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737 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第二話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/14(火) 22:39:09 ID:/3ki8zyy
第二話『新しい力』

翌日、シグナムは図書館にいた。
叛乱者宣言はしたものの、シグナムの立場は非常に危うかった。
なにせ、ほとんど裸一貫で放り出されたのだから、
魔物と戦うにしても、王軍と戦うにしても、一方的に不利なのである。
こういう時こそ、情報がものを言う。
シグナムが読んでいたのは、『ファーヴニル国風土記』である。
この本には、この大陸の魔物のことが記されている。
シグナムは、まず前回戦ったスライムのページを見てみた。

『スライム
ファーヴニル国にもっとも多く生息するポピュラーな魔物。
その柔軟な身体は、全ての打撃攻撃を無効にする。
さらに、吐き出す溶解液は、鋼鉄をも溶かす威力がある』

「……な…なぁんだ。あの時は武器の相性が悪かっただけか。
当然だよな。世界最弱の魔物に、このシグナムが負けるはずがないもんな」
シグナムは笑いながら次のページをめくった。
それを見て、次のページをめくった。
めくって、めくって、めくって…、……めくって……、
ゴブリンのページまで読んだシグナムは、本を元の所に戻し、宿に帰った。
そして、ベッドに突っ伏した。
「無理っ!」
ページをめくればめくるほど、シグナムは自分が絶望の淵に追いやられていくことを、
自覚せざるを得なくなった。
シグナムの手に負えないほど、魔物達は強力だった。
ましてや、なんの装備もしていない自分が戦っても、
それは蟻が象に立ち向かうかのごとき無謀であった。
「せめて、剣さえあれば…」
そう願っても、それを買う金がない。
銅の剣、皮の鎧、皮の兜、皮の盾
これら全てを買うのに、585G掛かる。
銅の剣単品で270Gである。
王宮にいた時は子供の小遣いぐらいと考えていたのに、今となっては大金である。
唯一の稼ぐ手段である魔物狩りも出来ないのであれば、完全なる八方塞がりである。
「今日は…、もう、いいや…」
このまま眠ってやろう。シグナムはそう思い、目を瞑った。



738 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第二話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/14(火) 22:39:44 ID:/3ki8zyy
シグナムが三日ほどふて寝していた間にも、各国は活発に動いていた。
どうやら、八ヶ国が連合して、魔王を討伐するらしい。
八ヶ国中、四ヶ国はシグナムの祖先のシグルドに従った仲間達を祖に持つ国である。
その情報は、各国を旅する行商人達によって伝えられた。
総勢二百万の大軍で、それを指揮するのは八ヶ国を代表する名将、猛将、名軍師。
人々はこの報せを受け、沸き立った。
きっと大いに魔王軍を蹴散らし、魔王の首を挙げるだろう。
そしてこのことは、偉大なる大詩人が歌にして、
後世まで延々と語り継がれるだろう。
皆そう思っていた。ふて寝していたシグナムだってそう思っていた。
しかし実際には、その様な華やかで光り輝く栄光は、誰の手にも渡らなかった。
一月ほど経った頃、行商人の集団が息を切らして駆け込んできた。
八ヶ国連合軍が、全滅した。
行商人達が伝えたのは、栄光とは掛け離れた凶報だった。
さらに一月経って、違う行商人達が駆け込んできた。
八ヶ国連合軍を催した国も、その軍を援助していた周辺諸国も、
次々と魔王軍によって攻め滅ぼされ、焼け野原にされてしまった。
行商人達は歯の根が合わぬ口でその情報を伝えた。
立て続けに入る凶報は、国中の人々に大いなる絶望を植え付けた。
残る大国は、ファーヴニル国のみとなった。
八ヶ国連合軍に参加も援助もしていないファーヴニル国は、
いまだに無傷で、五十万の軍隊を抱えている。
しかし、それでなにができるのか。
二百万の精兵と、それを名将、猛将、名軍師で固めた軍勢が、
あっという間に全滅したのである。
それを思うと、五十万の兵力など、焼け石に水である。
むしろ、魔王軍の報復攻撃を受けて滅ぼされてしまうだろう。
世の中は、再び千年前の暗黒時代に戻ろうとしていた。
それでもシグナムは動かなかった。
周辺からはシグナムを怪しむ者も出始めたが、それをも無視して宿に籠もっていた。
明日起きたらあの世にいた。
そうなればいいな、という諦観が、シグナムの心を支配していた。
だが、明日もいつもと同じ朝が来るだろう。
喪失とした気持ちを抱えながら、シグナムは目を閉じた。



739 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第二話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/14(火) 22:41:13 ID:/3ki8zyy
シグナムは、深い闇の中にいた。
それが夢であることを、シグナムは理解していた。
いい夢だな、と思った。
あの世とは、こういうものだろう。
なにも聞こえず、なにも感じず、自分が存在するのかもあやふやな世界。
そんな優しい闇の中に、シグナムはいる。
このまま、夢でもいいから、この闇の中に溶け込みたい。
夢から醒めたら、目を覆いたくなる様な現実に直面しなければならない。
魔王討伐、王位継承、宿代の催促…、考えるだけで吐き気がする。
現に、今にも自分はこの夢の世界から去ろうとしている。
遠くから声が聞こえ、闇の一点に光が灯っている。
その光が少しずつ大きくなっていく。声も大きくなっていく。
シグナムは身を縮め、耳を塞いだ。
これからやってくる非情な現実に備えたのだ。

「…いい加減に返事ぐらいしやがれ!この…、へたれ勇者がぁー!」
怒鳴り声と共に、シグナムの腹部に鋭い蹴りが入った。
「うごっおあぅ!?」
身体が浮き上がった。夢なのに、滅茶苦茶痛い。
「まったく、さっきから散々声を掛けているのに、
ことごとく無視しやがって、私のことを馬鹿にしているのか!」
シグナムが顔を上げると、そこには誰かいた。
黒いマントを羽織り、顔面から光を発する謎の人物。
完全なる変人である。
「あんた…、誰…?」
「私か?私は導く者だ」
男とも、女とも取れない声が返ってきた。
「導く…者…?」
シグナムは疑いの目を向けた。顔面から光を発する変人が、
そんな大それた人物のはずがない。
「その目は私を疑う目だな。いいだろう、ではそのお前の疑惑を解いてやろう。
お前の名前は、シグナム・ファーヴニル。ファーヴニル国の王太子だ。
しかし、今はお前の腹違いの弟のレギン・ファーヴニルに、
王位継承権を奪われそうになっており、立場は非常に微妙だ。
これで足りないなら、お前の性格、性癖についても言ってやろう。
お前は基本的に負けず嫌いだが、打たれ弱くて、
どうしようもない事態に直面するといじけてしまうへたれだ。
次に性癖についてだが、お前の生前の母は、随分と胸が大きかったみたいだな。
毎日の様に母のおっぱいに吸い付いて、13歳ぐらいまでそれを止めなかった、
筋金入りの巨乳フェチだ!これでも足りなければ…」
「わぁあああ!!!わ…分かった!信じる!信じるよ!信じるから!
だから…、もう止めてくれぇえええ!」
あわてて、導く者(仮)の口を封じた。自分の性癖を他人に言われる恥ずかしさ。
経験したくもないことを経験してしまった。



740 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第二話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/14(火) 22:41:59 ID:/3ki8zyy
「…で…、導く者のあんたが、いったいなんの用なんだ?
言っとくが、俺の現状は最悪だぞ。金も武器も仲間もいないんだからな」
「そんなことは百も承知だ。私がお前のところに来た目的は、
お前に眠る潜在能力を引き出してやることだ」
びしりっ、と導く者(仮)が指差した。
「潜在…能力…?」
「そう、私の言うことに従えば、
お前は超人的ななにかを手に入れることが出来る。
さあ、こう話している時間も惜しい。早速始めるぞ」
導く者(仮)が急かす様に言った。
疑っていても仕方がない。シグナムは従うことにした。
「まずは右手を頭の後ろに回し、左の耳たぶを掴め。
…掴んだな。そしたら次に、口を開けて、身体を揺らすのだ」
なんとも馬鹿らしい指示だが、シグナムは従った。
「もっと口を大きく開けろ」
導く者(仮)がそう言った。シグナムは顎が外れんばかりに口を開けた。
「そして、なにか一言」
「こっ…」
「よし、分かった」
こんなんで、本当に分かるのか。
シグナムの目は、そう導く者(仮)に語り掛けていた。
「お前の潜在能力は、灰だ」
「はい?」
「そう、灰だ。紙とか燃やした後に出る、あれだ。
他には、DUSTという言い方もあるが…」
なにやら変な講義が始まってしまったが、
シグナムにはまったく理解できない。
「なぁ、その灰で、どうやって魔物と戦うんだ?魔物に灰でもぶちまけるのか?
それで魔物が殺せるのか?」
「それはお前の勝手だ」
急に突き放される様に言われた。無責任もいい所である。
「もうそろそろ時間だ。私は帰る。
ちなみに、能力の行使の仕方は、右手にその力をイメージするだけだ。
それじゃ、GOOD LUCK~」
導く者(仮)が、手を振りながら遠退いていった。
シグナムは追いかけようとしたが、その瞬間、光に包まれた。シグナムは目を瞑った。



741 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第二話 ◆AW8HpW0FVA [sage] :2009/07/14(火) 22:42:32 ID:/3ki8zyy
目を開けて、最初に見た景色は、見慣れた部屋の天井だった。
「夢…か…」
夢なのに、頭に焼き付く様な強烈な夢だった。
灰の能力
夢の中で、導く者(仮)はそう言っていた。
能力の行使の仕方も覚えている。右手にその力をイメージする。
たったそれだけだ。
「馬鹿馬鹿しい…」
そうは言ってみたが、なんとなく試してみたくなるのが人の性。
シグナムは、掌を構えた。
「これでなにも起こらなかったら、俺はただの馬鹿だな…」
そんなことを考えつつ、シグナムは目を瞑り、右手に灰が渦巻く感じをイメージした。
しばらくそれを続けたが、これといって、身体からなにかが溢れ出る感覚はない。
ただ、先程からやたらと風が耳元を掠める音しか感じなかった。
やっぱり夢か、とシグナムは思い、目を開けた。
これといって、変わりはなかった。
ただ、シグナムの右手に、小さな灰の竜巻が出来ていること以外は。
シグナムは一瞬唖然とした。
左手で頬を抓ってみたが、やっぱり痛かった。つまりは、
「これは…、現実…!」
シグナムは大声を上げた。
あの導く者(仮)の…、いや、もう(仮)を付けるのは止めよう。
あの導く者の言ったことは本当だったのだ。
しかし、すぐにシグナムは落胆してしまった。
「灰で、どうやって魔物と戦えっていうんだ」
灰で魔物を殺せるなら、自分はとっくの昔に素手で魔物を殺している。
シグナムは自棄になって、右手に渦巻いている灰の竜巻を壁にぶちまけた。
灰は壁にぶつかって、床に積もるだろうと思った。
しかし、灰は壁に突き刺さり、その一面だけがハリネズミの様になった。
シグナムは再び唖然とした。そして、
「この能力…、使える…」
シグナムは自分が笑っていることに気付いた。