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739 :不安なマリア3 後編:2009/09/05(土) 02:38:45 ID:dxtRyoM1

母が家を出て行ったそうだ。昨晩からの酒でグズグズになった父が泣きながら話した。
父は母が実家に帰ったのだと言うが私は違うと思う。
一ヶ月ほど前から、母の外出が多くなっていることに私は気付いていた。
以前に比べ、不自然なほど頻繁で、不自然なほど帰りが遅かった。
しばらくすると、私が家で母と話すことはすでに稀になっていた。
10日ほど前、街で見かけた、母と腕を絡ませる若い男。
彼女は彼と暮らすのだろうか。彼女は幸せなのだろうか。私などいなくても良いのだろうか。
18歳の少女の心には疑問が溢れていた。

彼女の実家から絶縁状が届いたのが、それから一週間後。これで我が家は収入源を失った。
そしてその数ヵ月後、彼女は射殺体になった。どこかのモーテルで、恋人と一緒に。
葬式への参列は拒否された。父が母をなじるときの口癖を思い出す――『あの女』。
母にとって私がマリアという名の少女でしかなかったように、私にとって母は『あの女』になった。

・・・・・・・・・・

その日は一日中、営業と配達が集中して忙しすぎていた。
あまりに疲れて、仕事の合間には同僚の女性ともども車内で眠ってしまった。
彼女に至っては、戻ったら店長に文句をつけてやると息巻いていたほどだ。
そうして一旦店に戻ろうというときに家から電話がかかったのだった。
しかし、マリアは呼びかけに応じず、何か低い呟き声だけが聞こえた。
「わたし・・かける・・いった・・・・あの人・・いてくれ・・・いつも・・・ならず・・」
彼は不安になり、家の事情を知る同僚に後を頼んで帰宅したのである。

駆け込んだ彼の眼に飛び込んできたのは、椅子から落ちて倒れ伏す妻の姿だった。
「大丈夫か?!椅子から落ちたんだな。どこか痛いところはないかい?」
部屋は荒らされておらず、強盗の類ではないようだ。
しかし、ブルブルと怯えたように身を震わす彼女の姿は尋常ではない。目もどこか虚ろだ。
抱きしめて頭を撫でながら、落ち着かせるように声をかけなおした。
「もう大丈夫だから。ゆっくり深呼吸して、落ち着くんだ。」
しばらく震えていたマリアだったが、落ち着いてきたのかゆっくりと抱き返してくる。
目立つ怪我も無く、事情を聞くのは後回しになった。



740 :不安なマリア3 後編:2009/09/05(土) 02:41:32 ID:dxtRyoM1

――ジョナサン、来てくれたんだな。やっぱりあなたはいつも私を助けてくれる。見ていてくれる。
ジョナサンの心配げな表情が、なぜかマリアを妙に安心させた。
何か聞かれたがそれには答えず、ただ抱き返す。仄かに女物の香水の香りがした。
知らない香りだ――疑念がもたげたが、しかしそれよりも早く、意識が飛んだ。
次に目覚めた時、マリアは寝室のベッドの上だった。窓の外は既に暗く、だいぶ時が過ぎたようだ。
「ジョナサン。」
ドアの向こうはすぐにリビングだ。声をかけるとすぐに答えが返ってきた。
「やぁ、気がついたね。今日は大変だったな、腹が減ったろ?いま食事にするから。」
夫の声に安心する。足りない。彼の顔が見たい。彼と話したい。
しかし、何より確かめたいことがあった。あの香水の香りは何なのか。
「あなた、その・・・来てくれないか。顔が、見たいんだ。」
わかった。と短く答え、ジョナサンが寝室に来た。

疲れているのか眠たそうな目だが、それでも快活な調子で話している。
「よく眠れたみたいだね。痛むところはないかい?気分は?」
ちがう。私がしたいのはそんな話じゃない。
「ああ、おかげさまで大丈夫だ。・・・今日はすまない。また心配をかけてしまった。」
暗い顔で謝るマリアに「いいさ。間に合って良かった」と彼は微笑んだ。
沈んだ気持ちが少し晴れる。この温もりがあったから生きてこれた。失いたくない。
「ありがとう。・・・それで、ちょっと聞きたいことがあるんだ。」
「忙しかったのは分かっている。馬鹿なことを聞くなと思うかもしれない。」
「ただ、電話・・・、どうしてかけなかったんだ?ちゃんと、教えてほしい。」
一瞬、怪訝な表情をしたジョナサンだったが、すぐに真剣な面持ちでマリアを見つめる。
「やっぱり心配かけてたんだね。すまなかった。」
彼は言い訳もせず、ただ素直に謝った。

しかし、マリアの表情はぞっとするほど冷たかった。
「・・・どうしていきなり謝るんだ。忙しくてできなかっただけだろう?」
血相を変えるマリアに驚いたジョナサンは言葉が詰まってしまった。
「そ、そうだよ。今日は外回りでずっと忙しくって・・・。」
「じゃあ、なぜそんなしどろもどろなんだ。どうして堂々と言ってくれないんだ。」
疑念はどんどん深まる。彼女は核心へと踏み込んだ。
「・・・教えてくれ。他所に女がいるのか?もう私など嫌になったのか?」
虚ろな目で静かに激昂するマリアの疑惑にジョナサンは困惑した。
「何を言ってるんだ?なんでまた浮気の話になるんだよ。」
慌てて必死に否定する夫の言葉が嘘にしか聞こえない。
「香水だ。さっきあなたから私の知らない香水の匂いがした。説明してくれ。」
一転、静かになった夫に感情が爆発する。
「説明しろッ」と叫びながら手元の物を投げつけた。
「あなたは私だけのものなのにッ。あなたも私を裏切るのか。『あの女』みたいにッ」



741 :不安なマリア3 後編:2009/09/05(土) 02:44:55 ID:dxtRyoM1

「違うッ」
ジョナサンは彼女の言葉を大声で遮り、肩をつかんでその目を見た。
「違う。それは君の不安だ。いいかい、僕は丸一日外ですごく忙しかった。」
「香水の匂いは営業先か、一緒に回ってた同僚の女の子のがついたんだろう。」
「なんなら店長に今日のことを聞くといい。でもそんなに僕を信じられないのか?」
いつにない迫力の夫に圧倒され、虚脱したマリアは彼の言葉に聞き入った。
そして虚ろな目のまま、ふるふると首を横に振る。
「なぁ。今日電話をかけられなかったのは謝る。僕もいい加減だった。」
「でも信じてほしい。お願いだ、信じてくれ・・・。」

祈るように振り絞る彼の声に、マリアは我に返った。
強く掴まれた体がカタカタと震えだす。ありえない疑いをかけてしまった。
毎日、懸命に働いて家庭を守ってくれていたのに・・・。
仕事、介護、家事・・・。考えてみれば彼に浮気する時間などなかったのだ。
「う・・あ・・・、ごめ、なさ、い。うぐ・・ごめんなさい、ごめん、なさ、い。ごめん、グス・・・なさ」
「わた、わたしひどい、ことを。なん、て・・ひど、ひどい、ひど、い・・・うぁ、あ・・・」
――あの呟き声だ。ジョナサンは顔面蒼白になった。
床に倒れながら震えていたマリアが脳裏に浮かぶ。やりすぎてしまった。
ジョナサンは妻を抱きかかえ、呟きを止めようと彼女の唇にキスした。

ジョナサンはキスしながら何度も謝った。
そして、これからはいつでも電話に出るし、こちらからもかけると約束した。
マリアは最初、突然の口づけに驚いたが、じき落ち着くと夫に身を任せた。
次第に熱を帯びるキスが、その後の行為に結びつかないのがもどかしい。
かわりに彼女は、先ほどの夫の不安げな表情とその後の微笑を思い出して果てた。
そうして達すると彼女は、フェラチオで夫に応じた。
「・・・ふふ。ずいぶん溜まっていたんだな。」
全て嚥下したマリアが、ジョナサンの腕に取りつき妖艶に微笑んだ。
「良く分かったろう。僕には君だけなんだよ。」
「済まなかった。私がどうかしていたんだ。でもあなたを失うかと思うと気が狂いそうで・・・」
その先をふさぐようにジョナサンは無言でマリアを抱きしめた。

眠りそうな彼女の脳裏に浮かんだのは、なぜか夫の不安げな表情ばかりだった。
思い出すたびに妙な恍惚感を感じ、どうしても口元が緩んでしまう。
また彼を心配させれば、きっと彼は今みたいに私だけを見てくれるだろう。そう、確信した。