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809 :桜の幹 [sage] :2009/05/21(木) 15:09:06 ID:6bFSWasi
「い、石田さん!付き合ってください!!」
委員会が終わった後、僕はさくらの告白の現場に付き合わされていた。
なんて事はない、いつもの事だ。
『断ってやけになられたら怖いから』
そう言って僕はいつもこの現場に付き合わされていた。
「ゴメン、私貴方の名前も知らないの。私そんな人とは付き合えないよ」
さくらはそんな事言って、いつも通り男子生徒を振る。
もう中学の時からなので慣れっこだけど、やっぱり断られた男子はいつも憎たらしそうな目で僕を睨む。
そのときの目は多分いつまで経っても慣れないだろう。きっと。
「幹也君、帰ろう?」
「う、うん」
さくらはそのまま踵を返し文字通り颯爽とその場を後にした。どうやら今日は機嫌が悪いみたいだ。
僕は未だにさくらの後姿を見つめていた男子生徒に礼を一つ下げ、すぐにさくらの後を追った。



「幹也・・・・・」
「ん?」
指を絡ましてきたさくらは落ち着かない様子で僕に聞く。
「委員会の時、お話してたの・・・・・、誰?」
さくらの指が震えている。
「あ、ああ・・・・・、C組の熊原武士って人と、その熊原君のお姉さんだけど、さくら聞いてたの?」
「・・・・・」
「さ、さくら?」
さくらは滅多に作らない眉間の皺を寄せて、何か考えてるみたいだった。
「・・・・・幹也」
「うん?」
さくらの指先が微かに汗を帯び始めている。
「早く・・・・・帰ろう」
さくらの絡めた掌が僕を引っ張る。
何だか、今日のさくらは本当に不機嫌みたいだ。


こんな不機嫌なさくらを見ていると僕は小さくなってしまう。
でも、僕はポケットの中にある携帯の感触に喜んでいた。
だって、今日は僕が始めて友達とアドレス交換した日なのだから。



810 :桜の幹 [sage] :2009/05/21(木) 15:09:41 ID:6bFSWasi
蝉が鳴く七月の下旬、文字通り夏。
僕らは今、一学期最後の生活風紀委員会に出席している。
明々後日に控えた終業式に四月からの生徒の服装の乱れや、遅刻欠席の合計発表の集計を取るためだ。
「幹也、こっちは終わったよ」
僕とほぼ同時に開始したはずのさくらが僕を三頭身ほど突き放して集計を終える。一体、このスペックの差は何なのだろうか?
「私も手伝おうか?」
さくらは僕の肩に顔を乗せる。
シャンプーの良い香りが妙に気に掛かる。
「いいよ、これは僕の仕事だから」
「別にいいのに。幹也はやっぱり損な性格だね」
コツンとさくらが眼鏡の縁を弾く。
「おばさんからメール来たけど、今日一人なの?」
「えっ?僕んトコにはメール来てないけど」
ついにさくらのほうに信頼が傾いたみたいだ。
「あはは、そっか。ま、落ち込まないで今夜は私が腕によりを掛けるからさ」
さくらは笑ってそう言う。直後、校内放送の予報が鳴る。
『一のBの石田さくらさん、石田さくらさん。直ちに職員室まで来てください』
さくらと僕は目を合わせる。
「じゃ、行ってくるから」
「うん」



誰もいない視聴覚室。
少し熱いから窓とさくらが出て行った出入り口のドアを開けて作業を再開する。
僕がシャープペンシルを走らせる音しかしない。
なんだかどこかの世界に閉じ込められたみたいな気分だ。
集中をその音だけに埋没させていく。
「あ!」
シャープペンシル以外の音が混じったので僕はすぐさまそれに振り向いた。
そこには夏の制服が良く似合う長い髪の大人しそうな顔立ちの女子生徒がヒョコっと顔を出していた。
「もしかして、委員会終わっちゃいました?」
悪びれるように、控えめの疑問文が投げかけられる。
「え?いや・・・・・その、ええと、はい、えっといま、集計しているところで」
僕も僕でしどろもどろの返答を返すのが精一杯でなぜか質問した方の女子生徒に笑われてしまった。
「よかった、今日は部活の主将集会で遅れてしまいまして・・・・・ああ、でも遅れてしまい申し訳ございませんでした」
肩に掛かっていた長い髪を背中の方に払って、笑みを含みながら謝辞を告げる。
「えっと、それより貴方お名前は・・・・・?」
「あっ、えっと、一年の菅野、幹也です・・・・・」
「一年生ですか、じゃ後輩くんですね。私は二年の熊原小町って言います、よろしくお願いしますね、幹君」
「幹・・・・・君?」
喉に魚の骨が引っ掛かったみたいな呼び方に僕は思わずリピートしてしまう。
「はい、友情は愛称から始まるんです、だから貴方は幹君、いいですね?」
悪戯っぽく笑う先輩に僕は少し見惚れてしまっていた。
いや、『友達』っていう響きに痺れていたのかもしれない。
僕はいつの間にか、先輩と自然な形の会話を成立させていた。


811 :桜の幹 [sage] :2009/05/21(木) 15:10:35 ID:6bFSWasi
「幹君は部活動してないの?」
すっかり敬語が取れた先輩はニコニコ笑いながら聞く。
「はい。僕、なんだか皆で活動するのに慣れてないみたいで・・・・・クラスの皆からも嫌われてるみたいなんで」
乾いた笑い声が出る。酷い、自虐だな。
先輩は少し逡巡してから、何か言おうとした瞬間。
「ここに居たのか、姉ちゃん」
後ろからまた違う声が掛かった。
今度は少し擦れた声だ。
振り返ったそこには僕よりも少し高いくらいの身長の男子生徒が居た。
「お!出ましたね、タケくん」
「出たって、俺は幽霊かよ。っと、そっちのヤツは?」
顎だけで僕を指名する。
「あ?ああ、こっちはミッキー。タケと同じ一年らしいよ?知らなかったの?」
「えっ、ちょっ、ミッキーって、ええ?」
「知るかよ、初対面だぜ。ってか本名で紹介してくれ」
僕は急遽に変化したあだ名に、弟と名乗った男子生徒は先輩のあだ名癖に戸惑っていた。



「ええと、俺は熊原武士。お前は菅野幹也でいいんだよな?」
疑問文を投げかけられて僕はその通りなので頷くしかない。
「姉ちゃん、面倒なあだ名付けんの止めろよ、センス無いし」
「何で!あるよ!センス溢れてンよ!!ね、ミッキー!?」
僕は呆気に取られて気持ちの籠ってない笑顔を作るしかない。
「おい、姉ちゃん。どうやら菅野は気に入ってないみたいだぜ?」
「な、なんで!?ね、ミッキー!なに笑ってんの!?」
そう、僕は久しぶりに笑ってた。
こんなにも嬉しい気持ちだけで笑ったのは久しぶりだったんだ。
「畜生、ミッキーの癖に」
なんて少し拗ねた様子で先輩は僕の脇腹を小突いた。
それは何だかくすぐったくて自然に笑みが零れてしまう。
「あ、そうだ!」
拗ねていた態度から一変、先輩はスカートのポケットから可愛らしいスライド式の携帯を取り出す。
「ミッキー、アド交換しようよ」
「えっ?」
「あ、俺にも教えてくれよ」
「えっ、っと、うん、いいけど」
僕は新品同様の携帯を取り出してメニュー画面を起こす。
それから少し僕は赤外線画面を起こすために格闘する。
「おい、菅野お前、赤外線分かんねぇのか?」
「ミッキー、不器用だね」
「うう、申し訳ないです・・・」
すると、武士が僕の携帯を指差す。
「それ、ド○モか?」
頷く。
「じゃあ、メニュー画面で0番押せよ」
「あ、出来た出来た!」
「今日び珍しいぞお前、赤外線くらい聞けよ」
「ミッキー、喜びすぎ」
僕はこの日始めて友達とアドレス交換をした。
たったそれだけの事だけど、僕はこの学校に来て良かったと心の底から思ってしまった。
貧乏性なのかもしれない。


812 :桜の幹 [sage] :2009/05/21(木) 15:11:35 ID:6bFSWasi
「じゃね!ミッキー」
二人が視聴覚室を出て、集計がやっと終わった頃。さくらが開けていたドアの向こうの廊下に立っていた。
「幹也・・・・・」
立ち尽くすさくらは少し不機嫌だった。
「さ、さくら?」
「ちょっと告白に呼び出されてさ。幹也、付き合ってよ」
「う、うん」
この時にはさくらが不機嫌なことを僕は確信する。
さくらは何も言わないまま僕の手を握った。



813 :桜の幹 [sage] :2009/05/21(木) 15:12:00 ID:6bFSWasi
「ゴメン、私貴方の名前も知らないの。私そんな人とは付き合えないよ」
私はそう言って、一度も男子生徒の眼も見ずに踵を返した。
今、私はイラついてる。



幹也が私以外と話していた。
幹也が私以外の人と楽しそうに話していた。
職員室から出た時、向かいの校舎の二階を見ると、幹也の笑顔が見えた。
私はそれが信じられず、すぐに向かいの二階にある視聴覚室に戻る事にした。
視聴覚室まであともう少しと言うところで男女二人が視聴覚室から出てくるのが見えた。
私は急いでいたのを気付かれないように速度を緩めて、息を静かに整えた。
私は二人に眼もくれず、視聴覚室の開かれたドアから中を見た。
幹也が嬉しそうに携帯を操作してからポケットにしまった。
それだけで私は立っているのがやっとになった。
なんて事だ。あろう事か幹也はさっきの女子生徒と喋っていたのか。
私だけしか登録されてなかった幹也のアドレス帳に二人も汚らわしい名前が記憶されたのか。


どれぐらいそうしていたのか。
幹也が、大きく伸びをした。
と同時に私もはっと我に帰った。
「幹也・・・・・」
なにも考えられなくなった頭はただ、ただ幹也にしがみ付こうとその名を呼んでいた。
幹也はそんな囁きに気付いたのか私の方を見る。
「さ、さくら?」
何か言わなきゃ、幹也を、手放してしまう。
「ちょっと告白に呼び出されてさ。幹也、付き合ってよ」
頭の中で何度も何度もさっき見た二人を塗りつぶす。
そうだ、認めちゃいけない。
私と幹也の間に他人なんか認めない。
私と幹也には互いしかいない。
そうじゃなきゃいけない。
そうしなきゃいけない。
私は心の中でそう呟いて、幹也の手を握った。


814 :桜の幹 [sage] :2009/05/21(木) 15:12:43 ID:6bFSWasi
帰り道も、晩御飯を作っている最中も、晩御飯を食べている最中も、幹也はすこぶる上機嫌で、私はイラついていた。
あの幹也の気持ちの昂りは私が与えた物じゃない。
それが私を苛立たせた。
気に食わなかった。
食器を片付けている最中、聞き慣れない携帯の着信音が響く。
ソファに座っていた幹也はそれを嬉しそうに確認し、メールが来たと嬉しそうに私に報告する。
返信の内容を考えている幹也を見て、私は小学校の頃経験したあの危機感を思い出していた。


晩御飯を食べ終え、さくらが食器を片付けている最中、携帯が鳴った。
「さくら!メールが来たよ!」
僕は始めてのメールに年甲斐も無く喜んでそれをさくらに報告する。
さくらはそんな報告が馬鹿らしいのか無視する。
そのままいても仕方が無いし、僕が返信の内容を熟考して、返信する頃にはさくらが一人で片づけを済ましていた。
「幹也・・・・・」
さくらはそう呟いて、僕の膝の上に座る。
揺れているさくらの眼が、妙に色っぽい。
「んっ・・・・・ちゅ、」
いきなりの接吻。
僕は突然の事にさくらの肩を掴むが、さくらの両腕が素早く僕の頭を固定する。
僕はされるがまま、長い間さくらの揺れる瞳を見つめているしか出来なかった。
「はっ、はぁ、幹也、私・・・・・」
そのままさくらの手が僕の股間に伸びる。
それからしばらく撫でた後、ジャージの中にさくらの手が入っていく。
「しよ?私、今日一日中ガマンしてたんだから」
「さくら・・・・・、き、今日は」
僕はさくらから眼を離す。
「なに?嫌なの?幹也」
さくらの圧迫に僕は答えられない。
やがて止まっていたさくらの手が、僕のをしごき始める。
「ふふっ、幹也いいのよ。それで、いいの」
さくらは耳元でそう囁くと、今度は僕の耳たぶを舐め始めた。
それから耳たぶを甘く噛み、耳の凹凸に沿って舌を這わせる。
「幹也」そう言って何度も薄い息を吹きかける。
その度に背中に痺れが走る。
横目でさくらを見るとさくらは嬉しそうに笑っていた。
僕はさくらの機嫌が直った理由も聞かないまま、さくらと口付けをする。
明日は土曜日、今日は徹夜かな。