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579 :動き出す時 1話:2009/08/26(水) 01:32:13 ID:bWoq7LBG
やあ、初めまして。俺の名前は廣野祐樹(ひろのゆうき)。高校1年生の平凡な男子だ。
俺は今、見知らぬ女の子に口付けをしようとしている。無許可で。
べ、別に犯罪的な意味じゃないぞ!? これは、そう、人命救助の為だから仕方ないのだ!

夏休みのある日、俺はふと旅に出たいという若気の至りによって旅立った。
そして今日、我が家に帰るところだったのだが、家の最寄り駅に到着し、改札を抜け
駅から外に出ようとした時、後ろから人が倒れるような音がしたので振り返ってみると本当に人が倒れていた。
俺は先日、学校で心肺蘇生法の講習を受けており、しかも、みんなの前に出て手本をやる役だったので
他の奴以上にしっかりとできる自信がある。だが、いきなり本当の現場に出くわした俺は正直ビビッていた。
心の中で「無理! 絶対無理!」と叫んでいたのだが、周りに人が集まってきてヒソヒソと話し合うだけで
誰も助けようとしないのを見た時、俺はつい「だったら俺がやってやんよ!」という間違いなく勢いだけの決意が固まり
その倒れてる人の所へ向かう事にした。講習で習った、倒れてる人を見つけた時に一番最初にする事
周りの安全を確認。よーし、どっからどう見ても安全だ。次に倒れてる人の意識の確認。
「大丈夫ですかー? 大丈夫ですかー!? 大丈夫ですかー!!?」
三回呼びかけて段々呼びかけも強くしたけど反応は無い。やばい、意識無し。
そこで周囲の野次馬に119番通報とAEDを持って来る事と近くに医者が居ないかの呼びかけを頼んだ。
この時、それぞれ頼む相手を具体的に指名する。さて、次は確か呼吸の確認だったな。という訳で呼吸を確認したが
……呼吸も無い。本格的にやばい。まさか本当にここまで来るとは思わなかった。俺の中の予想では
意識の確認か呼吸の確認で解決すると思ってたのに。仕方ない、ここまで来てしまったんだ。全部俺がやろう。
という訳で、遂に胸骨圧迫(心臓マッサージ)と人口呼吸をするところまで来てしまった。今更だがよく見ると
この倒れた人、俺と同い年くらいだろうか。とっても綺麗な女の子だったりした。マジ美少女。
俺は躊躇いつつも「これは人命救助の為に必要な行為なんだ」と必死に自分に言い聞かせて胸骨圧迫をして……

そして現在、さっきまで女の子の胸元に置かれていた俺の手は、今度は彼女のアゴを持ち上げている。
いくら助ける為とはいえ、女の子の唇を奪っちゃうのはなぁ……と俺はかなり躊躇っていた。マジ俺ヘタレ。
しかし、胸骨圧迫後の人工呼吸は素早く行い、すぐにまた胸骨圧迫を再開しなければならない事を思い出した俺は、
意を決し、心の中でこの見知らぬ女の子に謝罪をしつつ人工呼吸をした。一回やってしまったら後はもう開き直ってしまい
二回目以降は特に抵抗も無く胸骨圧迫も人工呼吸もガンガンやりまくりだった。マジ俺最低。
その後、暫くそんな事を続けていると、女の子の体が微かに動き出した。その事に気付いた俺は彼女を
回復体位という横向きに寝かせる姿勢にしようとした。その時、なんと彼女は意識を取り戻していたらしく、バッチリ俺と目が合った。
だが、やっぱり意識が戻ったばかりのせいなんだろう。結局、救急隊の方々が来るまで彼女はボーっとしていた。
しかし、俺が救急隊へ引継ぎ事項を報告しに行こうとすると突然
「あの、一緒に来て下さいませんか?」
と、女の子は聞いてきた。俺は驚いたが、まあ暇だったし、彼女の容体も気になったので一緒に付いて行く事にした。



580 :動き出す時 1話:2009/08/26(水) 01:33:34 ID:bWoq7LBG
さて、病院で彼女が医者に診て貰ってる間、待っていると恐らく彼女の両親だろうと思われる人達が来た。
救急隊の人達から話を聞いていたのか俺に会うなり物凄いお礼を言われた。こんなに感謝されるなんて
俺のこれまでの人生で初めての経験だった。なんだかここまで感謝されるとこっちが恐縮してしまう。
「たまたま講習を受けたばかりで知識があったから。命を救う為に使うという当然の事をしただけです」的な事を
なんとか伝えたが、「素晴らしい若者だ」みたいな感じに感心されて、より一層恐縮するハメになってしまった。
そんなやり取りをしている間に医者の診察が終わったらしく、女の子への面会がOKとなった。
面会OKなぐらいの状態であることに安心した俺は、親子の面会の邪魔をするのも悪いので帰る事にした。
ところが俺が帰ろうとした時、ご両親に呼び止められた。なんでも娘も礼を言いたいだろうから
時間があるなら娘に会って欲しいそうな。俺は親子水入らずの邪魔をしたくない旨を伝えたりしたものの
色々と話し合った結果、何故かご両親の後に彼女と1対1で面会する事になった。なんでだ。
そんな訳で暫く待機した後、ご両親が病室から出て来て「どうぞ」と促された。見ず知らずの男を娘と個室で二人っきりにするとは
この両親は心配ではないのだろうか? さっきのやり取りでそれだけ信頼されたという事なんだろうかと考えつつ
俺は病室へと入って行った。病室に入ると女の子がベッドの上に上体を起こして座っていた。こうして見ると
改めて綺麗な子だなぁと思った。幼馴染の綾菜(あやな)も世間一般で言う美少女に分類されるが、この子はまたタイプが違う。
綾菜は歳相応の可愛らしさがあるが、この子は問答無用で綺麗に分類されるという感じだった。長い黒髪と切れ長の目。
決してよく見た訳ではないが、スラリとした体。これらがそう思わせる要因なのではないだろうかと思う。
やばい、緊張してきた。と、ふとその子と目が合った時に、そういえば人口呼吸をこの子にしたんだという事を思い出してしまった。
いくら命を助ける為とはいえ、女の子の唇を奪ってしまった事に罪悪感が湧いてくる。そして彼女の傍まで歩いて行き
罪悪感全開の俺の第一声は
「本当にすみませんでしたー!!」
という土下座付きの謝罪であった。頭を床に擦り付けて謝罪をしたが、あまりにも反応が無いので
顔を上げてみると、きょとんという表情をした彼女がいた。
「あの、どうして謝るんですか?」
という質問が少し間を置いて放たれた為、俺は
「その、人工呼吸とか」
と、どもりながら答えたのだが。すると、俺の言おうとしている意味が分かったらしい彼女は何故かくすくすと笑い出したのである。あれ?
「いえ、私の命を助けて下さる為にした行為なのに感謝こそすれ、どうして恨むんですか?」
と、笑いながら彼女は言ってきてくれた。
「でも、やっぱり女の子なんだし申し訳ないなぁと」
「人命救助の為なんですからノーカウントです♪」
お茶目な笑みを浮かべながら「ノーカウントです♪」と言う彼女はとても可愛らしくて、思ったより親しみ易い子なんだなぁと思った。
「それよりも助けて頂いて本当にありがとうございました。」
俺はさっき彼女のご両親に言ったように当然の事をしたまでの旨を伝え、それから暫く色々と雑談をした。
彼女の名前は及川美月(おいかわみつき)というらしく歳は俺の一つ下らしい。俺達はお互いの学校や家族の事なんかを話し
最後にお互いの連絡先を交換し合って別れた。その頃にはお互いに名前で呼び合うくらいに親しくなっていた。
こんな美少女と親しくなれるなんて。父さん、母さん、俺を生んでくれてありがとう。
俺が退室した時、待っていてくれたらしい美月ちゃんのご両親に改めてお礼を言われ、俺は照れながら家に帰る事となった。


581 :動き出す時 1話:2009/08/26(水) 01:34:52 ID:bWoq7LBG
私、及川美月は受験勉強の為、その日は電車に乗り、図書館に行っていた。
家のすぐ近くにも図書館はあるのだが、電車でほんの数駅の所にもっと設備が良い大型の図書館がある為
そこで勉強していたのである。その帰り、夏の暑さのせいか頭がぼんやりとする。そんな事を感じつつ
駅の外に出る階段を登ろうとした時、私はふらつき意識が遠のいた。ついでにその時に階段の手摺りの角に胸を打ちつけた様だ。
私の意識は完全に闇に落ちた。

それから私は何やら体への刺激によって目を覚ました。目を開けた瞬間、私は見知らぬ男性と目が合った。
私と同じかそう変わらないくらいの年頃だろうか。その目を見た時、私はその目の中の優しさと必死さを感じた。
そしてそれは、私が初めて見る目の色だった。どうやら私の容姿は男受けするものだったらしく言い寄ってくる男が多かったが
その誰もが、ただ自分の欲を満たしたいだけの下卑た目をしていた。その為、私は親族以外で信用できる男性というのはいなかった。
しかし、彼の目は違う。真剣に私を助けようとする必死な目、すぐに逸らされてしまったが私はその目に魅了された。
そんな思いに浸っていると救急隊がやって来た。そこで私は我に返り焦った。このままでは彼との接点が無くなってしまうと。
「あの、一緒に来て下さいませんか?」
それは、無意識に出た言葉だった。言い終えてから声が出ていた事に気付いたくらいである。
私の命の恩人であり、初めて見る目を持つ男性。この人との出会いをここで終わらせたくないと私は必死だった。
病院で診察も終わり、面会を許された私の所に最初に訪ねて来たのは両親だった。具合も大分良くなり
今日は様子を見る為に病院に泊まるが心配は無い事を伝えると喜んだ。その両親から例の男性が帰ろうとしたのを引き止めておいた
という話を聞いた時は心の底から感謝した。どうやら両親も彼を気に入ったらしい。
そして、一通り話し終えた後、両親が退室すると、あの人が入ってきた。
私の容態が良い事を知った為か、その目から必死さ等は消えていたが、とても澄んでいる目だと思った。
ふと、彼が私の視線に気付いた様で目が合った後、何故か彼の目の色が困惑と罪悪感が入り混じった色になった。
そして、私の傍まで歩いて来た彼は突然
「本当にすみませんでしたー!!」
と、土下座までして謝罪をしてきた。一体どうして?
話を聞いてみると、どうやら人工呼吸で私に口付けをした事を気に病んでくれているらしかった。
今時ここまで純真な人も珍しいと私は思わず笑ってしまった。私は怒っていない旨を伝え
その後、私達は色々と雑談を交わし、そのうちお互いに名前で呼ぶようになっていた。
雑談をしてる間も彼、祐樹さんは優しくて、そして話すうちに、楽しくて一緒に居ると温かい気持ちになる人だという事も分かった。
どうやら私は目だけでなく祐樹さんの全てに魅了されつつあるようだった。
祐樹さんがそろそろ帰ると言い出した時、私はお礼がしたいからという口実で連絡先を交換し合った。
これで、祐樹さんと私には確かな接点が生まれたのである。その事を内心跳び上がりたくなる程に喜んだ。
しかし、喜んでばかりもいられない。先程の雑談で気になる事もあった。祐樹さんの幼馴染だという綾菜という女性。
祐樹さんはただの幼馴染だと言っていたが話を聞く限り油断はできない。彼女の話をしている祐樹さんの目も何だかんだ言って優しかった。
そんな不安を感じつつも私は祐樹さんを笑顔で見送り、彼と出会う事ができた今日という日に感謝した。
祐樹さんが帰った後、病室に一人となった私は唇にそっと手をやり
「私のファーストキス、ちゃんとカウントさせて貰いますよ」
そう呟いた。