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245 :あなたのために 第四話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/06/06(土) 00:13:45 ID:uUb2CVRa
「やれやれ、とんだ茶番に付き合わされたものだね」
私は自分の足元に転がっている、氷室さんを見降ろして呟く。
右手に剃刀の柄を握り締めたまま、地面に横たわり、気絶している彼女を。
対する、私の姿はと言えば、右手に先程氷室さんの首筋に打ち込んだ手刀の形を作ったまま、氷室さんを見下ろしている。
「マサト・・・君が氷室さんの気持ちにさっさと気がついていれば、こんな事にはならなかったんだ。わかっているのかい?」
しかし、目の前のマサトは、青ざめた顔で、
地面に横たわっている氷室さんを抱きあげることにご執心だ。
私の言葉など聞いちゃいないようだった。
「安心し給え、気絶しているだけだよ」
氷室さんが呼吸をしている事を確認したマサトは、大きく息を吐く。
そして、いとおしそうに彼女の長い髪を撫でる。
「ミク、どうしてこんな事を・・・」
「氷室さんは君の事が大好きなんだよ。幼馴染としてじゃないぞ?一人の男として、愛しているんだ」
私がそう告げると、マサトは驚いたように瞳を見開いた。
顔を上げ、こちらを見るマサトの表情は驚きに満ちている。
・・・やはり気がついていなかったか。
身近な幼馴染の愛情に気が付け無いなんて、君はなんて鈍感なんだ?
「そんな、嘘でしょう先輩?ミクはただの幼馴染で、僕に恋愛感情なんか・・・」
「やれやれ、当事者というものは実に恐ろしいものだね。君はどれだけ自分を客観視していないんだい?」
君たちに初めて出会ったとき、私は二人が既に恋人同士なのだとばかり思っていたよ。
しかし、目の前のこの鈍感バカのお陰で、氷室さんが苦しい恋をしているのはすぐに気が付いた。
自分に向けられる熱っぽい視線を、見事なまでにスルーし続けるマサトの天然ぶりには呆れてものが言えなかったね。
マサトと話している私を見つめる氷室さんの視線に、流石の私も何度背筋が凍った事か。
「ただの幼馴染が毎日お弁当・・・いや、朝昼晩、全て作ってくれているそうじゃないか?普通の幼馴染がそんな事をしてくれると本当に思っていたのかい?」
「でも、それは僕の母親に頼まれているからで・・・。あの、じゃあ毎日起こしてくれたり、掃除や洗濯してくれているのも?」
「そうか、氷室さんはそこまで君に尽くしているのに捨てられたのか。いやいや、同情を禁じえないね」



246 :あなたのために 第四話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/06/06(土) 00:16:34 ID:uUb2CVRa
そこまでマサトに尽くしておいて、挙句に捨てられる氷室さん。
私もあの人に人生のすべてを捧げているつもりだが、もしも捨てられたりしたらどうなるか・・・。
フフ・・・その時はあの人の手足を切断して、監禁してあげればいいだけだ。
もちろん、それは最後の手段だけれどもね。
「でも、じゃあどうしてミクはマサキ先輩を・・・?僕はあなたに振られたのに・・・」
「さぁ?それは彼女本人から直接聞いてみたらどうだい?・・・私には理解できないからね」
愛する幼馴染が、意中の女性と結ばれ、幸せになるのなら、自分は捨てられても構わない。
自分よりも、彼の幸せが第一だと。
マサトの幸せこそが、氷室さんにとってきっと全てなのだろう。
・・・私には理解できないがね。
だってそうだろう?
私無しに、あの人の幸せが成り立つはずがないのだから。
私は、そう断言できる。
私以外にあの人を幸せに出来る人間など存在しない。
例えあの人が、他の誰かを何かの間違えで好きになったとしても、それはその泥棒猫に騙されているにすぎない。
その時は、その泥棒猫を私は全力で排除する。
それが、あの人にとっての最高の幸せなのだから。
「ただ、マサト。君に解って欲しいのは氷室さんが、彼女こそが世界で最も君の事を愛しているという事だ。彼女は君の幸せの為に、壊れた。それだけは間違いのない事実だよ」
「・・・ごめん、ミク。僕が君をここまで追い詰めてしまったんだね?」
そう言ってマサトは、気絶している氷室さんを再び見つめ・・・涙を流した。
氷室さんに恋愛感情を抱いてはいないらしいが、それでも彼女が大切なのは確かなのだろう。
・・・やれやれ。マサト、君は氷室さんの近くにいすぎたんだ。
本当はお互いに無くてはならないほど大切な存在なのに、その大切さに気が付かない。
空気や水みたいなものさ。普段は全然、そうとは気が付かなくとも、いざ無くなれば慌てる事になる。
それが幼馴染の関係。
失ってから初めて気がつくというものさ。
・・・私のお陰で失わずに済んだ事を感謝したまえよ?
「マサキ先輩、僕はこれから・・・どうしたらいいんでしょう?どうすればミクに償えるんでしょうか?」



247 :あなたのために 第四話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/06/06(土) 00:19:17 ID:uUb2CVRa
「簡単なことさ、彼女を愛してあげればいい。・・・ああ、拒否権は無いぞ?君の恋愛感情なんぞ関係ない。今まで散々尽くしてもらってきたんだ。今度はそのお返しに彼女を愛してあげろ。・・・死ぬまで、その人生を賭してね」
氷室さんが自分にとって、どれだけ大切な存在かを気付く事が出来たマサトが、これから彼女を愛していくことが出来るかは解らない。
だが、それは今後の二人の問題だし、私の関知することでは無い。
ただ、私と同じく幼馴染の男性に人生のすべてを捧げている、氷室さんに少しばかりの情けを掛けてあげたくなったのさ。
本来ならば、私に襲いかかってきた処で、返り討ちにしてあげる所だが。
ちょっとばかりの同情を感じて、マサトを呼び出してあげた。
・・・フフフ、まぁ、がんばりたまえ。我が同志よ。
「ああ、ちなみに幼馴染同士は必ず結婚しなくてはいけないと、法律にも書いてあるらしいぞ?結婚式には呼んでくれたまえ」
「・・・書いてませんよ、そんな事・・・」
そうなのか?・・・まぁ、いい。法律など、私には関係のない事だ。
私は是が非でも幼馴染のあの人と結婚するつもりだし。
「それじゃあ、私はこれで失礼させてもらうよ?」
・・・私は氷室さんの手から零れ落ちた剃刀を拾い上げると、懐に忍ばせた。
ちょうど、普段使っている剃刀に刃毀れが目立ってきたところだ。
慰謝料代りに貰っておいても罰は当たるまい。
私は二人に背中を向けると、颯爽とその場を去ることにした。
さて、せっかく授業をサボって時間が出来たのだ。
この際、まっ昼間から愛しの君を愛でに行く事にしよう。
それぐらいの報酬は受け取っても構わないだろう?
・・・最後に、ちらりと振り返り、二人を見る。
マサトが、氷室さんの唇に口付けをしていた・・・。


あーあ、もう、やんなっちゃうなぁ・・・!!
あともうちょっとで彼を誘う事が出来たのに。
大体、何なの?あの変な女。
ちょっと綺麗だからって、無表情で無愛想で、まるで人形みたい!
いきなりお喋りしていたあたしと彼の間に入ってきて!
幼馴染だぁ??知らないっての!!
高校の制服着てたから、たぶん彼の一個か二個下なんだろうけどさ。
彼女でもない癖にベタベタしちゃって!



248 :あなたのために 第四話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/06/06(土) 00:22:13 ID:uUb2CVRa
・・・大体、彼も彼よ。私と遊びに行く約束してたのに、あんな子が来たからってだけで、取り止めにしてさ!
しかも、デレデレ鼻の下伸ばしてやんの。
男ってのは、ああいう人形みたいなほうがいいの?理解できないわ。
あーあ、彼ってばホントにイケメン。だから、彼氏に出来たら、友達に自慢できるんだけどなー。
性格はすっごく天然臭いから、ちょっとモーション掛けてやれば簡単に落ちそうだけどね。
・・・あ、でもあれだけかっこよくて、今まで彼女が出来た事無いらしいから、何かあんのかな?
ブルル・・・。
うう、寒い・・・。雪降って来てんじゃん。
流石に冬の夜道は冷え込むわね・・・調子乗って友達とカラオケ行かなきゃ良かった。
もうあたり真っ暗だし。
なんか、例の殺人鬼が出没しそうで怖いわね。早く帰ろう・・・っと。
よーし、明日こそは彼を食事に誘って一発決めてやるわ!
あんな高校生の人形女に盗られる前に決めてやるんだから!
・・・あー、寒い。ホンっと、冷えるわね。
「こんな夜中に一人で歩くのは関心しないね、泥棒猫さん」
スパッ。
私が思わず声のする方に振りかえると、喉元にいきなり風が走った。
振り向いた先にいるのは、日本人形みたいな顔した、例の女子高生。
なんであんたがこんなところにいるの?
・・・と、喋ろうとしたけど、無理だった。
だって、私の喉元から紅い液体が噴出したんだもの。
え?なんなの、これ?・・・どういう事?
「フフ、泥棒猫と呼ばれて振り向くなんて、自覚でもあったのかい?」
人形女の右手には剃刀が握られていて、歯の部分にわずかに血痕が付着している。
どうして、この子が剃刀なんて持ってるんだろう?
え・・・嘘・・・そんな、あたし、この子に喉を切り裂かれた!?
まさか・・・この子がいま世間を騒がせている・・・。
「あがっ・・・ぐぶっ・・・」
喉元から噴き出した鮮血で言葉が発せられない。
しかも、とんでもない激痛に意識が飛んでしまいそうになる。
「フム、中々いい切れ口だ。これは氷室さんに感謝しないとね」
女子大生ばかりを狙う、通り魔殺人の犯人がこの子だったなんて。
信じられない。



249 :あなたのために 第四話 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/06/06(土) 00:23:50 ID:uUb2CVRa
喉元から血が湧き上がってきて、呼吸が苦しい。
どんどん意識が朦朧としていき、あたしは地面に倒れこんでしまった。
あたしの喉からはどんどん血液が流れ出て行って、コンクリートの地面がみるみる赤くなっていく。
あたし・・・死ぬんだ・・・
「自分が殺される理由が分からないって?なら教えてあげるよ。・・・君があの人に近づいたからさ。あの人に近づく泥棒猫どもは一人として生かしておけないね。私は絶対にあの人を他人に渡したりしないよ。フフフ・・・おや?」
薄れていく意識の中で、人形女の顔がおぞましいほどに歪んでいるのが見えた。
まるで三日月のように、真っ赤な口元が歪んでいる。
・・・やがて、あたしの耳に最後の言葉が流れ込む。
「おやすみ、泥棒猫さん。次は本当に猫にでも生まれ変わって、私のあの人にはもう手を出さないでくれよ・・・フフフ・・・アハハ・・・アハハハハハハハハハハハハハハハ!」