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第十二話


「そんなこんなで放課後だよ!」

「だから誰に言ってるんだ?」

 騒ぐ太めの友人1を尻目に、鞄に物を詰め込んでいく。
 思ったよりも相手は狡猾な連中なのか、人目があるところでは俺に手出しはしないようだ。
 その判断は間違っていない。後ろめたいことをするならばあくまでも陰でやらなければ意味がない。
 謹慎がとけて一週間。初日の手紙以降敵意というのは目立って表れていない。
 ただ気になるのが、教室にいる人間が少しずつ減っていることだった。
 3人の女子。顔も名前も覚えていないが、ここ最近ずっと休んでいる。
 なぜ気になるかを問われれば困ってしまうが、俺への敵意と関係があるのではと勘ぐってしまう。
 椎名も休みとなれば一緒に帰る人間もいない。バイトも今日は入れていない。
 ならば一日中修練出来るわけだが、それよりも気になることがあった。
 それは例の色男……名前は……桂五郎だっけ?そんな名前だった気がする。
 色男が意識不明というのがどうにも俺の心にしこりを作り続けていた。
 別段俺のせいじゃないとはわかってはいたが、どうにも気になるものは気になるのだ。
 だがわざわざ見舞いに行くという気は起きはしない。

「ばいほー、近衛ー!」

「待ってくれ。」

 踊るように出ていこうとする友人2を呼び止め、どう話を切り出したらいいかを考える。
 少なくとも怪我させた張本人が聞くのも問題がある事柄だ。
 少しだけ考えて、別の場所で話すことを決めた。

「すまない、話したい事があるんだ。」

「……え、あの、うん。」

 何故かもじもじとしている友人2の手を引っ張って非常階段裏に連れていく。
 ここは普段人どおりが少なく、カップル達の聖地となっている場所だ。
 そわそわする友人2の手を離すと、何から話すかをまず考える。

「聞きたいことがあるんだ。」

「う、うん。」

 緊張している友人2。こいつ緊張すると両手の人差し指を擦り合わせる癖があるんだな。

「ここ最近休んでる三人の理由、知ってるか?」

「……は?」

 聞こえなかったのだろうか。一瞬で目が点になったのに対してもう一度はっきりと告げる。

「ここ最近休んでる三人の理由を知っていないか?」

「あー……えー……うー……はぁ。」

 何故か頭を掻きむしりながら唸ってぐるぐると回り始める友人2。クマみたいだぞ。

「知らないよ。無断欠席みたいだね。でも女子高生なんてフラフラ勝手に遊びにいっちゃうものだと思うけど?」

「そうか。」

 確かにエスケープ程度ならそれほど気にすることもない話だ。よくある思春期の行動と考えられる。

「でも」

 そこで急に険しい顔をした友人2の言葉に、俺の思考が止まる。

「あの三人はそういうタイプじゃないと思うんだよなぁ。陰険で陰湿だけど優等生タイプだし。……もしかしたら柏木のことで臥せってるのかも。」

 柏木……柏木?
 ああ、とそこで思い至る。柏木だったか、あの色男は。

「あの三人柏木のファンクラブみたいなのに入れ込んでてね。まるでアイドルみたいに祭り上げてたよ。」

 ふむ、と一言だけもらして次に聞きたいことを問いかけてみる。

「柏木だが、その後はどうだ?」

 俺の聞きたいことも予想は付いていたのだろう。腕を組むと壁にもたれかかり、首を横に振って肩をすくめた。

「戻らないって。植物人間状態ってやつらしいよ。……こうして見ると、人間ってやつは脆いね。」

 その自嘲気味な言葉は気になったが、そうかと呟くだけで他に言葉が見つからなかった。
 この間まで悪態をついていた人間が、こうもあっけなくいなくなってしまう。それは酷く残酷な事だ。
 植物人間状態という奴は回復の見込みがあるが、死と似たようなものだと俺は思う。
 死は絶対だ。死に別れた人間には二度と会うことはできない。
 ああすればよかった、こうすればよかった。そういった後悔ばかりが積もっていく。
 俺は死後の世界は信じないから、死は文字通り永遠の別れだ。
 師父は言っていた。自分が奪った命には、どれだけ多くの悲しみがあったか分からないと。
 殺せば殺すほど憎しみは自分に振りかかるし、悲しみも自分に振りかかる。
 背負いきれなくなって、逃げだしたのだと師父は悲しそうに俺に告げた。
 人が背負える人の死は、それほど多くはないんだと思う。
 殺したにせよ、死を看取るにせよ。それはとてつもなく重く、心に傷をつけることなのだ。
 だからこそ死ね、殺すなどという言葉は俺には言えなかった。
 その言葉を放った後に、その人と二度と会えなくなるのが俺は怖くてしょうがない。

「気にすることはないよ、近衛。キミのせいじゃない。これはただの、事故だ。」

 突然放たれた優しい言葉に、俺の思考は急激に現実に戻される。
 寂しそうにつぶやきながら、友人2は俺の肩を優しく撫でた。
 見下ろすと小さいながらも一生懸命誰かを励まそうとする姿。
 誰かを大事にできる人間は幸せだ。その想いが自身をも幸せにしてくれるから。
 だから俺は目の前の少女が好きで、誇りにすら思えていた。

「ありがとうな、三咲。」

「なにさ、気持ち悪い。ボクは友人としてしたいようにするだけさ!」

 へへん、と笑う友人2に精一杯浮かべられる笑顔を浮かべて感謝の気持ちを伝える。
 伝えるならこういう言葉の方が、ずっといい。
 悪意の言葉は他人も自分も傷つけるだけだ。
 目の前の友のように、誰かを励ます言葉を放てる人間で俺はいたい。そう、思えた。