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12 :起承『転』結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/14(日) 13:40:17 ID:fq+su5n6
「ねえ、あの女は辰巳君にとってなんなの? 辰巳君とどんな関係なの?」
 えー、突然こんな質問をされましても、私としましてはなんと答えてよいのか検討もつかないわけでして。
 そんなことより部屋の空気が妙に寒くなった気がしたりするわけでして。平坂が少し怖い気がするわけでして――
「あの女って、誰?」
「とぼけないでよ。いつも仲良く話してる女。辰巳君のバイト先にまで来てるあの女のことよ」
 脳内検索該当者一名。その間僅か2秒。危機的状況である事を察知してか本能が脳を活性化させた結果である。グー○ルに勝てる日も遠くない。
 清村真希(しむら まき)は大学の同期であり、同じ講義で仲良くなった女子だ。なかなか可愛いのに彼氏はいない。
「ああ、清村のことか。あいつはただの友達だけど、それがどうかしたのか?」
「嘘じゃないわよね? 辰巳君はわたしに嘘つかないわよね?」
「嘘じゃない。なんであんなだらしない飲兵衛のことでお前に嘘をつかなきゃならんのだ」
 清村は大の酒好きで、飲み会と名のつくものがあればどこにでも現れるという女だ。おまけに酒癖が悪い。
 初めて会う人間は清村の快活な人柄と容姿に惹かれるのだが、一緒に飲むと翌日には接し方が変わる。酒は人を狂わせるのである。
「よくバイト先に来るじゃない。それどころか辰巳君のアパートによく来るのはどうして?」
 おいおい、どうしてそんなこと知ってんだよ。どこから見てたんだよ怖いよ平坂。
 アルバイトの大半を酒に注ぎ込む飲兵衛女な清村だが、バイトの稼ぎなんてたかが知れている。基本は宅飲み(家で飲むこと)になることが多い。
 俺のバイト先が居酒屋であることを知り、そしてアパートがなぜか近い事を知った清村は暇と金があれば酒を持って転がり込んでくる。
 目的は分かっている。居酒屋で身につけた俺の料理の腕だ。清村は料理の腕が致命的である。
 美味い酒には美味い肴が必要と考える清村は、俺を専用コックとして見てるだけなのだ。間違っても男女の仲ではない。貧乳だしなぁ。
 懇切丁寧に清村の悪行と人格、酒癖の悪さについて教えても、平坂の表情は変わらない。それどころか少し怖さが増してきている。
「――というわけだ。な、これで清村に対して何とも思ってないことも、ただの友人ってことも、」「あの雌豚……」
 ……はい? なんか聞こえたような気がしたんですけどコレハキノセイデショウカ? メスブタ?




13 :起承『転』結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/14(日) 13:42:01 ID:fq+su5n6
「駄目よ辰巳君、そんな女とはもう関わっちゃ駄目。辰巳君の迷惑も考えないそんな女なんて付き合っちゃ駄目」
「駄目っておい……」
「駄目なの」
 抑揚のない冷たい声で平坂が押しきるように言う。相変わらず表情は戻らない。想像してみたまえ、冷たい顔をした裸エプロンの美女を。
 先程とのあまりの変わりようにたじろぐ俺を見つめたまま、ようやく平坂は笑った。
 口元だけ。
 なんと歪な顔ができるんだろうか。無理やり笑った人形の顔みたいでホラーすぎる!
「ねえ、辰巳君。まだ聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
「な、なんだよ」
「バイト先の女でやたら辰巳君に馴れ馴れしい女がいるけど、なんなのかな?」
 なんなのかなってただのバイトの先輩ですけどそれが何か? つーか「なんなのかな」って言い方おかしいよね?
 そう普段ならあっさり言えるのに、目の前の平坂がこんなんですからね。そりゃあ大和魂荒ぶる日本男児である俺は
「た、ただのバイト先の先輩だよ……」
 とまあどもりながら頼りなげな言い方になってしまっても仕方ないのではなかろうか。とんだ腰抜け野郎である。
 しかしなんだこれは? まるで嫁に浮気がバレた旦那みたいではないか。キャバクラの名刺がポケットから出てきて見つかった的な。
 というか、どうして清村といいバイト先の先輩といい平坂は知っているのだろうか。いったいどこから見てたのだろう。
「ねえ、辰巳君。正直に話してほしいの。別に疑ってるわけじゃないんだけど、彼女とはどんな関係なの?」
 平坂よ、その変な言い方はまるで自分が彼女のような言い方だぞ。そして目が濁ってるみたいで怖いんだっつうの。
「瀬名さんはただの先輩だよ。バイトに入った時から世話になってるだけでなんの関係でもない」
「その割にはべたべたしすぎなんじゃないかなあ? 休みの日には一緒に遊んでない?」
 だからなんでそんなことまで知ってるんだよ。探偵ですかお前は。
「平坂よ、瀬名さんとはなんの関係でもない。あの人は誰とでも仲が良い人なんだ」
 瀬名翠(せな みどり)先輩はバイト歴3年のベテランである。頼りがいがあって厨房とホールが兼任できるし周囲の信頼も厚い。
 気さくで優しくおまけに美人、男性スタッフはみんな一度は惚れた事があるらしい。そして玉砕して涙を飲んでいる。




14 :起承『転』結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/14(日) 13:44:07 ID:fq+su5n6
 なんと彼女はレズビアーンな人なのだ。いわゆる同性愛者。そりゃ玉砕するわな。特殊な性癖であるから男を男として見ていない。
 新しく入ってきた女性スタッフは彼女の毒牙にかかる。そして入ってもすぐに辞めてしまうのだ。よって瀬名さん以外の女性は店長だけしかいない。
 常連のお客様の中にも目を光らせていて、清村は特にお気に入りらしく、清村と仲良くなりたいために休日に俺は餌になるのだ。
 清村もなんとなく察しているらしく(伝えてない)瀬名さんのことは苦手らしい。平坂、気をつけろ。お前なんて恰好の獲物だ。
 またも懇切丁寧に説明する俺。間違っても俺と男女の仲になることはないという事を知り、多少平坂の空気が和らいだ。そんな気がした。
「――というわけだ。そんなわけで瀬名さんと俺とはなんの関係も」「紛らわしいのよ糞虫が……」
 ……あれれ~? なんかまた、変な言葉がキコエタキガスルアルヨー? クソムシッテナニゴデスカ?
 ふと見ると平坂は両手の拳を握りしめている。白く小さな手が微かに震えているのは寒いからか? 寒いなら服着ろよ。
 どうしたものか、平坂の様子が目に見えておかしい。どうも命の危険を感じるくらい危なげな気配を振り撒いてる。デンジャーデンジャー。
「辰巳君、そんな女と仲良くしちゃ駄目よ。そんな変態と一緒にいたら辰巳君の人生に悪影響がでるわ」
「おいおい、瀬名さんは良い人だぞ。性的趣向がどうだろうと」
「駄目よ」
 ……平坂よ、ハッキリ言うようになったなあ。昔は声も小さくハッキリしない喋り方してたのにね。
 ここまで周囲の女性陣にダメ出しされるとは思わなかったよ。まあクセの強い女ばっかだからなあ。でも現在一番クセの強い女は平坂だよ?
「辰巳君、人間関係ってとても大事なことだけど、付き合う相手は考えた方が良いと思うの。特に女の子とか。
辰巳君は格好良いし優しいんだからそこにつけ込んでくる女だっているの。女は一皮剥いたら何考えてるか分からない生物なのよ」
 俺は平坂が分かりません。
 女が女について語ると生々しいものがあるが、平坂は妙に力強く語る。何があったんだい?
「辰巳君の隣にいるのはわたしなの。わたしじゃなきゃ駄目なの。側にいていいのはわたしだけなの。ねえ、分かるよね?」
「お、おい平坂、どうしたんだよ? なんか怖……じゃなくて、言ってることおかしいぞ?」




15 :起承『転』結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/14(日) 13:46:10 ID:fq+su5n6
「おかしくないわよ。わたしの言ってること間違ってる? あの頃も隣はわたしだったじゃない」
 いかん、いかんですよ。なんか危ない匂いがプンプンしてきやがったですよ。尋常じゃねえ。こいつぁヤベェッ!
 頭の中で警報が大音量で鳴り響く。第六感が告げているが今の平坂はヤバイ。怒った母ちゃんより恐ぇ。
 顔が能面のように表情がないくせに、口元だけ笑ってるというビューティーホラーフェイス。素直に感情を丸出しにして怒ってるほうがなんぼかマシだ。
 特に目が恐いんだよ。なんだよその濁った目は。死んだ魚みたいな目で恐いんだっつうの! 生気がまったくない目でこっち見んな!
 危なげな空気を平坂が発散し、重苦しい空気が部屋を覆いつくす。裸エプロンがトラウマになりそうだ。
 そうだ! 確か将臣が言っていた。「女が怒ってる時はとにかく謝れ。全肯定で切り抜けろ」だそうな。さすが彼女持ち、言うことが違ぇ!
「わ、悪かったよ。俺が間違ってた。勘違いだ。平坂が正しいよ」
 これで平坂が更にヤバくなったら将臣は今度ぶん殴る。生きて明日を迎えられたらの話だけど。
 はたして効果はどうかと生唾を飲んで見守っていると、平坂はにっこりと微笑んでくれた。ナイス将臣!
「じゃあ、あの二人とは二度と関わらないでくれるわよね」
 なぜそうなる。
「いや、それはちょっと無理があるだろ?」
「どうして? わたしがいるんだからあの二人はいらないじゃない」
 会話が成立してねぇ! どんな理屈でそうなるんだ。助けて将臣! 彼女持ちなら良い案を今すぐ教えてくれ!
 いくら大和魂荒ぶる日本男児な俺でもだ、神の申し子と呼ばれる俺でも今の平坂を納得させるだけの言葉が思いつかない。
 というかどうしてこんな状況になっているのだ。こっちはこっちで聞きたいことは山ほどあるのに。
 そうだ、考えてみれば一方的に平坂が話して俺はまったく受け身の状況なのだ。ここは一つ話題を無理にでも変えるしかない。
「清村と瀬名さんのことは置いといてだ、俺まだ聞いてないことがあるんだ」
「……なに?」
 どうやらまだ話は通じるらしい。問題は質問に素直に答えてくれるかだ。嘘つかれたらどうしようもないんだけどな。
「一番最初に聞きたかったんだけど、どうして俺はここにいるんだ? どうやって連れてきた。そして、どうして俺を縛ってた?」
 ここが平坂の住む部屋ということくらいは分かる。問題はそれまでの経緯だ。




16 :起承『転』結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/14(日) 13:47:54 ID:fq+su5n6
 平坂は少し迷ったように見えた。僅かな沈黙。そして――
「ごめんなさい。アルバイト先から帰ってきた辰巳君にちょっと眠ってもらって部屋に連れてきたの。
縛ったのは昔みたく暴れられたくなかったし、目が覚めて部屋から出ていってほしくなかったから」
 ……運命的な再会がどうとかって言ってなかったっけ、キミ?
 間違っても眠らせて両手両足縛って部屋に連れ込むのは運命的じゃないと僕ァ思うんですよ。
「そうか。で、後頭部が痛いんだが、そこのバットで殴ったのか?」
 視線の先には血がべったりの金属バット。よく見ると少しヘコんでいるね。
 しかし平坂は首を横に振り、
「ううん、スタンガンで気絶させたんだけど、倒れた辰巳君を引き摺ってたらあちこちぶつけちゃって」
「おい、まさか足持って引き摺ってたんじゃないだろうな? ってか話聞いてる限り足持ってたろ? 普通逆だろうが!」
「ごめんなさい。途中で気付いたんだけど、でもすぐだったし」
「引き摺られてハゲたらどうすんだっつうの。ってか頭って大事な部分を粗末にすんな!」
 なるほどな。俺の後頭部が痛い理由に金属バットは関係なかったんだね。そりゃバットで頭殴るなんて危ないこと、普通しないよな。
 つーか平坂ってかなり荒っぽいよね。もしかしてテレビとかぶっ叩いて直すタイプ?
「ごめんなさい。起きたら説明しようと思ってたんだけど、話すタイミング掴めないし忘れてて……」
「いや忘れんなよ。そこはしっかり話せよ」
「こんなわたしのこと、嫌いになった?」
 悲しそうに目を伏せて平坂が謝る。ぐっ、卑怯な。お前ね、なんか俺が悪いみたいに見えるじゃないか。
「嫌いになるも何もだな……」
「ごめんなさい、ごめんなさい。謝るから怒らないで、嫌いにならないで!」
 むぅ……そんな必死に謝られたら許すしかないじゃないか。いや、嫌いにならないでって言われても好きでも嫌いでもないし。
 まあ悪意があったわけじゃないんだろう。悪意っつうか邪悪な何かは感じるんだけどね。
 気絶させて拉致る(しかも拘束オプション付き)って悪意無しでできるもんかね?
 しかしだ、こんな非日常な出来事を出来心でやれるものだろうか? 計画的犯行にも思えるんだがそこら辺どうなんでしょう?
 なんだか怯えてるような、悲壮感を漂わせて俯いている平坂だが、申し訳ないけどその辺について聞いてみるか。

 むう、これは長い夜になりそうだぜ。(刑事風に)