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588 :愛の亡者と金の亡者:2010/01/31(日) 02:26:17 ID:Kg6V6l3R

俺の青春ってなんだろう

身寄りもなく、元々経営難だったが遂に限界を迎え、高校に通う前に潰れた孤児院にも、当然ながら戻れない。
孤児院の友人は皆何処かの家に引き取られ、残ったのは院長が俺の将来の為に遺してくれていたほんの僅かな親の財産だけ。
高校は、必死になって猛勉強して奨学金で通えるようになった。
が、それだけでは何にもならない。
毎日毎日アルバイトに明け暮れる日々。
一時は高校も辞めようかとも考えたが、将来的な事も考えて踏み留まっている状態が一年と半年間も続くと、
青春なんて、そんな疑問も薄れてくる。

金、金、金、金、金。
金を求めて何が悪い。
一時は荒れた時期もあったが、それも虚しいだけだった。
暴力を振るい、誰かを傷つけ地に伏せさせたところで、何の解決にもならないどころか
むしろ損をしている。そんな事をしている暇が有ったら働け。

求めるものは良い仕事と金、
そんな俺に彼女なんて出来る筈もなく…


久しぶりに思う、
俺の青春って、なんだろう……



589 :愛の亡者と金の亡者 第一話:2010/01/31(日) 02:46:12 ID:Kg6V6l3R
「いらっしゃいませー」
土曜日の午後三時。
普段は人の流れが皆無なこの時間。
別段、コンビニに来る人が全くいないというわけではない。何の疑問も持つことなく何時も通りの作り笑顔で、半ば流れ作業のように客を迎え入れる。
しかし、その客は少々挙動不審だった。
周りを見回し、監視カメラの位置を確認するとその死角に隠れる。
一目見ただけで解る。万引きする気満々だ。
今は自分一人しかいない、こんな時の対処法は教えてもらってない。
出来れば未遂で終わって欲しい、その伸ばした手を止めて、寸でのところで踏み留まって欲しい。
しかし、現実はそう甘くなく、人間もフィクションほど善人ではない。
願い虚しく、彼女は掴んだ菓子パンをバッグの中に数個突っ込む。
…やっちゃったよ。面倒事にはしたくないのにな…
俺は観念して、そのまま何事もなかったかのように出て行こうとする少女の手を掴む。
「…何だよいきなり、離せよ!」
そう言って少女は腕に力を込めるが、如何せん男の腕力には敵わない。
よく見ると綺麗な少女だった。赤い髪に整った顔立ち、スタイルは並だが全体的に見てそこらの芸能人に引けをとらない。
が、綺麗だろうとなかろうと、犯罪は犯罪、結果は結果。
「万引き、よくない」
「はぁ?何言ってんだよ!離せよッ!」
「とりあえず奥まで来ようか」
「ふざけんなよ!いいから離せよ!」
聞いてくれる様子でもなさそうなので、力任せに店舗の奥へと連行した。


590 :愛の亡者と金の亡者 第一話:2010/01/31(日) 03:09:42 ID:Kg6V6l3R
事務所のパイプ椅子に座る彼女は黙りを決め込んだままだ。
黙秘権を最大限に利用しているが、物的証拠が目に前にあるにもかかわらずそれは無いだろう。
「あのさ、とりあえず名前、教えてくれる?」
「…………」
あくまでも何も喋らないつもりか。しかめっ面で俺から目を逸らしこっちを見ようともしない。
「…じゃあ、住所と年齢、血液型と誕生日、動物占いの結果とスリーサイズを教えてくれる?」
「何でスリーサイズ教えなくちゃなんないんだよ!」
「よし、やっと喋ったな」
「…………」
この子、結構扱い易い子だな。
「ちなみに俺は因幡白兎(いなば はくと)。住所と年齢はヒ・ミ・ツ。血液型はAB型のRH-、誕生日は四月一日、動物占いの結果は海月、スリーサイズは…」
「何で自分のスリーサイズ知ってんだよ!」
「ナイスツッコミ!きっとこのタイミングでツッコむと信じてたよ。さっきのツッコミで確信した。あ、ちなみに血液型は本当だよ」
「…プッ」
お、笑った。なんだ、笑顔は可愛いじゃないか。
「で、名前は?それだけ教えてくれればいい」
落ち着いた口調で言う。
すると彼女も観念したのか、呆れたような表情で言った。
「天海火那美(あまみ かなみ)……これでいいんだろ!」
「ん、天海火那美さん、ね。いい名前じゃないか」
「う、うるさい!じゃあこれで帰るからな!」
「ちょっと待った」
「何だよ!…っと」
俺は事務所から出て行こうとする彼女にメロンパンを一つ投げた。
「…何だよこれ?」
「俺の奢りだ。もう万引きなんかするなよ。特に俺の働いてるところではな」
彼女はしばらく呆けた顔をしていたが、俺に向かって微笑んでこう言った。
「…お前、変な奴だな」
「そうでもない。普通に学生やってるよ。青春してるかはともかく、ね」



これが、彼女との出会いだった。