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67 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:08:02 ID:cZaEJvBY


あまりよろしくない天気の中、城への道を歩く少年がいる。
丈夫そうな服と革のベルトに固定した短剣が、彼が一応冒険者
であることを示している。ただその顔は冒険者というよりは
病人とでも表現したほうがいいくらいにドヨンとしていた。

「行きたくないなぁ…。」

そう言ってのろのろと足を引きずる少年は僕だ。目の前に
見えている城門を前にため息をひとつ。
そもそも、状況がどうしてこれほど悪化したのかがわからない。
世界情勢がこれほど緊迫していなければ、勇者の息子というだけで
勇者として徴収…もとい強制連行はされなかったはずだ。
魔界と人間は昔からいがみ合っていた。しかし、お互い相手を
滅ぼしてやるといった程でもなかったはずだった。
(もちろん人間側にはそういった強硬論者がいたが、まず不可能な話)
その関係に変化が見られたのは三年前。魔界のドラゴンたちを統べる
竜王がある国の王女をさらい、毒の沼地に囲まれた居城に監禁して
しまうといった事件が起きた。その国の勇者が一人、姫の奪還に
成功したそうだが、その後魔族と人間の仲は断絶した。

この事件にはいくつかの不自然な点がある。そもそも仕掛けたのは
竜王のほうなのだから、魔族側に明らかに非があったはず。それなのに
ここまでの事態に発展したのは何かしらの理由なしには考えられない。
さらに、国にその事件に関する緘口令が敷かれたことも謎だ。
勇者の栄光を称える凱旋パーティさえも非公式で行われたらしい。
極めつけは王女に王族特権のはく奪が言い渡されたという噂だ。いくら
ゴシップ好きの情報屋がいたりしても、ここまで来るとありえない。
兵士に聞かれたら即刻余生を牢獄で過ごすことになるであろうし、第一
理屈としては可能でも、王族特権を奪うなんとことはどの国も
例がない。言ったとしても信じてもらえず、逆に牢屋行き…こんな
ハイリスクノーリターンな話題だからこそ逆に信憑性がある。
作り話だったらもう少しうまく作るだろうし。
たとえはく奪の話は嘘でも、王女に何らかの罰が下ったのではないだろうか。
でも、被害者であるはずの王女にどうして?



68 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:08:48 ID:cZaEJvBY
「こんにちは。」

物思いにふける僕に後ろから声がかけられた。振り向くと、修道着の少女がいる。

「こんにちは。」

僕も挨拶を返す。

…大きくなったなあ。
この町の教会。そこで僧侶の修行をしている彼女は僕の幼馴染だ。昔は
二人で日が暮れるまで近くの泉で遊びまわっていた。彼女を教会まで送った
後、全力で家まで戻るのが日課だったっけ。
幼馴染だった彼女とも最近はなかなか会えない日が続いた。
時間を見つけて逢うと、必ず彼女は泉に僕を誘った。年頃の娘なんだし、たまには
流行の服でも買ってあげるよ?と僕が切り出しても、ほんの少しだけ涙目になり

「ごめんなさい。でもどうしてもあそこがいいんです。」

と答える。確かに静かで人気もなく落ち着ける場所ではあるが、いい年して
昔みたいにはしゃげる訳でもなく、会話もうまくつなげるか僕は不安だった。
しかし、彼女はうれしそうに誰もいない泉のほとりに腰をおろして、立った
ままの僕を見上げる。僕も隣に座り込むと、本当に静かな世界が広がる。
そんなことが続いた。思い返せば、本当に彼女とはずっと一緒だった。

でも、それもしばらくはお休み。今日僕は旅立つから。


「今日、旅立つんですよね?」

目の前の幼馴染、今は半人前僧侶ちゃんが顔を伏せた。顔に少し陰りがある。

「王様に会いに行くんですよね?その間、ここで待たせてもらっていても
いいですか?」

少し長い髪が、僕が言うのもなんだが可愛らしい顔を隠す。表情が全く読めない。

「いいけど…どうしたの?大丈夫?」

「…大丈夫です。」

おかしい。いつもの彼女とは雰囲気が違う。
しかし、謁見の予定時刻が迫っている。悪いけど待っててね。
出迎えに出てきた兵士に連れられて、城門をくぐる。ふと振り向いてみると…

泣いていた。



69 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:09:36 ID:cZaEJvBY
「勇者よ!よく来てくれた。」

王様の声が響く。貫禄ある体系だが、剣の腕は一流らしい。

「そなたの父の一件まことに気の毒だった。なんでも数万の魔物の大軍相手に
たった一人で挑み、力つきて火山に落ちたそうだな。」

噂が勝手に独り歩きしている。大体数万の兵相手に一人で挑む…
人はそれをバカっていうのでは?とはいうものの、真相は語らない。
知られたら僕は終わりだ!

「見事バラモスを討ち果たし、父の仇を取って見せよ。」

「失礼ですが、王様。」

ここで僕は思い切って質問をする。
「なぜここまで魔族と人間の関係がこじれたんです?竜王事件なら既に
竜王が倒されたことでけりはついたはずでは?」

場の空気が凍りついた。いきなり思った以上にまずい質問をしてしまったらしい。
兵士たちが何人か僕の後ろに回り込む。呪衣に身を包んだ魔法使いも
何人か現れた。

…ここまでとは思わなかったな。

「わからない。」としらを切るわけでもなくこの動き。やはり竜王事件は
裏があったというわけだ。しかし、当事国でないこの国でも口封じの
動きがあるっていうことには恐れ入った。
僕の武器は短剣一本。剣で鍛えぬかれた王宮兵士には勝てないのは目に見えている。

…穏便に済ませたいんだけど。

この国は治安が比較的いい。王宮は閉ざされた場所とはいえ、そうたやすく
人は殺せないだろう。殺人なんて珍しいからだ。
第一、人の力じゃ僕には抗えない。短剣しか持たないのは僕にとって
剣があまり重要でないからだ。
しかし、タブーを口にしてしまったらしい身としては警戒は解けない。
短剣をベルトから外して投げ捨て両手をあげる。しかし口は
呪文の詠唱をいつでもできるようにしておく。
父親の呪いとともに引き継いだ技『ジゴスパーク』。人間では扱うことのできない
魔界のいかずちを僕の呪われた血を媒介にして召喚する技だ。
過去一度も実戦経験のない僕が言うのもなんだが、たぶん王国の軍隊でも
一騎士団ぐらいなら一発で仕留められるだろう。
平穏な生活は欲しいが、命が最優先だ。



70 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:10:27 ID:cZaEJvBY
「皆の者、さがれ。」

王が低い声で命じた。周りの兵たちはまず王を見て、やがて剣をおさめる。
その間も殺気が一向に衰えないのはさすがというべきだろう。いつでも
斬りかかれるような姿勢は崩していない。

「勇者よ。光の勇者の血を受け継ぐそなたになら、この一件は話しておくべき
かもしれぬ。しかし…。」

「心配ご無用です、王様。秘密は守ります。」

王様はしばらく考えていたが、どうやら結論が出たのだろう。
周りの付き人たちが対面の間のすべてのカーテンを閉じ、扉を閉める。

「…逆だったのだ。」

…はあ?

「竜王事件で、国民に伝えられたのは真逆の話。あの事件で拉致監禁されたのは
竜王のほうなのじゃ。」

聞くもおぞましい真実を王様は語りだした。
そもそも、竜王は魔王ではない。魔界には凶暴で強力なドラゴンがあまた
いるが、それを統べて意のままに操る魔王は『龍王』であり、『竜王』とは
魔界でドラゴンの知識、体調管理、飼育から子育てにわたりあまたある
項目を優秀な成績で成し遂げたものに贈られる、いわゆるブリーダーライセンス
の一種なのだ。知識や勇気はもちろんのこと、凶暴なドラゴンにも注げる優しさ
がないとドラゴンの飼育は務まらない。それゆえこの称号は魔界でも権威ある
称号とされ、履歴書にこれが記載されると即採用。当然戸口は狭く、難易度は
魔界で最も難易度の高い大学である邪教大学の神学部の入学試験に匹敵する。
(この大学は実は卒論もハードルが高い。総教授であるハーゴン大司教の意地の
悪い採点がさらに拍車をかけている。)

あの事件の被害者である竜王は、まだ成人にも達していない年齢でその資格が
与えられた。家は貧しく着の身着のままの生活だったが、持前の優しさと
真面目さが彼に竜王の称号を与えてくれた。称号とともに得た賞金のほとんどを
女手一つで自分を育ててくれた母に贈った彼は余った金を、人間界にある
没落した貴族の館を買い取り、そこで魔界にはいない人間界のドラゴンの研究を
始めることにした。捕まえたドラゴンは迷宮のような地下で放し飼いにして、
逃走して人間に迷惑がかからぬように毒の沼を館の周りに作った。

ある日、そんな日常が崩れる。



71 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:11:08 ID:cZaEJvBY
籠りきりの研究にさすがに彼が疲れてきたある日、彼は近くの王国に
息抜きにきた。今ほど魔界との対立がなかったこの時代、人々は魔族の
彼を物珍しそうに眺めはするが、追い払おうとはまったく思わない。
生まれて初めて見た人間の食べ物ワッフルを買った彼は、どこか落ち着いた
場所で食べようと思い空を飛び、広くてきれいな庭を見つけて降り立った。
幸せそうな顔でワッフルを食べる彼は、彼に向けられている視線にきづく。
見るときれいに着飾った愛らしい少女が、彼をじっと見ている。
彼は笑顔で手招きし、袋からもうひとつワッフルを取り出して渡した。
少女も笑顔になり、二人で静かな時を過ごした。

この庭は実は、宮廷管理の王族別荘。この少女こそ、この国の王女だったのだが…。

その後は以下の通り。
① 彼に夢中になった王女が父に彼との結婚を願い出る。
② パパは魔族との結婚など認めません!おまえは黙って政略結婚するのです!
③ 政略結婚相手(どう見てもオッサン)の股間に王女が魔人のごとく蹴りかかり
男として再起不能にする。
④ じゃあパパは別の政略結婚を考えます。今度の相手はこの方です(既婚)。
⑤ 魔族の青年に直接告白するも「僕なんかに君はもったいなさすぎるよ。」とのこと
⑥ 監禁。
⑦ 魔界側から「善良な留学生に対する非人道的な蛮行」と抗議。
⑧ 勇者達が竜王の解放に向うも、姫の魔法で撃退。
⑨ なんとか助け出すも、監禁中姫の異常な愛情を受け続けた竜王にうつ病の兆候。
翌年、自殺。
⑩ 王国の顔を守るため、竜王の犯行とでっちあげる。
⑪ 王国の発表を真に受けた竜王の母が、「そんな犯罪者を私は産み出してしまった。
償えるものではないが、私の命で勘弁してほしい。」→自殺。
⑫ のちの調査で真実が明らかになるも、王国側は魔界の抗議を黙殺。
⑬ 魔族激怒、そして戦争へ…。



72 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:12:09 ID:cZaEJvBY

「どう見ても悪いのは人間でしょうがああああ!」

僕は絶叫する。周りの兵士たちも気まずそうに足元を見ている。

「特に竜王の母親の件!いかに王族といえどこれは流刑ものですよ!」

「だからなのじゃ!」

王様が声を張り上げる。

「竜王事件以前から魔界から正式に『殺人鬼バラモス』の処分協力要請が来ていた。
魔界で数多くの魔族を殺害したこいつの首を差し出せば、和睦の可能性もでてくる。
魔界を追われたバラモスは人間界に居城をかまえ住んでいるらしいので、すぐに
そいつを仕留めてきてくれ。…ただし、きちんとバラモス本人と確認できるように
してほしい。光の勇者の伴侶でありそなたの母にこの依頼をしなかったのは、
魔法がバケモノ以上に強力すぎて、本人と判別できぬくらいにしてしまう可能性を
考慮してのこと。一応魔族にもDNA識別魔法の使い手はいるじゃろうが、なにせ
この世に肉片ひとつ残さぬほどの魔法の使い手じゃからのう…。」

母さんの忘れ癖を考えると、「本人と識別できるよう」の部分は忘れるだろう。
ようは、公式ではないにせよ人間は罪を認め、魔族の敵を討伐して和睦の機会を
設けようということらしい。戦争は防がなくてはならない。

…話はわかった。だけど、その役目はほかの誰かに任せよう。僕は
穏やかな日々が望みなんです。

「なお、噂だとバラモスは十回刺さないと死なないらしい。勇者よ、頑張れよ。」

精神的に疲れながら、僕は対面の間をあとにした。
今朝から悪い予感がしていたけど、こんな重い話を聞かされるなんて…。




73 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:14:38 ID:cZaEJvBY

外は雨が降っていた。その中で一人、傘もささずに立っている僕の幼馴染。
僕を見つけると、ゆっくりと歩いてきて…静かに泣きだした。

「ど…どうしたの!?」

あわてる僕の手を彼女はぎゅっと握りしめる。ぐずりながら声を絞り出してくる。

「…言えないんです。」

「え?」

「行ってらっしゃいって言えないんです。どんなに頑張っても無理なんです。
涙が邪魔するんです…。う…うぇ…うわあああああん!」

とうとう声をあげて泣き始める彼女。僕はそんな彼女の肩に手をおく。

「…君に頼みがある。僕の旅を手伝ってほしい。」

彼女が顔をあげる。

「嫌ならかまわないんだけど…どう?」

彼女はしばらく僕の顔を眺めて…いきなり僕に抱きついてきた。
連れて行ってください。と泣きじゃくりながら連呼する彼女を抱きかかえながら
僕はあとの二人の構成を考えていた。



「えっ…?」

彼女は驚いたような顔をしている。

「いや、だからさ。これから酒場に行ってあと二人探そうよ。仲間は
多いほうがいいだろ?」

「えっと…私と勇者さんの二人で十分じゃないですか?私はほら…僧侶ですから
回復もできますし。」

普通だったら問題ない。ただ僕には僧侶ちゃんの聖なる回復術は効かない。
僧侶ちゃんの役目はあとの二人の回復にまわることになる。
自分の呪いのことは誰にも話していない。人は自分と違うというそれだけで
差別や中傷をしてしまう生き物だ。ましてや一応光の勇者の息子である
僕が邪悪な呪いに魅入られていると知られたら、どうなるかは目に見えている。

「どうしても行くんですか…?でしたら着替えてからにしましょう。」

彼女が提案してくる。

「魔王を倒す勇者様が雨でびしょ濡れの服を着て酒場に現れたら、ちょっと
イメージと違いますよ。一度家に戻って、酒場で集合しませんか?
私も着替えてきますので。」

確かにその通りだ。僕は着替え次第酒場に行くと伝えて、彼女と別れた。


74 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:15:33 ID:cZaEJvBY

何が起きたのかはさっぱり分からない。着替え終わった僕が酒場につくと、
そこに酒場はなかった。
石と大木で作られた建物は崩れ去り、ところどころ火の手が上がっている。
時々激しく火の手が上がるのは、木製の樽に入っている酒に火がついて
いるのだろう。

「勇者さん!」

一足僕より先に来ていたのだろう。僧侶ちゃんが駆け寄ってくる。

「い、いきなりお店が崩れてきたみたいで…まだ中に人がいるって…。
わ、私あの…その…。」

「とにかくみんなを助け出そう!僧侶さんはけが人の治療にあたってくれ!」

戸惑う幼馴染もとい僧侶ちゃんに指示を出しながら、まだ炎のおさまらぬ瓦礫に
飛び込む僕。熱いけどこの際気にしない。
もともとはドアだったと思われる木材をどけると、人が下敷きになっていた。
ドアが倒れてきたときぶつかったのだろうか。気絶しているが、息はある。
問題は右足。巨大な石に挟まれて、ぴくりとも動かない。
相当の重量がある石だ。たぶん急いで適切な治療を受けないと、
動かなくなるどころか最悪―切断だろう。
迷っている時間はない。炎と煙で遮られた視界を利用して呪文の詠唱を始める。
巨石に左手をたたきつけ、最後のスペルを唱えると、紫の光とともに
巨石が蒸発した。
臓腑がひっくりかえるような感触とめまいがする。体が魔力切れを訴え、
心臓は血管が焼き切れそうなほど鼓動している。
地獄のいかずちは連発できない。次にこのような状況の人がいたら
覚悟を決めなくてはいけないな。
ぐったりしているその人を背負い、僧侶ちゃんのもとへ連れて行く僕。

…あれ?



75 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:17:20 ID:cZaEJvBY
僧侶ちゃんのことが頭に浮かんだ瞬間、強い違和感があった。
でも、それがなんなのかは分からない。
第一、 お城の時と何も変わっていいなかったじゃないか。見慣れたものを
見てるのに、なんでそんなことを考えるんだ?

今は非常事態。取るに足らない思いすごしに時間は取れない!

僧侶ちゃんは奮戦していた。
血みどろになり、傷の場所も判別付かぬ人がきても、一目で
致命傷とそうでないものを見分け、回復魔法を唱えていく。
周りにいる人たちも手伝い始め、何人かまた助け出されてきた。

「この人、息してないぞ!」

不意に誰かの叫び声が聞こえる。みると若い女のひとが蒼い顔で倒れている。
急いで近寄り、口元に耳を寄せる…呼吸が止まっている!
目立った外傷はない…パニックで持病でも引き起こされたのか?
急いで顎を固定し、気道を確保する。まずは人工呼吸を…

「駄目です!ぜったいダメ!」

ものすごい声がした。振り返れば僧侶ちゃんが顔を真っ赤にして叫んでいる。

「に…二次感染の恐れがあります!勇者さんはこのあと大切なお役目が
あるんですから、大事をとっていただかないと…。」

そんなこと…と言いかけてハッとする。この女性が病気持であろうと
今はそんな場合じゃないのだが、僕の唇が切れているのに気づいたのだ。
普通唾液での感染症はありえないが、血液が混じれば話は別。
そして僕は血液に呪いを持っている。この程度で呪いが広がるとも
考えにくいが、この邪悪な呪いが世の中に広まるリスクは冒せない。
でも、この女性は助けないと!
周りをみると、みんなそれぞれのけが人の対応で手いっぱいだ。
助けを求められる状況じゃない!



76 :そして転職へ:2009/07/28(火) 20:18:06 ID:cZaEJvBY
「どいて!アタシが助けるよ。」

不意に女の人の声がして、僕は乱暴に蹴っ飛ばされた。

振り向くと…わぁお!

生と死のはざまのこの場所にはあまりにも場違いかつ不謹慎な体つきの
お姉さんが立っていた。うす紫と白を基調とした、衣服というより厚手の
布を巻きつけたかのような格好。それも必要最低限の部分しかおおわない。
ただ、遊び人ではないと一目でわかるのは、その着付けがどんなに激しく
動いても崩れないようにつけられていることだ。
さらに紫の独特の色合いが、あまりにも色気のあるその布が対魔法用の呪衣である
ことを物語っている。

顔は当たり前のことだが…美人!栗色の髪を後ろで結わえ、頭に紫の
バンダナを付けている。口調こそ厳しいものだけど、きれいな
瞳の中には見たものを落ち着かせるようなやさしs…。

「邪魔!」ぐしゃ!

さらに僕を蹴り飛ばした彼女は、そのまま横たわった女の人の胸に
手を当て、呪文の詠唱を始める。

バァン!

鋭い音とともに、女の人の体がびくっと跳ね上がると、しばらく間をおいて
急に激しくせき込み始める。

雷の魔法を使っての除細動!?

振り返りながら僕ににこりと微笑んでくる謎めいたお姉さん。
僕は顔を真っ赤にして、燃え盛る炎の中に再びはいって行った。
…ってか、最初から心臓マッサージすればよかったのかな?
                       続く