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621 :最高!キネシス事務所☆ 第七話 ◆mGG62PYCNk :2009/08/28(金) 16:20:17 ID:uud5HudE

外人。少女。
盗み聞きするつもりはなかったが目に映せと言わんばかりに校門の前に立ち騒がれては聞きたくなくても耳に入る。
…そして二つのキーワードにより『台風の目』は顔見知りのあの方ではないのか、という一抹の不安が過った。
しかしよく目を凝らしてみるとあの方がよく着ている、白いワンピースが眩しいのだ。昨日とは少しフリルや袖のディティールが違うようだが。

…気分は乗らないが正否を確認するしかない。足取りが重いのがわかる。何故なら台風に突っ込まなければならないからだ。
……そういえば女子生徒からロリコン扱いをされ侮蔑の視線を浴びせられないだろうか?
浴びなくても気まずい事に変わりはない。
自転車のスタンドを外し、正否を確認するため乗らずに付いて歩いた。

段々近づく。
……これはもう正否どころか確定的になってきたぞ。
彼女は無表情ながらも面倒見たがりの女子生徒達の質問責めに人差し指を曲げて口元に持っていったりして、困っているようだ。

あの子だ。エリーだ。

わざわざここに来たということは俺に用があったのだろうか。
間隔がもう数メートル程になったところで彼女も俺の存在に気がつき、視線を向けた。
間近で困り果てているエリーを改めて見ると助けてあげたい気がした。
俺は彼女へ少し呆れたような微笑みを溢し、小さく手を振りおどけてみせた。


―――………


一瞬、目を疑った。
目を合わせた瞬間かすかに彼女の口角が上がったような気がしたからだ。虚ろな目も少し光を取り戻したような。
彼女が歩み寄ってきた。
「川上さん。お疲れ様です。」
「お、おう。」
彼女の変化に動揺を隠せず、妙に頼りない返事をしてしまった。
……よく見れば彼女はいつもの無表情な彼女だった。
女子生徒達は彼女の様子を見て『あの人だったんだね』『よかったねー』などと存外暖かな言葉が出た。
ロリコン扱いされるかもという一抹の不安を払拭できた安心感よりも今は、さっきまで子供の面倒を見る気でいたのに逆に子供に遊ばれているかのような気の方が大きく、恥ずかしくなった。思わず俺は頬を指先で撫で、気を取り戻した。
「今日はどうしたの?」
「はい。 実は近いうちに事務所を改装するとの事で、業者の方と一連の手続きや打ち合わせをする為私がいない方がやり易いと言われ川上さんの所へ来たのです。
ついでに黒川さんの所へ連れていってください」


622 :最高!キネシス事務所☆ 第七話 ◆mGG62PYCNk :2009/08/28(金) 16:23:02 ID:uud5HudE

ふんふん、話が見えてきた。
……あの野郎勝手に話を進めやがって。
手続きや打ち合わせって大分契約進んでるんじゃないのか。

それに、俺のとこじゃなくても他にあてがあるでしょうが。と彼女に言いかけたが、子供に言ったってしょうがない。

「うん。じゃあ行こっか。」
「お世話になります。」

女子生徒達は『バイバーイ』と彼女に声をかけた。


にしても『ついでに連れていってください』か。
まあ子供だからしょうがない、か。
黒川の神経を逆撫でるような事を言わなければいいんだけどね。

のんびりとエリーと歩を進める。
エリー先生によると二人乗りは駄目とのことなのでこうして押していくしかない。

まず近くのだだっ広いドラッグストアで包帯と材料を買うことにした。
横断歩道の信号で止まった。見慣れた制服を着た学生達が自転車を漕いでいっている。疲れからかやたら颯爽と見えてきた。
自転車に乗りたいがエリーがいるのだからしょうがない。来なければよかったのになんて思えば酷にも程があるだろう。

行き交っていた車は止まり信号が青に変わった。

―――それにこうして一緒にいるのも悪くない。俺が止まればしっかり止まり、俺が踏み出せばしっかり踏み出す彼女を見てそう思った。




623 :最高!キネシス事務所☆ 第七話 ◆mGG62PYCNk :2009/08/28(金) 16:25:49 ID:uud5HudE

ドラッグストアは黒川の家ほどに遠くはない。それほど時間もかからずに着いた。
訪れる客を待ち構えるだだっ広い駐車場。頻繁に車が入ったり出たりしている。
自転車の駐車場へ向かい、自転車のスタンドを下ろした。
しっかりついてきた彼女は不思議そうな顔で俺を見つめている。
そういえば彼女に説明をしていなかったな。
「黒川にいろいろ買ってあげるんだ。」
「そうですか。 では、これをつかってください。島田さんにもしもの為と渡されました。」

彼女は徐にポケットから二万円をピラッと出し、俺に差し出した。
……いやいやいやいや。
俺よりもずっと年下の子に奢ってもらうなんて格好がつかない。一瞬揺らいだがなんとか一握りの自尊心が働いてくれた。
「あはは。いいよ。さすがにそこまで困ってないからさ。 そうだ、貯金して財布でも買いなよ。」
ハリボテのような余裕だ。実際財布には数千円しか入ってない。
「何もなければお返ししようと思っていたのですが。」
「いいっていいって。黙ってりゃいいんだよ。君ぐらいの歳の子は反抗しとかなきゃ駄目なんだよ。」
「……そうですか。」
自分のためにお金を使う方が良いに決まっている。
それに、あのおっさんは数十万じゃびくともしないだろうが、まあ痛い目あっとけばいい。
たかが数万円で少し日頃の恨みを晴らした気分だ。


さあ、早いとこ買い物を終わらせよう。黒川のお菓子に少し、いや大分期待している。
味はさることながらこの材料で何ができるんだろうという、びっくり箱を開けるときのような好奇心が湧くんだ。




624 :最高!キネシス事務所☆ 第七話 ◆mGG62PYCNk :2009/08/28(金) 16:27:51 ID:uud5HudE

店内へ入った。クーラーが効いていて外の蒸し暑さから一時的に隔絶された。視線をすぐ近くにあるレジへ向けるとどの列も少しの行列ができていて、店員は忙しそうに会計をこなしている。相変わらず繁盛しているようだ。
まずは一番忘れてはいけない包帯を買わなければならない。買い物かごを持ち、包帯や湿布を置いてあるコーナーへ向かった。
後ろを振り返ってみるとエリーも付いてきている。
彼女はやはり無表情だが、品物に興味があるのか時折品物を手にとって見たりしている。
俺は彼女がよく使う、一番多めの包帯を買い物かごへ入れた。

黒川にメールで頼まれた材料をもう一度確認する。
さっかくエリーも一緒なんだから手伝ってもらおう。
………若い、いや、幼いうちにいろんな事に触れておかないと本当に感情が湧かない子になってしまうかもしれない。

「エリー、これに書かれてるのを探してかごに入れてくれないかな。」
「わかりました。」

俺はエリーに声をかけたあと、携帯を見せた。
エリーはしばらくメールを見つめた後、小走りでどこかへ行ってしまった。俺はしばらく呆けていたがすぐに気を取り戻し後を追ってみると。
唖然。彼女は小麦粉がたくさん積まれた特売のカーを引っ張りどこか誇らしげに俺を見つめていた!!
「こ、こらこら!!そんなにいらないから!!」
「そうですか。」
主婦の方々にクスクスと笑われている。
顔が熱くなった。




625 :最高!キネシス事務所☆ 第七話 ◆mGG62PYCNk :2009/08/28(金) 16:29:50 ID:uud5HudE

なんとか困難を切り抜け買い物を済ませ、店から出た。
エリーは知らん顔でいる。あまりに反省の色のない表情に咎める気を殺がれた。

駐車場から出、黒川宅へ向かっている。
ようやく黒川のマンションが見え始めてきた。
……しかし一応注意しておかないとマジで第二の火災現場を作り上げかねない。
だが、どんな注意の仕方をしても世間知らずのエリーなら黒川の敏感な神経を逆撫でしてしまうかもしれない。暗いア○レちゃんが二人いるようなものだ。
なのでこう言っておこう。

「エリー、家についたらただ黙っているんだよ。優しく見守ってあげるだけでいい。」
「? わかりました。」

これで大丈夫だろう。

ようやく黒川のマンションへたどり着いた。
階段を上り、四階の黒川の部屋の前へ着いた。疲れからの溜め息をついた後呼び鈴を鳴らした。

……?

いないのか?

もう一度鳴らそうと人差し指を呼び鈴へ運んだとき、ガチャガチャっとチェーンを外す音の後、ガチャッと扉が小さく開いた。
ほんの少し開いた隙間から彼女がクマができた右目でこちらを見ている。いや、睨み付けていると表現した方が正しいか。
やはり彼女の雰囲気には慣れない。黒川の刺すような冷たい空気に鳥肌が立ち、身震いをした。

「よ、よぉ。」

「…………………何、それ。」

黒川はしばらく間を置いてようやくボソボソと喋った。彼女の視線はエリーに向いていた。『それ』とはエリーの事だろう。
エリーは約束をきちんと守り、口を閉ざして黒川を見つめている。

「あ、ああ。この子も黒川の心配しててさ。一緒に来たんだよ。」

「………。」

俺はエリーの頭を掴みペコリと会釈させた。

「………っざけんなよ……こんな……ソガキ……かくの………ブツブツブツブツ………。」

まるで物真似でもしているように黒川はエリーと同様目をひん剥き地べたを見つめ、聞き取れないほど小さな声でボソボソと言っている。

「呼んどいてどうしたんだよ。エリーがいたら都合が悪いの?」

「…………フン。」

しばらくして彼女は扉を閉じた。チェーンをかけ直す音も鍵を閉める音も聞こえないということは入れって事だろう。

「入ろう。」

「………はい。」