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259 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/06/06(土) 22:33:47 ID:tTPsfOIO
 第6話『真実の目』

「うむ。わかっておる。あの邪魔者は自殺に見せかけて殺そう」

 今では誰もが使う機会を失ったダイヤル式の電話でババアはとある人物と話し込んでいた。
年寄りらしい地味な部屋は近所にある忍や彩が暮らしているアパートの近くに監視するために存在していた。
 その電話を受けたのは日が傾き始めた頃。
 あの方から直接電話がかかってきたのだ。特に用事もなければ、ババアに干渉することはなかったはずなのだが。
電話の主から内容を聞けば、おおよその事は理解できた。
 邪魔者。
 そいつがシステムを壊す侵入者。

「ふむ。自殺が発覚するのは本件終了後にお願いしたいと。それは少し無理なのでは?」
 あの方の命令は絶対だ。
 ババアと言えど、あの方に逆らうことはあの敷地の管理人を辞めさせられるという問題ではない。
後先短い自分の命を明日には散らすことになる。
 だから、慎重に相手に意見を述べた。

「現時点で殺したとしても、本件が解決するまでに死体は必ず腐敗してしまいます。
自殺の偽装工作をするのは殆ど不可能。逆に警察の捜査で他殺という線を浮上する可能性があります。
恐らく、親交関係がある彼が疑われると思うのじゃ」
 邪魔者を殺害後に、彼が殺人犯と疑われるのはババアやあの方にとっても理想的な結末とは言えない。
邪魔者という不確定要素がいなくならない限りは本件が無事に達成することは困難であった。

 ババアは悩む。
 人を殺すのには躊躇いはない。
むしろ、自分達の理想を汚す輩は生きたまま燃やしても構わない。何十年もそれをやり続けた誇りというものがある。
 とはいえ、今回のケースの殺害は難しい。殺害方法の指定や、殺害してからの偽装工作まで、時期を見なくてはいけないからだ。

「ならば、もうしばらくだけ様子を見てから。邪魔者を殺害すれば……」
『大丈夫です』
「はい? なんと?」
『邪魔者の素性を調べたら、人間のゴミのような男が浮上しました』
「ほう、それで」
「その人間のクズを犯人として疑いが出るように工作してから、邪魔者を殺害しましょう。
シナリオはこうです。人間のクズが偽装工作して、邪魔者を自殺に見せかけた。しかし、実は他殺だったと」
「それでは彼に迷惑をかけずに、人間のクズが警察に逮捕されるわけか」
『そういうことです』
「ならば、時期が来ればワシが邪魔者を殺害することにしよう」
「よろしく、お願いしますね。ババア」
「御意」

あの方との電話を打ち切った。
 緊張から開放され、ババアは安堵の息を吐いた。
圧倒的な貫禄と、存在感の前では年齢だけを重ねた自分など赤子同然だった。大きな存在の前では誰もが恐れ従うだろう。
 さて、本件は慎重に監視して見守る。

 それがあの敷地の管理人である自分の仕事なのだから。
 今ではすっかりと忘れ去ってしまった敷地に起きた事件。

 恋する乙女が想いの果てに愛しい彼をこの場所で監禁して、強制的に自分の物にした。
それから、この敷地に男女が一緒にいると必ず監禁事件が起きた。

 その結末は……。
 


260 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/06/06(土) 22:36:29 ID:tTPsfOIO
忙しさに追われていた。
 だから、どうしたと言われても俺は目の前のケーキを売り払う作業に没頭しているので何かを言う気力を持ち合わせてはいない。
ちなみに俺が働いているバイト先はケーキ&喫茶店を切り盛りしている。
毎日ケーキ、プリン、アイス、ワッフルなど30種類以上のデザートバイキングなどを行っており、女性の方々に評判のいい店である。
フードメニュー、ドリンクメニューも充実しているので子連れの方々にもよく来店している。本当にいい店であった。
 この男がやってくるまでは。

「おい、そこのクソバイト。てめえ、お客様を待たせているんじゃねぇぞ!!」
「はい。すみません」
「全く、ちょっと睡眠薬を飲ませてラブホを連れて行ったぐらいでメス猿どもめ。辞めやがって。
まあ、教育的配慮で通報されないからどうでもいいけど」

 俺はお客様の購入した商品をレジ打ちしている最中にこの男が背後から怒鳴ってきた。
ケーキを買ってくださっている女性も店長の発言に怯えた表情を見せた。そりゃ、そうだろう。
すでに犯罪を自白しているようなもんである。

 この男はケーキ&喫茶店の店長、扇誠(おうぎ まこと)という。
 前店長が本店に栄転することになったので、次に店長としてやってきたのが扇店長だった。
前店長はケーキ作りも一級品で、人格も良かったので皆に慕われていた。
だけど、扇店長は全てが最悪である。

 まずはアルバイトの女の子に手を出したりと、セクハラ行為の素早さは超一級品だ。
辞めてしまったアルバイトの女の子は大抵喰われて孕ませられたという噂をよく聞く。
更に問題行為を起こしまくっているのにクビにならないのは。
 それなりのコネがあるからだそうだ。

 内閣総理大臣の子供とか、その親戚筋とか、会社の社長の孫とか、権力者にコネを持っているらしい。

「バイトが二人ぐらいバックレたけど、お前と瑞葵ちゃんと副店長のジジイでよろしくな。俺はこれからコレとデートだからよ」

 小指を際限なく強調して、汚らしい笑顔を浮かべて扇店長は混雑している店内の玄関から堂々と出て行った。
お客様がいる時も気を遣わないので、だんだんと店の評価は落ちていた。
「くそ。一人でどうやって切り盛りしろと……」
 俺は今日の修羅場が早く終わることを祈っていた。



261 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/06/06(土) 22:37:35 ID:tTPsfOIO
 その後、相沢さんと副店長や事情を話して、今日休みだったバイトさんに来てもらって、この修羅場をどうにかくぐり抜けた。
明日は新たに何も知らないバイトが数人来るらしいので、研修なしに実戦に投入されるだろうな。
「お疲れ様でした。先輩」
「相沢さんもお疲れ」

「本当にあの店長は皆殺しの刑ですよ!! 今日は女の子が夢に見たケーキ食べ放題半額の日に逃亡するなんて!! 
火あぶりの刑、ううん。モンスターに店長が頭からがぶりと食べられた方がいいかもしれません」
「はいはい。できそうにない店長殺害計画はいいから。もう、帰る支度でもしたら?」
「そうですね。先輩と一緒に帰れるなんて滅多にありませんし。それに」
「それに?」
「副店長と話して、シフトは全て先輩と一緒にしてもらいました」
「はい!?」
「これで先輩と一心同体ですね。これからもよろしくお願いします」
「で、狙いは」
「先輩と一緒に帰って、先輩の家で私の手作り料理を胃袋が破れるまで食べさせてあげたいと思いまして」

 これは何の冗談であろうか。相沢さんとはバイト先だけの関係であって、
この前の電話で喋った時以外はロクに会話をする仲でもなかった。あえて言うなら、
相沢さんを扇店長の魔の手から守った時から親密な関係になっていると言うのか。
 ほんの些細な優しさがきっかけがまた……。

「それに、陰気くさい女の人が作った物を食べさせるわけにもいきません」
「うん?」
「さあ、なんでもありませんから。服を着替えたら、先輩の家にレッツゴーですよ。
相沢家直伝の愛憎料理をたっぷりと食べさせてあげますから!!」
「愛憎って……」
 まあ、いいか。


262 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/06/06(土) 22:40:03 ID:tTPsfOIO
 帰りにスーパに寄って、相沢さんが作る夕食の材料を買ってきた。
時刻はすでに夕日が沈み変質者が行動する時間帯である。アパートの敷地内に入ると、俺の部屋の前で待っている人物がいた。
 彩さんだ。
「周防さん。今日も多く作りすぎたんで……この人は」
 小さなお鍋を持って、彩さんは目を丸くして俺の隣の人物を凝視していた。
まるで目にオーラを体の一部に集め、何かの正体を見抜くんじゃないかというぐらいに相沢さんを見つめている。
「えっと、桜井彩さんでしたっけ? 先輩からいつもお話を聞いていますよ。
毎日おかずを差し入れしているんですね。でも、今日は私が先輩のために美味しい料理を作りますから」
「むむむ……。周防さん?」
「ん?」

「これはどういうことなんですか!?
 俺が逆に聞きたい。
「周防さんの恩返しのために私は夕食のおかずを差し入れしているんですよ。
バイト先の後輩か先輩か知りませんけど、この役目を誰にも譲るつもりはありません!!」

 譲るとか言う以前に、二人に作ってくれと頼んだ覚えはないが、空気を読まない発言をすると
BADENDのフラグが立ちそうなので何も言えまい。
彩さんと相沢さんに口を挟める人がいたらその人のファンクラブを結成してやろう。

「何を怒っているのかわかりませんけど。
とりあえず、先輩の夕食を作らないと、私の先輩がメタミドホスやメラニンが含んだ食品に手を出すかもしれません」
「大丈夫です。私の料理を食べている間はそんな毒食品には手を出せませんから!!」
「フフン。この場を引かないと言うならば。私にも考えがあります。
桜井彩さん。あなたがやっていることをここで告発しましょうか?」
 ん? 告発だと。

「告発? 一体何を告発すると言うんですか?」
「言ってもいいのかしら。証拠はなくても、周防さんの部屋を調べれば。大変なことになりますね」
「うぐぐっ……」
「女の子の本性は女の子がよく知っている。浅ましき本性は特に!!」
「桜井さんが何をやったんだ?」
「知らない方が幸せですよ。先輩」
 相沢さんが目をウインクして、それ以上はその件について触れない方がいいと意思表示してきたので聞きたくても聞けなかった。
逆に彩さんが血の色が失った蒼白な顔色を浮かべ、体全身を震わせていた。

「こ、こ、これ、残さずに食べてくださいね」
 と、小さなお鍋を渡されると彩さんは逃げるように自分の部屋に逃げ込んだ。
まるで何か悪さした飼い犬のように見事な逃げ足であった。

「さあ、行きましょうか。先輩」
 相沢さんは俺の腕を組まれて、自分の部屋に連れ込まれようとしていた。
あんな動揺したことがない彩さんの姿を見るのが初めてであり、放っておけなかったが。
相沢さんの強制的な押しに負けて、数時間ぶりに自宅に帰宅した