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87 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/26(火) 00:43:10 ID:JC1VxFuq
*****

 鈴坊は私から離れていったりしないと思っていた。
 ずっとずっと、私を一番に考えているんだと思っていた。
 でも。

 ――僕と、付き合ってもらえますか? 苅屋さん。

 この一言が、私の確信を粉々にした。
 千里眼の向こう。鈴坊と顔を真っ赤にした少女が見える。
 鈴坊と向かい合っている少女が、どもりながら返事する。
 鈴坊が笑う。とっても嬉しそうに。
 それで、わかった。鈴坊と少女は想い合っていたのだ。
 二人の想いは今通じ合ったのだ。

 これでいいんだ。鈴坊は人間だから、人間の女の子と結ばれるのが一番幸せなんだ。
 永劫に存在することを約束された私にとって、人間の生きる年月なんて、
無為に過ごしても惜しくないほどに取るに足らない。
 だから、鈴坊はこの少女と生きるべきだ。

 ――そう考えられなくなるぐらい、私の心は乱れている。
 心を乱してはならない。私は神なのだ。
 この土地に佇み、人の営みを見送り、生きとし生けるものを支え続けなければならない。
 それができないなら、私が存在している意味は?

 嗚呼、でも。
 手放したくない。目の届く場所にいつまでも置いておきたい。
 鈴坊。可愛い可愛い、私の坊や。
 お前に会えなくなるなんて、私には耐えられないのよ。
 今でも、こうして離れているだけで心が疼く。
 鈴坊が隣に居ればこんなことはない。
 私だけでは駄目だ。一緒にいなければ。

 もう鈴坊は私の身体の一部だ。
 ならば、二度と離ればなれにならないようにしなければ。
 一つになろう。私が私であるために。



88 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/26(火) 00:44:34 ID:JC1VxFuq
 その日の夜。
 眠りに落ちた鈴坊の夢の中に私は入り込んだ。

 ……鈴坊。起きなさい、私だよ。
「んん……? 誰だ……」
 へええ。私の声を忘れるなんて、偉くなったものね、鈴坊。
「……うぇっ! その声はシロ姉さん?!」
 そう、私だよ。悲しいねえ、たった一日二日でもう忘れちゃうんだ。
 それとも、好きな女の子の心を射止めたからもう用無しになったのかな。
「好きな人って、苅屋さ…………どうしてシロ姉さんがそのことを!」
 可愛いねえ鈴坊は。寝言で好きな女の子の名前を呼ぶなんて。

 鈴坊が小さく呻く。
 成程、今夜はその子のことを考えながら眠りについたのか。
 それでいいよ。今は夢中になっていればいい。
 相手の子が自分の思い通りの人間だと思っていればいい。

「それで、姉さんは何しに来たの」
 ん? ちょっとお別れを言いに。
「お別れ? 誰に?」
 鈴坊にだよ。

 夢の中の空間に、重たい空気が満ちる。
 今の一言で察したのだろう。私の言葉が、何を意味するのか。

「……嘘でしょ」
 違う。私は本気。
 立派になったよ、鈴坊は。
 自分の気持ちを、堂々と胸を張って、恋した女の子に伝えた。
 今までお姉さんやってきて本当によかった。嬉しくなっちゃった。
「そんなこと言わないでさ、また僕、神社に行くから。
 姉さんに会いに行くから。だからそんな、お別れなんて……」

 鈴坊の願いがどれだけ切実なものか、わかる。
 だけど、これは必要なことなんだよ。
 私と鈴坊が一緒にいるためにはこうするしかない。
 だから、今は辛いけど言う。


 もうどこに行っても私には会えないよ。
 ……さよなら、鈴坊。
 今まで一緒に居てくれて、ありがとう。



89 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/26(火) 00:46:02 ID:JC1VxFuq
 鈴坊の夢から出ても私の用事は終わらない。
 次は、鈴坊が恋した少女の夢の中へ。

 夢の中でも少女はベッドの上で寝息を立てていた。
 ……幸せそうな寝顔。この子も鈴坊と同じ気持ちだったんだものね。
 でも、駄目だよ。こればかりは譲れない。
 か弱い人間の少女相手でも、私は容赦しない。
 ――この子には居なくなってもらう。

「ううん、鈴鹿くぅん……えへへ」

 念じる。夢の世界と私の世界を繋ぐ。
 私の内包する世界は秩序が保たれている。
 生き物のありとあらゆる念が流れ込んで、それぞれが作用しているからだ。
 もしも、いくつかの念が欠けていたら、私は神として存在していない。
 今からやることは、一つ間違えば私が消えてしまうほどのこと。
 人の念、その中でも取り分け強いもの――男の肉欲を解放する。



90 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/26(火) 00:48:13 ID:JC1VxFuq
 夢の中が揺らぎ始める。解放した念が干渉し始めた。
 薄暗い部屋。石畳の床。石でできた壁に天井。
 外界からの干渉を徹底的に拒む意志が働いている。
 見れば、さっきまでベッドで寝ていた少女は石畳の上に寝ていた。
 身に纏っているものは上下の下着のみ。
 予想していた通りのことが起きた。狙った通りになろうとしている。
 肉欲でできた念が、少女を喰らおうとしている。

「んっ……いっつぅ。何なの、ここどこ……?」
 少女の声と同時に、三つの影が浮かび上がる。
 人の形をした暗黒の獣。
 快楽以外を求めない獣は、情けという人らしい感情を備えていない。
「な、なに……ひ、嫌っ! こっちこないで!」
 影の一つが少女に飛びかかる。遅れた二つの影が白い腕を掴む。
 押さえつけられた少女の足がもがく。
 場違いな白は、黒に蹂躙される。

 少女の下着がちぎれ、乳房が露わになる。
 形容しがたい叫び。獣のあげる歓喜の声だ。
「痛っ、やめ……触らないでよ! あうっ、う、ふぅ、うう……」
 少女の乳房が荒らされる。獣の手によってもみくちゃにされる。
 一つの影が少女の腹部に乗り、身体を揺すり始めた。
 白い腕はまだ二つの影に掴まれたまま。
「何なの、こんな気持ち悪いの、触りたく……、
 いやっ、苦し……息でき…………は、ふぅあ、あぅ……」

 少女の声が静かになったころ、影が別の動きを見せた。
 白い足が大きく開く。影が開いた隙間に入り込む。
 恐怖と涙が少女の顔を彩る。
 それがいたく魅力的なのか、獣たちが一斉に歓喜し、叫ぶ。
「やだあっ!! 助けて、助けて鈴鹿君!
 鈴鹿君じゃないと嫌ぁっ! こんなの、こんなのって……」
 獣の腰が少女の股へと潜り込んでいく。
「嫌、いやいやいやいや、いや嫌ぁっ! 
 どこにいるの! 助けて、助けてよ、鈴鹿く――――――」
 そして、白い肢体は獣に貫かれる。

 断末魔にも等しい叫び。
 されど聞いているのは私と、三体の獣だけ。
 いいや、私だけ。
 この獣たちに聞く耳はない。欲望に忠実な個体は発散するだけしかしない。
 誰にも、もちろん私にも止められない。
 自ずから止まるその時まで、少女の叫びが止むことはない。


 ――これで、準備は整った。
 私の望みは叶う。
 嬉しい。楽しい。二度とこの幸せは崩されない。
 もう私を阻むものは何もない。



91 :しろとすず ◆KaE2HRhLms [sage] :2009/05/26(火) 00:49:27 ID:JC1VxFuq
*****

 鈴坊はやっぱり神社に現れた。
 修学旅行から帰り、解散すると同時に脇目もふらず、やってきた。
 私と離れたくなかったなら、最初からそんな態度で居れば良かったんだよ?

 鈴坊はまず神社の周辺の林を捜索しだした。
 そこで見つからなかったら、今度は神社を隅から隅まで見回す。
 林、神社、林、神社…………私の姿を求めて足を酷使する。
 ようやく足を止め腰を下ろしたのは、とっくに日付が変わった頃だった。
 そして鈴坊は、『私』に向けてぽつぽつと喋りだした。

「……ここは、僕の姉さんが居た場所なんだ。
 泣いてた僕を慰めてくれた姉さんだった。
 子供っぽい、ていうか見た目まるっきり子供なんだけど、僕は姉さんだと思ってた。
 僕にはその人の前にも姉さんが居て……あぁ、これは関係ない、か。
 とにかく、姉さんに僕は感謝してるんだ。
 せめてそのお礼だけでも言いたかったのに、ひどいよ、ホント。
 ……最後に姉さんは、成長したねって言ってくれた。
 駄目な弟分だったけど、最後の最後で姉さんに認めてもらえた、と思う。
 ねえ、君もそう思うかな」

 二つの意味で『私』は頷く。
 一つは鈴坊の姉として、肯定の意味で。
 もう一つは、彼の気持ちに同情する意味で。ただしこちらは、人間の女の子として。

 一際強い風が吹き、草木がざわめく。
 鈴坊が手を差し伸べる。
 その手と自分の手を見比べていると、鈴坊が言った。
「もう夜も遅いから帰ろっか。家まで送っていくよ――苅屋さん」

 『私』は躊躇いなく鈴坊の手を取る。
 そして、初めてこの名前を呼んだ。

「うん、よろしくお願いするね。鈴鹿君」