362 名前:お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2009/06/14(日) 23:04:17 ID:/npj33Lj
第7話『笑顔の法則』

あの女め……。
モニター上で監視している二人の姿を見つめながら、私は自分の指を噛んでいた。
前に会った時から嫌な予感はしていました。恋する乙女の直感です。
あの相沢瑞葵という泥棒猫が私の忍さんに何らかの好意を抱いていることはわかっていたけど。

 こんな風に自分から行動を起こすとは思ってもいませんでしたよ。
 アプローチがちょっと激しい女の子は男の人からちょっと引かれるなんて思ったからこそ、慎ましい態度で少し距離を保っていたというのに。
 私は忍さんにとってただの隣人。
 それ以上の関係にはどうしてもなれない。あの女のようにバイト先の後輩ならば、忍さんと親密な関係になれるのかな。
 そのモニターの画面から相沢瑞葵が作った料理を美味しそうに食べている忍さんの姿を見ると胸が締め付けられる。
 
 私以外の女の子にそんな笑顔を見せないで!!
 私以外の女の子が作った料理を美味しい美味しいって言わないで!!
 私以外の女の子と楽しそうに喋らないで!!
 私以外の女の子に優しくしないで!!

 と、次々に自分でも抑えきれない淀んだ感情が溢れてきた。
それは愛しい忍さんを独占したい私の本音でしょうね。
本当なら私が忍さんに忍さんに忍さんに愛情のこもった料理を食べさせるはずだったのに!!
 あの女が!!!!
 あの女が!!!!

 私の忍さんを奪おうとする!!
 許せなかった。
 許すわけにはいかなったが。

 今の私にはあの女に指一本も触れることはできないんです。
 狡猾な泥棒猫相沢瑞葵は私が忍さんの部屋に仕掛けた監視カメラの事を知っている。
それは恋する乙女の直感……いえ、単純に言うと恋する乙女は愛しい人に監視カメラを付ける習性があるんです。
気になっている人のことを知りたいから、盗聴器を監視カメラを仕掛けるのは乙女の常識なんですよ。
 あの場面でバラされると忍さんの部屋に監視カメラを仕掛けた犯人が私であるとわかってしまう。
それで忍さんが私のことを嫌ってしまったら。

 本当に生きていけません。死にます。恐らく、焼身自殺や最近流行している硫化水素とかで死のうと思います。
 だって、忍さんは私にとって最後の希望なんだから。
 希望。

 そう、忍さんは希望だ。
 ずっと、独りぼっちだった暗闇のような人生を歩んできた私にとって。

 彼は光だ。
 その光を失わせるわけにはいきません。
 
 愛する忍さんのために。
 私、桜井彩は神聖鋸・斬を使って、相沢瑞葵を倒すことを誓おう!!


364 名前:お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2009/06/14(日) 23:06:09 ID:/npj33Lj
昨日、通販に頼んだ量産型鋸とは他にオリジナル鋸に匹敵する特注の神聖鋸・斬が手元に届いた以上は
泥棒猫を苦しめるように肉を薄く切ってやりましょう。 
 問題は殺害方法。
 あの女を殺せば、バカな警察でも捜査上に私が浮上することは間違いない。
これで容疑者になり、テレビやマスコミに報道されたら社会的に私は抹殺されてしまう。
 ううん。
 何かいい方法はないんでしょうか。
 
『もう、先輩。そんなとこ触ったらダメじゃないですか』
 殺害方法を考えている間に監視しているモニターから泥棒猫の黄色い声が聞こえてきた。
その画面は……相沢瑞葵が忍さんの手を引っ張って、無理矢理に胸を触らせようとする衝撃的な映像だった。
『アホか。お前が勝手に触らせようとしたんだろうが』
『先輩。そういうのをセクハラって言うんですよ』
『この場合は逆セクハラと言うんじゃないのかな? かな?』
『世の中はそう甘くないですね。私が大声で悲鳴を挙げて、この人は強姦魔ですと指を差して言うので。
2週間又は裁判が終わるまで牢屋の中に入りたいなら胸元から手を離してください』
『ぐぐぐっ、卑怯な』
『えへへ。サービス!! サービス!!』
 何がサービスですか!!
 この世で最も穢れている肉の脂肪を嫌そうな顔で揉んでいる忍さんの身を考えてください。
あんな偽乳に触るぐらいなら、わ、私の胸とか揉んだ方がいいですよ。
 愛しい人が自分の胸を揉んでいる所を想像するだけで鼻血が溢れてきた。な、なんか。拭くもの。ちょうだい。
 と、鼻血の一滴がゆっくりと床に零れ落ちる時に泥棒猫は真剣な表情を浮かべて言った。


365 名前:お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2009/06/14(日) 23:07:05 ID:/npj33Lj
『先輩。これから毎日、先輩の夕食を作りに行っていいですか? いいですよね?』
『ちょっと待て。どうして、相沢さんが俺の夕食を作りに来るんだよ』
『それは恩返しというか、最近私は変なストーカーとかに付けられているかもしんないです』
『ストーカーだって!?』
 ストーカーという単語に驚く忍さんを傍目に泥棒猫は更に嘘を吐き続けていた。
『クソ店長の魔の手から守ってくれた日から視線を感じるんです。
誰かに見られているような感覚がして本当に気持ち悪い』
『ストーカーに狙われているなら仕方ないな。どうすればいい?』
『もし、私がストーカーに狙われているとするならば、その男に私が先輩という愛しのダーリンがいることを見せ付けてやる必要があります』
『それって、逆効果じゃないの?』
『襲ってくる可能性も否定できませんが。まず、襲われるのは憎き恋敵である先輩から狙うと思うので。
私のために頑張ってください。命懸けてください!!』

『そんなことに命懸けたくないってのが本音だけど。可愛い後輩のために一肌を脱ぐ必要はあるな』
『さすがは私が愛する先輩。話がよくわかる♪』

 嘘のような話を簡単に纏めてしまった経緯を私は呆然とモニターから見ていた。
泥棒猫がストーカーされている話は恐らく嘘ですね。

忍さんと二人きりになるための口実。ありもしないストーカーという敵に狙われて、団結する二人はいずれ親密度が急上昇。
ある程度の緊張感を共有した事により、恋愛感情に発展するのはよくある事です。

 それを狙っているのか。泥棒猫。

 でも、一時的な緊張状態による興奮が理由での恋愛では、継続的な恋愛には発展していきませんよ。
しかし、その欠点を把握して、それでも勝利する自信があるならば、私も積極的にアプローチを仕掛ける必要があります。

 で、忍さん。

 いつまで、泥棒猫の嘘乳を触っているんですかっっっ!!
 バカバカバカバカバカぁっっっ!!!!!!!

366 名前:お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2009/06/14(日) 23:09:35 ID:/npj33Lj
 昨夜の相沢さんがストーカーに狙われているかもしれないという衝撃的な事実を聞いたおかげで今晩はあんまり眠れずに過ごした。
すでにバイト先に出勤する時間になっているが、頭の回転は重くて鈍い。
人間はある程度の睡眠を取らないと真面目に生活ができないと実感して、

俺は苦いブラックコーヒーを入れようかなと思っている時だった。
 朝からドアを叩き壊そうな音を響かせて叩いている。
 呼び鈴を鳴らせばいいのにと、俺は少しだけ不機嫌に来訪者を応対を決意したが。
ドアを開けた瞬間に自分の顔色から急速に血の気が失せていくのが分かる。
 来訪者は彩さんだった。

 顔は笑っているのに、目が全く笑っていない状態で彼女はその場に立っていた。
不気味を通り越して、俺は恐怖していた。怒っていることは確かなのに全然その原因が思い当たらない。
 ともあれ、俺は恐る恐ると彩さんに朝の挨拶で様子を見ていることにした。

「おはよう。桜井さん。どうしたの?」
「特に用はないのですが。周防さん。女の子の胸って、大きい方が好みですか? 
それとも、小さい方が好みなんでしょうか?」

「はい?」
「男の人の永遠の命題ですよね?」

 質問の意味がよくわからん。
 だが、俺は昨日のことを思い出してしまうと相沢さんの柔らかな感触と確かな弾力に

心を奪われていたことと何だか無関係ではないような気がする。
 ここはおっぱいが好きだ!! と大声で叫べば、今日から彩さんに警戒されるのは、
普段から彼女を作ってきてくれた料理を心の癒しとしている俺にしては大打撃を受けることになる。
 ならば。
 慎重な答えを選ばなくてはいけない。差し入れは貴重な栄養源よ。

「女性の魅力は胸じゃない!!」
「胸じゃなかったら何ですか?」
「女性にとって必要なのは『愛』だ!!」
「愛がどういう風に必要なんですか」
「最近では女性による監禁事件が増加している。監禁されている男性はヤンデレ症候群で病んでしまった
女性に監禁することを不幸のどん底だと思っているが。
 それは違うんだ!!」



367 名前:お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2009/06/14(日) 23:10:12 ID:/npj33Lj
 演劇の芝居のような口調で俺は彩さんの怒りを静めるための適当な言葉を並べてみた。
本当に社会問題になっている女性が男性を監禁する事件なんてどうでもいいけど。
「女性が男性を監禁すること自体が愛なんだよ。好きな人といつも一緒に居たい、
自分だけを見ていて欲しいから独占する。それはまさしく愛だ。女性の真摯な想いこそが大切なんだと思う」
「じゃあ、もしものことなんですけど。もし、私が周防さんを監禁したらどうですか」
「喜んで、その監禁を受け入れよう」
「ぜ、絶対にですよ。絶対に受け入れてくださいね。約束ですよ。指を切ったら、針万本飲ましますよ」
「針は飲まないけど、約束する」
 そんな些細なことで彩さんの機嫌が良くなってくれるならなんでもします。
主にバランスが整った栄養ある食生活ためにな。

「うふふふ。周防さんが約束してくれた。嬉しいな。もうっ」
「まあ、そんな監禁されるなんて天変地異が起きたとしても、ありえないけどな」
「わかりませんよ。周防さんのことが大好きで大好きで大好きで、
監禁して独り占めにしたい女の子がすぐ傍にいるかもしれませんよ」
「それが本当だったら。どれだけ嬉しいことやら」
「そ、 こ を ったら、 期待 し、 ますよ」
「ん? 何か言った?」
「何でもありませんよ。じゃあ、お仕事頑張ってきてくださいね」
「ああ」
 彩さんは蔓延なる笑顔を浮かべて、嬉しそうに自分のアパートに戻っていた。

 ふぅ、何とかやり過ごしたか。
 女の子って、疲れる
最終更新:2009年06月18日 13:09