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84 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 00:45:23 ID:NgT9sjic

机の上に置いてある俺の携帯が光った。
俺のアドレスを知ってる奴は島田さんを筆頭に数名を除く事務所の連中と中学時代からの知り合いと遠藤さんだ。
今携帯を開きメールを確認することもできるが周りは熱心に教師が黒板に書いたことをノートに写している。
そんな中携帯を開いてメールを確認するなんて俺にはできない。明らかに浮くからだ。
ここは一応教師の話をぼーっと聞いておこう。

授業は終わった。
さっきまで静かだった教室は一変して賑やかになった。授業の変わり目は教材を片付ける音、席を立つ時に椅子を引く音、談笑。それらが同時多発的に起こる時間だ。ついでに上の階の椅子の音も聞こえる。
「リュウイチ、トイレ行こうぜ」
「おう」
知り合いAが誘ってきた。こいつはいっつも俺と一緒にトイレに行きたがる。中学時代からの知り合いだ。
トイレで用を足した俺は手を洗いながら忘れていたことをふと思い出した。
携帯のメールだ。もし島田さんなら今日は断らなければならない。疲れもとれていないし遠藤センセのありがたい教えを聞かなければならない。
from:島田さん

…………。どこか妙な期待をしていたのか島田の文字を見ただけでがっかりした。まあいい、最後まで見よう。

『リュウちゃん、頼みがある(猫の絵文字)
黒川ちゃんの様子を見てきてくれ(笑顔の絵文字)
前のように戦うことはないだろうから(グッの絵文字)
あの子は平気そうに振る舞ってるけど一番不安定な子だから。
あ、言っとくけど給料は出ねーぞ(笑)頼みだから(笑)』

……(笑)じゃねーよ。絵文字も使うなよおっさん。

黒川はやか。パイロキネシスを使う少女。17歳。

訳があって彼女も島田さんに力のコントロールをレクチャーしてもらっている。
髪は黒髪のロングで、腰まで届いている。前髪が『左目』を隠していてどこか陰のある女の子だ。
黒川は………ぶっちゃけ苦手。エリーとは違い手なずけにくく、いつもいつも『私は醜いから』という言い訳を振りかざし俺を責めてくる。俺はそのたび醜くないよと言わなければならない。
心の底から軽蔑しているわけではない。できることなら彼女を救ってあげたい。


そろそろ授業が始まる。
おっさんの点滅している絵文字を見つめていた俺は携帯を閉じ、教室へ向かった。
行くか行かないかは後で考えよう。次の授業は俺の好きな授業だ。



85 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 00:46:13 ID:NgT9sjic

熱い、熱い、熱い………。
眠っている間は何も考えなくていい。昔のこともこれからの事も。それなのに今日も地獄の業火で眠りという甘味な海から引きずり出された。
固いベッドから飛び起きた私は醜い『左半身』の包帯をほどいて確認する。
いつもよりも腫れ上がり真っ赤になっている。所々うっ血しているのか紫や黒に近い色の箇所もある。どうやら汗が刺激したみたい。
「あはは、あははははははー。」
人は、少なくとも私は、どうしようもない状況だと判断した時笑いが込み上げてくる。

右目からはこうして涙が出るのに、潰れかかった左目からは血しか出ない。

……………あの人に会いたい。



86 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 00:48:54 ID:NgT9sjic

昔の話。


私の家族は貧しかった。
私、母、父、兄の四人家族。
貧しかったけど共働きではない、父は働いていなかった。毎日ビールを飲んで野球の中継を見るか、外出するかだった。たまに母や私へ暴力をする。兄はそれを止めていた。

兄も高校一年の時働いた。遊ぶお金のためではなく、家庭のために。
なぜ貧しいのかと言うと、父が昔営業で失敗したときできてしまった借金があるからだ。
それと、後から聞かされた父の浮気と風俗通い。
家族はそんなものの為に働いていた。


家族で夕食を食べているとき、父が言った。
「風俗店のオーナーの知り合いがいるんだけどさ」
「………。」
中学一年の私には風俗という単語を知らなかったけど、父が卑しい表情になっていたので何となく察した。
「違う町で店舗出すらしいんだけどさ、オーナー募集してんのよ。俺やってみようかなと思って。」
また経営で失敗したらどうするのと母は大反対した。

父は暴力をふるい、母は泣き、兄は止めようとするも殴られ、泣く。
あたしはそれを呆然と眺めるだけ。
いつもの流れ。


終わりを覚悟したけど、以外にも営業は成功した。成功してしまった。
違法に脱税をしたり、未成年を利用したりしていたみたい。
毎日のように和牛や蟹を持って帰る父、死んだような顔の母、何も知らず喜ぶ兄と私。私に至っては不覚にも風俗の存在すら知らなかった。



87 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 00:49:52 ID:NgT9sjic

父の職業の事で学校で苛められた。クスクスと笑う男子たち、それまで仲のよかった友達たちの哀れそうな視線。
「お前の親父、あの有名な風俗で店長やってんだってな」
「やめなよ、性病がうつるよ」
「あははは」
それからはいじめの格好の標的になり、後ろから物を投げられたりもした。
友達だった子はとうとう私を見捨てた。
その日初めて風俗という店がどういう店なのかを知った。
私への笑い声はそういう意味があったんだという衝撃的な現実に耐えられなかった。顔中に溢れた水を拭い、授業はまだあったけど私は学校を飛び出した。
「お肉はおいしいけど、苛められるのは嫌だもん。」
幼かった。全てが。

全速力で家に帰れば、見知らぬスーツの男が玄関で数人立っていた。普通のリーマンの容姿ではなく、髪は茶髪でシャツを着崩していたり、およそ社会人とはほど遠いものがあった。
「この子?」
パンチパーマのずんぐりした男が汚い手で私を指差した。部屋から出てきた父は私を見るなりにやけ、「そうそう」と返事をした。
「なんやねんえらい早いなぁ」
「頭いたかったんかぁ?」
あはははははははは、と男の汚い笑い声が響いた。
幼かった私はこれだけで恐怖し、足ががたがた震えた。………ここにいたくない、そう思った。
「ここは味見しとかんとなぁ」
男の一人が私へ手を伸ばす。
私は知っていた。風俗がどういう店なのかを。
「やだっ!!」
私は男の手を払い、逃げようとした。でも、後ろにいた何かに当たった。
顔を見れば…………母だった。
母は死人の顔で死刑台に送り込む裁判官のような目で私を見下しながら言った。
「はやか、許してね。これしかないのよ。」
「……………あ、あああ、あぁ………。」
さすがの私でも言葉の意味を理解した。それを聞いた瞬間、涙が頬を伝った。
私を抱き締めている母の手は力が異常に籠っているけど母親の優しさなど微塵も感じられなかった。
全てを悟った私はただ逃げようとじたばたした。
「は、離して!!助けて!!!誰か!!」
誰も助けてくれるわけがない。
「この子をよろしくお願いします。」
「はいよー。」

やだ、やだ、やだ、やだ。
やだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!助けて!!!!!熱いの!!!!!!!!!



88 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 00:51:20 ID:NgT9sjic

何があったのかは覚えていない。気がつけば家は燃え、みんなは跡形もなく燃え尽きていた。父も、母も、スーツの男もみんな。
………私が殺してしまった。それだけはわかった。

………逃げよう。
もう誰も助けてなんかくれない。

道端の窓ガラスに、焼け焦げた私の左半身が映った。


使われなくなった橋の下に行った。
「熱いッ……熱いぃぃぃっ……!!!」
見つからないように必死で声を殺し、うずくまった。
死ぬほど左半身が熱かった。
ふと左半身を引きちぎれないか試したくなった。左手を右手で掴み、引っ張った。何度も何度も何度も何度も。
「え、えへへぇ、なんで取れないのぉ………なんでっ……ひっく…。」

諦めた私は、急激な眠気に誘われその場で眠った。


目を開ければ男がいた。後ろにも何人かいる。
「気がついたか。
手は尽くしたが痕が残ってしまった。すまない。」
「ああ、安心しろよ。お姉さんに巻かせたからな、包帯。」
………。
橋の下ではなくベッドの上にいた。
「ここは病院だ。怖い人らが怖い訳があって怪我した時の聖地だな。」
どうやらカタギではないようね、そう思った。
「君の力はとてつもなく強力だ。家が全焼するほどのパイロキネシスなんて俺でもできるかわからない。今後あんな暴走をしない様この俺が責任もってコントロールの仕方を教える。」
………嘘だ。
ずーっと騙して嘲笑って、汚い仕事に利用するに違いない。そう思った。


いまでも彼らの事を信じきったわけじゃない。

それでも………彼らがいなかったら私は死んでいた。肉体的にも精神的にも。それだけは確信できる。
それからは兄や島田さんに家賃を払ってもらってこのマンションに一人で住んでいる。



89 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 00:53:27 ID:NgT9sjic

黒川はやか。左半身に火傷を負った少女。家庭の事情はある程度聞いている。
過去の事から未だに俺や島田さんとは距離をとっている。

今は日本史の授業。
日本史は成績が悪くても大体の奴がいい成績を出せると思う。ノートに書かなくたって年表や戦の記録は大体頭に入る。何もせずに70点とか取った日は天才なんじゃないかと勘違いしてしまうほどだ。
授業が終わるまで数分あるが、教師は余った尺をどうしていいのかわからずキョドっている。原作の漫画が大ゴマ使いまくってた時のアニメのようだ。
この人はあからさまにわざと遅刻をしてくる。最長で20分ぐらい。大丈夫なのか、この高校。

授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
さてどうする。請けるにしても誘い方が重要だ。彼女は過去のトラウマから男だけではなく生きとし生けるもの全てに対し強烈な不信感を抱いているはずだ。
それに加え彼女は強いフラッシュバックも持っている。決して襲おうとしたり苛めるつもりはないのに、何度か暴走を起こし殺されかけた事がある。
だから俺は過去のフラッシュバックの引き金を引かないように注意をしつつ、且つ冷たすぎる手段、言葉を使わないようにしなければならないわけだ。

………彼女の事を思い出したら心配になってきた。下世話なのかもしれないけど、それなら下世話だと一言ほしい。

とりあえずまずはメールでも送ろうかな。『元気?』 送信、と。
さて授業が始まる。



90 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 00:56:26 ID:NgT9sjic


携帯が光ってる。
授業が始まってからすぐに携帯が光った。
……これはメールじゃない、電話だ。彼女だろうか。
今出るわけにはいかない。後でこっちからかけ直そう。光はしばらくして消えた。

………また携帯が光る。しばらくして消える。光る消える。計5回。
たしかにこっちからメールしといて電話に出ないのは悪かったか。彼女は不安定だし。
授業が終わった。トイレに行って電話をしようと思う。次の授業出れないかもな、こりゃ。

鞄を持ちあまり人が使わない一階のトイレまで来た。
恐る恐る着信履歴を確認すると………やはり全て黒川の文字。
………電話するか。授業を潰された苛立ちとこれから気を使わなければならない苛立ちを表に出さないようにしなければならない。
着信履歴から電話をかけた。
呼び出し音が3回鳴り、繋がった。


『………何?』
何、じゃねーだろ。5回も電話しといて。
いつものテンションの低い虚無感漂う声だ。
「ごめんね、いきなりメールして。島田さんから様子見てあげてって言われてさ。」
子をあやすように言った。
『………そう、頼まれて仕方なくメールしてきたのね。』
しまった……。
言葉を失った俺に彼女は攻め落とすように続けた。
『質問の答えだけど私は人生の中で一度も元気だった日はないわ。 それにその変に気を使うようなしゃべり方は止めて。馬鹿にされてる気がするから。』
カチン。
「なっ…………こっちはお前のために気ぃ使ってんだよ!!」
『ひっ………』
………しまった。つい怒鳴ってしまった。彼女を傷付けてしまったかもしれない。こうしてすぐ怒ったり反省するのは殺されたくないという防衛本能ではなく、純粋に彼女を傷つけたくないからだ。
「ご、ごめんな。」
『冗談よ。』
………。
『私はその程度の事であなたを殺したりしないわ。安心しなさい。』
彼女は俺が殺されたくないからという理由で謝ったのだと思っているらしい。
『それにしても本当にあなたは短気ね。 人間短気博物館に陳列したいぐらいだわ。』
「そんな博物館あるのかよ……。」
『なかったら私が築いてみせるわ。 ちょうど使われてない寂れた公園があるのよ。』
くだらない会話をしているとチャイムが鳴った。
今行けば遅刻になるが間に合う。元気そうだから切ろうか。
拍子抜けした俺はすっかり彼女の顔を合わせる気も失せていた。
「そろそろ授業だから切るよ。」



『………待ちなさいよ。』


91 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 01:00:02 ID:NgT9sjic

「? 何?」
『今日はどうするのよ、会いに来るの?』
どうするかなぁ。島田さんにも様子見ろって言われているし彼女を見捨てるのもよくない。
答えがわからないからといって彼女に主導権を渡すのも悪い気がする。だからその中間で行こう。
「いやぁ、元気そうだからやっぱいいや。 またメールするからさ。じゃ。」
『……待ってよ。さっき元気だった日はないって言ったじゃない。
それにそんなこと言っていっつもいっつもメールだって私から送ってるし。………この嘘つき。』
いつもより鋭くて冷たい声が耳元で聞こえた。鋭利な刃物で耳の中を突き刺されたような感覚になり、体がビクついた。……怒っているようだ。
学校にもろくに行けず一人内職をするか島田さんに呼ばれるかで、やはり寂しいのだろうか。
「じ、じゃあ会いに行こうか? そうだ、替えの包帯と飯でも買って持っていってやるよ。何がいい?」
自分の声が偉く震えているのがわかる。これは間違いなく……恐怖からだ。
彼女の機嫌を取るように持っていこう。
『………そう、ありがとう。

じゃあお菓子でも作ってあげるから材料を買ってきてちょうだい。 時間を取らせてしまったわね。それじゃあ待ってるから。』

プッ プーップーップーッ



………黒川はやか。
なんというか、底無しに我が儘な子だ。



92 名前:最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 01:02:13 ID:NgT9sjic

………とにかく!今は気持ちを切り替えなければいけない。
遅刻しても今いけば出席に含まれるはずだ。急いで教室へ戻ろう。


教室はもう授業が始まり教師の声だけがかすかに聞こえている。
教室へ入ると数人の生徒の視線が俺に集中した。気まずい。
「何やってたんだよ。」
「電話だよ。」
知り合いAが小声で話しかけてきた。

数人の生徒の視線はノートや教師へ戻ったが、前の席のあの真面目な遠藤さんだけは俺を見ていた。眉毛をハの字にし、わざわざ振り向いて。
………馬鹿さ加減に心配したのかもしれん。

そういえば今日も断らなければならないな。ごめんよ、遠藤さん。

そうこうしているうちに今日も7時限目が終わった。
今日は………遠藤さんに俺から話しかけておこう。いつもいつも俺に付き合わせてしまっているし。
「遠藤さん。」
「な、何!?」

………。
引っ込み思案な子って声の調節できないのかな。かわいい。
「あのね。今日も勉強できそうにないんだよ。 いつも教えてくれてありがとね。」
「……………そっか。うん、わかった。 待ってるからね。」
声のボリュームが10から1へと下がったようだった。
俯いて無理に苦笑いしている。もしかしたらそんなことで話しかけるなよというサインなのかもしれない。

…………もう今後この子と会話するの止めとくか。

勉強をやってもそれほどいい成績が出せない俺と、それを世話しなければいけない遠藤さん。お互い傷つくだけだ。


さて、今日はお嬢様がお待ちになられる。
卵に生クリームに果物に………。俺の財布が死にそうだ。


俺はいつもの駐車場で自転車に乗り、走らせようとした。が。

………?遠くで見えないが、校門の前に生徒が何人か立っている。少女を囲んでいるようだ。
「外人の女の子?! かわいいー。」
「肌白いねー。」

………外人?少女?