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353 :ニーベルンゲンの歌 第二話 [sage] :2009/12/21(月) 22:53:06 ID:1qdVa67T

翌日。
急設避難所で一夜を過ごした生はもう一度、瓦礫の山と化した我が家の前にいた。
あの時、無我夢中で戦った所為で母の腕はどこかへ消えてしまった。
恐らく両親は生きてはいない。そして妹も…多分、瓦礫の下敷きだろう。
あの三機のロボットの部品は昨夜の内に撤去された。自衛隊まで出張っていた。
しかし行動が迅速すぎる。この近くに自衛隊の駐屯地は無いにも関わらず、ジークフリートを降りて数分で駆けつけてきた。
もしかしたら、これは予測されていた事態なのかもしれない。それを隠蔽して…
「生…?」
突然名前を呼ばれた生は声のした方を向いた。
「可奈?」
声の主は、俗に言う幼馴染という関係にある葛城可奈(かつらぎ かな)だ。避難所では見かけなかったがどうやら無事だったようだ。
が、その服には真っ赤な血糊が大量についており、本人の足取りも覚束ない様子だった。
「お、おい可奈!大丈夫かよ!」
生は可奈に駆け寄り倒れかけたその体を支える。特に目立った外傷は見られない。
「生ぅ…お母さんがね、お母さんがね…あ、いや、イヤ、イヤァァァァァァァァァァァ!!」
可奈はその場に座り込んで、狂ったように叫びだした。かと思うと直ぐに黙り込んで倒れてしまった。
「何だってんだよ、一体…」

* * * * *

とりあえず可奈を背負って避難所へ運んだ生は、医者にさっきの出来事を話した。
「恐らく、この『事故』―今はそう定義しましょう―の中の何かがフラッシュバックしたんでしょう」
医者はそう短く告げると次の患者の下へ行ってしまった。
(フラッシュバック…確か、『お母さんが』と言っていたから、もしかしたらおばさんに何かあったのか!?)
と、薄々何が起こったのかを予想して可奈の眠る簡易ベッドに戻った。
可奈の目はまだ覚めていない。生は椅子を探したが、どうにも見当たらないので諦めて立っていることにした。
(多分、おばさんも、もう…)
可奈には父親がいない。可奈が小さいころに離婚したのだそうだ。そして隣に引っ越してきた可奈の面倒をよく家で見ていたので、自然と仲良くなった。
生も可奈も祖父母は既に死去しているので、今すぐあてになる人はいない。
今この状況で一人はまずいし、何より可奈を一人にしてはいけないと生は思った。
(今日は可奈の側にいよう)
目を覚ます様子も無いので、生はその場に腰を下ろした。



354 :ニーベルンゲンの歌 第二話 [sage] :2009/12/21(月) 23:37:44 ID:1qdVa67T

* * * * *

可奈が目を覚ましたのは、その日の夕方だった。
「いきる…?」
「ああ、起きたか可奈」
可奈の目は酷く虚ろだった。焦点は定まってなく、何が見えているのか解らない。
「いきる、あのね、おかあさんがね…」
「いいから!何も言うな」
「…しんじゃったんだ。おかあさん、しんじゃったんだァ…」
言いながら、可奈は涙を流していた。ゆっくりと、しかし鮮明におばさんの死に様を語った。
生はそれを止めることが出来なかった。
「わたし…もうひとりぼっちなんだぁ…いきるぅ」
「な、何だ?」
「いきるは、ずぅっと、わたしのそばにいてくれる?」
可奈は、壊れてしまいそうな笑顔でそう言った。
「ねぇ、いきる?」
「……ああ、俺はお前の側にいるよ」
「そうだよね…わたしにはもう、いきるしかいないんだもん」
そう言って、可奈は再び目を閉じた。

* * * * *
可奈side

目が覚めたら、ベッドの上にいた。隣には生がいる。
私は生に母の死を話した。私の目の前で跡形もなくなってしまった母のことを。
父親の顔は覚えていない。頼れる親戚なんかもいない。
私には、もう生しかいない。

生、どこにも行かないで。
私を見捨てないで。一人にしないで。独りにしないで。
生、生、生、生、イキル、いきる、いきる―――
ずっと一緒にいてね、生。今までだってずっと私と一緒にいてくれたんだから。
大好きだよいきる。あなたがいるところに、私もいるから。
あなたが行くところに、わたしも行くから。
ねぇ、生。
ずっと一緒だよ。
誰も私の周りからいなくなっても、生はずっと一緒にいてね。


355 :ニーベルンゲンの歌 第二話 [sage] :2009/12/22(火) 00:34:32 ID:rnF2FE2J

* * * * *

可奈が眠ったのを確認してから生は避難所の外へ出た。
俺の通っている高校に設置されていて、幸いにもこの辺りへの被害は少なかったらしい。
爆風などで窓ガラスの割れた校舎の中に入り屋上を目指す。校舎の中は多少散らかってはいるが大きな損傷はなかった。
屋上に出て辺りを見下ろす。主に被害が出ているのは住宅街から繁華街にかけてのようだった。
海沿いに見えるビル、この街に本社を構える○ONYと並ぶ技術力を誇る会社『ネーデル』。あの辺りにも多少の被害が出ているようだ。
生は、そんな街の様子を眺めながら、再びあの時のことについて考えだした。
突然現れて街を襲撃したロボット。突然現れて俺を守ったロボット。
生は自分の腕を見る。未だに消えていない回路のような模様。
(俺は何でアレを操縦出来たんだ?あんな、ゲームとは違う本物のロボットを)
「…ああーーーイライラする!んなもん考えても分かるかよ!」
生は手摺に拳を叩きつける。いつもはそんなことは滅多にしないのだが、事が事なだけに落ち着いてはいられなかった。
そこで鈍い痛みが走る…筈なのだが。
「…………は?」
手摺が凹んでいた。生は目を瞬かせる。そんな吃驚腕力は持ち合わせてはいない。
「いやぁ、やっと見つけたよ」
突然背後から声がする。振り返ると、スーツを着た長身の中年男が立っていた。
「君、昨日あのロボットを倒したロボットの乗っていたね?」
「…何のことですか?」
そんなことに答えられるわけがない。何か色々とまずそうだ。
「いやいや、別にとって食おうってわけじゃないからさ、正直に答えてくれてかまわないよ」
「いや、何のことだかさっぱり」
そう言うと、その男は少し考え込むような仕草をして言った。
「あのロボットのこと、知りたいかい?」
「…何?」
生がやっと反応したので、男は嬉しそうに話し出した。
「君の乗ったあのロボットは『シグルス』といって、この世界のものではない」
のっけから信じられるような話ではなかったがとりあえず聞き続けた。
街を壊したのはその『シグルス』というロボットをもとにしてつくられた量産機で、侵略のためにつくられたものらしい。
そしてジークフリートに乗ったときに出来た回路のようなものは、異世界の技術でシグルスとシンクロするためにつける本物の回路。
シグルスは最初に回路を刻んだ者を搭乗者に選び、その人意外はシグルスを操縦出来ないらしい。
「で、それを俺に話してどうするんですか?」
男はそれを聞いてにやりと笑う。
「私たちと一緒に戦ってくれないかい?」
と、男はこんなふざけたことを言った。
「君はあの機体の操縦者だ。もう隠すことはないさ」
「……俺は護身のために戦っただけです。もう乗る気はありません」
もうあんな目には会わないだろう。だったら、あんな危険なこと二度とごめんだ。
「…まあ、また来るから、前向きに考えておいてくれ」
そう言って男は屋上から去って行った。
生は、最近よく使ってしまう言葉を吐いて、校門からこっちに手を振る男を見送った。
「何だってんだよ、一体…」