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10 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:25:49 ID:3K2/za8p

カウンターでエリーの分と俺の分の料金を支払った。カウンターの店員はクレーマーに慣れていないのか、どうしていいのかわからないような顔色になっている。
………労りの言葉でもかけてあげるか。
「パフェおいしかったです。頑張ってください。」
「あ、ありがとうございます!」
ふっ。決まった。
店員ははにかんだ様子で微笑んでいた。
「急ぎましょう。」
「ああ。」

店から出た俺達は少し暗くなった辺りを見回している。
犯人、さっきの女を捜すために。

……すぐに見つかった。不満そうにブーツをコツコツと鳴らし、速歩きで明かりのない暗がりの路地へ向かっている。
明かるい道路沿いなら尾行しやすいのに。

……しょうがない。尾行を続行する。
これを逃したらもう見つからないかもしれないしな。
バレたらしらばっくれるか問い詰めるまでだ。


「……行くぞっ。」
「気づかれないようにかなりの間隔を保って尾行しましょう。幸い道路から隔絶されていて騒音がないのでブーツの音がよく聞こえます。見失う事はまずないでしょう。」
たしかにそうだ。
周りに騒音がなくブーツの音がよく聞こえるということはこっちの音もよく響いてしまうという事。
見失わない事よりもバレない事に重点を置かなければならない。
一瞬気づかれただけなら尾行されているとは思わないだろうが、さすがに靴の音が聞こえっぱなしだとバレるに決まっている。


彼女が小さく見えるまで待った。音がかすかに聞こえる。
………行くか。




長い道に左右には広大な田んぼ。土地の所有権は誰が握ってるんだと気になるほどの。
日の明かりはもうほぼ無いに等しい。暗がりだ。彼女の姿はほとんど見えていない。
たまに立っている街灯の明かりと、雀の涙ほどに聞こえるブーツが地面を蹴る音を頼りに進んでいる。音を鳴らさないようにゆっくりと。


―――………。
ふと思った。俺はただのストーカーなんじゃないかと。


……違う。けっしてそんなんじゃない!
とにかく今は無駄な事を考えちゃいかん。

長い田んぼの道は終わり、彼女は閑静な住宅街へ入った。
……額を拭ってみると汗がすごい出てる。疲れと緊張がピークに達している。奇声をあげたくなる。精密なプラモデルでもやらされているかのようだ。



11 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:28:25 ID:3K2/za8p

しばらくして俺達も住宅街へ入った。
住宅やマンションが所狭しと建っていて道も細い。音がより響いてしまうようだ。
でもまあここまで来たら振り向かれてもそっぽを向いて彼女とは違う道へ行けば大丈夫だろう。住宅街ってのは大体どことでも繋がっているから離れていても尾行はできる。そろそろ家に着く頃だろうし。
ただしあくまで警戒レベルを下げただけだ。

携帯の時刻を見た。7時30分。
お子さまはおねむの時間ではないのかとエリーをチラ見したが、ギンギンだった。


大分歩いた……。
用水路の水が流れていて、かすかに音が聞こえる。カエルや虫が鳴いている。


!!!!


彼女が突然立ち止まった!!!


やばい!!!
とっさに壁に隠れた。
隠れた事に大した意味はない。バレてはいけないというより罪悪感というのが僅かに強かったか。
……よくよく考えてみたら最初からバレてて、これは俺らを試したのかもしれない。
エリーは俺よりも早くそして静かに、真横へスバァッと隠れた。
エリーも隠れたんだ。これでよかったはずだ、と高鳴る心臓を無理矢理落ち着かせてみようとする。



……………? この音、しゃっくり……?
………・

12 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:31:13 ID:3K2/za8p
………わざわざ立ち止まってしゃっくりするの?

緊張する中、突然彼女が喋った。
「…………でっ………みんなっ。偽善者ばっかり。偽善者偽善者偽善者偽善者…………。」

………わかった。彼女は泣いている。よく聞き取れないが声は震え、とにかく『偽善者』と何回も繰り返している。
冷たい言葉で切り捨てられるようなムードではない。……………器物損害やクレームについて許したわけじゃないけど、どうも容赦なく憎めるような相手ではないみたいだ。何か理由があったに違いない。
人が笑ったり泣いたりすると自分も同じような顔になるのは俺だけだろうか。
気がつけば俺は自分の顔をくしゃけさせていた。

………様子が見たくなった。壁から少し顔を出し見てみた。
ぶつぶつと俯いたまま言っている。


瞬間。


「あああああ゛あ゛ぁぁ゛ぁ゛!!!!!!!」

彼女が叫びだした!!
叫びが住宅街に響き渡る。
明らかに普通ではない。

俺はさっきまでの嫌悪感や罪悪感や同情などを一切失い、恐怖に染まりきった。
こいつ、ヤバい………!!!!
彼女は胴だけをぐるん、と振り回し、マンションの駐車場に停めてある車へ殴りかかった!!

「ああああ゛ーーーーー!!!!!!」

―――………。
車は正面から潰されそのまま後ろのコンクリートの塀へと叩きつけられた。
ドォォォン!!!という轟音が鳴り響いた………。


「ああああぁ~こんなんで収まんねぇよ~あ~腹立つ~偽善者ども~。」


うめき声をあげ、彼女はまた歩きだした。ふらふらとおぼつかない足どりだ。背を丸くしている。



…………怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い!!!
もう帰りたい………。


…………エリーの声で我に帰った。
「おそらくパワータイプのサイキッカーです。施設で一人だけ見かけたことがあります。パワータイプに発現する人間は感情をうまくコントロールできない、情緒不安定な人間が多いと聞きました。」
「……俺は、あんなの見たことがない。あんなやつ絶対更生できるわけがない。でも絶対に戦わなきゃいけない。………もう帰りたい…。」

ありのままの気持ちを話した。
……瞳に涙がたまっているのがわかる。

俯き、古い洗濯機のように震えている俺の肩に手が乗った。
そして、その手の張本人が俺に目を合わせた。
「……以前あなたと仕事を共にした時にあなたの事は見ています。
私たちは勝てます。信じてください。」



13 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:34:09 ID:3K2/za8p

………。
いつもより声が優しい感じがした。
………測定器か何かがあれば測りたい。今のがいつもの冷たい声だったのかを。
俺の恐怖から逃れたいという願望から生じた幻想なのかもしれない。
幻想でもなんでもいい。とにかく彼女の声は心に迫るものがあった。


………ふん。
女の子にこんな事言われて引き下がるわけにはいかないか。

「ですが今は万全ではありません。まず彼女の住所を突き止めるのが得策です。」
「だな。」


……尾行を再開する。


俺達はさっきの殴られた車が停めてある駐車場を横切った。
車はプレスで潰されたように前から圧縮されている。ワゴン車でよかった。軽自動車などの軽い車なら吹っ飛ばされ塀を越えて民家にぶち当たっていたかもしれない。
車のライトが目に見える俺には、まるでこいつが泣いてるように見えた。

ましになったはずなのに、また恐怖がぶり返してきた。でも行かなきゃ。

「うふふひ、ひっく、うはははは。殺してぇー。偽善者ども殺してぇー。」
ひっくひっくとしゃっくりをしつつ、物騒な事を言っている。
不審者そのものだ。むしろ浮浪者だ。
すると彼女はアパートの方へ向かった。どうやらここに住んでいるようだ。
ひとまず安心した。化け物に殺されなかったということに。

「……やったな。」
「そうですね。」

彼女は二階へ上がり、鍵を開け、部屋へ入っていった。

アパートの外観は……それほどよくない。というかボロの部類だろう。階段の手すりや扉などはところどころ錆び付いていて、さっき彼女が閉めた扉からはガン!というただ鉄がぶつかったようなボロアパートそのものの音がなった。
少なくとも手入れをしているようには見えない。家賃もそれほど高くはないだろう。
………ギリギリ島田さんの事務所の勝利。(ボロさ勝負)



「今日は帰るぞ。もうくたくただ。」
「お疲れ様でした。」
「………君も帰るんだよ?」
「わかっています。」

携帯の時刻を見た。7時40分。
今から急いで行けば最終のバスに間に合うか。
間に合わなければタクシーしかない。とほほ。



バス停へたどり着いた。8時25分の最終に間に合いそうだ。
もう……疲れた……。足が悲鳴を上げている。横腹も痛くなったし吐きそう。
ベンチで休んでいると数分もしないうちにバスが来た。バスの優しい明かりが祝福してくれているかのようだ。



14 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:36:39 ID:3K2/za8p

「お疲れ様でした。お世話になりました。」
「うん。」
エリーを送っていくついでに自転車を取りにいった。
今、島田さんの事務所の前だ。

……なんだろうこの感覚。
この子と別れるのが名残惜しいような。

…………いやいや、ガキ相手に何を考えてるんだ。とっとと帰るか。
自転車の方へ足を進めた。
エリーも階段を上がっている。カンカンと音が鳴っている。
「…………私には理解できませんが、努力はしてみます。」
「ん?」
声が聞こえたのですぐに彼女の方へ視線を向けた。

「……なんでもありません。またよろしくお願いします。」
「うん。」


……『理解できない』、『努力』………おそらく『笑うこと』だろう。
あの時たしか彼女は「笑うことが『できない』」といったはずだ。
笑いたくても笑えないか、笑うことを周りが期待してるけどできない、の2つのニュアンスが考えられる。
……考えすぎか?
そもそも笑うことを努力するのかもわからない。気持ち悪いけどあなたと手を繋ぐことを努力しますって事かもしれない。
深く考えるのはよそう。



15 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:37:24 ID:3K2/za8p

「お疲れー。」
「はい。島田さんもお疲れ様です。」
「おー。 で、犯人の事で何かわかったことはあるか。」
「住所がわかりました。そして能力はやはりパワータイプのサイキッカーです。」
「そうか。 でもまぁ二対一で向こうは素人だ。その上隙を付けば一発で『止められる』だろ。次もよろしく。
……で、リュウイチはどうだった。」
「……別にどうもありませんが。」
「もう寝るのか?寝る前に算数のドリルやっとけよ。」
「はい。」

バタン。









「……………今日も変な人、でした。島田さんよりも。」



16 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:41:30 ID:3K2/za8p

エリーとの初めての任務のことを振り返っている。

任務は森の廃工場の中で行われた。
そこら中が錆び付いていてツタや雑草が生い茂り地面には見たことのない虫が這っている。


目の前には景色とは全く合わない白スーツの男がたたずんでいる。
男の容姿は金髪で顔の目鼻立ちは妖精のように美しく、気持ち悪いほど白スーツが似合っている。
手には弓と4本の弦が張った楽器を持っている、おそらくバイオリンだ。



男は俺達を見るなり笑顔で口を開いた。
自信満々といった感じだ。

「もしもここがフランスの美しい街だったとしよう……。
川辺は優雅に揺れ昇りはじめた太陽の光をきらびやかに反射している。川辺に住まう民家の住民たちはベランダで大きく背伸びをし体全体で朝を感じている。小鳥たちの騒がしくも愛らしい囀りに耳を傾けるのもいい。」
「………?」
男は弓を持った手の人差し指だけを立て口元に運んだ。
この男は確かにここにいるのに何か別の空間にいる気がするのはこの男が自分の世界に陶酔しきっているからだろうか。
「でも君たちはそんな朝焼けを眺めることはできない。」
口元の人差し指を横に振っている。
「なぜなら……………すべての美しさを凌駕するこの僕に見とれてしまうからだ。……ハァッ!!!」
「来るぞ!!!」
意味のわからない事を言い放ち奴はバイオリンを素早く演奏した。音色は高音でするどく、とても攻撃的だ。

すると地面が爆発し、火炎が巻き起こった!地面のコンクリートは砕け散り砂埃が巻き起こる。
爆発に当たれば即死だろう。火の粉や破片だって当たれば致命傷は間違いない。だからといって右往左往していては俺達にターンはない。
避けながら接近するしかない。俺達は散り散りになり、それぞれが奴へ向かって全力で走った。


「この醜い世界の崩壊をもって新たなる新世界の朝焼けを呼び起こそうではないか!!!」

俺やエリー、島田さんを狙うように連続して爆発している。正確には狙えないようだ。
すると白スーツの男がニヤリ、と笑った。
「そこだぁ!」
エリーの着地しかける地点の付近で爆発が起きた!!エリーは真後ろへ吹っ飛ばされた。

「エリー!!!!」
俺と島田さんの声が重なった。
「おいリュウイチィ!!てめーはエリーのとこに行け!!!」
「はいっ!!」

島田さんはいつもの呆け面ではない。明らかにカタギではない面構えだ。

17 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:43:43 ID:3K2/za8p

俺はすぐにエリーの元へ走った。

………が、突然真上で爆音が聞こえた。
やられた。工場のもろくなった天井を爆発したようだ。鉄骨が落ちてきた。
………死ぬ瞬間ってのはずいぶんゆっくりに見えるもんなんだなぁ。

「ぐぅっ!!」
島田さんは鉄骨へ手をかざし、止めようとしている。

頭の先まできた無数の鉄骨を目にし、死を覚悟した。
………ただで死ぬわけにはいかない。せめて目の前の女の子を助けて死のう。
うろたえている彼女に覆い被さり、数多の鉄骨が落ちてきた。





「………なぜ助けたのですか。」
「……………はあ?」


………生きてる。
頭を打ったみたいで景色がぼんやりしている。

「………何もせずに勝手に死ぬなんてできるかよ。………君はせいぜい幸せになれよ……。」
「…………。」

気がつけば俺は事務所のベッドの上にいた。意識を失ったのだ。ちなみにベッドは今はエリーの物になっている。
俺が寝ている間エリーは俺の事をずっと看病していてくれたらしい。……まあ彼女の事だ、寝る場所が無かったからとかその程度のことだろうが。
結局白スーツの男は逃げたらしい。あの男の事について島田さんは『今は知らなくてい

18 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/27(月) 00:45:48 ID:3K2/za8p
と言っていた。
今も島田さんは奴を捜査しているようだ。

………朝か。
学校に行かなきゃ。
適当にパンとコーヒーで朝食を済ます。
脚がまだ痛い。サイコメトリーの疲労も取れ切れてはいない。
でも……行かなきゃしょうがない。
通学用の鞄を持った。
「行ってきまーす。」


自転車に乗り、道路に出た。
街は混んでいる。これから出勤って人ばっかりだからなぁ。



いつものように学校の門を通った。
「おはよー。」
「おー。」
中学生の頃からの知り合いが何人かいる。
自転車を停め、鍵を閉めた。
教室で、遠藤さんと目があった。
そりゃ目だって合う。彼女は視線を教室の扉に一点集中されていたのだから。
『おはよ☆』なんていう爽やかな挨拶が苦手な俺はとりあえず微笑んでおいた。
彼女も恥ずかしそうに微笑み、俯いた。
……今日は一緒に勉強できそうだ。

初め彼女に話しかけたのは俺からだったが、何回か話しかけていると彼女からも話しかけてくれるようになった。
たしか中学生の頃かな。
高校に上がってからはいつも彼女から声をかけてくれる。

彼女はなんでこんな中途半端な高校に入ったのだろうか。彼女の学力ならもう二つ三つレベルが上の高校に入れたはずだ。
……まあどこの高校にも成績のいい子はいるしそんなにレベルの高くない高校から早稲田や慶応に行ったりする変態もいる。
大して重要視しなかったのかもしれない。対する俺はこのレベルが高くない高校を卒業できるのかすらあやふやだ。彼女に頼るしかない。
彼女もそんな俺に勉強を教えることによって優越感を得ているだけなのかもしれない。というかそうに違いない。
完璧超人である彼女が俺のようなアホ星出身に教えを賜ってくださるのだ。喜んでお言葉に甘えよう。

授業が始まった。
俺の大嫌いな英語だ。