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665 : ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:48:11 ID:mHMjV5ak
くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ なーたをつかーってくーびちょんぱ♪
くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ にーくをえぐーってくーびちょんぱ♪
かーわはいで~♪ もーつかーきまわしってぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃ♪
めーだまーがおーちたーらとーろけーるのーみっそ♪
(オーゥイェー! 今夜はボクの大好きなビーフストロガノフだね♪ 愛してるよマイハニー!)

くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ ちっしぶーきふっかせってくーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ ばーらばーらしたいのなーいぞううまい♪
(ぎゃー! なぜ殺しやがったー!)

 おーぅいぇー。なんて邪悪な歌を口ずさみながら尻を振って料理をしてやがりますかこの女は。そして何故に裸エプロン?
 甘ったるいスウィートボイスでスパイシーな電波猟奇ソングを歌う女の尻を眺めながら、俺はどうしたもんかと考え続けていた。
 鼻腔をくすぐるカレーの美味そうな匂いを嗅ぎながら思うが、電波ソングの歌詞と作ってる料理が関係ねえ。
 しかしなんだ、これは。もうあれだ。うんあれだ。
 わけが分からん。
 桃のような形の良いぷるりとした尻。まな板の上からゴリゴリと聞こえる音。そして立てかけられている血まみれの凶器。
 深く考えたくない不思議空間。その中にどうして俺は縛られて転がっているのだろうか。なんか後頭部が激しく痛い気がするし。
 手足を結ばれて芋虫のような状態で女の尻を眺めること数分。いい加減股間がはちきれそうである。

 いやはやしかし、これはなんとも言えぬ光景である。まさか裸エプロンで料理している女の後ろ姿がこれほど素晴らしいとは……ッ!!
 シミ一つ無い白い肌。余分な脂肪の無い肢体。腰のくびれから尻、そして太ももまでの素晴らしいライン。
 太すぎず細すぎない魅惑的な太ももから、ふくらはぎからキュッと締まる足首までの脚線美。女体とは芸術である。脚フェチにはたまらん。
 動く度にぷるんと揺れる桃尻を凝視しながら、俺の頭脳は今まさにフル回転している。
 ――ええ尻しとるやないかい。……じゃなくって、なんなんだ?



666 : ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:50:15 ID:mHMjV5ak
 これはあれか? 最近話題の肉食系女子か? 肉食系は男を拉致(?)って裸エプロンで料理して男を墜とすのが流行りなのか?
 いやいや、もしかしたらこれは尻……じゃなく料理が美味くなるためのおまじないやもしれぬ。油使う時は気をつけろ。
 料理を食べさせてあげるから代わりに君を(性的な意味で)食べさせてね! だったらありがたい。顔が見えないが尻で判断すると美女に間違いない。
 尻が……いやいや、そろそろ本気で考えよう。真面目に考えないと状況が状況だけに危険かもしれん。縛られてるし。
 縛られている俺と裸エプロンで料理をしている桃尻女。そして見知らぬファンシーな女の子の部屋。
 シックなデザイン家具に甘い香りのする清潔な空間。(カレーの匂いも混じって微妙であるが)そして可愛らしいぬいぐるみと金属バット。
 結論――わかるわきゃない。コ○ンも金田○もわからないだろう。
 つーか本人に聞けば良いのだが、電波ソングが危うい内容になってきて正直怖い。なんでママの首がないんだ?
 それにしても血まみれの凶器が気になる。無造作に部屋の壁に立てかけてある金属バットに血がべったり。
 これは見てはいけないものを見てしまったのだろうか。犯罪に使った凶器を知るということは探偵ものでは死亡フラグなんだけどなあ。
 いやいや、きっと勘違いだ。バットは甲子園を目指していた兄の形見なのだ。不慮の事故で亡くなり、そのとき血がついたままなのだ。
 なんか後頭部が激しく痛い気がするけど、これも気のせいだろう。
 ……うん、このままではいかん。尻……じゃなく時の流れに身を任せて尻を見続けるのも悪くないが、俺とて肉食系日本男児。ええ、やるときゃやりますよ!!

 起きましたよーと気付かせるために咳払いを一つ。見知らぬ女性に背後から声をかけるのはどうかと思ったわけである。
 すると、ぴたりと歌が止み、女がくるりと振り返った。思ったより小さな咳払いだったが女は気付いてくれた。おお、かなり美人だ。
 ……どこかで見た覚えがあるような気がするなあ。でもまったく見覚えがない。変な感覚である。なんぞこれ?
「あ、起きた? もうすぐ食事ができるからね。辰巳君はカレー好きよね?」
「ああ、うん」
「もう少し待っててね」
「うん」
 ……なんと気の抜けた短い返事だと思うことなかれ。質問に質問で返してはいけない。だからこれはしょうがないのだ。




667 : ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:52:13 ID:mHMjV5ak
 それに待っててくれと言われたら待つしかない。だからこれは俺が情けないわけでは決してないのである。しょうがないのだ。
 そんなわけで、料理ができあがるまで俺はもうしばらく美女の尻を眺めることにした。
 それにしても、どうして姓が変わる前の俺の名前で呼ぶのだろうか? 今の姓は遠見(とおみ)なんだがね。



「味はどう?」
「うん、美味いよ」
 そう褒めると、彼女は嬉しそうに顔を赤らめて微笑んだ。初々しい少女のようで可愛い。抱きしめたい。でも縛られてるから無理だ。
 正直な感想を言えば、味はよく分からなかった。なにせ赤ん坊のように「あ~ん」と食べさせられていて嬉し恥ずかしいからだ。
 しかし裸エプロンの美女が作ってくれて、あまつさえあ~んされて食べる料理が不味いはずがない。
 辛さが足りないとかイモが大きいとかという文句など決してない。でもニンジンが多いのは……いや、文句など断じてない。
 彼女は親鳥が雛に餌を与えるかのごとくスプーンを口に運んでくる。二十歳になって雛鳥の気分になるとは思わなかった。
「ごちそうさまでした」
「いいえ、こっちこそ。辰巳君に食べてもらって嬉しかったわ」
 おお、なんということだろうか。こんな美女が俺に、俺に……ッ! 幸せすぎて夢の如きかな! いや、マジで夢じゃなかろうか?
 ……しかし、無情にも現実は厳しい。夢のような現実とはいえ、夢は覚めるものだし現実は直視しなければいかん。
 この突如起きた非日常タイムも目の前の裸エプロンも、深くく考えないとそろそろ縛られた手が痛いのだ。
「あのさ、ところでなんだけど」
「ん、なに?」
 食器を片づけて立ち上がろうとした裸エプロン(命名)に話しかける。屈んだ時に乳首が見えて興奮したが、それは不可抗力なのだから俺に罪はない。
「そろそろ縄を解いてくれないかな。別に逃げたりしないし」
「うん、いいよ」
 ……あれ? あるぇー? 即答ですか?
 断られると思ってたのにあっさりすぎない? んじゃなんで縛られてたのさ? 縛ってた意味なくね?
 彼女が背後に回り込み、もぞもぞと縄を解いていく。よほど固く縛ってたのか少し時間がかかった。
 ようやく縄が解かれると、肩と肘の関節が少し痛んだ。足首の縄は自分で解き、やっと自由になる。今度縄抜けの練習をしよう。




668 : ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:54:14 ID:mHMjV5ak
 肩を解しながら胡座で座り直し、食器をキッチンに置いて戻ってきた彼女とテーブル越しに向かい合う。食器を水に浸すのは基本だ。
 う~む、しかし分からない。こんな良い女は知り合いにいないぞ。大学も人が多いとはいえ、これだけの顔なら目立つし記憶に残る。
 魅惑的な瞳は色気を醸し出しているし睫が長い二重瞼。鼻もすっと通っていて形がいい。唇も形良く厚すぎず薄すぎず。
 小さな顔は輪郭が良い。顔全体のバランスが見事なまでに良いのだ。そこいらのアイドルや女優に負けない可愛さだろう。
 おまけに胸は大きいし乳首は見事なまでにピンク。尻も素晴らしいし色気たっぷりの美脚だ。完璧超人やないかい。
 ……知らん。こんな美女なんてまったく知らんぞ。知ってたら十年前のパソコンの容量に劣る俺の脳みそでも覚えているはずだ。
 俺の人生に関ったこともない女だ。いや、現在進行形では関わってるけど。それでも――
「まだ思い出さない?」
 彼女は少し拗ねたような表情でそんなことを言ってきた。美女のうえに読心術? まさか忍者? はっ、実は俺はサトラレだったとか――
「うん、まあその……」
「仕方ないわよね。でも辰巳君には自分で思い出してほしいの。だからヒントをあげる」
「ヒント?」
 なにを仰りますか奥さん。思わず質問口調で返してしまう。奥さん?
「五年前と六年前、二回隣の席に座っていたわ」
 五年前と六年前といえば中学2年と3年の時だ。思い出したくもない記憶である。……あの頃の自分は中二病だった。

 脳みその奥深くに押し込んで深く埋めていた記憶をほじくり返してみる。嗚呼、思い出したくない懐かしき日々。セニョール、懐かしき暗黒の日々よ。
 過去の記憶を検索する。中2と中3の時に隣に座っていた女子――うーむ、ヒットしない。二十年前のパソコンよりは脳の容量は良いはずだが。
 目の前の美女と過去の同級生の女を照らし合わせみる。中学の頃にこんなダイヤの原石があっただろうか?
 彼女はじれったそうに、そして期待と不安と苛立ちの混じった顔で俺を見つめる。よせやい、そんなに見つめられると照れるじゃないか。
 照れるのだが――それにしても彼女の瞳の奥が少し怖い気がするのは気のせいだろうか。
 なんというか、例えるならば、濁っているというかどこを見ているか分からないというか、深く暗い海の底のような瞳に少し背筋が寒くなる。




669 : ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:55:48 ID:mHMjV5ak
「それじゃ、中学二年の秋と三年の春よ。まだ思い出せない?」
 大盤振る舞いだなおい。どうやらよほど思い出してほしいみたいだ。これは是非とも思い出さなければなるまい。彼女の瞳と視界の端に見えるバットが怖いし。
 普段使っていない脳みそよ、小宇宙(コスモ)よ、今こそ燃え上がらないでどうする。二十年前のパソコンに負けるな俺! 頑張れ俺ッ!!
 ウィーン、カタカタと音がしそうな頭の中をスコップで掘り返しまくる。なんせ美女が凝視してくるのだから時は一刻を争う。
 中学生の頃を思い出す。あの頃の俺は妙に尖っていた。尾崎でもあるまいにバイクに乗って走っていた懐かしき日々。
 男子にも女子にも全員に嫌われ、友達といえばペットのチャーリー(雑種犬・5歳)と幼なじみの将臣(まさおみ・隣の中学)だけだった日々。
 そう、思い出せ。なにも前世を思い出せってわけじゃないんだ。たった5、6年前のことじゃないか。思い出したくねえけど思い出せ!
 脳みそフル回転。シナプスよ今こそ燃えろ! キーワードはあるんだ!
 中2の秋と中3の春。中2の秋と中3の春。中2の秋と中3の春。中2の秋と中3の春。
「あとドロップキック」
 なんじゃそりゃ? 俺は仮面ライダーか。ドロップキックがなんの関係が…うんん!?
「中2の秋と中3の春、ドロップキック。中2の秋、ドロップキッ…………あっ」
「思い出してくれた?」
 テーブルの上に身を乗り出して期待に満ちた彼女を見つめたまま、俺は口を開いて呆然とした。
 6年前の秋――確か記憶が確かなら正確には十月頃だったと思う。
 隣に座っていた女子の記憶と、目の前に座っている美女が脳内で交差して混じり合う。まったく面影がない。思い出せるわけがない。
 いや、まさか、そんな――

「お前……平坂、なのか……?」
「そうよ。やっと思い出してくれたわね、辰巳君」

 目の前の女――平坂睦美(ひらさか むつみ)は、とても嬉しそうに笑った。