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221 :Chains of pain [sage] :2009/06/04(木) 03:17:53 ID:/ugFgHHF
「そっか……明日から優花ちゃんも高校生なんだね」
久しぶりに遊びに来た七海が紅茶を飲みながらそう言った。
「はい、明日からよろしくお願いします。七海先輩」
「いつも通り七海でいいよ、なんだか調子狂っちゃうから」
七海と優花が笑う。
およそ一年ぶりに七海が家に遊びに来て、こうして優花と話をする訳だが、
どうやら仲が良かった頃と変わってないようで安心した。
「ねぇ、春斗君。お茶のおかわりが欲しいな」
「あ、お兄ちゃん。あたしも」
「うん、わかったよ。ちょっと待ってて」
やれやれと思いながら二人のティーカップを受け取り、キッチンまで歩い
ていく。ティーパックをカップにいれお湯を注ぐ、あまり長く入れておくと濃く
なってしまう為、早めに渡して好きな濃さでティーパックを取ってもらう事に
する。
紅茶を淹れたティーカップを二人に渡すと、さっき紅茶を飲んだからだろう
か、お手洗いに行きたくなってきた。
「あ、ごめん。席はずすよ?」
「うん、大丈夫」
廊下へ歩いて出て行く。

勿論その後どんな話を二人がしたのかなんて僕は知らない。

「……優花ちゃん、こんな話をしに呼んだんじゃ無いんだよね?」
笑顔が突然消え、ティーカップをゆっくりと置いた。
「勿論です。七海さんには頼みごとがあったので呼びました」
優花の目は普段の優花からは想像も出来ない程に鋭くなっていた。
「時間がありませんね……簡潔に言いましょう」
七海は優花をただ無言で睨み付けた。
「明日からお兄ちゃんに出来るだけ近づかな――」
「無理」
そう遮る七海。二人の目からは憎しみや怒り、それに近いような負の感情し
か感じられなかった。
「……そうですか、ではこれをお兄ちゃんに見せるしかありませんね……」
「……これ?」
優花は何も言わずに傍に置いておいた紙袋からとある物体をテーブルの
上に置いた。
「これ、お兄ちゃんが観たらなんて言うでしょうか」
物体とは、七海が設置した盗撮用カメラの一つだった。
「な……!」
いつかは見つかってしまうであろうと悟ってはいたが、いざ見付かると動揺
が隠し切れなかった。
「これ、お兄ちゃんだったらなんて言うんでしょうか」
余裕の笑みが優花から漏れる。
「…………めて……」
「――は? 聴こえませんでした、もう一回”はっきりと”言ってもらえますか?」
完全に勝利を確信した笑い。
これでもう誰も邪魔は出来ない、そう優花は盗撮用カメラを紙袋に大事そう
に仕舞った。
「……私は……もう……」
「なんですか? ”ちゃんと”言ってもらわないとわかりませんよ?」
高らかに、狂ったように笑い出す。
もし仮に春斗に聴こえていたとしても、少し不思議に思う程度だろう。
「……私は、春斗君、に近づかない……ので……か、カメラの事を言わな
いでくださ……い!」
七海は下を向いて、涙ながらにそう叫んだ。
その目はすっかり光を失い、溢れ出した大粒の涙が滝のように落ちていった。
「わかりました、そこまで言うなら言いません。ただし、約束を破ったら……
わかってますよね? 勿論、友達としてもダメですよ?」
「…………友達としても……ダメ……?」
もう涙も出なかった。


222 :Chains of pain [sage] :2009/06/04(木) 03:18:38 ID:/ugFgHHF
部屋のドアがゆっくりと開き、スリッパの音がする。
「席を外してごめんね」
苦笑いをしながら入ってくる春斗。イスに座ると、紅茶を口に含んだ。
「えっと……あれ、どうしちゃったの?」
春斗は会話が無い事に気が付いた。
「え? そうかなぁ、気のせいだよお兄ちゃん」
優花は七海に微笑みかける。その笑顔を見て少し七海が怯えた気がした
が、声を掛ける前に七海が立ち上がった。
「えっと……ごめんね春斗君。課題が終わってないのを今思い出して……
帰って急いで終わらせないと」
そう七海は春斗に言った。だが、春斗はそんな七海の目が泳いでいる事に
少し違和感を覚えた。
「……そう、なんだ。うん、それじゃあ……」
「今日は呼んでくれてありがとう……”さよなら”……」
苦笑いでそう言う七海を不安に思いながらも見送ることにした。
「一人で帰れるから……じゃあね……」
「あ、うん」

七海は何度も悲しい顔をして振り返りながら帰っていった。