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468 :少女 作倉 奈緒輝の場合 [sage] :2009/10/16(金) 13:24:18 ID:/O440q4V
「私は悠里のことが好き。ひとりの男性として愛しています。」

私は勇気を振り絞って、自らの想いを悠里に伝えた。
少なからず希望はあった。心のどこかに、悠里は受け入れてくれるだろうという気持ちがあった。ずっと一緒にいて、悠里の事を理解できているつもりだった。

けれど、それは思い違いだったと知ることになる。

「…ごめんな。俺は奈緒輝の気持ちには応えられないよ。」

どうして。私はたまらずそう尋ねた。悠里はいった。私のことは大切だと。最高の友達だと。そして…私を失いたくない、と。

そんなのって、ずるいよ。そんな風に言われたら、泣くわけにいかないじゃん。
失いたくない? 私は、悠里がそう望むならずっとそばにいてあげるのに。
誰も愛せない、ってどういうこと? 一体君に何があったの? …私じゃ、だめなの?


私は今にも溢れ出しそうな涙を堪え、笑顔でいるよう努めた。

「ずっと私と友達でいてね? 約束だよ?」

そう言って指切りげんまんをするのが精一杯だった。
自転車で走り去っていく悠里を見送る。彼の姿が見えなくなって、ようやく私は我慢することをやめた。
まるで子供のように、その場にへたり込んで泣いた。胸が押し潰されそうなほど苦しい。私たちは…"友達"でいられるのだろうか。もしくは…そう考えると、今度は恐怖が思考を支配した。
嫌、私だって失いたくない。

「苦しいよ…悠里」


469 :少女 作倉 奈緒輝の場合 [sage] :2009/10/16(金) 13:26:16 ID:/O440q4V
次の日の朝、教室に悠里の姿はなかった。瞬時に、悠里のことが心配になった。
昨日無事に帰れたのだろうか? そういえば昨日の夜はメールをしていない。まさか、事故にでも遭ったのだろうか―――

「心配しなさんな、奈緒輝クン?」

そのひとことで、私は我に還った。声の主は、悠里の友達の、ライトくんだった。
本当は彼の名は"よりひと"と言うのだけれど、私を含め大多数の生徒には"ライト"で定着している。

「…ふむ。」ライトくんは私の顔を見ると首をかしげて言った。

「冷たい水で顔を洗ってくるといい。といってもこの時期、どこの水道水も生ぬるいがね。レディの眠りを醒ますには、ちょうどいいはずだ」

彼の言い回しは、少々キザったらしいところがある。けれど不思議なことに、ライトくんにはそれがしっくりくるのだ。私たちなんかより、数段大人びて見える。
理性と知性を兼ね備えた、聡明なひとだ。私はライトくんの言う通り、水道で顔を洗いに行った。

ばしゃばしゃと顔をすすぎ、ハンカチで拭く。目の前の鏡に映る自分の顔を見てみた。…目が赤い。
ライトくんは、察したのだろう。私が昨日一晩中泣き明かしていたことに。だから遠回しにああ言ったのだ。

「目は醒めたかい? お姫サマ」女子トイレから出るや否や、またしてもライトくんに出くわした。

「目の疲れ、充血には目薬。これ鉄則也り」ライトくんは私に、ポケットから出した点眼薬を差し出した。よく見ると、使用した形跡がない、新品だ。わざわざ用意してくれたのだろうか?

「…ありがと。」私は俯きつつ、彼に礼を言った。

「なんの、どこかの阿呆が寝坊してその勢いでサボったのに比べれば、君は十分に素直さ」
「…寝坊? もしかして、悠里のこと?」

ライトくんはしかし、ふっと微笑むとこう言った。

「―――大丈夫、君は彼に必要とされているよ」

私は今度こそ驚きを隠せなかった。まるで私の心を見抜いたかのような言葉に。ずるいことに、ライトくんはそれだけ言うと立ち去ってしまった。


470 :少女 作倉 奈緒輝の場合 [sage] :2009/10/16(金) 13:28:47 ID:/O440q4V
日中を通して、私は悠里に連絡をしようかしまいか迷った。けれども、結局勇気が出なかった。その日は家に帰り夕飯を済ますと、携帯を握りしめたまま、眠りに就いた。

翌日、ごく普通に悠里が来た。不思議なことに、私は悠里を目の当たりにしていても落ち着いていられた。

「おはよう、悠里。具合はどう? ライトくんから聞いたわよ。すごい熱出したって」その言葉は、自然と口からこぼれた。いつもと変わらない、友人を心配する私。

悠里は「心配かけてすまない。もう大丈夫だ」と言った。
でも駄目だ。悠里の声を聞いたとたん、急に胸が苦しくなった。ライトくんが珍しく神妙な顔をして私たちを見ている。駄目、約束したじゃない私。ずっと友達でいようって。

授業の内容もまるで頭に入らず、ただ機械的に板書を写し取るだけの6時間を終え、私は"いつものように"悠里と二人乗りをして帰路についた。
悠里がペダルを漕いでいる間、私たちは会話ひとつしなかった。次第に悠里の家が近づいてくる。そうすると、この背中の温もりもなくなってしまう。
そう思うと胸が締め付けられるかのように苦しくなる。いやだ。もっと悠里を感じていたい。友達でもいい。もっと私を求めてほしい。

「…ねえ」その言葉は、ほとんど無意識のうちにつむがれた。「今日悠里の家に遊びに行っていい? 久しぶりにスマブラやろうよ?」

私は卑怯だ。"友達の誘い"を、彼が断るはずがない。私は、悠里の弱味につけこんだのだ。彼は二つ返事で了承し、私を家に招き入れた。

部屋に入り、鞄を放るとWiiの電源をつけて二人分のコントローラーを装着する悠里。ほどなくして、対戦が始まった。
私は最初、アイクを選んだ。悠里はスネークだ。結果、飛び道具とCQCを巧みに使いこなす悠里のスネークに敗北を喫した。その後もどんどんキャラを変えては対戦を繰り返した。
最後に私がマリオを使って、ようやく悠里に勝ったところで、一区切りとした。

「よかったら飯食ってくか?」悠里はWiiを片付けながら言った。
「…いいの?」
「ああ。俺だって、たまには誰かと一緒に晩飯も食いたくなるんだ。何しろ、寂しい独り暮らしなんでね」
「じゃあ…もらうね」

私は母さんに、「友達の家で夕飯をご馳走になる」とメールをした。返事は早かった。内容は、「悠里くんの家でしょ。泊まってくの?」と。
うちの両親は悠里を大層気に入っている。なにしろ、私に初めてできたボーイフレンドなのだから。けれど、以前何度か悠里の家に来たが、泊まったことはない。
なのに母さんは必ずこう聞いてくる。いつもなら私は「泊まらないよ」と送り返すのだが、今の私は揺らいでいた。
頭の中を様々な想像が交錯する。駄目だ。そんなことしたら友達ですらいられない。
けれど、私の指は勝手に動いていた。

―――泊まってくよ。

メールは、送信された。


471 :少女 作倉 奈緒輝の場合 [sage] :2009/10/16(金) 13:30:05 ID:/O440q4V
悠里手作りのカレーライスは絶品だった。彼なりのこだわりがあるらしく、なんと悠里はルゥではなくカレー粉と香辛料をを使って作るのだ。
悠里のカレーは、もはやこれだけで料理店を拓けるのではないか、とすら思った。

「親父たちが海外に行って独り暮らしを初めてから研究したんだ。俺的に、今日の割合は最高傑作だ」

なるほど、彼はやりこむと止まらない性格だ。彼の凄まじいゲームの上達ぶりと、このカレーを見れば、途方もない努力の片鱗が見えてくる。

「おいしかったよ悠里。ごちそうさま♪」
「お粗末様、と」

食後は悠里の自室でまったりと、二人でテレビを見ていた。今期の月9は、バスケットボールという今までにない新ジャンル…と思いきや実は恋愛ドラマだった。
見始めて数分で後悔した。昨日の今日で、しかも私たちは今ふたりきり。放送しているのは恋愛ドラマ。非常に重苦しい静寂が、空間を支配している。
また胸が苦しくなった。私は今、悠里を求めている。でもいけない。私たちは、友達なんだ。

「…なんかつまんないし、回そっか?」悠里のその一言が、沈黙を破った。チャンネルがないので、悠里はテレビ本体でチャンネルを変えようと手を伸ばした。

もう、限界だった。
私は悠里がチャンネルを回すより早く手を伸ばし、主電源を切った。暗転するブラウン管。その黒は、まるで今の私の心だ。今から私は、最低なことをする。

「悠里、お願いがあるの」言うと同時に、私は悠里を押し倒した。悠里は、面食らった様子で私を見ている。

「これは友達としてのお願いだよ。…抱いて。」

悠里は私の言葉を聞いて、どうしてこんな真似を、と言った。愚問だよ。どうしてって、決まってるじゃん。悠里が好きだから。
とは言わなかった。

「私は悠里で性欲を発散するの。悠里も、私で性欲を発散すればいい。悠里だって、私で処理したことあるんでしょ? 私も、以前悠里で処理したことある。こうすれば一石二鳥じゃない?」私は自嘲ぎみに微笑んで、そう言った。
悠里は何も言わなかった。何も言わず、体を起こすと私を抱きしめてくれた。そのまま、ベッドになだれ込む。

ごめんな。彼はそう言った、気がした。


472 :少女 作倉 奈緒輝の場合 [sage] :2009/10/16(金) 13:32:39 ID:/O440q4V
悠里は私を、優しく抱いてくれた。初めてで、快楽よりも痛みを感じている私をいたわるようにゆっくりと腰を動かしている。
だんだん慣れてくるにつれて、少しずつ気持ちよくなってきた私は、悠里の耳元で囁いた。

「もう大丈夫だから…悠里の好きなように動いていいよ」

注挿のスピードが上がった。悠里はさっきまでとは打って変わって、激しい。ぐちゃ、ぐちゃと卑猥な音がよく聞こえる。
私は私で、快楽を振り切るように悠里の名前をしきりに叫ぶ。

「悠里…っ、悠里! すk…っ!?」

突然、キスで口を塞がれた。やっぱり悠里はずるい。こんな時ですら、言わせてくれないなんて。
絶頂が近付いてくる。腰の動きも、一段と激しくなった。嬉しい。悠里、私で気持ちよくなってくれてるんだ。

「んん…! ―――! ――――!!」

悠里は、私の中で果てた。避妊具なんてつけていない。でも平気、今日は安全日だから。私も、悠里と同時に絶頂に達した。
それからようやく、悠里は私の唇を塞ぐのをやめた。
「悠里…ありがとう」ぜえぜえ、と肩で息しながら、私はそう言った。


―――――――――――

その日以来、私たちは頻繁に交わりあった。お願いするのは、決まって私の方から。性欲処理、と言い訳をして悠里の温もりを求め続けた。
さすがに二回目以降は避妊具を装着するようになったが、悠里は私の"お願い"を一度も断らなかった。
悠里と繋がっている間は、なにもかも忘れられた。ただ目の前の彼を感じることで、一種の安心感を得ていた。けれど、コトが済むと凄まじい喪失感と虚しさに襲われる。


473 :少女 作倉 奈緒輝の場合 [sage] :2009/10/16(金) 13:34:28 ID:/O440q4V
気が付けば夏休みも終わり、9月になっていた、ある休日のことだ。私は、ライトくんに呼び出されていた。
プライベートで彼に会うのは初めてだった。彼の服装は、Tシャツにパーカー、ジーパンと、ラフなものだった。なのに、幼さは全く感じられない。

「ライトくんって、本当に高校生なの?」
「さて、ね。たまに自分でも分からなくなるんだ」ライトくんは苦笑しながら言った。

私たちは喫茶店に入った。ライトくん御用達の店らしい。中には人が誰もおらず、閑散としていた。

「内緒話をするなら、ここほどうってつけの場所はないさ。それに、ここの紅茶は絶品なんだ」ライトくんはそう言いながら、紅茶をホットで二つ注文した。

紅茶が用意され、ひと口飲んでから私は切り出した。

「話って、なに?」
「君は今…幸せか?」

ライトくんの質問は、予想外だった。この人は、いったいどれだけ見抜いているのだろう?

「…幸せよ。悠里と友達でいられたし。それに、望めば抱いてくれるの」
「無理をするもんじゃない。君は今、これっぽっちも幸せなんかじゃないだろう?」
「…どうしてそう思うの?」

すると彼は一口紅茶を飲み、一呼吸おいてから言った。

「君は悠里の体が欲しい訳じゃない。心が、欲しいんだろう?」

図星だった。彼の言葉は十二分に的を射ている。

「…そうよ。私は悠里に愛されたいの! でも悠里は決して私を愛してくれない。いくらキスしても、肌を重ねても…そこには心がない。
 でも、そうしないと不安で…悠里がいなくなってしまいそうで怖いの。私は卑怯なの! そうでもしないと、悠里を繋ぎ止めておけないのよ!」
私の中にあった、醜い感情を全てさらけ出してしまった。それでもライトくんは目を背けず、微笑んで言った。

「言ったろう? 君は彼に必要とされている、と。大丈夫、今の彼は君の気持ちに応えてくれるよ」


474 :少女 作倉 奈緒輝の場合 [sage] :2009/10/16(金) 13:35:27 ID:/O440q4V
ライトくんと別れたあと、私は悠里の家に向かった。9月ともなると、少し肌寒いものだ。特に、太陽が見えないこんな日は。今は午後5時、わずかに冷たい風が吹き付ける。
私は、深呼吸をしてからベルを押す。けれど、いくら呼び鈴を鳴らしても反応がない。留守…?
どこにいるの? 私はふらふらと、あちこちを歩き回った。そして、それを見てしまった。

悠里が、知らない女のひとと歩いている。楽しそうだ。
嫌。私の悠里を盗らないで。誰なの!? 悠里、どうして楽しそうに笑うの!? 私はそんな笑顔、見たことない!気が付けば私は、手提げ鞄からナイフを取り出していた。

今日私は、ひとつの覚悟をして、来ていた。悠里を、永遠に私だけのものにする。ライトくんは言った。悠里は私の気持ちに応えてくれると。なら…

一緒に死んでくれるよね、悠里?

私は悠里のそばに近づいた。ナイフはまだ、ポケットに忍ばせてある。

「ねえ悠里…その女の人、だれ?」

悠里が口を開く。けれど、なにも言わずどもってしまう。

「誰でもいいや。だってこうすればいいんだから」私は、ナイフを悠里のお腹に突き立てた。肉をスッと通り抜ける感触がする。力は、そんなに要らなかった。

「私もすぐそばに行くから。ずっと一緒だよ、悠里。…愛してるわ」

そして、ナイフを引き抜く。血が、間欠泉のように吹き出てくる。悠里はしかし、苦痛に顔をしかめることもなく、まっすぐ私を見つめて言った。

「…俺も、奈緒輝を愛してるよ」

ぼろぼろになった私の心を打ち砕くには、その言葉は十分すぎた。
どさり、と悠里はその場に倒れる。悲鳴が聞こえた。それは、近くにいるあの女のものではない。

「いや…悠里…悠里ぃ――――――!!」

悲鳴をあげているのは、私だった。