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57 :あなたのために 第三話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/05/23(土) 01:20:49 ID:ZvS9Dk39
その日、いつものように私は、マサトくんのお部屋までお迎えにあがりました。
昨日の夜、帰宅されたマサトくんは、私達と一緒に晩御飯を食されることなく、お休みになりました。
もしかしたら、マサキ先輩と何処かで食事をされて来たのかも知れません。
もし、これからもそういう事が増えるなら、マサトくんの分の晩御飯は、自重しなければいけない日も増えるかも知れませんね。
私の手料理を食べて頂けないのは非常に残念ですが、これもマサトくんの幸せの為です。
きっと、私よりマサキ先輩とご一緒に食事をとられた方が、お幸せでしょうから。
・・・これから、どのくらい私はマサトくんのお世話の部分を、マサキ先輩に引き継げば良いのでしょうか?
毎日の起床は?毎日の朝ごはんは?お昼のお弁当は?お部屋のお掃除は?・・・まだまだあります。
今度、マサキ先輩に直接聞いてみるべきでしょうか?
とはいえ、マサキ先輩、本日はお見えになっていない所を見ると、毎日の起床は私が行って良いのでしょう。
私は、いつも通りに朝食の用意をさせて頂いて、マサトくんを起こしに向かいました。
・・・ですが、マサトくんのお部屋に参上した私を待っていたのは、すでに起床されているマサトくんでした。
「・・・おはよう、悪いけど今日は休むから。一人で行って欲しい」
いつもはお蒲団の中で熟睡しておられるマサトくんが、一人で先に起床しておられます。
いままで、一度も無かった出来事に私は驚きを隠せません。
「マサトくん、どうかされたんですか?」
確かにマサトくんは低血圧で、朝にとても弱いのですが、ここまで不機嫌なマサトくんを見た事は初めてです。
マサトくんは普段着のまま、ベッドの上に腰かけて項垂れています。
私は思わず心配になって、マサトくんに近づいて行きます。
「近づかないで!・・・頼むからほっといてくれ」
・・・びっくりしました。まさかこんな大声で怒られるなんて。
「ご、ごめんなさい。本当にすみませんでした・・・」
私は慌てて、その場で深々と頭を下げました。
けれど、マサトくんからは何の返事もいただけません。
恐る恐る顔をあげると、マサトくんは私に背を向けてベッドの上に横たわっていました。
先程、目の下に隈が出来ているのが見えたので、これから一眠りされるのかもしれません。
と言う事は、昨日は一睡も出来なかったのでしょうか・・・?
でも、普段着のまま眠るなんて、風邪を引いてしまいます。



58 :あなたのために 第三話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/05/23(土) 01:23:54 ID:ZvS9Dk39
だから、マサトくんの身体にせめて毛布の一つでも掛けてあげたいです。
でも、先程近づかないよう釘を刺されたばかりですし・・・。
「下におりますから、何かあったら呼んでくださいね・・・?」
私は後ろ髪引かれる思いのまま、マサトくんのお部屋を後にしました。
・・・しばらく、マサトくん宅の一階で何をするでもなく、じっと座っていました。
ふと、時計を見ると学校の一限目はすでに始まっている時間でした。
私はずっとマサトくんの異変の原因を考えていました。
マサキ先輩が好きであるマサトくんは、昨日の告白に成功したはずです。
だって、どんな女性の方であっても、マサトくんから告白されて断るはずがありません。
ですから、今日のマサトくんはとてもご機嫌なはずです。
普段の眩し過ぎる笑顔を浮かべて、私と一緒に学校に登校するはずです。
そして、いつも通り駅のホームでマサキ先輩と出会った私たちは、いつも通り学校に向かいます。
ただ、唯一普段と違うのは、マサトくんとマサキ先輩は恋人同士になったのですから、私がそれを邪魔してはいけないという事です。
きっと、電車では出来るだけお二人から離れた場所に座ります。
お昼もマサトくんにお弁当だけお渡しして、私はお二人の邪魔をしないように何処かで、ひっそりと食べましょう。
学校では、出来るだけお二人が一緒に居られるよう計らいましょう。
帰宅する際も、私は先に帰宅するべきかもしれません。
・・・いいんです、マサトくんが幸せならそれで。
でも、そうなっていない。マサトくんが幸せそうにしていないという事は・・・。
私は、いてもたっても居られなくなりましたので、家を出る事にしました。
あの状態のマサトくんを放置しておくのは、非常に不安なのですが・・・仕方ありません。
マサトくんがああなってしまった原因であろう人物に直接問い詰めるために。
私は制服姿のまま、カバンも持たないでマサトくん宅を飛び出しました。


「おや、珍しい。今日は氷室さん一人なのかい?」
・・・いました、マサキ先輩です。
いつも通り駅のベンチに腰かけて文庫本を読んでおられます。
私が一人なのを先輩は驚いておられるようですが、私も、まさかいまだに先輩がここにいるとは思っていませんでした。
時刻はすでに二次限目の授業がとっくに始まっている頃だというのに。
私たちが居なければ、本当にこの方は遅刻してしまうのですね。
自らの腕時計を見たマサキ先輩も、驚いているようです。



59 :あなたのために 第三話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/05/23(土) 01:28:04 ID:ZvS9Dk39
「おお、これは驚いたね。完全に遅刻じゃあないか」
ちっとも驚いている風に見えないのが、この方らしいと言えばらしいのですが・・・。
しかし、今はそんな事はどうでもよい事だと考えます。
私にとって最大の問題点は、マサトくんがああなってしまった原因が間違いなくマサキ先輩にある、という事です。
それを、この方から問いただす事だけが最優先すべき課題で、マサキ先輩の遅刻など私は関知しません。
「マサキ先輩。お話があるんです。今からお時間いただけますか?」
「ふ・・・む。そうだね、どうせ授業は遅刻だし。たまには氷室さんと女同士の付き合いをするのも悪くないだろうね」
断られるかとも思いましたが、マサキ先輩にはすんなりと了承して頂けました。
私は丁寧にお礼を述べると、マサキ先輩を連れだって駅を出ます。
・・・出来るだけ、何処か人気のない場所へと連れていく必要があります。
事と返答次第では、私はとても黙ってはいられないでしょうから・・・。


「ああ、そうだね。マサトは私に告白してきたよ。いや、実に驚きだったが」
相変わらず全く驚いているようには見えません。
マサキ先輩の顔は普段通りの能面で無表情です。
もしも、普通の女の子がマサトくんから告白を受けようものなら、喜びに舞い上がるはずです。
きっと、私が告白を受けようものなら、喜びを通り越して気絶してしまいます。
なのに、目の前のマサキ先輩は実に無感動に見えます。
「氷室さんはマサトの事が好きなのだろう?私はてっきり二人は両想いなのだと思っていたが・・・マサトも実にお馬鹿な男だね。こんな可愛い幼馴染がいて横恋慕なんて」
「マサトくんの事を馬鹿にするのはやめて下さい。お願いします」
私は言葉では努めて冷静にマサキ先輩をたしなめました。
けれども、私の顔は自分でも抑制が利かないほど、怒りで引き攣ってしまいます。
誰であろうと、マサトくんを馬鹿にする人は許しておけません。
「おや、怖い顔だね。悪かったよ、謝るからそんな顔しないでくれたまえ」
「それで、マサキ先輩はマサトくんとお付き合いされるんですよね?」
そうです、あのマサトくんの告白を受けたのですから、断るはずがありません。
ましてや、あれだけ意気投合しているマサキ先輩とマサトくんです。
きっとお似合いのカップルになることでしょう。
ですが、それでは今日のマサトくんの様子に説明がつきません。
「おやおや、氷室さんは私とマサトが付き合ってもいいのかい?」
「マサトくんがそれを望むなら、私はそれを全力でお手伝いするだけです」



60 :あなたのために 第三話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/05/23(土) 01:30:56 ID:ZvS9Dk39
そうです、マサトくんがマサキ先輩を選ぶなら、私はそれを全力で応援するだけです。
私は今まで通り幼馴染として、傍にいて、お世話をさせて頂くだけで構わないのですから。
自分の想いなんて関係ありません。マサトくんが幸せならばそれだけでいいんです。
・・・心なしか、普段から無表情なハズのマサキ先輩の顔が、睨みつけて来ているような。
「正直、氷室さんの言っている事は、まったく理解できないね。私なら相手を殺してやるよ」
ゾクリ。
何故でしょう?マサキ先輩が言葉を発した瞬間に、私の背筋にうすら寒いものが走りました。
目の前のマサキ先輩は、いつもどおりの無表情だというのに。
普段の何処か飄々とした雰囲気とは、かけ離れた何かを感じてしまいました。
「ま、安心したまえ。私には別に大切な人がいるのでね。マサトの告白は断らせてもらったよ」
「・・・やっぱり、だからマサトくんはあんなに落ち込んでいたんですね?」
マサトくんの様子がおかしい筈です。
告白がマサキ先輩に受け入れられたなら、マサトくんがあれほど荒んでしまう訳が無い。
とても信じられませんが、本当にマサキ先輩は、マサトくんの想いを踏みにじったのです。
・・・可哀想なマサトくん。あんなにも先輩の事を想っていたのに。
酷いです。どれだけマサトくんが傷ついてしまったかわかりますか?
私には、自分の事のようにマサトくんの辛い気持がわかります。
ずっとずっと慕ってきたのに、その想いが成就しないという辛さが、どれ程苦しいか。
しかも、先程、マサキ先輩は別に好きな人がいる。と言われました。
・・・好きな人を別の人に盗られてしまう辛さが、あなたにわかりますか?
「そうか、落ち込んでしまったか。・・・なら、氷室さん。君が慰めてあげると良い。折角の良いチャンスだろう?」
一体どんな権利があって、マサキ先輩は告白を断ったというのでしょう。
とても許される事ではありません。
マサトくんの幸せを踏みにじる人間は、誰であろうと許せません・・・。


「フフフ・・・氷室さん。君は本当に変わっているね。恋敵じゃなくなった人間に刃を向けるなんて」
いま、私の右手には化粧用剃刀の柄が握られています。
あの時、自殺未遂を犯したときに使用した剃刀です。
ちなみに、自宅の洗面所の棚から、偶然見つけました。



61 :あなたのために 第三話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/05/23(土) 01:32:57 ID:ZvS9Dk39
「さしずめこの界隈を賑わせている、連続殺人鬼のマネかな?だとすると私の喉は横一文字に切り裂かれてしまうね」
私は何も言わず、剃刀の刃をマサキ先輩に向けたまま、立ち尽くしています。
マサトくんを傷つけたマサキ先輩は、いまここで殺します。
どんな理由があろうと、マサトくんの幸せを阻害する存在は許しておけません。
先ほどから手が震えて仕方ありませんが、マサトくんの仇を討つため、がんばります。
「緊張しているのかい?・・・そういう時は深呼吸をするといい。単純だが、意外と落ちつくものだ」
どうして。
どうして、マサキ先輩は刃物を向けられてもこんなに冷静なのでしょう?
無表情の顔の下で、本当は怯えきっている?
・・・とてもそうは見えません。
むしろ、こうして刃物を向けている私のほうが、マサキ先輩に殺されてしまいそうです。
「マ、マサキ先輩。あなたはマサトくんを傷つけました。許せません!こっ・・・殺して差し上げます!!」
私は出来るだけ大声を張り上げて、自分を鼓舞します。
手も足もガタガタと震え続けていますが、ここでくじける訳にはいきません。
マサトくん、私に勇気を与えて下さいっ!
そして、剃刀を構えると、マサキ先輩に向って走り出して・・・。
「駄目だっ!ミクっ!!」
がしり。
・・・誰かに、私の身体を抱きしめられました。
マサキ先輩に向って突進しようとしていた私の身体は、いとも簡単にその人の腕にくい止められました。
別に、その人の力が凄く強かったわけではありません。
「あ・・・ああ・・・」
そうです、私の身体を後ろから抱きしめている人物だからこそ、止まったのです。
一度声を聞けば、決して間違えたりしません。
私が生きる理由、私が生涯をかけて尽くすべきお相手、マサトくん。その人です。
「どうして?・・・どうして、ここにいるのですか・・・?」
「間に合って良かったよ。中々に冷や汗ものだったね。・・・さっき駅から此処へ来る途中にメールを送っておいたのさ」
マサキ先輩の話など、私の耳に入りません。
振り向いた見たマサトくんの顔は、それはもう、怒りの形相で・・・。
マサトくんには笑っていてほしいんです。あの誰しもが心安らぐほどの素敵な笑顔で。
「ミク。どうして、どうしてこんな事をするんだ?何でミクがマサキ先輩を襲わなきゃならないんだよ!」



62 :あなたのために 第三話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/05/23(土) 01:36:03 ID:ZvS9Dk39
「う・・・うあ・・・み、見ないでください・・・マサトくん」
こんな醜い私の姿、マサトくんは見てはいけません。
昔からの幼馴染がただの人殺しだったなんて、そんなの、マサトくんの人生に傷がつきます。
ああ・・・ああ・・・そんな顔しないでください。
憎悪の眼差しで私を見ないでください。いつものように笑っていて下さい。
「わ、私は・・・マサトくんを傷つけたマサキ先輩に・・・復讐を・・・」
いままで見た事もないほどの、鋭い怒気を含んだマサトくんの眼光に対して、私はそれだけを絞り出すように伝えました。
「復讐・・・?どうして、僕がマサキ先輩に復讐しなくちゃいけないんだよ!?」
「ひっ!」
いままでで、一番大きなマサトくんの声に、私は思わず悲鳴をあげてしまいます。
ごめんなさい、マサトくん。
だって、許せなかったんです、マサトくんを傷つけたマサキ先輩が。
マサトくんの想いを受けながら、あろうことか拒絶したマサキ先輩が。
マサトくんにただの幼馴染としか見られていない私と違って、こんなにも想いを寄せられている癖に。
許せなかったんです。
・・・・・・・・・・悔しかったんです。
どうして、どうして私では無く、マサキ先輩だったのですか?
私だったら、絶対にマサトくんの告白を断ったりしませんでした。
マサトくんを傷つけるような真似はしませんでした。
・・・本当は、マサトくんと・・・恋人同士に・・・なりたかったんです。
「み、みにゃいで・・・くだしゃい・・・ごっ、ごめんにゃしゃ・・・い」
いつの間にか、私の瞳からは涙がこぼれていました。
口の中は唾液や鼻水でぐしゃぐしゃで、まともに喋ることが出来ません。
きっと、今の私の顔は、とてもマサトくんに見せられるものでは無いでしょう。
唯一の救いは、涙で視界がぼやけて、あのマサトくんの怖い顔を見なくて済んでいるという事だけです。
「あっ!?」
私を後ろから抱きしめていたマサトくんを、力任せに振り払います。
もちろん、マサキ先輩に対してこれ以上、何か危害を加える訳ではありません。
・・・もう、いいんです。マサトくんもそれを望んでいないようですし。
むしろマサキ先輩にはこれからも生きていてもらわなければなりません。
再び私に飛びかかろうとするマサトくんですが、私の行動を見て、足を止められました。
それは、私が自分の首元に剃刀の刃を当てたからです。



63 :あなたのために 第三話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/05/23(土) 01:37:58 ID:ZvS9Dk39
「うぐ・・・マ、マサキ先輩。お願いがあります・・・」
口の中にたまった唾液やらを飲み込み、鼻を啜ります。
出来るだけ、ここからの言葉は正確にお伝えしなければならないからです。
ちゃんと喋らないと、マサキ先輩はお願いを聞いてくれないかも知れません。
「・・・なんだい?氷室さん」
「申し訳ありませんが、マサトくんの告白を受けてあげて下さい。そして、是非私の代わりにマサトくんのお世話をしてほしいのです」
「ミク、なに言ってるんだよ。僕はもう・・・振られたんだ。それに、世話を焼いてくれるのはミクの役目だろう?僕はこれからもずっとミクに世話を焼いていて欲しいんだ・・・」
マサトくん・・・良かった。笑ってくれている。いつもの笑顔で。
マサトくんの笑顔を取り戻すことが出来て良かったです。
これで、私が死んで、マサキ先輩がマサトくんとお付き合いを始めれば、きっとそれは永遠のものとなるでしょう。
・・・そうでなければ、あの世から、お怨み申し上げますからね?マサキ先輩。
「マサトくん・・・。今までありがとうございました。私は、マサトくんと過ごせて、とても幸せでした・・・私、ずっとずっと・・・マサトくんの事が・・・いえ、なんでもありません。・・・・マサトくん、幸せに・・・なって下さいね?」
「駄目だ!ミク、やめろぉぉぉぉぉ!!!」
ああ、意識が飛んでいきます・・・これが死ぬって事なんですね?
なんだかとても冷たいです。
あの世と言うものは、どんなところなんでしょう?
きっと、マサトくんが居ないところなど、何の価値も無いでしょうけれど。
マサトくん・・・ずっとずっと・・・お慕い申し上げていました・・・これからも・・・幸せで・・・いて下さい・・・ね。