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751 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/15(水) 14:40:37 ID:VyuOs4KE

今日も最後の授業が終わろうとしている。
周りの生徒は皆必死で授業の内容をノートに写している。そういやテストが近いんだ。
授業の内容なんて、とうの昔、高校に上がってから頭に入れることを止めている。あれから三年、大して変わってないな。
一度でも考えるのを止めてしまえば、立て続けに覚えなければならない方程式や英単語に付いていけなくなるのは当然の事だ。

じゃあなにを考えているのかというと、同じクラスの『遠藤さん』の事だ。遠藤さんはとても優しくて頭がよくて、綺麗な人だ。学力はトップクラスで本人曰く苦手な教科は日本史、だと言うけど92点という点数を俺のような馬鹿に見せつけられると、どうもそうは思えない。
そんな完璧超人の遠藤さんは、時々放課後の教室で俺に勉強を教えてくれたりする。
ぶっちゃけ勉強には興味ない。ただ遠藤さんという天使と仲良く一緒にいたいというだけだ。ちなみに容姿は、お目目はぱっちりでいつもニコニコ、髪の毛は鎖骨よりやや下までの黒のセミロングといった感じだ。

そして……考えている事はそれだけじゃない。

今日は呼ばれているのだ。
今日は遠藤さんではなく、いやらしい汚いおっさんに。


752 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/15(水) 14:45:25 ID:VyuOs4KE

授業が終わった。俺は通学用の自転車で家には帰らず『あいつ』の元へペダルを漕いだ。楽しみでも憂鬱でもない。ただやらなければならない、俺の存在意義はそこにしか存在しないとしか思わない。
……『あいつ』にまた嫌味を吐かれるという事に対しては憂鬱ではあるか。


そういえば放課後遠藤さんに声をかけられた。
「………川上君」
「何」
俺は鞄を片手で背中に回したまま、目を合わさず言った。いつも態度を冷たくしてしまう。急に話しかけられるとついつい余裕を無くしてしまうタチなんだ。
「そ、そろそろテストだから、一緒に勉強しない……?」
「無理」
「そ……………そっか……。」
直接見てはいないが消え入りそうな声から察するに彼女はいかにも落ち込みましたと主張するように肩を下げ、俯いているのだろう。
ごめんよ、今日は許してくれ。

今日の事を振り返りつつ自転車を漕いでいると、見慣れた道に差し掛かった。騒がしい国道からはやや隔絶されたような、時が止まっているように静かだ。
右はこじんまりとしたやや年季のかかったマンションがぽつんぽつんと休み休みに立っており、そういう建物の隙間から田んぼが覗いている。
左には木や草が生い茂っており林になっている。その向こうは川だ。
俺の走っている道はもうアスファルトが剥がれ、ところどころに生えている。
もう田舎丸出しだ。

しばらくて『あいつ』がいるであろう自称『事務所』にたどり着いた。二階建てで茶色い煉瓦とコンクリートでできている。コンクリートはヒビが入っておりそこから草が生えている。
一階と二階の狭間の煉瓦の仕切りに『はな る靴屋』というボロボロの看板を頼りなく掲げている。
ちなみに、ここは靴屋じゃない。念のため。




753 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/15(水) 14:50:42 ID:VyuOs4KE


俺は適当にその廃屋の前に自転車を停めた。
そして、階段へ上りそのまま二階へ上がった。廃屋なのに埃はかぶってはいない。もちろんそうだろう、何故なら以前俺は『あいつ』にここを掃除させられたのだから。
『あいつ』は部屋の奥に外装とは合わない黒の高級感のあるソファーに深く座っていて、煙草を口角にくわえている。
顔は長く、短髪で、もみ上げまで届く髭を蓄えている。おまけに高身長なので『演劇やってます』と嘘をついても違和感はないほどの貫禄がある。
今日はこれまた外装とはあわない光沢のあるスーツで中のシャツを着崩している。
俺を見るなり中年の嫌味な笑顔で迎えてくれた。きもちわりぃ。
「島田さん。」
「おぉ、リュウちゃん。待ってたんだぞ。」
「リュウちゃんって呼ぶな。」
「おぉ悪いな。ところでリュウちゃん。」
「………。」
嫌味なおっさんだ。俺は一先ず向かい側のソファーへ座ることにする。
「事件だ。」
島田さんの表情と声質はシリアスになった。
「だろうな。」
あいつはくわえている煙草を無数の煙草の残骸が捨ててある灰皿へ捨てた。
「ふーっ。今回は高校生ほどの少女による事件だ。目撃情報によると自動販売機や自動車、建物の破壊をしているようだ。今日も実際に自動販売機をとてつもないパンチで壊した現場を見たって人がいる。」
「……『使える』やつか。」
「だろうな。」
「にしても何のためにそんな事してんだよ。」
「高校生ぐらいの子がやる事にしっかりした理由なんざねえだろ。人を殺さなかっただけましと思え。」
……核心に迫るような声質で俺の目をじっと見つめて言った。俺にも言ってんのか?余計なお世話だ。
「……で、島田さんは今日も手伝ってくれないと。」
「当たり前だろ、めんどくさいんだもん。」
さっきまでのシリアスな顔は一変、眉毛を上げあっけらかんとした表情で当たり前のように言う。………やれやれ。
「その代わり、今日はあの子を連れていくといい。おーい」
島田さんの呼び掛けから数秒後、隣の部屋へ通じるドアがガチャ、と開き、見覚えのある少女が出てきた。




754 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/15(水) 14:54:12 ID:VyuOs4KE

「こんにちは、川上さん。今日はよろしくお願いします。」
「よろしく。」
彼女は外国人の少女で名前はエリー。外国人……とは言っても、容姿でそう判断しているだけで『俺は』どこの国の子かはわからない。島田さんは彼女についていろいろ知っているようだが俺には教えない。俺も無神経ではない。聞かないようにしている。
彼女は『使える』という理由で誘拐、もとい島田さんに拾われてここで住んでいる。
歳は……13歳ってとこか。俺よりもずっと小さい。顔立ちは本当に無垢な少女だ。サラサラ金髪のロングヘアーだ。
ただ、顔立ちは綺麗だが彼女は感情があるのかわからない。
目は見開いており、瞳孔は開いている。笑ったり泣いたりしているところを見たことがない。ただ言うことを忠実に聞くロボットのようだ。

「いいか、以前こことここで事件が起こったという事は、こことこことここで事件が起こる確率が高い。そして恐らくこの近くに住んでいるんだろう。」
島田さんは机に置いてある町内の地図に指差している。その度トントンと音がする。
「つまりこの当たりを張り込めと。」
「そういうこと。」
「はぁー。」
めんどくさい事になりそうだ。俺は深いため息をし、ガクッと俯いた。だが、俺みたいな偏差値がサル並の男が人の役に立てるなら、やるしかない。
「じゃあ気を付けてね。」
「はいはい。」
俺は机にある地図を手に取れば立ち上がり、エリーに目を合わせた。
「行こうか。」
「はい。」
俺は外へ向かおうとしたとき、島田さんが声をかけた。
「そうそうリュウちゃん。」
「……何。」
「髪の毛プリンになってるよ。」
「………あんたが給料あげてくれたら美容院だっていくさ。」
目を合わせないまま会話した。おっさんはフッと笑った。