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661 :胡蝶病夢 第二話『彼の夢』  ◆YOLz5qIxQc [sage] :2009/07/08(水) 23:18:11 ID:cNKewfV6

「ふあぁぁ……あれ?」
目が覚めたら身体が縮んでいたーーなんてことは無く。
「昼休み……?」
黒板の上に掛かっている時計を見ると、針は一時を指していた。ついでに辺りを見渡す。
食堂にでも行ったのだろう、教室に居る生徒の数はまばらだった。
「にしても……どんだけ寝てたんだ俺」
朝学校に来てからの記憶がまんまり無い。というか全然無い。全く無い。
学校に来る時の記憶さえ危うい。どうやって来たかあやふやだ。
「……もしや俺は寝たまま学校に来るという偉業を成し遂げたのでは?」
「んなわけあるかアホ」
しまった、口に出ていたか。そして俺をアホって言ったのは誰だ。
「……なんだ、ヒィか」
声のした方に振り向くと、袋に大量のパンを詰めたヒィが立っていた。
「なんだとはなんだ、爆睡中の親友の為にパンを買ってきておいてやったというのに」
そう言うとヒィは隣の席に腰を降ろし、袋の中身を漁り始めた。
こいつの名前は時谷 彼方。中学の頃からの付き合いで、俺の親友。
ちなみにヒィとはこいつのあだ名。「彼」方だから「He」でヒィなんだそうだ。
自称天才イケメンで金持ち。前者は半分嘘だが後者は真実。
カッコいいより綺麗と言ったほうが正しいであろう、中性的な顔立ちをしている。
「うーん……なぁ、俺どんだけ寝てたんだ?」
いくら頑張っても思い出せない為、絶賛パン捜索祭り開催中のヒィに訪ねる。
「ん? 確か学校来てすぐ俺に一言だけ言ってから今までずっと寝てたな」
一言だけ言った? 何か言ったっけか俺?
「なにか言ってたのか?」
ヒィは口元に手をあて、ふむふむと考えるポーズになる。そして
「ああ、言ってたぞ。確か……『今から俺は寝るから、うなされてたら起こしてくれ』とか」
「本当にそんなこと言ってたのか?」
「ああ、たぶん間違っていないはずだ」
今度は俺が考え込む番だった。
そんなことを言った記憶が全く無い、学校に来るときの記憶も無い。
俺の知らない俺? ……もしや
「俺は二重人格だったとか?」
「いきなり何言ってんだ馬鹿」
俺の出した結論は、未だに袋を漁っているヒィの言葉に一撃で沈められた。
「ほら、カレーと焼そばとあんぱん、これでいいんだろ?」
ヒィが袋からパンを三つ差し出してくる。さすが親友、俺の好きなパンをしっかり覚えている。
「サンキュ、んじゃ食おうぜ」
「ちょっと待った。今日は別のとこで食うぞ」
パンを受け取り、早速食べようとする俺をヒィが止める。
「ちょっと前に、もっと静かで広い場所で食いたいって言ってただろ?」
「そういえばそんなようなことを言った記憶が……」


662 :胡蝶病夢 第二話  ◆YOLz5qIxQc :2009/07/08(水) 23:21:03 ID:cNKewfV6
「というわけで、屋上に行こう」
そう言ってヒィはポケットから銀色の鍵を取り出した。
「………」
俺が言いたいことが分かったらしい。ヒィはニヤッと笑うと
「職員室にお呼ばれになったときにちょっとくすねてスペア作っておいた」
「それってバレたら不味くないか?」
「大丈夫だって。あそこには誰も近寄らないから」
「どうしてそう言い切れるのかね……」
「それに……」
「それに?」
「屋上にはロマンがあるじゃないか!」
「は?」
「ほら、早く行くぞ!」
「あ、おい! ちょっと待て! ……ったく」
言うなりパン袋を抱えて教室を飛び出ていったヒィ。
「んじゃまあ、俺も行きますか」
この出来事が、俺の運命を変えることになるとも知らずに……
「……なんつって」
思えば、これは冗談ではなく、神の啓示だったのだろう。
屋上へ向けて、一歩を踏み出す。
この時から、俺の運命は狂い始めていた。


「ところで、ロマンって何だ?」
屋上のドアの前で四苦八苦していたヒィに訪ねる。
鍵が新品だからか、なかなかうまく回らなかったようだ。
「そりゃお前、屋上と言ったら告白イベントって相場で決まってんだろ」
「はぁ……」
「案外、ここ開けたら誰か告白してたりしてな」
「ないない」
カチャリと音がして鍵が回る。
「うっし、それではご開帳~」
ドアが開き、ヒィが外に出……ようとして止まった。
「どうした? 本当に告白してる奴でもいたか?」
鳩が眉間に豆鉄砲をブチ込まれたような顔をしているぞ、ヒィ。


663 :胡蝶病夢 第二話  ◆YOLz5qIxQc :2009/07/08(水) 23:23:20 ID:cNKewfV6
「……人、いたよ」
「え、マジか?」
ヒィの横から外を覗く。そこには……人がいた。
広い屋上の奥のさらに奥、フェンスの外側に、彼女はいた。
「………」
「………」
沈黙。ヒィも俺も言葉が出なかった。
俺もヒィも動かない。彼女も微動だにしない。
唯一動いていたのは、風にたなびく彼女の長く、雪のように白い髪だけだった。
「……なあ」
先に沈黙を破ったのはヒィのほうだった。
「……これってさ……止めたほうがいいんじゃないか?」
「……ああ」
頭の中で 屋上+フェンスの向こう=飛び降り の式が成り立つ。
あまり刺激を与えないように説得を……
「もしもし、そこのお嬢さん!」
「やりやがった」
彼女がゆっくりと振り向く。
「実は大事なお話がありましてですね!」
「……?」
彼女は首をかしげる。
「えーと……貴方が好きです! 俺と付き合ってください!」
「………」
「……ってこいつが」
「おいちょっと待て」
なんか大変なこと口走ったぞコイツ。見ろよなんかすっごい驚いてるぞ彼女。
「何言ってんだオマエは」
「いや……反応が無かったからつい……」
「そういう問題じゃないだろ」
「ロマンがあったんだよ!」
「だからってお前は……ってうお!」
いつの間にか彼女が隣に立っていた。
「な、なにか……?」
何故か満面の笑顔を向けてくる彼女に恐る恐る話しかける。
「……ずっと待ってた」
「え?」
「貴方を、ずっと」

そういって彼女は、俺の顔に

自分の顔を近づけ

キスを

した。


そこで目が覚めた。