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775 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/20(水) 01:03:30 ID:XBtPrPsw
*****
 
 ……フライドポテト祭りはないでしょう、私。
 とっさに目についたのがポテトの売り子さんだったのが悪かったわ。
 もしも鈴鹿君が私のこと食いしん坊な女だって思い込んだらどうするのよ。
 いくら告白を遮りたかった――いえ、告白を誰もいないところでしてほしかったからって。
 もうちょっと言い方ってものがあるでしょう。
 あああ、これじゃいつも通りね。
 今日はいつもと同じ展開になっちゃ、いけないのに。
 今日こそは鈴鹿君との仲を深めるって、決めてるんだから。

 どうしようかしら。
 とっさに言ってしまって、さらにフライドポテトを買ってしまった手前、食べない訳にはいかない。
 うう……捨てるのももったいないし……。
「食べないの、苅屋さん?」
 私と違って鈴鹿君はジュースだけしか持っていない。 
 これじゃ私、本当に食欲旺盛な女だわ。
 一緒にポテトも買ってくれていればよかったのに。
 ――ん? そうだ!

 ずいっと鈴鹿君にフライドポテトの入った袋を差し出す。
「ん、なに? あ、もしかして食べきれなかったりする?」
 あはは、と笑ってごまかす。
 普段なら食べきれないことはないけど、この状況じゃ無理だわ。
「じゃあ、ちょっとだけもらうよ。…………あ、これ美味しいね。サクサクしてて」
 そうなんだ。さっきちょっと口をつけただけじゃ味も食感もわからなかった。
 まずいわね、これ。
 ポテトの味じゃなくて、私の心境が。
 鈴鹿君がさっきから落ち着いてないのはわかってる。
 でも、私はそれ以上に緊張してる。

 結局、さっき買ったフライドポテトは鈴鹿君に全部食べてもらった。



776 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/20(水) 01:05:15 ID:XBtPrPsw
 男の子っていうのは強情というか、意地を張るところがある。
 今の鈴鹿君の態度がそう。
 せっかく私が二人っきりになれそうな場所に連れて行こうとしてるのに、
ジェットコースターとかの無難なところに行って時間を潰そうとする。
 さっきの遊歩道での告白、受けてればよかった。
 鈴鹿君てば、タイミングを逃したから明らかにこの遊園地での告白を諦めてる。
 修学旅行中、ここ以外じゃ二人っきりになれる場所、無いよ?
「うーん、ジェットコースターが駄目だったら……おみやげでも見に行く?」
 それはそれで私的においしいけど、二人っきりにはなれない。
 どうしたら、どうしたら……あ、そうだ!

 鈴鹿君!
「ん、行きたいところでもあった?」
 大変だよ、さっき鈴鹿君の方を見てる小さい女の子が居たわ!
 ――嘘だけどね!
「え、まさかシロ……は、ないか。
 これだけ人が集まってるんだから一人ぐらいは見ててもおかしくないかと」
 私の第六感が告げている、間違いなくあの子は鈴鹿君の守護霊だわ!
 まだ遠くには行ってないはずよ、捜しましょう!
「捜すったって、この人混みの中からどうやって」
 とりあえず高いところにいけば見つけやすいはずよ、さあさあさあ!



777 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/20(水) 01:07:55 ID:XBtPrPsw
 ――観覧車。
 向かい合った二つの座席と窓しか存在しない、密閉空間。
 入ったが最後、押し込められた二人は否応なくそこから出ることは許されない。
 ただただ、終着まで待っているしかない。
 遊園地で二人っきりになれる場所の定番と言えばここ。
 古今東西、恋愛イベントをこなすなら観覧車の中と決まっている。
「うわ……観覧車って初めて乗ったよ。こんな景色なんだ」
 鈴鹿君は窓から見える景観に釘付け。
 いや、違うでしょ。
 せっかく二人っきりの、絶対に誰にも邪魔されない状況になったんだから告白してちょうだいよ!

「……ねえ、苅屋さん」
 な、なあに?
「苅屋さんって……か……」
 か?
 ――可愛いよね、って言いたいのね!?
「か……格好いい、よね」
 …………はあ。初めて言われたよ、そんなこと。
 ちなみに、どのへんが格好いいの?
「あー、えっと……な、なんとなくそう思っただけで」

 ……ヘタレって言いたいわ、すっごく。

 あのね、鈴鹿君。
 格好いいって言われて喜ぶ女って滅多にいないと思うよ。
「え、あ、そうなんだ。ごめん」
 まあ、可愛いって言われたらほとんどの女の子は喜ぶけど。
「そうなんだ、そうだよね」
 うん、そう。
「苅屋さんって……可愛いよね」
 だから格好いいって言われて喜ぶ女は……って、え?



778 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/20(水) 01:08:42 ID:XBtPrPsw
 はいぃ?
 ちょっと、待って。
 初めて言われたわ、鈴鹿君に可愛いって。
 いや、いやいやいやいや、そんなことより、まずいわ。
 非常にまずいことになってる。
 顔。顔が熱い。
 今の私、絶対顔真っ赤にしてるわ。
 そんな真っ直ぐ見つめないで、鈴鹿君!
 いつもみたいにちょっとだけ視線逸らすとかしてよ! こっちが逸らせないじゃん!
 どうしよう。
 今、すっごく鈴鹿君に……バカって言いたい。

「たしかに、苅屋さんは格好いいんじゃなくって可愛いよ。ごめん」
 ひ、開き直ったね、突然。
「開き直ることにしました」
 ……さっきまではダメダメだったくせに。
「それはアレ、言い出すきっかけがなかったから。
 いきなり可愛いって言うのはなんだか、口説いてるみたいで」
 今は完全に口説きモードじゃないのよ……。
「ここまで来たんだから、さ。もう、口説いちゃおうかと」

 口説いちゃおうか?
 どこのプレイボーイよ、鈴鹿君。
 いいでしょう、やってみるがいいわ。
 存分に口説いてちょうだいよ!



779 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/20(水) 01:11:12 ID:XBtPrPsw
「ちょっと、そっちにいくね」

 鈴鹿君が私の右にやってくる。
 観覧車の座席は二人かけたらもう限界。
 だから、必然的に私と鈴鹿君の距離は近くなる。
 今まで、結構長く友達づきあいしてきたけど、ここまで近づいたことはない。
 すごい違和感を覚えた。
 けれど、その違和感こそ、二人の距離が近しくなった証拠。
 照れる。緩んだ頬を見られたくない。もう自分の膝しか見られない。

「僕は、苅屋さんのことが好きなんだ。
 何でかって言われると、答えられないけど、苅屋さんじゃなきゃ駄目だと思ってる。
 苅屋さん以外の子と付き合う気にはならないんだ」

 は、反論を許さない告白だわ。
 「どうして私なの」とか、「私より可愛い子はいっぱい居るよ」とか、口から出てこない。
 お、落ち着きなさい。
 そ、素数を数えて、いえ円周率の方がポピュラーでありマイナー……あれ?
 だあぁぁぁ――もう!
 口説かれてる! 口説かれてるわ私! 

「僕と、付き合ってもらえますか? 苅屋さん」

 どこまでもストレートな鈴鹿君。
 鈴鹿君が好きだったのに何も言えず、友達の関係で我慢していた。
 だけど、こんな告白を受けたら首を縦に振らざるを得ない。

 ……こ、これからも、どうぞよりょ、よろ、よろしくお願いします…………鈴鹿君。

 そう言うと少しだけ楽になって、鈴鹿君の方を見ることができた。
 鈴鹿君は顔を真っ赤にして、今まで見たことのないおかしな顔で笑ってた。
 私は幸せで、これまで生きてきたなかで一番浮かれていた。
 今なら近くで誰かが騒いでても聞こえはしないだろう。
 そんな妙な確信が心の隅にあった。





「――――鈴坊。私は許さないよ、そんなこと」