18 :溶けない雪 [sage] :2007/10/22(月) 18:20:00 ID:9KfpG0oe
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水無月 雪梨視点より
私は授業から休み時間までずっと、
どうやって健二さんとの距離を詰めようかを考えていた。
考えた末に、なるべくの会話、一緒に行動する等の結論に至った。
女子と男子の間には、グループが同じでない限りは見えない壁が存在するものだが、
その辺りは自分の行動でどうとでもなる。


そんなわけで、早速健二さんと同じ委員会になった。
幸いにも、保健委員だけはあんまり人気がなかったようだ。
人気がない理由に疑問もあったけれど
、そのお陰で委員会が同じになれたのだ、感謝こそすれ不都合は何一つとしてない。
委員会も、嬉しい事に明日にやるみたいだ。
そういえば、自己紹介の後、
何故か健二さん友人達に取り囲まれてたど、何かあったのだろうか?
私の周りに居た友達も、皆ニヤニヤしながら私を見ていたし、
本当に、何かあったんだろうか。

物事は上手く事が運ぶ事もあれば、上手運ばない事もある。
私は今その事を痛感している。
放課後、健二さんと一緒に帰ってみようと声を掛けようとしたのだけれど、
なんと、玄関から出て、私と正反対の方に向かっているではないか。
門まで一緒ならまだ、少しは希望があるけれど、
玄関から、向かう先自体が違うので、希望が存在してすらいない。
そんな落胆の中で、私は簡単な事に気付いた。
別に帰り道が違うとしても、同じ帰り道だねとでも行って一緒に帰ればいい。
何でこんなに単純な事に気付かなかったのだろうか。
私は玄関で立ちつくしていたからいいのだが、
既に健二さんは門を潜って帰ってしまっている。




19 :溶けない雪 [sage] :2007/10/22(月) 18:21:46 ID:9KfpG0oe
急いで追いかけようとしたが、いきなり走っていって声を掛けるのが憚れた。
健二さんとは、少し会話をしただけの距離があるからだ。
結局、健二さんの後に付いていってはいるが、
声を掛ける事が出来ず、結局は健二さんから20M程離れて歩いている。
悲しい事だけれど、ストーカーに近い。
しばらく、健二さんの後を付けていると、繁華街の入り口辺りで急に足を止めた。
私の事が気付かれたのかと思い、音を立てずに直ぐに近くの電柱に隠れる。
何で私は今隠れているのだろうか?



しかし、健二さんは私に気付いたわけではないみたいで、
しばらく首を下に向けて何かを見ているようだ。
何を見ているのかが気になるが、現在、健二さんとの距離は20M、何を見ているのかは
さすがに視力が2.0の私でも分からない。
少しして、健二さんは首を戻しました。
そして、また繁華街に歩いていった。
さっきと同じで、私は20M位の距離を保ち、
後を付けていたが、これでいいのか?と思い始めていた。
別に少ししか会話をしていないとはいえ、知らない仲というわけではない。
案外声を掛ければそのまま一緒に帰れるのではないか?

だが、もし失敗したら気まずくなるのは確かだ。
しかし、健二さんは優しいからそんな事はないとも思う。
きっとこちらの気を察してくれるに違いない。
そう、大丈夫、きっと大丈夫

それに、仲良くなる為になるべく会話をしようと決めたばかりではないか。
そう自分に言い聞かせ、
「健「けんちゃーん」声を出して健二さんの方に歩き出した時だった。
誰か知らない女の人が、
声を出しながら健二さんに向かって後ろから走っていった。



20 :溶けない雪 [sage] :2007/10/22(月) 18:23:37 ID:9KfpG0oe
私はまた、咄嗟に近くの店に身を寄せて、
目立たないようにした。
目立たなくなってから健二さんの方を見ると、
やはりというか健二さんの知り合いみたいだ。
それも、二人共楽しそうに話している様子を見ると仲がかなりいいのも分かる。
多分けんちゃんというのは健二さんのニックネーム
と、いったところだろう。

健二さんは女の人と楽しそうにしゃべっている。
それに比べて、自分は何と惨めな事だろう。
コソコソと楽しそうに会話をしている男女を眺めているなんて。
もし、早く私が話しかけていれば隣に居るのは私だったのだろうか?
やめよう、今となっては無意味な推測にしかならない。
大事なのは今、何をするべきかだ。
今………何をするべきなんだろう。
やはり健二さんに声を掛けて話に混ざるべきか?
無理だ、正直自分ではあそこに割って入る事等到底出来そうにない。
では他に何をするか。
………………………………何も思いつかない。
今だけは自分の頭の回転の悪さに腹が立つ。
ふと、気がつくと既に健二さん達が店に入っていく所だった。
私も中に入ろうかと思ったけどやめた、さすがにばれるからだ。
それに、どうせこの後も健二さん達を付けた所で、
ただ自分は眺めているだけだろう。
帰ろう……それが一番良い。
何も出来なかった自分に腹が立ちながら、結局、
私は重い足を引きずり帰路に着いた。



21 :溶けない雪 [sage] :2007/10/22(月) 18:24:50 ID:9KfpG0oe
家に帰り、直ぐに寝ようかと思ったが、
余分に歩いて汗がかいたので、シャワーを浴びる事にした。
シャワーを浴びればこの暗い気分も汗と一緒に流されてくれる、
と思ってシャワーを浴びたが、実際に流れたのは眠気だけで、
寝れなくなってしまった。
つまり、暫く眠くなるまでは、今の気分で過ごせなければいけないという事だ。
強引にベッドに入ろうかとも思ったが、
寝付けなくて直ぐに起きる自分の姿が簡単に想像出来てしまうので辞めた。
「お腹空いた……」
そういえば、まだお昼ご飯も食べていなかった。
お腹が空いたとなればやる事は一つで、とりあえずは冷蔵庫を開けた。
幸いにも昨日の残り物があったので、レンジに入れて、終わるまで
リビングのソファーに座って待つ。
レンジ意外の音が全く聞こえないリビング。
今、リビングに居る人間は私だけで、
その一人が何もしなければ静かになるのは当然だ。
昔はあんなに賑やかだったのに、どうしてこんなに静かになってしまったのだろうか…………
「あぁーっ、もうやめやめ」
駄目だ、本格的に暗くなってしまっている。
普段は考えないような事にまで反応してしまう。
考えるのは止めよう、少し話しただけの人でこんな気分になるなんて馬鹿げている。
そうだ………馬鹿げている。
そもそも何で固執する必要があるのか?
たまたま、話掛けてくれただけではないか。
優しさに触れたから?違う、そんなものは只の言い訳だ。
暗い気分になったのは自分に腹が立っただけ?
違う、それも只の言い訳だ。
何で固執したのか、何で落ち込んでいるのかは、もう分かっている。


本当は健二さんと仲良くなりたいのではなくて、好きになって欲しかったからだ。



22 :溶けない雪 [sage] :2007/10/22(月) 18:25:36 ID:9KfpG0oe



そして………横にいる女の人が凄く羨ましく、
そして同時に憎いと思ったからだ。

何だ、簡単な理由じゃないか。
何でこんな簡単な事に言い訳していたんだろう?
本当、私は馬鹿げている。
理由が分かれば話は早い。

積極的に自分をアピールしていこう。
健二さんの事もなるべく知ろう。
あの時の女が彼女かどうかも調べよう。
アピールは自分でするとして、あとの二つは探偵でも雇いましょうか?
そんな計画を立てながら、私は温め終わった焼きそばを食べた。

しかし、思い返してみると、自分でも軽い女だなと呆れる。
なにせ、少し話をしただけで相手を好きになるなど、
軽い以外の何者でもない。
だけど、好きになったものはしょうがないではないか、
開き直る事しか出来ないではないか



だって、この気持ちを消せそうにはないのだから。














次の日、挨拶をした私を見てあなたは驚いた顔をしましたね。
私は距離の長さを再確認したけれど、
いつかはその長い距離を0にさせてもらいますね。
最終更新:2007年10月23日 12:34