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338 :良家のメイドさん 中編A-side(1/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/23(木) 23:09:04 ID:np2bNnLo
 
「おはよう、あなた」
 愛しい妻の声で、ボクは目を覚ました。
「ああ、おはよう――」
 そこでふと気づいた。今日はメイの挨拶がない?
 
 ええと、知らない人にご紹介。ボクはある名家の長男坊です。
 名前は――漢字だと読みにくいけれど、土方と書いて「ただのり」と読みます。
 一応名家の長男坊として、家の跡継ぎのため、系列会社の一社員として、修行中です。
 そして、つい先日ですが、美しい嫁さんを貰いました。
 
 
「玲(れい)、今日はキミが、ボクを起こしてくれたのかい?
 いつもなら冥(メイ)が、ボクを起こしに来るはずなんだけど……」
 そう、昔からの顔なじみであるメイド、冥が何故か今日は来なかった。
 本来なら、ボクの妻よりも早く来て、ボクを起こしてくれるはずなんだけどなぁ?
 
「――あなた。言いにくいけれど、心して聞いてくださいね。
 彼女は――冥さんは、つい1時間前に、屋敷を離れたそうなのです」
「ええっ!? なんで、そんなことになったんだい?」
 本当に驚いた。ボクと冥は、幼い頃から、ずっと一緒だった。
 それこそ、15年近く懇意にしていた、仲の良いメイドだった。
 彼女はこの屋敷で働く前から、母親とともにこの屋敷で暮らしてきた。
 だから、彼女も死ぬまで――彼女の母親と同じように、この家に仕えると思っていたのだ。
 
 
「それが、理由はいっさい語ってもらえなかったのですよ。
 今朝になって突然、私の前に来て、『暇をください』と言ってきたの。
 もちろん私も、いろいろ説得はしたのだけれど、無駄でしたわ。
 彼女の意思は固くて、どうしようも無かったので、仕方なく――」
「そうなのか――」
  
 正直なところ、妻の言葉が信じられなかった。
 なんというか、冥はボクを信頼して、いつも傍に居てくれた。
 それこそ、幼馴染――むしろ妹のような存在だった。
 だから、彼女が傍にいないということが、とても悲しくて――
 
「あなた――瞳から、涙が溢れていますよ。
 それも、あまりに多くて、寝巻きを汚してしまうくらいに」
 妻にそう言われて、ようやく気がついた。
 ボクは今、とても悲しくて、泣いているという事に。
 
 
「あなた……、落ち着いたら、食事にしましょう。
 それまで、私は自分の書斎で、お待ちしてますからね?」
 そう言って部屋から出ようとする妻の手を、ボクは掴んで止めた。
「待ってくれ。玲、すまないけど、もう少しだけ、傍にいてくれないか?」
 なぜか、心が空虚になって、とても寂しくなった気がした。
 だからだろうか。妻に傍にいて欲しいと、心の底から思った。
 



339 :良家のメイドさん 中編A-side(2/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/23(木) 23:15:02 ID:np2bNnLo
 
 だいたい2時間程度経ったのだろうか。
 ボクはどうやら、妻の膝枕の上で、また眠っていたらしい。
「おはよう、あなた。もう調子はよくなったかしら?」
 どうやら、妻にまでいらぬ心配をかけてしまったようだ。
 
「手厳しいことを言いますけれど、彼女がいなくなったのは、仕方のないことです。
 彼女にも彼女なりの事情が、おそらくあったはずなんですから。
 もしそれが、あなたにも相談できない事情なら、もうどうしようもありません。
 だから、私たちが彼女に対してできるのは、彼女のこれからを祈ることくらいです」

 妻なりの、不器用な物言いと慰め方。
 ボクは彼女との見合いの席で、この言動に一目惚れしてしまった。
 基本的にボクに対して、なにか上のものを見るような態度をとる人たちの中で――
 彼女の誰に対しても変わらない、その態度に惚れてしまったのだ。
 
 
「まったく、しょうのない人ですね。でも仕方ありませんよね。
 私にも弟がいますが、あの子がどこか手の届かないところに行くのは、とても怖いですもの。
 あなたにとって彼女は、妹のような存在だったんでしょうから、ね……」
「ああ……、彼女は昔から、ボクをずっと慕ってくれていたからね。
 もしかしたら、ボクに恋をしていて、今回の結婚の件で、傷つけたのかもしれない。
 そう思うと、とても怖くて――ボクは彼女に謝らないといけないのかもしれない――」
 
「でも、彼女は自分で、身を引く覚悟をしたのでしょう?
 でしたら、あなたが今彼女を追いかけることは、彼女の決意を穢すだけですよ。
 だから、彼女の決意の分も、私たちが幸せになればいいんです」
「幸せに――か……。なれるのかな、ボクとキミとで」
「なれますよ。なんたってあなたは、とてもステキな人ですもの。
 私は、今でも幸せなんですから。わかりましたか、あなた?」
 



340 :良家のメイドさん 中編A-side(3/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/23(木) 23:22:08 ID:np2bNnLo
 
 恥ずかしい話だけれど、このすぐ後、ボクたちはまた愛し合った。
 その日は仕事も休みだったので、つい調子に乗ってしまった。
 
 不思議なことに、その時の行為は、これまでで一番の快感だった。
 いつもは夢心地の中のような、よくわからない快感だったのだ。
 しかし今日は違う。これまでと全く違う、とても肉感的(リアル)な快感だった。
 
「ああ、愛していますわ、あなた――いえ、土方さん……」
「ああ、ボクもだよ、ボクの愛しい、玲……」
 
 
 
 そして、あの日から5ヶ月が過ぎた。
 ボクと妻は、相変わらず仲睦まじく、夫婦関係を続けている。
 そしてつい先日、妻の玲から、妊娠した旨を告げられた。
 どうやら、3ヶ月目らしい。母子共に健康だそうだ。
 
 もちろん、ボクは諸手を挙げて喜んだ。
 あの日から、ずっと子作りのための性行為――避妊なしの行為を続けていた。
 そろそろ母からも「孫の顔が見たい」と催促されそうだったので、丁度よかった。
 
 
 どうやら吉報というものは、連続して届くのが常らしい。
 妻の妊娠報告から数日後、冥らしき人物の消息が掴めたそうなのだ。
 いや、掴めたというか――どうやら妻の実家に、住み込みで働いているらしかった。
 依頼した調査によると、妻が裏でこっそりと、自分の実家に彼女を派遣したらしい。
 おそらく、妻の心意気だったのだろうと、ボクは思うことにした。
 



341 :良家のメイドさん 中編A-side(4/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/23(木) 23:26:51 ID:np2bNnLo
 
 違和感を感じ始めたのは、いつごろからだったのだろうか。
 
「いいえ、実家に妊娠を報告するつもりは、ありませんわ」
「いや、しかしそれでは、キミの家族に申し訳ないと思うのだが――」
 そうだ。妻が頑なに、実家との連絡を拒み出した時だった。

 妻が嫁いできてから数ヶ月、彼女は実家に向けての連絡を一切絶っていた。
 理由を聞いても、彼女らしくもなく、ひたすらかわされるばかり。
 そこで、業を煮やしたボクが、勝手に彼女の実家に連絡しようとした時。
 
 
「もう、駄目じゃないですか、そんな失礼なことをしては。
 私の実家にいるあのコに、迷惑が掛かってしまうでしょう?」
 妻が、後ろからボクの持っていた電話機を破壊し、ボクを壁に押し付けた。
 妻の細腕から恐ろしい力が発揮され、どうもがいても、逃れられそうにない。
 
「いや、だからボクは――キミの母親か弟くんに――れんら、くしよう……と……」
「その必要はないと、おっしゃっているんです」
「なぜだ、彼女には――冥には、なるべく迷惑をかけないように――するつもりで」
 
 
 ボクのその言葉に反応したのか、妻は突然、豹変したように笑い出した。
「うふふ、うふうふ、うふふふふふふ!
 まったく、まだ気づかれないのですか――土方坊ちゃま?」
 
 初めにボクは、自分の耳を疑った。
 突然目の前にいた、妻であるはずの人物から、冥の声音で、懐かしい呼び名が聞こえたから。
「!? な、なんで――キミは……、冥、なのか……!?」
 
 驚愕するボクに、彼女はただ淡々と、恍惚した表情で言葉を紡いできた。
「ええ、そうですよ。あの日から、私は若奥様と入れ替わっていたのです。
 ですから、坊ちゃまはあの日から、私と交わっていたのです。
 どうやって入れ替わったかは、これからゆっくりと、閨の中で語り合いましょう?」

 すべては、あの瞬間から始まっていた? いや、しかし―だとしたら――!?
「待ってくれ、冥!? 妻は――玲はどうなったんだ!?
 ボクの聞いた、玲の実家にいる冥らしき人物は誰なんだ!? 答えて――」
 
「さあ、そのような些細なことは、どうでもいいではないですか?
 ふふふっ、さあ土方さま。また今宵も、2人きりで愛し合いましょう?」
 
――そしてボクは、もう何度目かもわからない、彼女との行為に流されていった。