543 :動き出す時 3話:2010/01/29(金) 22:59:07 ID:y3yc1zPu
夏休みも最終日となった日の夜、俺、廣野祐樹は明日から再開される学校生活の為に忘れ物が無いかのチェックをしていた。
今年の夏休みも色々とあったなぁ。特に美月ちゃん、及川美月との出会いがこの夏一番の出来事だっただろう。
初めてのリアル人命救助だったし、何というかその、命の為とはいえ女の子の胸元に手をやったり口付けまでしちゃったし・・・
あの後、彼女から何度か連絡があった。連絡先を交換し合った時に言われた様にお礼がしたいとの事で
初めは「お礼なんてされる事の程じゃ・・・」と遠慮していたのだが、彼女も「それでは私の気が治まりません」と引かず
結局、食事をご馳走になったりした。しかし、何故かその後も「命を助けて頂いたのに一回でお礼し切れる訳がありません」と
再三のお誘いがあり、そう何度もご馳走になるのも悪いと思った俺は、その旨を伝えたのだが、彼女の方も一歩も引かなかった。
仕方ないので、せめて彼女だけにお金を支払わせる状況を脱しようと「じゃ、じゃあお礼としてじゃなくてデートとして出掛けよう」と
かなり苦し紛れの提案をしたところ「で、デートですか・・・///」と、この提案の是非を考えているのか少し間が空いた後
それまでの引き下がらなさが嘘の様にやけにアッサリと引き下がってくれた。そういった経緯で夏休み中に結局数回
美月ちゃんと出掛けたのだが、その時一番苦労したのだが綾菜だった。俺が何も告げずに数日間いなくなったりした為
俺を監視するようになったのである。可能な限り俺と一緒に居ようとし、俺が何処かに出掛けようとすると必ず行き先を聞いてきて
あまつさえ着いて来ようとするのである。綾菜は何故か俺が女泣かせの気があると思い込んでいるらしく
「祐樹と関わるとその子が可哀想だから」と俺が女の子と接するのを快く思っていない。
そんな綾菜が俺と美月ちゃんの接触を知ったら一体どんな目に遭わされるか・・・
仕方ないので俺は親友の塁(るい)と武彦(たけひこ)に協力要請をして、口裏を合わせてもらう事にした。
この二人とは高校に入学してからと短い付き合いではあるが、お互いにかなり信頼し合える仲と言える相手だ。
その二人に簡単に事情を説明し(流石に美月ちゃんの事は伏せたが)協力を頼むと二人とも快くOKをしてくれた。
よし、忘れている物も無さそうだしそろそろ寝るか。そう思い、俺は寝床に着いた。


544 :動き出す時 3話:2010/01/29(金) 22:59:54 ID:y3yc1zPu
翌朝、新学期になり、また一学期の時のように綾菜と二人で登校して来ると、塁が声を掛けてきた。
「おはよう、二人とも。一緒に登校して来るなんて相変わらず仲が良いね」
そう声を掛けてきた塁に俺と綾菜は挨拶を返し、俺は改めて塁の事を見た。
三祥寺(みしょうじ)塁、俺や綾菜のクラスメイトで俺の親友である。
一応男であるハズなのだが、声・容姿が女の子みたいで名前も「るい」と女の子にありそうな名前の為か
なんだか男子の制服を着た女子という感じのする奴である。と、そこで何故か塁が顔を赤らめた。
「ゆ、祐樹。そんなに見つめられたら恥ずかしいよ///」
「あ、いや、ごめん・・・」
「ううん、謝らなくていいよ。祐樹になら、その・・・///」
いやいや待つんだ。そこで更に顔を赤らめるんじゃない!
塁は冗談なのか何なのか分からないが、俺に気があるような素振りを度々見せてくる。
いくら「こいつは男なんだ!」と言い聞かせても見た目が女の子。それも美少女に分類される容姿な為
どうしても、たじろいでしまう。というか、こいつは本当に男なんだろうか? ついそんな疑問さえ浮かんでしまう。
うちの学校はプールが無い為、水泳の授業も無いし、更に体育の着替えの時なんかも
いつもいつの間にか塁は着替え終わっている。着替えの最中にずっと塁を見ていた事もあったが
先程の様に顔を赤らめながら「恥ずかしい」と言われ、つい「悪い」と目を逸らしたら、その間に着替えを完了された事もあった。
つまり俺はこいつが男だという確たる物を見たことが無く、この容姿や声のせいもあってこんな疑問が浮かんでしまうのである。
と、そこで何やら物凄い殺気を感じ、とっさにそちらを向くと、綾菜さんがとても素敵な笑顔でこちらをご覧になっておられた。
「・・・祐樹?」
「・・・はい」
「相変わらず三祥寺くんと仲が良いみたいね・・・?」
ま、まずい! 塁の見た目が女の子みたいな事もあってか綾菜は俺が塁と
この様に一定以上の接触をすると非常に怖い状態になる。
俺は慌てて辺りを見回し、もう一人の親友が来ていないのを確認すると
「そ、そういえば武彦は?」
と、何とか話を逸らそうとしてみた。
「まだ来てないみたい」
そう塁が答えたところでタイミング良く件の人物が教室に入ってきた。
「おーす! 祐樹、宿題を写させてくれ! 実はまだやってないんだ!」
いきなりそんな挨拶をかましてくれた。
「新学期早々の挨拶がそれかよ・・・」
「まあ、武彦だし」
「ちょっと笛吹(うすい)くん!」
俺達はそれぞれの反応を返した。笛吹武彦、塁と同じくクラスメイトで俺の親友である。
パッと見はこんな感じでいい加減な奴に見えるが、いざという時は頼りになる奴である。
「なんだよ羽柴。どうせお前だって祐樹に手伝ってもらったんだろ?」
「確かに分からない所は祐樹に聞いたりしたけど基本的には自分でやったわよ!」
綾菜と武彦がぎゃーぎゃー言い争いを始める。その隙に俺は塁に小声で話しかけた。
「頼んでた口裏合わせの件、大丈夫か?」
「うん、祐樹の頼みだもの。僕が断る訳ないじゃない」
頼むから顔を赤らめながら恥ずかしそうにクネクネしないでくれ。
「でも、どうしたの? 監視の目を潜り抜けて出掛けたい用事って・・・」
「あ、うん・・・悪い。あまり詳しい事は・・・」
あまり勝手に美月ちゃんの事を言い触らすのは彼女に悪い気がして、つい言い淀んでしまう。
「言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ。祐樹なら悪い事はしてないだろうし」
「スマン、助かる。」
話の分かる親友で本当に良かった。と、そこで先生が来た為、俺達はそれぞれ自分の席に着いた。


545 :動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:01:01 ID:y3yc1zPu
今日は始業式とHRだけだったので早く帰れるのだが、今日の帰路は俺一人だった。
普段は綾菜や塁、武彦なんかと一緒に帰っているのだが偶然にも今日はみんな用事があるらしく
珍しく一人での帰宅となった。このまま真っ直ぐ帰っても良いのだが折角なので駅前の本屋に寄る事にした。

駅前の近くまでやって来た時
「やめて下さい!」
いきなりそんな叫び声が聞こえた。そちらの方を見ると、いかにも軽そうな感じの男が
何処かにムリヤリ連れて行こうとでもしているのか嫌がる女の子の手を掴んでいた。
「いいじゃない。ほら、ちょっとお茶するだけだから」
「離して下さい!」
流石にこんな場面に出くわして見過ごす訳にもいかないので俺は止めに入ることにした。
「おい、その子嫌がってるだろ。離してやれよ」
「あ? なんだお前?」
案の定こちらを睨みつけてくる男。ただ、こう言っては何だが全然怖くない。
喧嘩慣れしてる訳でもスポーツをやってたり体を鍛えたりしてる訳でもなく本当にただ若い男だということだけをアドバンテージに
か弱い人達を相手に好き勝手やっているだけの人物だというのは体つきや物腰を見れば分かる。
「女の子と遊びたいならそんなムリヤリじゃなくて・・・」
「うるせえ! 痛い目に遭いてえのか!?」
適当に話をしながら時間稼ぎをする。男の方も散々脅しをしてくるものの、なかなか手を出さないのは恐らく腕に自信が無いからだ。
女の子や小さい子ども、ご老人等ならともかく、こちらも高校一年生の健康な男子である。戦いたくない、だから脅しで追い払おうとしてるのだろう。
そうやって俺が男と話している間に女の子に逃げて貰おうと、男から目を離さないまま男の死角から女の子の居る方向に向かって
逃げるようにジェスチャーで伝えた。まあ、そんな事をしなくても時間的にそろそろだと思うが・・・
と、辺りの人通り増えてきた。これでは先程から散々乱暴な口調で脅しをし続けている男は此処に居づらいだろう。
実際、周りの人達も何事かとこちらを見ている。男は自分の状況が不利だと判断したらしく舌打ちをして去って行った。
さて、女の子の気配が去っていないから、まだそこに居るハズだけど・・・いた。
「大丈夫だった?」
そう女の子に声を掛けて、その時になって初めてその子の顔を見ると何と知ってる顔だった。
「はい、ありがとうございます。祐樹さん」
俺が助けた女の子は美月ちゃんだった・・・



546 :動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:03:03 ID:y3yc1zPu
夏休みも最終日となった日の夜、私、羽柴綾菜はベッドの上でこの夏休みを思い返していた。
この夏も色々な事があり、祐樹との思い出がまた沢山できた事が嬉しかった。
ただ、祐樹が何も知らせてくれず何日間も居なくなったのは、この夏で一番の最悪な出来事ではあったが・・・
あと、祐樹が友達と遊ぶとかで何処かに行ってしまう日。男の子同士じゃないと遊べない、話せないというような事もあるだろうし
私もその辺りは理解しているつもりである。今までも時々あった事だし今後もあるんだろうけど何回経験しても慣れない辛い日である。
そんな嫌な事も含めてこの夏の出来事を思い出しながら私は寝床に着いた。

次の日、祐樹といつもの様に一緒に登校するのを嬉しく思いながら教室に入ると。
「おはよう、二人とも。一緒に登校して来るなんて相変わらず仲が良いね」
クラスメイトの三祥寺くんが声を掛けてきた。三祥寺くんは祐樹の友達でよく一緒に居るが
女の子みたいで、しかもとっても可愛いので私としては彼が祐樹とよく一緒に居るのは非常に面白くない。
しかも祐樹の事を「愛してる」なんて平気で言うし、上手く言えないけど祐樹の事を見る目が
何か本当に友達以上の感情が篭っている時があるような気がして祐樹が彼と関わる時は気になってしまう。
「ゆ、祐樹。そんなに見つめられたら恥ずかしいよ///」
「あ、いや、ごめん・・・」
「ううん、謝らなくていいよ。祐樹になら、その・・・///」
言った傍から・・・(怒) 込み上げてくる怒りを堪えながら私は祐樹に釘を刺しておく。
祐樹に女の子が近付かないように私は度々祐樹に言い聞かせている。本当は私以外の女の子は信用できないとか吹き込みたいのだが
祐樹のお人好しぶりでは、いくら言い聞かせても信用してしまいそうなので、本当は祐樹は自分を過小評価しがちなのでもっと自信を持って貰いたいのだが
泣く泣く祐樹に自分自身の評価を落として貰い、あまり祐樹が自ら積極的に女の子に近付かないように仕向けている。
まあ、これもどの程度の効果があるか分からないが私以外の女の子は信用できないと吹き込むよりは効果的だろう。
それに「祐樹と関わるとその子が可哀想だから」というのも、あながち嘘ではない。なにせその子がどんなに祐樹の事を思おうと
私以外の子が祐樹と結ばれる事は無いからである。祐樹の存在を知りながら結ばれない。それほど不幸な事は無いと思う。
そうこうしている内に、もう一人の祐樹の友達である笛吹くんが教室に入ってきた。笛吹くんは祐樹が三祥寺くんと二人きりになるのを防いでくれている為
そういう意味で非常に助かっている。もし彼が居なければ私は祐樹の男友達との付き合いにまで口出しをしていたかも知れない。


547 :動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:03:37 ID:y3yc1zPu
会話をしているうちに時間となり、始業式とHRを終え、祐樹と一緒に帰ろうとした時、机の中に入っていた手紙によって私は呼び出しを受けた。
呼び出された場所が屋上という事や、呼び出した相手が手紙から察するに男子だという事から用件は簡単に想像できたが無視する訳にもいかなかった。
一度、その手の呼び出しを無視したところ、後で余計に面倒な事態になった事があり、それ以来、嫌々ながらもきちんと呼び出しは受けるようにしているのである。
告白に対する私の返事は勿論これまで全て「NO」だった訳だけど。この呼び出しについては「仕方ない」と若干諦めが入ってはいるものの
やはり祐樹と一緒に居る時間が削られるというのは激しい怒りを感じる。そんな怒りを感じつつも屋上に出ると一人の男が立っていた。
「やあ、待ってたよ」
男はそう言うとゆっくりとこちらに近付いてくる。女受けしそうな、いかにも女子に人気がありそうな顔立ちであるが私にはどうでもいい
こいつは私と祐樹の時間を削ったいわば敵なのだ。憎しみ以外の感情は抱けそうにない。
「・・・誰?」
素直な感想がつい声となって出てしまった。男は何やらショックを受けたような顔をしたがすぐに立ち直って続けた。
「や、やだなぁ、僕を知らないなんて羽柴さんは冗談も得意なんだね」
「冗談とかじゃなくて本当に誰?」
またショックを受けたような顔をしたが、またすぐに立ち直った。顔芸の忙しい男だ。
「お、奥村悟(おくむらさとる)だよ羽柴さん。本当に知らない? 女子の間じゃ結構名は知れてると思ってるんだけどなぁ」
「奥村悟・・・?」
ああ、思い出した。ミーハーな子達に人気のある男子だ。私からすれば女の子の関心を祐樹から逸らしてくれているので
防虫剤としての価値は認めているが、裏を返せばそれ以外の価値は全く無い存在である。
「思い出してくれたかい? 実は僕、以前から羽柴さんの事が気になっててね。僕と付き合って欲しいんd「ごめんなさい」
完全に言い終わるかどうかの内に返事を返した。答えは最初から決まっているのだから。
「ど、どうしてか聞いてもいいかな?」
「他に好きな人が居るから」
「廣野くんの事かい?」
分かっているのなら聞くな! そして初めから呼び出すんじゃない!
「で、でも彼と君では釣り合わないんじゃないかな?」
「そうね、だから祐樹に相応しい女になる為に色々と頑張ってるの」
料理とか家事全般は勿論の事、その、え、エッチな事だって祐樹の為なら・・・///
「いやいや、逆だよ。彼なんかに君は勿体ないって言ってるんだよ」
「・・・なんか?」
もしかしてこの男は今、祐樹の事を「なんか」呼ばわりしたのだろうか。これまで以上の怒りが込み上げてくる。
「確かに彼は成績は良いみたいだけど言ってしまえばそれだけだろ? そんな彼なんかよりも僕の方が・・・」
そう言いながら近付いてくる男に私は微笑みかけた。



548 :動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:04:21 ID:y3yc1zPu
私は階段を降りているところだった。あの後私は奥村悟を適当に痛めつけて脅しておいた。
これであの男が祐樹や私にちょっかいを出す事もなければ、余計な事も言わないだろう。
奥村悟が優男だった事と完全に油断をしていたので不意を突けた事が勝因だと思う。
あっ、あと手を洗っとかないと。攻撃する為とはいえあんな男に触ってしまったのだ。念入りに洗っておこう。
この手の呼び出しは祐樹には適当に用事と言って誤魔化している。
実際には断るとはいえ、もし祐樹の頭の中で私と祐樹以外の誰かが付き合ったらと想像されたりしたら
それだけでも私にとっては鬱になりそうなほど落ち込む事だからである。
はあ、折角の新学期なのに、あんな男に祐樹との時間を削られてしまい今日はもう最悪とさえ思えてしまう。既に日も暮れてしまっている。
しかしそこで、ふとある事を思い出す。そういえば今日は祐樹の家にお邪魔して料理のお手伝いをする約束をしていたハズである。
その事を思い出した私はそれまでの鬱屈した気持ちが一気に晴れた気がした。
そうだ、今日は最悪の一日なんかじゃない。だってこの後は幸せな時間が待っているのだから。
すっかりウキウキとした気分になった私は足取りも軽く帰っていった。


549 :動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:04:48 ID:y3yc1zPu
今日は始業式という事もあり学校を早く終えた私、及川美月は参考書を買いに駅前の書店に向かっていた。
どういった物を買おうか考えながら書店に向かっている途中、いかにも軟派な軽い感じの男が私に声を掛けてきた。
「やあ、君可愛いねぇ。ここで会ったのも何かの縁だし、ちょっとそこの喫茶店でお茶でも飲まない? 勿論お代は俺が出すからさ」
なんという分かりやすいナンパなんだろう。しかもただの通行人同士だったのを自分から近付いてきて「何かの縁」というのもおかしな話である。
男の目を見ると、案の定私の嫌いな下卑た欲望の色をしていた。私は男を無視して書店に向かう事にしたが男はしつこく付き纏って来て
「ほら、ちょっとだけだから」
と言いながら私の手を掴んだきた。その事に流石に私も抵抗をする。
「やめて下さい!」
「いいじゃない。ほら、ちょっとお茶するだけだから」
「離して下さい!」
一刻も早く男の手を振り払おうと抵抗していると
「おい、その子嫌がってるだろ。離してやれよ」
そんな声が聞こえた。そちらを見て私は驚いた。だってそこには祐樹さんが居たのだから
「あ? なんだお前?」
それまでとは打って変わって乱暴な口調で祐樹さんを睨みつける男
「女の子と遊びたいならそんなムリヤリじゃなくて・・・」
「うるせえ! 痛い目に遭いてえのか!?」
二人がそんな言い合いをしていると祐樹さんが男の死角から、手で私に今のうちに逃げるよう伝えてくる。
でも、そんな祐樹さんを置いて一人で逃げるだなんて・・・。そう思っていると周囲に人が増え始めた。
一体どういう事なのかは分からないけど、男はそれで状況が自分に悪いと判断したらしく去っていった。
「大丈夫だった?」
そう声を掛けて下さった祐樹さんの目には驚きの色が浮かんでいる。どうやら今になって初めて私の顔を確認したらしい。
それくらい必死になって私を助けて下さったんですね。そう嬉しく思いつつ
「はい、ありがとうございます。祐樹さん」
私は返事を返した。その後、ゆっくり話をしたいと言い、近くの喫茶店に一緒に入った。
祐樹さんとならば、一緒に喫茶店に入ってお茶をするのは、むしろこちらからお願いしたい事である。
「祐樹さん、一度ならず二度までも助けて下さってありがとうございます」
やはり祐樹さんは私にとって救世主です。
「あ、いや、そんなにかしこまられると何か逆に悪いよ」
相変わらず祐樹さんは奥ゆかしいです。そして私は気になっている事を聞いてみた。
「あの、さっきはどうして人通りがいきなり増えたのでしょうか?」
「ああ、あの近くにスーパーがあってね、毎月1日のあのくらいの時間にセールがあるんだよ」
それで納得がいった。今日は9月1日、そして思い返してみれば、あそこに居た人達はいかにも主婦といった感じの人がほとんどだった。
疑問が解けたところで私は本題に入る事にした。
「あの、祐樹さん二度も助けて頂きましたし、是非お礼をしたいのですが」
「いやいや、本当に大丈夫だよ。それほどの事をした訳でもないのに」
「でも・・・」
すると祐樹さんは少し考え込むような仕草をした後
「美月ちゃん、この後の予定って何かある?」
そう聞いてきました。私は素直に
「いえ、特には。この後は書店に行こうかと思っていたくらいです」
そう答えると、祐樹さんが
「じゃあ一緒に行こうか。それがお礼って事で」
「そんな、それじゃお礼になりません!」
そういう私に祐樹さんは
「いや、充分お礼になるよ。美月ちゃんと一緒に居ると楽しいし」
そう言ってくれました。その言葉が嬉しくて仕方なく、私は了承をし
結局、日が暮れるまで本を選ぶという名目で祐樹さんと談笑をして幸せなひと時を過ごした。
最終更新:2010年04月07日 20:03