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660 名前:不安なマリア[sage] 投稿日:2009/08/30(日) 23:19:58 ID:VBLu33dI
2レス消費です

マリアは、自国の歴史や政治について彼女の同僚のような感傷をもたなかった。
しかし、奇妙なことだが、それでも彼女の軍務への使命感は失われなかった。
それはマリア・ソネンフィルドという人間のもっと深い部分で、「軍」が蠢いていたからかも知れない。
叩き上げの軍人で高級将校だった父親は、退役後、満たされぬ戦場への想いを娘のマリアに背負わせた。
反発する妻や娘との間に溝が広がり、飲酒量が極端に増え、家庭内暴力も起こすようになった。
そんななかで妻は家庭への興味を失い、家に帰ってこないまま、数ヵ月後モーテルで強盗に殺された。
10代のマリアにとって全てはあっという間だった。転落というには余りにも凄絶な仕打ち。
貧しく学校に通えない彼女に残された選択肢は皮肉にも、死んでも行かないと誓った軍だった。
父の人脈は何かと彼女を助けたが、彼女は自らの運命とわが身に鞭打つように、厳しい道を選び続けた。
それは、ぼろぼろになりながらも自らの過去を捨てきれずに戦う、マリアの悲しい姿だった。

家庭は彼女の心に喪失と崩壊、変化への恐怖を植え付け、生涯の不安の源となっていた。
彼女が叩き上げで現場指揮官の地位を目指したのは、不安の克服を目指す意味もあったかも知れない。
父親をはるかに上回るペースでマリアは昇進していったが、その努力はもはや無意味なものだった。
見返そうとしていた父はすでにアルコールがたたり、脳に機能障害を起こしていたのだった。
目の前の状況を認識する能力が極端に衰え、戦場で患った耳はほぼ聞こえない状況に陥っていた。
それから、彼女にとって軍は父を見返す場ではなく、唯一の居場所となった。
皮肉にも一時的に認識が回復したのは、ザンジバルでボロボロになったマリアとテレビ電話で通信した時。
医者は、精神的にきわめて強いショックを受けたからだろうと説明した。
しかし、出てくる言葉が「死ね」とはな・・・。彼女は自分の人生を嘲り、呪った。
結局、自分は父の呪縛を乗り越えられないまま、自分の目標すら見失った馬鹿者だったのだ。
あの青年は生きろと言ってくれたが、もはや遅かったのだ。軍を唯一の場所と選んだ時点で・・・。
ここまで絶望してもマリアが自殺しなかったのは、やはりジョナサンの存在があったからだ。
ジョナサンの所属するNPOが国外退去となり、出国のため基地に来ることを彼女は知っていた。
そして、マリアの病室を訪れた彼は再び彼女を絶望と孤独から救いだした。
軍でも両親でもない存在が、はじめてマリアの心にあふれ、その隙間を埋めるようになった。