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672 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第一話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/09(木) 22:10:26 ID:sYEvhO7c
第一話『非情な王と、不幸な王子』

今から大体千年前、この世界は魔王の支配する暗黒の世界でした。
人々は、魔王の脅威に晒され、眠れぬ日々を過ごしていました。
そんなある日、一人の青年シグルドが、天の声を聞き、魔王を討つべく旅立ちました。
シグルドと仲間達は、幾万もの艱難辛苦を共にし、
ついに魔王を封印することに成功しました。
シグルドは人々に推されて王となり、さらに、自分に従った仲間達を各地に封建し、
魔王の復活に備えました。
それから千年の間、人々は平穏に暮らしていました。


しかし、その平穏は突如として破られた。
魔王が復活したのだ。
復活を告げるような大地震の後、魔王を封印した北の大地から、
無数の強力な魔物が溢れ出てきた。
一夜にして北の大陸は魔物に溢れ、人々は皆食い殺されてしまった。
この悲報は、ファーヴニル国にも伝えられた。
ファーヴニルは、シグルドを祖に持つ由緒ある王国であり、世界の要であった。
すぐに重臣達が集められる……かと思ったが、その報告を聞いた王は、
一人の王子を呼び出した。
名前はシグナム。ファーヴニル国の王太子である。
呼び出されたシグナムは、王から魔王の討伐を命じられた。
シグナムは畏まって了承した。
「早速、そこの宝箱を開けるのじゃ」
シグナムの後ろには、いつの間に二つの宝箱が置かれていた。
いつの間に、とシグナムは思ったが、野暮なことは聞かず、宝箱を開けた。
中に入っていたのは、
ひのきの棒
20G
だけだった。
「恐れ入りますが…、これ……だけ……ですか……?」
シグナムの王を見る目が冷たい。
「そうじゃ、我が国は今財政赤字で転覆寸前なのじゃ。
ゆえに、出せるものはそれしかない」
「軍隊は…」
「軍備にどれほど金が掛かると思っているのじゃ、馬鹿者が!
下らんこと話す暇があったらとっとと魔王をぶっ殺してこんか!」
王が凄まじい剣幕で怒鳴り、シグナムはあれよあれよという間に、
魔物溢れる城の外に、なんの装備もなしで叩き出された。
こうして、勇者シグナムの(愛-友情)×絶望の冒険が始まった!



673 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第一話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/09(木) 22:11:14 ID:sYEvhO7c
「あぁんんんのクソ親父ぃいいいい!」
シグナムはスライムに追われていた。右手には溶けたひのきの棒が握られている。
「どこの誰だよ!スライムは世界最弱の魔物だって言ったのはぁあああ!」
叫んでる間にも、スライムが溶解液をぶちまけてきた。
「くっそぉおおお!覚えてやがれ!次はこうはいかねぇからなぁあああ!」
捨て台詞を叫びながら、シグナムはなんとか町に逃げ込んだ。
町に逃げ込めば、魔物は町に入り込めない。なぜだかは知らないが。
とりあえず、身体を休めようと思い、シグナムは宿に向かった。
宿泊料は5Gだった。
まさか、全財産の四分の一を使ってしまうとは、シグナムは思わなかった。
シグナムは、ポケットに手を突っ込んだ。
血の気が引いた。手応えがない。
さっきスライムに襲われた時、落としてしまったのだ。
なんという不幸、シグナムはそう思った。
そんなシグナムの表情の変化を、亭主は目敏く見て取り、
見下す様な冷たい目付きになった。
金がないなら出て行け。商売の邪魔だ。目が雄弁にそう物語っている。
しかし、シグナムはこの日は機嫌が悪かった。
裸も同然で魔物溢れる野に叩き出され、全財産を失い、
止めが野宿では王族の沽券に関わる。
シグナムは目付きを鋭くし、王家の紋章を亭主に見せつけながら、
「我はファーヴニル国の王太子、シグナムである!
本日よりこの宿を、魔王討伐軍の本陣とする!これは王の勅命である!
勅命に逆らうものは、一族縁者だけでなく、
友人知人にも厳罰が下されるということを心得よ!」
と、言った。実際、嘘ではないので、
シグナムはスラスラと言い淀む事無く言葉を紡ぐことが出来た。
亭主はこの威に圧されて、シグナムを部屋に案内した。



674 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第一話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/09(木) 22:11:55 ID:sYEvhO7c
部屋に案内されたシグナムは、ベッドに腰を下ろした。
王宮のベッドとは違い、硬く、黄ばんだ、安物のベッド。
王太子たる者が使うものではない。
シグナムは憎憎しげに、シーツを握り締めた。
魔王討伐に対する餞別の少なさといい、あの煙たがる態度といい、
まるで、自分がこの戦いで死ぬことを望んでいるようである。
ふつふつと、父に対して怒りが湧いてくる。
湧き出した怒りは、しばらくシグナムの頭を沸かした。
だが、シグナムの頭は熱していながら、どこか冷静に考えていた。
父は自分のことを廃嫡したいのではないか、ということである。
それは実際にありえた。
父は晩年に娶った後妻との間に出来た子を大層かわいがっていた。
その後妻が父の耳元で、
自分の子を王位に就けたいとそそのかしたと考えても、想像するに難くない。
つまり、これは体のいい厄介払いである。
既に、シグナムの怒りは収まっていた。頭の芯が冷たい。
「ふざけやがって……」
この様な形で政争に巻き込まれるとは思わなかった。
魔王もめんどくさい時に復活したものである。
「もしも俺が戦っている時に即位してみろ。
周辺諸国の兵を糾合して、攻め落として、皆殺しにしてやる…」
そう呟いた時、シグナムはファーヴニル王太子から、半ば叛乱者に成り代わった。