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47 :名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:25:57 ID:lulnS+cQ
鍋の中が白で満たされている。橙の人参、緑のブロッコリー、玉ねぎは少し溶け込む
程度にして、肉は懐具合を考え鶏肉。
中火から弱火へ火加減を調節した後、小林は息をついた。
木製スプーンを取り出して少し味見。…味加減よーし。
「先生…今日も小林の作った料理食べてくれますよね?」
うん大丈夫。明智先生は優しいからきっと完食して『美味しかった』と言ってくれる。
胸のどこかで不安がる自分の弱さにそう言い聞かせ、小林は再び鍋を覗いた。
この量ならばれないだろう。
そう判断した小林は冷蔵庫をあけると、まるで隠すかのように一番下の隅に置いてあった
ホワイトチョコの薄いボードと、チョコペンを取り出した。
そして、ボードにチョコペンで文字を書いていく。
『明智先生 愛しています。』
素早くチョコを冷蔵庫の元の場所に押し込んだ小林は、そのチョコボードを
シチューの中に投下した。
しばらくかき混ぜると、チョコボードは完全にシチューと一体化し見えなくなる。
木製スプーンを取り出してまた味見。多分大丈夫…かな?
「カレーだったらうまく誤魔化せるんだけど…。」
それでも小林は満足げに火を止めて、シチューを寝かしこむ。
事務所が閉まるのは七時。そのころには丁度よくおいしいシチューになっているだろう。
後片付けをした小林は、明智の元へ戻っていった。

「あれ…?先生どこ行ったんですか?」
そこには明智の姿はなく、テーブルの上に一枚のメモが残されているだけだった。
『急用あり。事務所は閉じておいてくれ。晩飯ありがとう。明智』
メモを読み返し、ため息をつく。
「先生…。」
待ってみよう。小林は事務所のドアに『閉』のカードをかけた後、
夕日が差し込み始めた事務所の中で、膝を抱えて座り込んだ。


件名 お元気ですか?
差出人 怪人20面相
内容 助けて。風邪ひいちゃった。住所知っているよね?待ってます。

「ふざけやがって…。」
悪態をつきながら、明智はとあるアパートの階段を上っていた。
「お前とは敵同士のはずなのに…全く。」
目的のドアの前にたどり着いた明智は、インターホンを押す…その瞬間!
「わっはっはっは!ゴホ!ようこそ明智君…ケホッ。」
ドアが勢い良く開き、中から手が一本飛び出してきて明智を室内に引きずり込んだ。
あまり広くない玄関口で、その手の持ち主はドアに鍵をかけチェーンまでしてしまう。
「てめえ…元気そうじゃないか。」
「いやいや。そうでもない。」
その人影は明智の皮肉に満ちた質問を軽くいなすと、明智の手元に目をとめた。
「ああああああお見舞いの品!何かな?メロンかな!?」
「バカ者ミカンだ。事務所の懐も厳しいんだ。」
「ミカンか!さすがは明智君!僕の親愛なるライ…コホッ。」
「寝ていろ病人。あと四半世紀ほど。」
軽口の応酬ののち、人影はベッドルームへと明智を連れて行きベッドに横たわった。
若草色のパジャマ、肌の色素は全体的に薄く、黒髪を伸ばした見かけ明智と同程度の
年齢の女性…美人ということは言うまでもない。桜色の唇はほんのりと色付き、
一見するとどこかのお嬢様にも見えるであろう容姿の持ち主だ。
ただ、口を開けば『僕』という一人称に。付き合ってみればそのあまりの変人ぶりと
裏稼業として怪人をやっているという馬鹿さ加減に多くの人間はそのあまりのギャップに
ついていけなくなるのは自明の理だ。もっとも、本人は猫を被り正体を隠しているが。


48 :名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:28:00 ID:lulnS+cQ
彼女の名前は…誰も知らない。怪人20面相としての名があるだけだ。
彼女のアパートの名札に『金田一』とかかっているのも突っ込んではいけない。
前に明智が彼女のことを金田一と呼んだら、真っ赤になって
『どどどどういうことだい!?何故明智君が僕の本名を知っているのだ!?』
と慌てふためき大変なことになってしまうのでお勧めできないのだ。
自分の正体をわざわざばらしていることにも気付かない彼女のような人物が、
少し前まで日本の美術界を震え上がらせた怪人、20面相であるなんて
世の中本当に不思議なものである。

一年前の夏、明智は怪人20面相を捕まえた…いや、捕まった。
うだるような暑さの中、事務所に可愛い女の子が助手としていてくれたらなと
今の自分から見れば馬鹿な事を考えていた明智の下に依頼人として現れたのが
怪人20面相だったのだ。
「僕の兄さんを探し出して欲しい!」
彼女は開口一番そう言って、明智の目を白黒させた。
彼女の兄は高名な探偵だったらしい。その兄が依頼としてイギリスの
名門ドッグゴッド家へ旅立って以来消息不明…事件の内容はざっとこんなものだ。
明智はイギリスに留学していた友人に頼み込み、現地で調査してもらった。
そして、日本で待つ彼女へ届いた知らせは…兄の死だった。
彼女の兄はどうやらドッグゴッド家の遺産相続中の事件の捜査にあたっていたが、
その家の長女…とある大学の若き数学教授に一目ぼれされてしまったらしい。
詳しい事は省くが、愛情はもつれにもつれて最終的にその長女は
日本から来た探偵とともに無理心中を図り、二人はもみ合いながら滝壺に
落ちて行ったそうだ。
その知らせを聞いた彼女…20面相はショックを受け気絶してしまった。
これが、今に続く明智と20面相の関係の発端である。


「さあ明智君。あの時のように私を看病してくれたまえ!…ケホケホ。」
熱で真っ赤な顔をしながらも、ピースサインをして明智に20面相がねだる。
その顔に冷たい濡れタオルを強引に押し付けた明智は、部屋の隅から椅子を引きずって
来るとベッドの傍らに置き、自分の荷物の中からみかんをひとつ取り出して
皮を剥き始めた。
「あ~ん。」
事情を察知した20面相は、笑みを浮かべ口をあける。その中に明智がみかんを
一気に二つ三つほど押し込んでやると、彼女は満足そうに咀嚼し始めた。
「お前、本当に悪事から足を洗っただろうな?」
明智は疑わしそうに尋ねてみる。
「もちろんだ。ちゃんと持ち主に謝罪もしたぞ?」
明智と出会った後、20面相は自分のコレクションを全部持ち主の下に
返却し、弁護士を通して賠償も済ませた…極秘裏に。
被害者も表ざたにしなかった理由としては、実は盗品だったりとか、
いわくつきの品だったとか、政治家の黒い金の流れに使われていたもの
ばかりだったので、公表できなかったということがあったりする。


49 :名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:29:31 ID:lulnS+cQ
「兄さんの件は僕にとって残念だが、いつまでも落ち込んでいられない。
兄さんが天国で安心できるように、もっとクリーンな怪人になるよう努力する。」
「いつも言っていることだが、根本的な部分が間違っている。」
明智はため息をつくと、台所へと向かった。
「卵粥でいいよな?俺はそれぐらいしか作れないぞ?」
………。
明智の問いかけに、20面相はなにも答えない。明智はいぶかしんで彼女の方を見た。
「…なあ明智君。君は今までの言動から察するに、僕に怪人を辞めてほしいのだな?」
「当たり前だバカ者。知りあいに怪人なぞいたら俺の社会的信用は…。」
不意にいたずらっ子のような表情になった20面相は、よたよたとした足取りで明智に
近づき、寄りかかった。
「仮に君がそう望むのなら…僕を君のお嫁さんにすればいい!」
………ハア?
「いやなに。他人である君の命令で怪人の職を辞するのは不本意極まりないことだが、
君が僕の旦那様になってくれるというのなら話は別だ。良妻たるもの、旦那様に
怪人の夫などという汚名を着せるのはいかがなものかと僕も思うのでな。」
「オイ、話が全然見えないぞ。」
「ちなみに、Hは週二回。キスは朝と晩での日課。子供は三人程度で
男の子が一人、女の子が二人がベターかな?長男より長女の方が年上なら
なおのこと良し。マイホームは絶対だ…ゴホ。これについては僕も協力しよう。
今の相場なら、ルネッサンス期の中堅画家の絵を七、八ほど盗み出して売りさばけば…。
明智君?何故ごみ箱を漁る?何だそのミカンの皮は。…まさかとは思うが、
君は僕の眼球にそのミカンの皮から汁を飛ばす気か!?
やめてくれ明智君!僕は病人なんだぞ…ホントに病人なんだぞ…。
ぐわああああああああ!目がァ!僕の目…ガクッ。」
「寝てろ。」
ベッドに動かなくなった20面相を抑え込み、明智は再び台所に向かった。
ふと時計を見ると五時を少し回ったところだ。もう小林は帰っているだろう。
あいつの将来について、少し相談に乗ってやらないといけないな。
明智はそう漏らすと、金ザルに米をあけて洗い始めた。


「ごちそうさま。明智君。」
卵粥はすっかり平らげられ、満足げにお腹をさする20面相の姿があった。
「美味しかったよ明智君。君に料理の才能があるとは思わなかった。」
「そんなに美味しかったのか?料理の方は小林に任せっきりで、
腕はとうに落ちたと思っていたけど…。」
明智は少し照れたような笑みを浮かべる。そして食卓の上の食器をまとめて
台所に運ぼうとした。


50 :名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:30:59 ID:lulnS+cQ
「…ちょっと待ってくれ。明智君。」
ガシッ!背後からのばされた手、それが明智の肩に指を食い込ませる。
その制止は口調こそ穏やかなものの、冷ややかで、それでいて煮えたぎるような
何かを孕んでいて、明智の心臓を大きく揺さぶるには十分だった。
「小林?誰の名前だい?察するに君の食事の支度をしているようだが?」
…少し怖い。明智は一瞬自分の中にわきあがった感情に身震いをしたくなった。
すこしあわてたように早口で小林の説明を明智はし始める。もちろん、パニック障害
などの件は極力暈した表現を使い、ストレートに伝わらないようにして。
一通り説明を終えたころ、20面相はしばらく何か言いたげな目を伏せた後
急にさばさばした様な口調とともに明智へ目線を向けた。
「明智君が優しい人物だということは分かった。」
そして、何も言わずに寝室の方に歩きだす。多分疲れたので寝るのだろうと明智は
推測し、自分も後かたづけの手を進めた。
「あ、おい20面相。」
ふと思い出したように20面相に切り出す明智。ポケットをまさぐったその手には
シルバーカラーの携帯電話が握られている。
「パソコンへのメールだと俺は開かない時があるからな。何かあったら
俺の携帯に連絡しろよ。アドレス教えておくから。」
のたのたと寝室に移動していた20面相の足が止まる。振り向いた20面相の
顔が真っ赤に染まっているのは、たぶん熱のせいだけではないだろう。
病の身体を弾ませて、うれしそうに携帯電話を充電機から外す20面相が
何よりの証明となっているはずだ。
「うれしいなぁ。明智君は月一で僕の所に通ってくるにも関わらず、僕の
携帯番号を聞こうとさえしてくれなかったから、果たして君は僕たち二人の
将来を真剣に考えてくれているのか不安になっていたんだよ…ヘックシ。」
相手の意味不明の発言に渋い顔をしている明智の手から器用に携帯を奪い
赤外線通信でアドレスをあっという間に登録した20面相は、自分の携帯を
胸元に寄せて宝物のように抱きすくめると、ニコリと微笑んだ。
「明智君。僕の名前は金田一 二十(きんだいち ふとう)だ。
これからは…その…名前で呼んでくれるかい?」
「…20面相って言いにくいからな。いいよ。」
女には相変わらず素直になれないんだよな…心の中でそう独りごちながら
明智は洗い物を開始した。


51 :名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:32:12 ID:lulnS+cQ
結局、事務所に帰るのは八時にだいぶ近づいたころだった。空を見上げると
どんよりとした厚い雲が夜目にも関わらず見える。この時間になると
風は肌を切り裂くナイフへと変わり、明智は外套をしっかりと体に巻きつけるように
固定した。
耳が寒さで痛かったが、今となっては麻痺してそれすら感じとれない。
ふと、小林がつくってくれているであろうシチューが頭に浮かんだ。
すると無性に事務所が懐かしくなってくる。
買い置きのフランスパンの在庫はまだあっただろうか?適度に焼いたフランスパンを
シチューに浸し、昨日借りてきたミュージカル作品のDVDでも鑑賞しながら今日の残りを過ごそう。
労働の代償としてのささやかな贅沢に思いをはせた明智は、事務所のドアノブに手をかけた。
「…?」
事務所の電気は消えているのに、鍵がかかっていない。目の前にはちゃんと「閉」の
カードがかけられているのに。
「小林のやつ…。」
小林が大方鍵をかけ忘れたのだろう。そう判断した明智は構わず事務所内に
足を踏み入れた。
カランカラン。
ドアベルが真っ暗な事務所に鳴り響く。手探りで証明のスイッチを探し当てた
明智は、照明に浮かび上がった事務所の光景に目を疑った。
「なっ…なんじゃこりゃーっ!?」
事務所の真ん中に置かれていた少し年代物のテーブルの上には花瓶がぶちまけられ、
飾られていた花は見るも無残な姿に。
椅子の足は折られ、生木の白さが痛々しいほどに傷口からこぼれている。
今日明智の楽しみを上演するはずだった事務所のテレビのディスプレイも
粉々に砕け散っていた。
破壊の限りが尽くされた事務所。呆然と立ちすくむ明智の頭で最悪の想像が
鎌首をもたげた。
「小林…?ひょっとして巻き込まれたんじゃ…!?」
最後に小林はキッチンに入っていったはずだ。この惨劇が小林が事務所を出た
後のものであってほしい。明智は床に散乱するガラスや陶器の破片を
踏み越えて奥のキッチンへと駈け出した。
「小林ぃ!」
キッチンの照明をつけ、明智は再び息をのんだ。
キッチンも事務所同様、もはや被災地という表現もできるほどの惨状が
広がっていた。
ただひとつ事務所と違う点は、キッチンの床に小林が料理鍋を抱え
うずくまっていたことだ。
衣服は所々に赤い飛沫が飛んでおり、ところどころ破けている。
それを身にまとった小林は、目を真っ赤に充血させうわ言のように何やら
ぶつぶつと呟いている。
明智が小林に駆け寄ろうと足を踏み出した瞬間、足もとの破片が音を立てて割れた。
そこから放たれた音が小林の鼓膜を揺さぶり、その焦点の定まらない目が
スローモーションのようにゆっくりと明智へと向けられる。
彼女の眼が明智の姿をとらえた次の瞬間!


52 :名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:33:53 ID:lulnS+cQ
「いやあああああああ!帰して!帰してよぉ!」
その口から絶叫とともに放たれた聞く者の心にチクリと突き刺さる切ない哀願に
明智の踏み出した足は動きを止めた。
「帰りたいよぉ!ここは何処!?嫌だよ帰して!明智探偵事務所!
明智探偵事務所に帰りたいよぉ!」
料理鍋を握る手に血管がくっきりと浮かび上がるほど小林は強く抱きすくめ、
そのまま息も切れ切れに叫び続け、泣き続ける。
…パニック障害か!
そう判断した明智の行動は素早いものだった。事務所の厚手のカーテンの生地を
滑車から強引に引きちぎり、小林を後ろから抱き締めるようにカーテンで
身体を覆い、彼女の両手をそっと、しかし力強く握る。
「しっかりしろ小林!明智探偵事務所はここだ!」
無理に拘束を振りほどこうとする小林の身体をカーテンで周りの破片から保護しながら、
明智は辛抱強く小林に呼びかけた。
「小林!息を大きく吸え。明智探偵事務所はここだ。お前が今座っている…。」
「違う!ここは違う!明智先生がいない事務所は明智探偵事務所じゃない!」
そうか…。孤独だった小林のパニック障害の引き金となった原因に気づいた明智は…。
「ただいま。小林。」
耳元で優しく囁いた。
「俺の帰りを待っていてくれたのか?ありがとう。やっぱりお前は
俺の自慢の助手だよ。」
小林の叫びがだんだんトーンダウンしていき、焦点の定まらなかった目が
徐々に光を再び宿しながら明智を今度こそはっきりととらえた。
「あけちせんせい…?」
恐る恐る…まさにその表現がふさわしく感じられるほど怯えと安堵の
混ざった声色で小林は明智に問いかける。
「あけちせんせい…明智せんせいだ…じゃあ、ここは明智探偵事務所…。
帰ってきた…私の居場所に…帰ってこれた…あけちせんせい!」
振り向いて明智に向かい合った小林は、そのまま凍りついた。
「先生…その怪我一体どうしたの…?」
小林を守った時にできた傷が明智の手と腕に真っ赤な筋を走らせたのを見た小林に、
明智は何でもないと静かに答えた。この様子だと、たぶん事務所をやったのも…。
「なにこれ…事務所が…。先生の怪我も、事務所もひょっとして…?」
ワタシガヤッタノ…?魂を亡くしたように呟く小林の肩をつかんだ明智は
そのまま自分の胸に強引に抱きよせる。
「大丈夫だ。俺も、この事務所も結構丈夫だからな。」
それから小林の力の抜けた腕から料理鍋を取った明智は、ふと中を見てみる。
蓋をあけた中には、見知った白に色とりどりの野菜が浮かぶシチューが
美味しそうにその色鮮やかさを誇っていた。
明智は小林の顔を見て、少し笑うと新聞紙でその鍋を包み、傍らに置いた。
「明日までよく寝かそう。せっかく小林がつくってくれたシチューだからな。
最高に旨みが引き立った時に頂こう。」


53 :名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:35:28 ID:lulnS+cQ
「…せんせい。」
細い指先、小林の指先が何度か空を切った後明智をとらえた。
そしてその手はするすると明智の腕へと移行し、小林の方へ腕を
手繰り寄せる。
「私…くび?」
泣き出しそうな、困ったような、そしてどうしようもなく破滅的な笑みを浮かべ
小林は静かに切り出した。明智の腕の血が小林の指先を少しづつ染めていく。
明智はしばらくそれを眺めた後…。
「…小林、人生そう甘えは許されないんだ。」
小林の肩がビクッとふるえる。
「そうなんだ…そうですよね。…でも…でもわたしさみ」
「金銭的被害は甚大だ。当分ただ働きしてもらうからな。元が取れるまで
この事務所を辞めることは許さない。」
小林は驚いた顔をして…そして彼女は今までにない勢いで明智に抱きついてきた。
「うん!うん!小林…小林頑張ります!明智先生の為にいっぱい頑張ります!
なんでも言ってくださいね明智先生!先生の望むこと…小林喜んでなんでもします!
先生、小林は…私は…はぁうぅ…。」
様子がおかしい。腕の中の小林の様子を見ると…気絶していた。
明智の下半身に不意に寒気が走る。多分極度の緊張状態が続いていたのが
急に解けたので小林が粗相でもしでかしたのだろう。
今日は仕方ないか。
明智が渋い顔をしたのも一瞬のこと。柔らかい眼差しを腕の中に体を投げ出す
少女に向けた明智は、しばらくそのまま動かなかった。