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284 :one wish! ◆gEED5ynBW2 [sage] :2009/04/19(日) 06:34:50 ID:qK+5wTWT
「誰なの?あの女?」

彼女が色のない眼で僕を見つめて言った。
眉間に皺が寄り、歯をむき出しにして、まるで般若のようだ。
「前から・・会社でお世話になってる人だよ・・」
カラカラに乾いた喉でなんとか言葉を紡ぎだす。ワイシャツはもう汗でびっしょりだ。
「お世話・・?お世話ってなぁに?・・下のお世話ってこと?」
「違うって。なんでそういう話になるんだよ・・・。仕事でよくフォローしてもらってるんだ」
さっきから膝の震えがとまらない。止めようとして力を入れると余計に震えが大きくなる。
とにかく彼女に僕が震えていることを悟られてはならない。
僕が彼女を恐れていることを悟られてはならない。
今日こそはっきりと言うんだ。
「でもそれだけじゃないよね・・?仕事だけの関係じゃ・・ないよね?見たんだよ?
あの女と楽しそうに腕組んで歩いてるとこ・・。あんたが心底楽しそうにあの女と喋ってるとこ・・。」
そういいながら彼女はヒタヒタと少しずつ僕に近づいてくる。
「私たち付き合ってるんだよねぇ?・・・なんで?ねぇ、なんで!?」
彼女が僕の胸に凄い勢いで飛び込んできた。僕は受け止めきれずにそのまま床に倒れ、彼女にのしかかられた。
冷たいフローリングに背中がひんやりする。もともと背筋は凍りついていたのだが。
ふいに、顔に水滴が落ちてきた。彼女は涙を流していた。あの・・男勝りな彼女が・・。
僕は少し心が痛んだが、もう後戻りはできない。
「・・・ごめん。本当に・・ごめん。・・・僕と別れてくれ・・・。」
言ってしまった。ついに・・。
「好きなんだ・・・彼女が・・。好きになってしまったんだ・・。」
怖くて彼女の顔が見れない。水滴が落ちてこなくなった・・。涙はもう止まったようだ。
「ごめん・・ほんとはもっと早くお前に言うべきだった・・。こんなことになるまえに。
彼女とも話したんだ・・・お前にちゃんと事情を説明して、わかってもらおうって・・。みんなに祝福してもらいたいって。」
「しゅく・・ふ・・く?」
彼女が口を開いた。深い谷から這い上がってくるような、低く、冷たい声だった。
「子供が・・できたんだ。」
「・・・ッ!!」
これで終わりだ。そう思った。
許せるものではないだろう。交際している相手がいながら他の女性を妊娠させたのだから・・。
「お腹ももう目立つくらいだ。来月にはここのアパートを引き払って、新しい場所に移ろうと思ってる。
・・・・・だから・・もう・・あがっ!!??」
激しい衝撃が喉を襲った。彼女が全体重をかけて首を絞めてきたのだ。女とは思えない力で。
「ははっ・・・あはは・・・・あははははははははははははははははははははははははははははは・・・・・。させなーーーーいっ♪
絶対させなーーーーい♪君だけ幸せになんかさせなーーーーーーーーーいッ!!・・・・・・・買い物いかなきゃぁぁ・・・・・・。
なにがいいかなぁぁぁあああ・・・おっっっっっっきいいハサミでぇ・・あの女の腹ザックッザク切ってぇ・・・♪ ガキ引きずりだしてえぇぇ
・・・トイレに流しちゃおおおおおおおおおおお・・。。。そのあとあの女の顔をぉぉおおぉ・・・何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もさしてえ
・・切り分けて生ゴミの日に出しちゃおっっっ!!ねぇ・・・すごい素敵だと思わない????ねぇ?????????????」
視界に靄がかかる・・・・彼女の声が遠くなる・・・・・・・・・・・・・笑い声だけが・・・・・耳に・・・はっきりと・・・・。
            
          

コンコンコンッ!



285 :one wish! ◆gEED5ynBW2 [sage] :2009/04/19(日) 06:38:35 ID:qK+5wTWT
ドアをノックする音で俺は我にかえった。続いて凛とした、そしてよく通る声がドアの向こうから聞こえてきた。
「勇之介!起きているの?起きてるならさっさと支度して下へ下りてりてきなさい!」
俺は本にしおりをはさみながら返事をする。
「起きてるよ。今から支度するから、ご飯先に食べててもいいよ。」
「あんたのためにいちいち手間をかけたくないの!わかったらさっさとしなさい!」
イライラしたような声で、ドア越しに叫んでいる。姉さんはいつもこうだ・・。
「っていうか朝いらないっていってるのに・・・」
俺は体を起してのびをしながら呟いた。
火曜日の朝7時・・今日も学校という名の仮眠施設に行くために、制服という名のパジャマを着、教科書という名のマクラをカバンに詰め込む。
昨日の夜から今日の朝にかけて友人に借りた本を読んでいたため、一睡もしていない。まぁ徹夜でなにかするのは慣れているのだが。
大概徹夜明けは、頭が痛かったり、体が重かったりと体調は良くないのだが、今日は一段と良くない。おそらく読んだ本の内容のせいだろう。
友人から大プッシュを受け、半ば押し付けられるように借りた本なのだが・・・。
本の表紙には包丁を持って、にこやかに笑っている女性の絵が描かれている。友人曰く「ヤンデレ」とか言うらしい。
「よくわからん・・・」
本をパラパラとめくり、後半の方に挟まっているしおりをぬいた。
でも、続きは気になる・・・・。とりあえず切りのいいとこまで読んでおこう。




ハッ!?
しまった!
壁にかけてある時計を見る。針は8時10分をさしていた。
「ギャーーーっ!!!」
いつもこうだ。




286 :one wish! ◆gEED5ynBW2 [sage] :2009/04/19(日) 06:39:25 ID:qK+5wTWT
鞄をひっつかみ、急いで階下へ向う。
朝飯を食べてる時間はない。
「姉さん、ゴメン!朝いらない!いってきます!」
「待ちなさい」
その一言で足が止まるほど重く、力のある声だった。
くそっ・・。勢いでいけると思ったんだけど・・。
「どういうことかしら?散々待たせた挙句・・朝いらない??・・・私言ったわよね?早く下りてきなさいって」
「はい・・いいました・・」
やばい・・完全に切れてる・・。
「何度もあんたの部屋の前に行って用意できたかって聞いたよね??」
「え?そうだっけ?」
最初の一回しか記憶にないのだが・・・。
「行ったでしょっ!?なんどもなんどもっ!!その度にもう少しもう少しって言ったじゃないっっ!!!」
肩をワナワナと震わせながら、鬼のような形相で叫ぶ。
・・・どうやら本を読んでるとき無意識に返答していたようだ。俺のバカ・・。
「ゴ・・ゴメン!姉さん。本に夢中になっちゃってて・・。気付かなかった・・ハハ・・」
「ほッ・・本・・!?・・私との朝食よりも本・・・ですってぇ・・ッッ!!!」
何故か火に油を注ぐ感じになってしまっている・・。なんで朝飯くらいでこんな怒るんだ姉さんは・・。
台所の時計に目やるとすでに8時20分を過ぎている。完全に遅刻だ・・・いや本気で走れば・・・。
「姉さん!もう時間が本当にまずいんだ!文句なら帰ってからいくらでも聞くから!」
「だめよ。とにかく朝ごはん。暖めなおすから一緒に食べるわよ。・・・今日という今日は許さない」
だからなんでそこまで朝飯にこだわるんだ・・・。ここはもう最終手段を使うしかない。
「わかった!じゃぁ、家に帰ったら姉さんの言うことなんでも聞くから!ね?それでいいよね?」
これのどこが最終手段だと思う人もいるかもしれないが、俺にとっては間違いなく最終手段だ。
これが友人なら、後にうやむやにして誤魔化したり、冗談ですんだりするだろう。
だが、姉さん相手にそれは通じない。ガチでなんでも言うことを聞かなきゃならなくなる。捨て身の技なのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・フフッ・・・・」
一瞬の逡巡の後姉さんが不敵な笑みをうかべる。しかし、ハッとしたかと思うとすぐにもとの表情に戻った。
「仕方ないわね。行きなさい。でも帰ってきたらホントになんでも言うこときいてもらうから。」
それだけ言うと姉さんは台所にもどっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やっぱ、やめときゃよかった・・・。」
俺は姉さんのあの不敵な笑みを思い出しながら、学校へ向かって走り出した。