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176 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:08:02 ID:+Zb+9Sog

みなさん、はじめまして。
ぼくのなまえは『めたるすらいむ』っていいます。
ひらがなだけでよみにくい?がまんしてください。
いっしょうけんめいにんげんのことばをおぼえたんです。
さて、ぼくはいまとあるまちのちかくにいます。
めのまえにおんなのこがいます。
ないています。
ぼくをみつけました。
とびかかってきました。
ぼくはつかまりました。
だれかたすけてください。

泣いていた女の子…すなわち盗賊くんは教会の階段を三段跳びで駆け上がり、
勇者(とお邪魔虫S)の病室へと一目散に駆け込んだ。
バタンと開かれるドアと、盗賊くんのうれしそうな声。

「見て、勇者!銀色の珍しい魔物だ!メタルというぐらいだから売れば
高くなるんじゃないかな?私が見つけてきたんだ。この前のパイルドライバー
の一件はこれで償わせてくれ!…な…。」

目の前に立ちふさがった不都合な現実が、盗賊くんの口をふさいだ。
真っ白なシーツに広がる、真紅の花。…血?
憎きお邪魔虫がベッドに横たわり、勇者が上に荒い息をして覆いかぶさっていた。
二人とも着衣は乱れ、さっきまで行われていたであろう行為の激しさを
容易に想像できる。
ぽたり。両眼からにじみ出た滴が頬を伝わり、木目の浮き出た床に
またひとつ、またひとつと落ちていく。
盗賊くんの心の中には、どこかしら楽観的な自分がいた。
勇者と私は、たとえ勇者が表にださなくても…お互い尊重しあい、助け合い、
何より愛しあえるなかだと。
なのに…。
目の前の光景は…。

「勇者…信じてたのに…あんまりだよぅ…うぇ…うええええええええええん!」


177 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:09:51 ID:+Zb+9Sog
「風邪にはリンゴです。」

僧侶ちゃんが突然切り出してきた。

「リンゴは医者いらずの果物です。風邪ひき勇者さんにはリンゴしかないはずです。
ですから私が剥いて差し上げます…その…ウサギ風に。」

僧侶ちゃんは自分の枕元に置いてあった果物かごからリンゴをひとつ取り出し、
傍らの椅子の上から聖なるナイフを取り出した。
自分の傷も癒えていないのに、痛くないのだろうか?
質問しようとして…僕はやめた。彼女に背を向け横になる。
今、僧侶ちゃんと会話をするのが怖い。今まで付き合ってきたがこんな風に
感じたことなどただの一度もなかったのだ。
鼻歌を歌いながらリンゴの皮をむく僧侶ちゃん。部屋にはその音しか響かない。
さくっ。

「いた!」

聞き捨てならない音と声に僕が飛び起きる。隣の彼女は若干涙目になり
指先を見てめていた。赤い筋がスウと走り、そこから血の線がみるみる
伸びていく。
彼女の隣にはもっと悲惨なものがあった。リンゴのぶつ切りがそこにある。
…僧侶ちゃん?さっき君は皮を剥くと言ってなかった?何コレ。
これでどうやってウサギにするの?皮と一緒にウサギへの進化の過程まで
きれいさっぱりそぎ落とされているんですけど。

「…見たな。」

僧侶ちゃんの背後に人魂が揺らめきだす。顔に黒の縦線が入り、
目から輝きが消える。

「…僧侶ちゃん。もしかしてキミ…。」

「…勇者さん。料理ができない女の子ってお嫌いですか?」

「へ?」

「私…料理なんてしたこと無いんです。」

何…だと…。

「…でも、私へこたれません!勇者さんは私がいないと駄目なんです!
私の料理がないと四六時中おなかペコペコでいなくてはなりません!
そういうことで…私はこのリンゴを攻略して見せます!」

小さく拳を握りしめる僧侶ちゃん。その横にいる僕の顔は蒼白だ。
料理下手な幼馴染は小説や娯楽本のネタにはなるかもしれないが、
実際それを食べさせられる身としては心底恐ろしい。

「あ…そうだぁ。勇者さん。これからは私が毎日ご飯を作って差し上げます。
…私以外の人が作った料理…絶対に食べてはいけませんからね。
勇者さんのおなかは、私の気持ちがいっぱい詰まった料理でしか満たせないんです。
約束ですよ…?フフフ…痛っ!」

目の前で調理されていくのは、僧侶ちゃんの創作料理『ブラッディ・りんご』。
ざく切りにされ、芯しか残っていないようなリンゴを処女の血で優しく
デコレートいたしました…。みたいな?

「喰えるかー!」

178 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:11:24 ID:+Zb+9Sog
僕は熱で朦朧とする頭もなんのそので絶叫する。彼女に対して負い目を感じている
のは事実。道中は言うことを聞こう。只、食べ物を粗末にするのは堪忍できない!

「ナイフを貸しなさい僧侶ちゃん!僕がリンゴ剥いてあげるから!」

「嫌!勇者さんは私がいないと何もできない人でいるんです!私が勇者さんを
一生支え続けるんです!勇者さんは私から離れられない人になるんです!
それなのにここでリンゴの皮むきから教わったりしたら…私の立場が!
駄目ったら駄目!らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

僕は抵抗する僧侶ちゃんに覆いかぶさり、ナイフを奪おうとする。
僧侶ちゃんは僕に必死で抵抗する。第三者の目から見ればバカなことを
やっているが、それぞれ熱と興奮で冷静な判断がつかないでいるのだ。
着衣は乱れ、互いの顔には汗の玉が浮かび、呼吸は自然と荒くなる。
やっとのことで僕が彼女の手からナイフを取り戻したその時…。

ガチャ!

「見て、勇者!銀色の珍しい魔物だ!メタルというぐらいだから売れば
高くなるんじゃないかな?私が見つけてきたんだ。この前のパイルドライバー
の一件はこれで償わせてくれ!…な…。」

盗賊くんが入ってきた。


僕ら一行の間の悪さは言い表すのも億劫なほどのものだ。このタイミングでは
僕と僧侶ちゃんの関係を誤解されても仕方がない。
しかし、このまるで神にでも嫌われているかのようなタイミングは
一体何だというのだろうか?
部屋に入ってきた盗賊くんは、顔面蒼白で唇をわなわなとふるわせている。

「勇者…信じてたのに…あんまりだよぅ…うぇ…うええええええええええん!」

「ちょ…違うんだ盗賊くん!誤解なんだよ!」

「クスッ。とことん無粋な方なのですね。…雌犬。」

かすかな笑い声とともに聞こえてきた僧侶ちゃんの言葉。僕は信じられない
気持で。彼女の方を見た。
…ああ、やっぱり違う。昔静かな湖畔で見せてくれたあの優しそうな
笑みは見当たらない。
他の人にはわからないであろう幽かな笑い方の違い。それが僕にはよりつらく感じられる。
一緒に変わらぬまま過ごしてきた分、彼女が少しでも変化していることに
言いようのない恐怖心が心にわき起こるから。

「見ての通り、勇者さんと私は結ばれました。折角ですから祝福して
いただけませんか?」

179 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:12:17 ID:+Zb+9Sog
「な…!僧侶ちゃん!嘘も大概に…。」

僕が僧侶ちゃんを叱ろうとした時、僧侶ちゃんと僕の目が合った。
黒い瞳が不気味な光を放つ。
ダメデスヨ、ユウシャサン。ワタシニサカラッテハ。
僕の唇が見えない力によって麻痺させられたように力を失った。

「処女の血で汚されたシーツ、乱れた着衣…これ以上の説明は不要でしょう?
私と勇者さんの愛の営みを祝福するつもりがないならお引き取り下さい。」

状況はあっているよ!だけど描写が間違っているでしょ!
処女の血って…処女が流した血ってことでしょうが!大体僕ズボン履いたままだし!
盗賊くん、気づいてよ!これは僕のアホな幼馴染がリンゴの皮むきで自爆した
だけの産物であって…。

「勇者!ゆうしゃゆうしゃ…わああああああああああああん!」

ただその場で駄々をこねる子供のように泣きじゃくる盗賊くん。
よほどの興奮状態なのか、僕の話が耳に入っていない。
そして、とうとう堪え切れなくなったのだろうか?抱えていた銀の
物体を放り出し、走り去っていってしまった。

「…僧侶ちゃん。後で盗賊くんに謝ろう。」

「どうしてです?すこしからかっただけではありませんか。」

「駄目だよ!彼女が傷ついているのは分かっているだろう?
盗賊くんはデリケートなんだから、少々の悪戯でも深く傷つくこともあるでしょ?
大体、なんでそんなに盗賊くんを嫌うのさ!?」

「盗賊だからです。私から大切なものを奪おうとするからです。」

「あんなにまで酷いからかい方をしてまで僧侶ちゃんが守りたいものって何!?
仲間より大事なものって何なのさ!?」

「…ここまで鈍い人だとは、正直考えていませんでした。まあ、可愛いですけど。」

「…?」

僕が言葉の意味を理解できず、悩んでいると。


180 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:13:25 ID:+Zb+9Sog
「勇者ク~ン。薬買ってきたよ。」

魔法使いさんだ。僕を視界におさめるとにこりと微笑んでくれる。
その笑みに少し荒んでいた心が柔らかくなるが、なんだろう?
少し僕を見る目が以前と違う気がする。何か熱を持っているような…。
僧侶ちゃんが僕の袖を引く。『デレデレするな』?分かったよ。

「ありゃりゃ?どうしたのこの状況。」

僕はふてくされたような表情を浮かべる僧侶ちゃんを視界に入れながら
状況を詳しく説明した。

「なるほど。じゃあ、アタシが連れ戻してくるから二人とも寝てて。
…勇者クン。本当に間違いを犯しちゃだめだぞ!」

いたずらなスマイルを残し再び出ていく魔法使いさん。癒される~。

「うわぁ。すごくびじんなひとですね。」

…誰?

僕と僧侶ちゃんは顔を見合わせる。子供のような少し高めの声だ。

「ここですよ、ここ。」

メ…メタルスライム!?

「はじめまして。ぼくはめたるすら…うわ!やめて!こうげきしないで!
うひゃああああああ!?」

僕の中に眠る冒険者としての本能が呼びさまされる。この世界で生きる者は
どうもこの魔物に対しては情けが無くなるのだ。こいつを倒せば僕は
冒険者として高みに…。

「めっせんじゃー!ぼくはゆうしゃさんへのめっせんじゃーです!」

181 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:14:25 ID:+Zb+9Sog
「ゆうしゃ…私は、お前のことが…。」

町から離れた森の一角。古びた切り株の上に腰を下ろし、盗賊くんは独り
犬のぬいぐるみを抱きしめていた。

「…好きだ。今も、好きだ。」

しまっていた気持ちを言の葉に紡ぐ。森の中を涼しい風が音をたてて
通り過ぎていく。
盗賊くんが旅をする理由。それは勇者。ただそれだけ。
だから、どんな危険な旅でも恐れない。

「私は盗賊。盗み出すのが仕事。…ならば…!」

勇者のいる教会の方角に強いまなざしを向ける。そして…。

「出て来い。いるのは分かっている。」

盗賊くんが、一本の大木に向けて言い放った。

「先ほどから私の様子を観察していたな?何者だ貴様。姿を見せろ!」

ナイフを抜き、構える盗賊くん。油断のない構えが見えない敵を見据える。
盗賊くんの左足が地を蹴ったと思うと、次の瞬間には盗賊くんは大木の
すぐ近くに迫っていた。
まったくの無音で間合いを詰めたのち、素早く大木の後ろ…敵のいる
方面へ回り込み、ナイフで一閃する。
しかし、その刃が大木の裏に潜んでいた影に届くことはなかった。
影の呪文の詠唱が響き、盗賊くんへ炸裂する。

「この呪文は…!なぜお前が!?」

森の中、盗賊くんの悲鳴が響きわたり…やがて静かな森に戻った。

182 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:15:34 ID:+Zb+9Sog
ベッドに腰掛け、僕は眼を丸くしてスライムの話に聞き入っていた。

「船を出してくれる?次の町で?」

スライムはうなずく。
山に囲まれた地形に位置するダーマ。その近くの山の麓にある海洋貿易国
ポルトガ。造船業の町から始まり、恵まれた海洋資源を利用して
たった数代で有数の超大国になった国だ。
ここに着けばダーマの神殿は目と鼻の先。
話によると、その国の近くで最近名をあげている謎の盗賊『カンダタ』が
勇者の僕に会って直接話がしたいというのだ。
スライムはその話を僕に持ってきてくれたらしい。
次の町から出ている船を手配したので、いそいでポルトガまで向かってくれ
ということなのだ。

「聞いたことがあります。素顔を見せぬ謎の盗賊…。おそろしく強く、
あくどい商人から奪った金品を貧しい方達に配り歩く義賊…。
そんな人がなぜ勇者さんに…?」

理由は分からない。何かの罠かもしれないが、メタルスライムを
メッセンジャーに起用するあたりが罠にしては手が込みすぎている。
一流の魔物使いでない限り、このような真似はできないだろう。

「分かった。僕たちはポルトガに向かう。…それでいいですか、僧侶ちゃん。」

「ええ、結構です。」

にこりと僧侶ちゃんは笑った。



「起きて、盗賊クン。おきなさ~い!」

盗賊くんの目が開く。魔法使いさんが傍らに座り、ほほを軽くたたいている。

「よかった起きて。倒れているのを見つけたんだ。気分どう?」

「魔法使い…?私は何を…ウッ!?」

頭が割れるように痛む。自分が何をしていたのかさっぱり思い出せない。
加えて、頭の中にかすかだが変な声が響くのだ。

「う…ううううううう。頭が割れる…。」

「ありゃりゃ。どうしたの?誰にやられたの?」

「ううう?やられた?私が…か?」

駄目だ。さっぱり思い出せない。頭が痛い。自我を保てない。自分が自分で
無くなるかのようだ。

「…大丈夫だよ盗賊クン。外傷はないみたいだし、一日休めば楽になるかもよ?
勇者クンも僧侶チャンもまだ調子戻らないし。おぶってあげるから
帰りましょ。」

崩れ落ちるように魔法使いさんの背に体を預ける盗賊くん。

「…ゆうしゃ…わたしは…。」

ぽつりと言葉を残すと、盗賊くんの意識は闇に落ちた。

183 名前:そして転職へ  9[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 13:16:44 ID:+Zb+9Sog

それとほほ時を同じくして、ここはとある山に隠された洞窟。
国が急発展するとともに増えた盗賊たちをとらえるための牢獄だったところだ。
もう国はこの牢獄を放棄したが、ここは今も使われている…魔物の
住処として、そして盗賊団のアジトとして。

ぐおおおおおおおおおおおおおお!

雄たけびをあげて、オオカミ型の魔物が牙をむき出しながら人影に向かい
飛びかかっていく。
後を追うようにたくさんの同種の魔物が一斉に襲い掛かる。
彼らの凶暴な攻撃は、城の兵士の鋼の防備もものともせぬほど強力だ。
加えてこの大軍。標的の運命はきまったようなものだったが…。

「地獄のいかずち。」

なにやら聞いたような単語を人影が口にし、呪文を唱えると紫色の
稲妻が魔物の群れを蹴散らしていく。
肉が焦げる音が辺りに広がっていく中、ひとつ目の巨人が人影の
後ろに回り込み、何もかも粉砕する大棍棒を振り上げ、その
脳天をカチ割ろうと…。

「うりゃ。」

横なぎの一閃。剣というより斧の形状をしたソレはまるで熱した
ナイフでバターを切るように巨人の胴体を割った。
人骨のような黄ばんだ白身の武器、その武器には赤く眼を光らせる
髑髏が笑っている。
そしてそれを軽々と扱う人影…男は、年の程四〇前後といったところだろうか。
精悍な顔だちをしているが、口元は無精ひげでおおわれどこか荒々しさを
感じさせる風貌だ。くわえて男の体にはひどいやけどの跡がある。

「うーい。アジトの大掃除、終わり。」

ぽつりと男はつぶやくと、無造作に剣を投げ捨てる。
管理しておく必要はない。この男以外世の中でこの剣を扱える人間は
いないのだから、盗まれる心配はないのだ。

「…早くこねえかな、アイツ。もうそろそろメッセージが届いているころだろ。」

ぽつりとつぶやいた男の眼には、どこか暖かい光があった。