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第四話


 家に帰ると何故か、というかやはりというか。うちには明りがついていた。
 溜息混じりに玄関を開けるといつもの6畳一間の部屋が目に入り、いつものじゃない物が見える。

「お帰り、楊。」

 にっこりと笑いながらちゃぶ台の前で笑っている椎名が、いつものように居る。
 腕時計を見れば10時5分。高校生が外で遊んでいていい時間ではない。
 そしてちゃぶ台の上には1人分の夕食が乗っている。なんなんだアンタは。

「ただいま。」

 とりあえず椎名に対面するように座り、目の前の夕飯に目を下ろす。
 たぶんよそったばかりであろう白米。ほかほかのモヤシの味噌汁。そして焦げた肉じゃが。
 ……ああ、昼言ってたのをわざわざ作ってくれたのか。なんともまあ、よくわからないことをする。

「……いただきます。」

「はい、どうぞ。」

 もきゅもきゅと口に詰めていく。これを朝飯に回したいと思うのだが椎名はそこらへん全く気を回してくれない。
 いや、ここで残さず食べる俺の柔軟性のなさの方が問題なのかもしれない。

「椎名。」

「なに?」

 にこにこと笑いながら首を傾げる椎名に何と告げたらいいかを数秒考え、敢えて正直に言うことにした。

「これ残して朝食に回したいんだが。」

「なら明日は朝も作りに来るの!」

 ……それはいい迷惑なのだが。朝も5時から人と顔を突き合わせるのは消化に悪い。

「それには及ばん。」

「大丈夫!早起きするの!」

 大体俺は5時に起きるのだから飯を用意するなら4時半からだろうか。無理だろ、それは。

「俺は、お前に無理してほしくない。」

「……え?」

 急に顔が赤くなる椎名。俺は変なことを言っただろうか。
 それはともかくとして。

「勝手に俺の部屋に入るのはやめろと言っただろう。」

「じゃないとお夕飯作れないの。」

 だから作らなくていいんだって言いたいのだがそのまま言ったら傷つけかねない。
 マイルドにオブラートに包んで伝えなければいけない
 そもそもお節介が過ぎるのだ。俺に作るよりも好きな男にでも作ってあげなさい。

「そもそも俺にも見られたくないものがある。」

「……ぽっ。」

 なぜ頬を染めるのかわからんが、椎名はくねくねと気持ち悪い動きをしながら何かをつぶやき始めた。

「処理なら……が……はじめて……後の穴……いやん。」

「聞いてるか?」

 うふふふと笑いながら不思議な踊りを踊り続ける女子高生。なんともマニアックな人向けな光景だ。
 椎名はそのまま手に持った布で口元を隠しながらさらにトリップを深めていく。
 よく見ればそれは今朝俺が来ていたズボンとシャツだ。
 無言で近づいて椎名から引っぺがすと思わず匂いを嗅いでしまう。
 当然のように洗剤の匂いがすることに安心して、タンスに仕舞い込む。
 洗濯については感謝しているが、思春期の男子の服を勝手に洗われるのは恥ずかしい。
 何故か座布団を抱きしめて更にくねくねと激しく踊り始める椎名を無視して残った夕飯にラップをかける。
 椎名の頭の中でどんな妄想劇が繰り広げられているかは知らないが、こうなれば20分は戻らない。
 溜息ついでに椎名を小脇に抱え、そのまま大家さんの部屋に連れて行き引き渡すと大家さんは何故か笑っていた。

「あらあら、お赤飯かしら?」

「……?めでたい事でもあったんですか?」

「……むくわれないわねぇ、この子も。」

 何故か大家さんはため息一つとともに自分の娘の髪の毛をなでるだけで俺の質問に答えてくれなかった。
 その光景は実に母性本能の塊だったがうふふふと壊れた笑いを繰り返す椎名は、それはもうアレな人にしか見えないものである。
 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。