま……

今日は開校記念日ということで、優花は日ごろできない場所の掃除をしていた。
「……ふぅ、やっぱりゴミが溜まってたか……掃除しておいて正解だね」
掃除機とはたきを上手に使い分け、流れるように進めていく優花。
そんな彼女の手にはいくつかの絆創膏が貼られ、先ほどの狂気を静かに物語っていた。
「あとは……お兄ちゃんの部屋か……」
自然と笑みがこぼれる。
「いつもお兄ちゃん掃除させてくれないけど、今日くらいは別に良いよね?」
もちろんそんな事など建前でしかない訳だが……
掃除機を持ち上げると、右手にはたきを持って階段を軽やかに登っていく。
「……失礼するよ、お兄ちゃん……」
ゆっくりとドアノブをひねると、静かにドアを開けた。
「……あれ?」
春斗の部屋は、優花の想像とは裏腹にちゃんと片付けられており、
一見すると、どこにも掃除する場所は無いように感じられた。
しかし……
「……お兄ちゃん……こんなところに埃が残ってる…………掃除しなくちゃ!」
カーテンレールの上をわざわざ人差し指でなぞり、そうつぶやきながら
モップを利き手である左に持ち替えた。
しかし、やり始めると、とたんに掃除はあっという間に終わってしまう。
「…………あんまり無かったかな……」
つまらなさそうに唇を尖らせると、ベッドに目が行った。
(……少しぐらいなら……いいよね?)
ベッドに入ると、優花は幸せな気持ちがふわふわと訪れた。
「うんっ……お兄ちゃんの匂い……幸せ……」
枕に顔を埋めると、瞳を閉じた。
いつも思い出すのは最後に春斗に抱きしめてもらったときの記憶……
多分小学校五年生ぐらいの時だろう、この記憶が一番新しいため、
恐らくそれ以降抱きしめてもらっていないのだと思う。
その時は自分の不注意によって春斗を傷つけてしまった。
何度も謝った。がんばって手当てをした。それでもきっと自分は嫌われてしまった
のではないかという不安で頭の中が真っ白になり、死んでしまおうとも思った。
けれどもそんな不安はすぐに消し飛んだ。
なぜならば、そんな自分をみて何も言わずに抱きしめてくれたのだ。
その瞬間、不安は解き放たれ、涙が溢れ出した。
泣いたのだ、自分よりも辛いであろう春斗ではなく自分が。
けれどもなぜか幸せだった。それは春斗に対してとてもあってはならない事、
それでも何故か幸せだったのだ。
今となってはその傷も癒えてしまって、多分春斗は覚えてないだろう。
だが信じている。いつかまた抱きしめてもらえる事を……今度は覚えることが
出来ないくらい純粋で、痛みもない幸せを。


67 :Chains of pain [sage] :2009/04/04(土) 04:40:20 ID:cCFA0o5R
春斗が自宅に帰ってくると、いつも玄関まで駆けつけてくる優花の
足音がしない事に気がついた。
(……出かけているのかな……まぁ、静かでいいんだけど)
靴をそろえると、いつも通り階段を登り、部屋の前までたどり着いた。
(……ん? 扉が僅かに開いている……)
ため息をつくと、扉をゆっくりと開ける。
(……やっぱりか……あれだけいつも言っているのに……)
ベッドで幸せそうにすやすやと眠る優花。
「おい、優花。起きてよ……いつもあれ程言っている…………」
「…………お兄ちゃん……むにゃむにゃ……えへへ……」
優花をゆする手を止める。
「……まったく……」
幸せそうに眠っている妹にタオルケットを掛けなおすと、
私服を持って廊下に出て行った。