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638 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:48:41 ID:/cgU9SAg
夏もとうに終わりを告げ、肌寒い空気が徐々に浸透してくる10月の終わり。世間では今宵お化け(の仮装)の行列が街中を横行するらしいが、
僕は新しい本を探しに駅前のショッピング街を訪れていた。
街中を見渡すと、見慣れた顔がちらほらと目につく。カジュアルな装いであったり、はたまた全身黒を基調にしたいわゆるV系に身を包んでいたり、
キャバ嬢よろしく派手に着飾ったりと…その一部が、僕の通う高校の同学年の生徒だったりするわけで。やはり休日は羽目を外したいのだろうか。
かくいう僕はジーンズにTシャツ、パーカーと手抜きな恰好をしている。どうせ誰にも会わないんだし、構わないだろうと思ったのだ。
だがそういう日に限って、顔見知りにエンカウントしてしまうというのはありがちな話だ。

「やっ、今日も本漁りかい?」

いきなり後ろから声をかけてきたのは、茶髪のサイドポニーが特徴的な、やたら姦しい女子。というかクラスメイトの水城 歌音(みなき かのん)だ。

「そういうアンタだって、どうせ似たような目的だろう。しかし、休日に毎度毎度遭遇するなんて、不気味だな」
「失礼ねー。そこは"運命の赤い糸で結ばれてるんだね"とか言ってよね? 文学少年らしくさ」
「僕は読書が趣味なだけで、文学少年なわけじゃない。他の人が空いた時間にゲームをするような感覚で読書してるだけだ」
「わ、暗いわねー」水城はわざとらしくドン引きするジェスチャーをとりながら言った。
「ねぇ、私もついてっていいかな? あの本屋さんって、CDショップも入ってるじゃない?」
「断ったってどうせ付いてくるんだろ。好きにしろ」
「決まりね♪」

水城はそう言うとやや早足で本屋に向けて歩き出した。だが僕は面倒なので、今の歩調を保つ。

「真司ぃー、早くしなよー」
「CDは逃げないだろ。急かすな。僕は体力が少ないんだ」
「運動しないで本ばっかり読んでるからだよー。こないだだって体育のバスケで、試合途中でへばっちゃって。バスケ部員のディフェンスを抜くくらい運動神経はいいのに…もったいない」

…嫌なことを思い出させる。
先週の体育の時間、僕はいつも得点板を引き受けて観戦してるだけなのだが、あの忌ま忌ましい体育教師が「一回でいいから試合に出ろ。でなきゃ単位はやらん」
などと言い出したもんだから仕方なく参加したんだ。
毎時間観察してたせいか、バスケ部員の動きやクセを見切るのは難しくなかった。こうなりゃやるだけやってやる、と張り切ったはいいが、
途中ガス欠になり、試合が終わった瞬間、無意識のうちに保健室に運ばれてたというわけだ。
しかも僕を運んだのが保健委員の女子二人で、うち一人が水城だったらしい。…一生の不覚だ。


639 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:50:18 ID:/cgU9SAg
「次その事を言ったら、広辞苑をアンタの後頭部めがけて投げつけてやる」
「それなんていう藤林…こほん、か弱い女子に暴力はいけないんだぞー」
「ほう、そのか弱い女子ってのは、どこにいるんだ?」
「こぉらっ!」

…などとくだらない会話を続けているうちに、本屋に到着した。
水城はつい先日発売されたアニソンのCDを購入し、僕はラノベを一冊試しに買ってみた。タイトルは…嘘つきなんたらと壊れたなんたら?
それぞれ目的を果たした僕達は、本屋の入口で落ち合った。

「さて、目的のブツは手に入ったし…マックにでm」
「アンタはあっちか。僕はこっちだ、じゃあな」

水城が何かを言いかけたのに無理矢理割りこんて言ってやった。

「行 か せ ね え よ ? 真司はこれから私とお昼ご飯食べに行くんだもんね?」
「勝手に決めるな。それに僕はあと400円と少ししか持ち合わせがない。家には昨日のカレーの残りがあるからそれを昼飯にする」
「青春まっ盛り…ヤりたい盛りの高校生が家で一人でカレーをつつく…枯れてる、真司枯れてるよ。カレーだけに」

水城は首を横に振りながらやれやれ、と言いたげな表情をした。

「変なことを言うな。…まあ一人で食うのもつまらんから、付き合ってやってもいいが」
「決まりぃ♪」
「………はぁ。」

こいつとエンカウントするといつもこうだ。相手のペースに乗せられ、半ば強引に、時折痛いところを突き…結局僕が水城と別れる頃には、とっくに日が暮れていた。


640 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:51:34 ID:/cgU9SAg
「…はぁ、定期入れの中に千円忍ばせといてよかった」

月が出始めた夜道を、僕は一人歩いていた。駅前から自宅まで徒歩25分。遠いようにも感じるが、僕にしてみればそうでもない。
頭の中で今までに読んだ本の考察をしながら歩いていれば、すぐだ。
と、適当に本の記憶を呼び覚まそうとすると、頭の上に何か冷たいものが降ってきた。

「冷てっ…おい、マジかよ…」

冷たいものの正体は雪だった。…まさか、今はまだ11月手前だぞ? だが空を見上げると、まるで真冬のように雪が降っているではないか。なんたってこんな急に?
…くそ、寒い。僕は歩くペースを早めた。
すると今度は…歩道で人が倒れているのが目についた。

「ったく…酔っ払いか? 凍え死ぬぞ…って、おい。」

近づいて様子を窺ってみた。なんと倒れていたのは、中学生ほどの女子だった。
しかもこの季節にしては(雪は想定外だとしても)長袖のシャツにスウェットと薄着(とツインテール)でリュックを背負い、まるで家出した挙げ句行き倒れたとしか見えない。放っておけば間違いなく凍死コースだ。
僕はとりあえず行き倒れの少女の近くに屈み込み、声をかけてみた。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ」

返事はない、ただの…やめよう、冗談に聞こえない。
反応は…ありだ。少女の肩がぴくん、と動いた。
少女はしんどそうに顔をこちらに向けた。唇が青ざめ、見るからに顔色が悪い。…救急車を呼ぶべきか? 僕は携帯電話を取り出し、119にかけようとした。



641 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:52:24 ID:/cgU9SAg
「………まって」少女のか細い声が、それを制す。
「病院は…いろいろ面倒…お腹すいただけだから…」
「何言ってる。死ぬぞ」
「大丈夫…私、死ねないから…」
「………はぁ?」
「とにかく…~っ、病院は、だめ…っ、寒い…」

なぜか頑なに病院を拒否しつづける少女。しかしこのままにもしておけない。

「ったく…あとで説明しろよ?」

僕はそう言うと少女を抱き起こし、おんぶしてやった。…抱き起こすとき握った手は氷のように冷えている。それに、嫌に軽い。

「あと10分もすれば僕の家だ。ひとまず僕ん家で休ませてやる。説明は、落ち着いたらでいい」
「は、はい………」

さて、あとは知り合いに見つからないことを祈るだけだな。僕は見つかったときの言い訳をいくつかシミュレートしながら早足で家に向かった。
しかし雪はどんどん量を増し、それにつれて寒さも厳しくなっていく。…ホントに10月かよ? 早く家に帰ろう。

祈りが通じたのか、幸いにも誰かに見つかることなく家に辿り着けた。
ただ…少女を背負いながら早歩きをしたせいで、肺が痛いし息は絶え絶え、汗かくわで正直…疲れた。

「おい、着いたぞ。しっかりしろ」
「ふぇ……はぃ」
「こら、靴脱げ」

少女は僕の背中から降り、ふらつきながらも靴を脱いで…そこで再び床に倒れた。


642 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:53:18 ID:/cgU9SAg
「大丈夫か!?」
「あ、あは…さすがに…きついです…。一週間、なにも食べてなかったから……」そこまでやつれたようには見えないが、顔色は確かにすこぶる悪い。
「馬鹿か!? ああもう!」
「えっ…ひゃ!」

とても見ていられたもんじゃない。僕は疲労感漂う身体に鞭打ち、少女を抱き起こして寝室まで運び、ベッドに寝かしつけた。

「ずっと食ってないなら、お粥かなんかの方がいいだろ。すぐ用意してやる。食ったら風呂入ってあったまってこい」
「は、はい」

返事を待たず僕は台所に向かう。手を洗い、米を研ぎながらやかんに湯を沸かし、炊飯器にセットしたら風呂場に行って浴槽の湯の張替え。
たまるのを待つ間に着替えを一式とバスタオルを洗面台に置き、ちょうどやかんの湯が沸いたのでポットに入れて…と、目まぐるしく動き回る。
浴槽に湯を張り終えたころにちょうどお粥が炊けた。ひとまず炊飯器ごと寝室に運ぶことにした。ついでに梅干しと食器も。

「ふう…できたぞ。食え」お粥を碗に軽くよそい、梅干しをつけて少女に手渡す。

「う、梅干し…梅干しはきらいです」
「黙って食え。でなきゃ無理矢理口の中に詰めこますぞ」
「う~」少女はしぶしぶとお粥に手を付けはじめた。
「はふはふ…もぐもぐ。~っ、すっぱい」

お粥を頬張る姿はまるで小動物のようだ。梅干しをちびちびとかじり、口に含む度に涙目になっている。うさぎか、おまえは。
しかし食欲はしっかりあるようで、結局お粥を炊いた分全て平らげやがった。

「はふぅ…ごちそうさまでした」
「もう平気か?」
「はい、ひとまずは」
「すぐまた腹が減るだろう。そしたら声をかけろ。何か適当に作ってやる」
「ありがとうございますっ」

…本当に腹が減っていただけのようだ。飯を食い、腹が膨れて身体があったまるだけでここまで顔色がよくなるとは。
しかし…さっきは顔色が悪かったせいかよくわからなかったが、かなり綺麗な顔立ちをしている。大きな瞳に長い睫毛、さっきまで青白かったが今は血色のよい唇…美少女といっても謙遜ないほどだ。


643 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:54:16 ID:/cgU9SAg
「あ、申し遅れました。私はのえるって言います。平仮名で"のえる"です」不意に少女が自己紹介をし始めた。
「苗字は?」
「あ~…ただの"のえる"です。苗字ないんです、私」
「ふぅん…」

妙な話だ。苗字がないだなんて、聞いたことがない。…単に言いたくないだけか、ならいい。

「なんたってあんな所で倒れてたんだ」
「それがですね…」

のえるは何とも奇妙なことを喋りだした。

「こないだバイト先のコンビニが潰れちゃいまして…こんな見た目なもんだからネットカフェにも泊めてもらえなくて、仕方ないから当てもなくさ迷ってたんですね。
…でもさすがにごみ漁りまでする気にはなれなくて。財布のお金も底をついて、気がついたら一週間、公園の水しか飲んでませんでした」
「おい待て。バイト先だと?」
「はい。このあたりからならだいたい10キロほど先にあったんですけど」
「そんなことはいい。あんた、まだ中学生かそこらじゃないのか?」
「はい。…身体は、ですけどね。私、1982年10月30日生まれなんです。まあ、14歳と156ヶ月ってところです」
「よしわかった。明日お兄さんが病院に連れてってあげよう。ちゃんと頭を検査してもらえ」
「本当ですよ! なんなら、証拠見せますから!」

のえるはポケッから定期入れらしき物を取り出し、その中から学生証とおぼしき、やけに擦り切れた紙切れを出した。
見てみると、"○○高等学校 有効期限2000年3月31日"と書かれている。写真には9年前のものと思われるのえるが写っているが、ぶっちゃけ今と大差ない。
というか、なぜそんなもんが定期入れに入れっぱなしなんだ。まさか、このためだけに持ち歩いているのか?

「信じてもらえましたか?」
「ああ、よくできた紙切れだな」
「う~! 本物ですよぉ! …はぁ、仕方ないか」

のえるはため息をつくとベッドからはい出た。まだ足元がふらついている。


644 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:55:32 ID:/cgU9SAg
「無理するなよ。何も出てけってんじゃないぞ」
「いえ…ハサミ貸してくれませんか」
「? 構わないが」

僕は勉強机の引き出しからハサミを取り出し、のえるに手渡してやった。
何を思ったか、のえるはハサミを受け取ると、自らのツインテールの片方にハサミをあて、一思いにじょきっ、といった。

「いきなり何してんだ!?」
「見ててください」

切り離された髪の毛はばさばさっ、と床に散った。長いからかき集めるのには苦労しないだろうが、いきなりなんなんだ?
と、僕はとある違和感に気付いた。
たった今髪を切ったはずなのに、のえるの髪は量が減ってないように見える。よく近づいて、切断箇所を見てみた。…気のせいではない。切った痕跡が見当たらない。

「よくできた手品だな。宴会で使えそうだ」
「……………っ!」

僕は率直な感想を述べただけなのに、のえるは思いっ切り不服そうな顔をして、何を思ったかスウェットを膝下まで下ろし、ハサミを振りかぶった。…え?
ざくり。なんて鋭い音はしなかった。ただ、ハサミの刃はのえるの太股に大きな傷を作った。

「何考えてるんだ馬鹿野郎!?」僕はのえるからハサミを奪い取り、部屋の隅へ投げ飛ばした。
「痛っ…いいから、よく見ててください!」
「えっ…?」

のえるが指差した傷口は、僕の目の前で徐々に塞がっていき…しまいには傷があったのがわからないほどにまで治ってしまっていた。30秒もかかっていない。

「これも、手品だと思いますか?」
「…いや」
「だから病院はだめ、って言ったんです。行ったら最後、そのままどこかの施設に連れてかれて一生帰ってこれなくなりそうで…。
私年取らないし、傷もすぐ治るんですよ。昔の知り合いが、"格爆弾で自爆するか火山口に飛び込まないと死ねないな"って言ってましたけど、まさにそんな感じです。
あ、でもそのおかげでお風呂はあんまり入んなくても平気なんですよ? そこだけは助かってますね」

にわかには信じがたい話だ。ラノベにだってそんな設定は滅多にないだろう。だがあんなものを見せられては…


645 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:56:10 ID:/cgU9SAg
「…悪かった、信じるよ」
「ほんとですか!?」のえるは嬉々とした表情を見せた。
「ああ、ただし…もうこんな事するな。髪を切ったり太股を刺したり…いくら治るからって、もっと自分を大切にしろ」
「……そんなこと言われたの、初めてですよ。昔の友達だって、言ってくれませんでした。けど…わかりました」
「わかればいい。あと…いつまでその恰好でいる気だ? 僕は子供のパンツを見て喜ぶような性癖はないぞ」
「わっ! み、見ちゃダメですっ!」のえるは顔を真っ赤にしてスウェットをたくし上げた。

子供の、とは言ったが…紐パンはないだろおい。色気づいたって、ませたガキにしか見えん。さっきの太股の傷さえなければ、そう決め付けられたものを…あれで27歳か?
僕は頭の中を一旦整理すべく、のえるにこう促した。

「とりあえず、風呂入ってこい」

#####

「ふぅ…さっぱりしました。お湯って贅沢ですねぇ」
「あんたの生活が異常だっただけだ。風邪引くから早くドライヤーで髪乾かせ」
「大丈夫ですよ、風邪なんてひいたことありませんから」
「さっきまで寒がってぶるぶる震えてただろうが…」

風呂から上がったのえるは、用意しておいた着替えを身に纏いリビングに出てきた。やはりその小柄な体型には僕のシャツは大きすぎたようで、かなりだぼついている。
台所で洗い物をしながら遠目で見てもわかるくらいだ。

「あの…いろいろありがとうございました。それで、お願いがあるんですが…」
「なんだ」

のえるは台所にいる僕のもとへ来て、こう言った。

「あの…一晩泊めてくれませんか? 床でもいいので。明日になったら出ていきますから」
「でもあんた、一週間さ迷ってたって…」
「はい。両親はもう死にましたから。今まではバイト先の店長の家でお世話になってたんですけど、お店潰れちゃったしご迷惑かけると思って出てきたんです。
 明日からまた家賃の安い物件探して回るので、せめて今日だけ…だめですか?」


646 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:57:26 ID:/cgU9SAg
…なんとも理解しがたい複雑な事情だ。だが、それに対し僕はこう返した。

「阿呆」
「…?」
「事情はうまく飲みこめんが、あんたみたいなちんちくりんに家を貸す奴なんかいないぞ。僕ですら、太股の傷を見るまでは…正直今も半信半疑なんだからな。
 不動産屋にいちいちあれをやるのか? その前に門前払いを喰らうのが関の山だ。第一、あんたみたいな子供を放り出したら保護責任者遺棄といってな、
 僕が役人の世話になっちまうよ」
「えっと、つまり……」
「…一晩とは言わん、好きなだけうちに居ろ」
「!! ありがとうございますっ」

のえるは心底ほっとしたような表情と、歓喜の折り混じった顔をした。…やはりどう見てもガキだ。
まあ父さんにも電話でうまく説明したからいいか。

「でも私、子供じゃないですよ」
「体は子供だろうが…」

#####

30分前―――

Prrrr…Pi

「父さん…今大丈夫?」
『ああ、少しならな。珍しいな、真司から電話してくるなんて』

電話先は、会社にいる父さんだ。

「頼みたいことがあってな。…家出少女が行き倒れてたから拾った。しばらくうちに泊めたいんだけど」
『…また突拍子もない話だな。だか真司は昔から率直にものを言う子だったからな、かえって信じやすい』
「ごまかすのが面倒なだけだよ。で、いいかな?」
『ああ、かまわんよ。家のことは全て真司に任せてあるからな』

仕事で忙しい父さんは、昔から滅多に家に帰って来ない。母さんは…五年前に死んだ。だからこの家には僕一人なのだ。
別に不自由はしていない。無駄遣いしなければ十分足りるほどの生活費を僕の口座に送ってくれるし、社会勉強の一環と思えばいい。

『昔からお前には寂しい思いばかりさせてるな…すまん』
「僕なら大丈夫だ。父さんは、仕事はどうなの?」
『最近また忙しくなってきたな。まあそれだけ稼ぎは増えるが…。今度、アメリカの企業の社長との会食も控えてるし…またしばらくは帰れそうにない。
 その娘がいい話し相手になってくれればいいな』
「まだわからないよ。…父さん、無理するなよ。雪も降ってるし、体に気をつけて」
『ありがとう。…真司も、気をつけてな』
「ああ」


647 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 18:00:32 ID:/cgU9SAg
#####

現在―――昨日のカレーから作ったカレーうどんをのえると二人で食べ、そのまま部屋に戻ってきていた。

「はぁー、暖房って贅沢ですぅ」

のえるは暖房の効いた僕の部屋で、かれこれ1時間はにへらにへらと幸せそうな顔でカーペットの上をごろごろしている。
外の雪はさらに激しく降り、窓から見てもかなり積もっているのがわかる。6時のニュースでも「一足早く冬到来!?」と、どこも同じ話題で持ち切りだったくらいだ。

「しかし今日は本当に寒いな…」
「ええ。でも雨じゃないだけましでしたね。雨なら服がびしょびしょになっちやいますし、雪と違ってシロップつけて食べることもできませんから」
「………今のは冗談か?」
「実体験ですよ?」
「よくそんなもん食う気になれたな。酸性雨からできた雪なんざ、僕ならごめんだが」
「女は度胸、何でも試してみるもんです」

この娘は一体今までどれだけ薄幸な生活を送ってきたのだろうか? 聞いてて不敏になってきた。

「あ…そういえば、まだお名前伺ってなかったです」
「―――そういやそうだった。僕の名前は、桐島 真司だ。真司と呼んでくれて構わない」
「真司さん………逃げちゃだめだ逃げちゃだm」
「はいストップ。それ以上は色々まずい」

意外とアニオタなのか? …水城と話が合いそうだな。今度会わせてみるか…いや、そのうち嫌でもエンカウントするだろう。そのときは…いとこを預かったとでも言い訳をしておけばいいか。


648 :少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 18:01:43 ID:/cgU9SAg
「ちょっと隣の物置部屋から布団をとってくる」僕はのえるにそう声をかけ、部屋を出ようとした。
「私、床でも平気ですよ? カーペット敷いてありますし」
「僕が気が気でないんだ。悪いが無理にでも使わせるからな」

まったく、今日は体をよく動かす日だな。さすがに疲れた。布団を敷いたらさっさと寝よう。明日は日曜だし、のんびりできる。

布団はしばらく使ってなくて少し埃っぽいが、僕が使う分には困らない程度だ。僕は軽くはたいてから布団を持って自室に戻り、床に敷いた。
疲労困憊な僕はそのまま布団に潜り、寝の体制に入ろうとした。

「あ、あんたはベッド使って寝てくれ。シーツはさっき替えといた」
「そんな、悪いですよ! 私が下で寝ますよ」
「はいはい、おやすみ」

無理にでも布団を占領してしまえば、のえるはベッドで寝るしかないだろう。僕はそのまま寝たふりを決め込むことにした。

「zzz…」
「あ、もう……じゃあ、ありがたく使わせていただきますよ…」

のえるは渋々ベッドに潜ったようだ。

「電気、消したほうがいいですよね…よし。おやすみなさい、真司さん」

電気は消え、すぐにすやすやと寝息が聞こえはじめた。それを確認した僕も、本当に寝ることにした。
今日は疲れた。おかげでぐっすり眠れそうだ。
しかし、明日から一体僕はどうなるのやら。季節外れの雪といい、突如現れた27歳(自称)で不老不死(自称)の少女…次はなにかとんでもないものが来そうだ。
杞憂に終わるといいが………はぁ。