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297 :姉弟遊戯 [sage] :2007/11/16(金) 18:23:13 ID:d558cimu
 お姉ちゃんに恋人が出来たらしい。

「修也く~ん、修也く~ん♪ スキスキ~~♪」

 アッコちゃんの替え歌を口ずさみながら、上機嫌でマフラーを編んでいる我がお姉ちゃんの姿はなんというかとてつもなく鬱陶しい。

「お姉ちゃん。ちょっとマフラー編むなら黙ってやってよ。テレビの音が聞こえないじゃん」
「いいじゃない。こうやって修也くんのこと想いながら編むと、一本一本に愛が込められてるように思えるんだ~」
「なんか呪文みたいで気持ち悪いよ……」
「あはっ、いいね。愛の呪文かぁ。えへへ、いいなぁ。ソレ」

 ありゃ。気分を乗せちゃった。どちらかと言えば呪文というより呪詛のように聞こえるんだけどね。

「ねぇ、ねぇ、修也くん、このマフラー喜んでくれるかなぁ?」
「あー、はいはい。喜んでくれるんじゃないかねー……」

 ボクはなげやりに答える。そんな答えでもお姉ちゃんは「そうだよねぇ」とまた情熱的に身悶えながら、ちくちくと熱心に毛糸を編んでいた。
 お姉ちゃんの弟やって十五年になるけど、近頃は毎日がこんな調子だ。

 一ヶ月ほど前、お姉ちゃんに恋人が出来たそうだ。名前は田上修也さん。お姉ちゃんの学校のクラスメイトなんだってさ。
 お姉ちゃんが言うにはお姉ちゃんとその男の人は毎日いちゃいちゃいちゃいちゃしている校内一ラブラブなカップルでなんだそうな。まぁお姉ちゃんの言うことだから誇張がかなり混じっているだろうけどねー。
 登校するときはその人の家にお迎えに行って二人一緒に登校、放課後はその人の家で晩御飯を作ってあげてから帰ってくる(修也さんは一人暮らしなんだって)。帰ったら帰ったで、携帯電話片手に修也さんとメールだ。
 一度文面を見せてもらったけど、新婚さんかと思うくらいのお姉ちゃんの甘甘ラブラブメールに僕は呆れた。

 毎日朝早く起きて修也さんのお弁当を作ったりしたり、修也さんに何度もメールしたり、週末は毎週のようにデートにでかけたりと、お姉ちゃんはかなりその男の人に入れ込んでるようだった。

 まぁお姉ちゃんも顔は悪くないし、体のラインを隠している服の下は実は隠れ巨乳で胸おっきいし、健気だし、ちょっとボケボケなことに目をつぶれば、弟の僕の視線から見てもかなりの美人なんだよね。
 本当、いままでどうして彼氏が出来なかったんだろうと思うよ。
 そんな優しいお姉ちゃんに、それだけ慕われたらその男の人も本望だろうなぁ。羨ましいね。うんうん。
「お姉ちゃん。明日もお弁当作るんならついでに僕のお弁当も作ってくれないかな?」
「それはダメー♪」
「けち」
 うーん。その優しさをもう少し弟の僕に分けてくれればいいんだけどねぇ。



298 :姉弟遊戯 [sage] :2007/11/16(金) 18:24:08 ID:d558cimu
 ★

 あー、変な夢を見た。
 僕の目の前でチャゲがマフィアに囲まれる夢。別に僕はチャゲファンじゃないんだけどさ……、夢というものは時々本当に変なものを見せるね。
 時計を見ると深夜2時……。ふわぁあ。寝たのが12時ちょうどだったからまだあんまり寝てないなぁ。
 トイレ行って牛乳飲んでもう一度寝よう。体を起こすと、部屋の中はひんやりと寒い。床に脱ぎ捨てていたドテラを着込むと、僕は部屋を出て台所へと歩く。
 うう。寒いなぁ。
 そろそろストーブも出さないと、風邪ひいちゃうな……。
 ……ん?

「お姉ちゃん?」
「あ、起きてたの」

 台所の前でばったりとお姉ちゃんと会った。

「どうしたの? お姉ちゃん……どこか行くの?」

 お姉ちゃんは深夜2時だというのに、外行きの格好だったのだ。
 黒いGパンに防寒ジャンバーを着込んで長い髪の毛をすっぽりとニット帽に収めている、そして肩からおっきく膨らんでいるバックをかけていた。
 少なくとも、寝る時の格好ではない。まるでこれから泥棒にでも行くような服装だ。見事に黒ずくめだし。

「えっとね。修也くんのところ」

 お姉ちゃんは無邪気な顔で答える。

「え、今から行くの? 今午前2時だよ?」
「うん。行くよ」
「でもさすがに修也さんに迷惑なんじゃないの」
「そんなことないよ。毎日行ってるしぃ」
「え!? 毎日っ?」

 みんなが寝静まった頃、お姉ちゃんは毎日出て行ってたのか?

「それって、どういうことなの。修也さんが来いって言ってるの? そうだとしたら、こんな夜中に呼び出すなんて非常識にも程があるよ」
「そうかな? でもお姉ちゃんからしたら、夜でも修也くんに逢えるだから、別にいいんだけど」
「ダメだよ。もし道中で誰かに襲われたらどうするんだよ! 非常識だよっ」
「むぅ……」

 お姉ちゃんの無警戒っぷりに僕は呆れた。一応これでも僕の大事なお姉ちゃんだ。暴漢に襲われたりなんかしたらどうする。
 修也さんも修也さんだ。顔も見たことないけど、うちのお姉ちゃんをこんな夜中に毎日呼び寄せるなんてどうかしているよ。

「うーん、でもお姉ちゃん。修也くんに会いたい……」
「明日朝逢えるじゃん。毎日迎えに行ってるんでしょ?」
「夜も会いたいの!」
「あんだけメールしてるのに……、わかった。お姉ちゃん。じゃあ僕も一緒に行くよ。夜道を一人で歩かせるわけには行かないもん」

 僕はお姉ちゃんを待たせ部屋に戻り、パジャマの上からコートを着こんで再び玄関へ。

「さ、行こう。お姉ちゃん」
「うん」

 いい機会だ。これを機にお姉ちゃんの恋人である修也さんに会ってみよう。
 そして、もし修也さんが毎日お姉ちゃんを真夜中に逢いに来させてるなら、お姉ちゃんの弟として厳重に注意してやる!



299 :姉弟遊戯 [sage] :2007/11/16(金) 18:25:17 ID:d558cimu
 ん、お姉ちゃん。ここ修也さんの家。ふーん……。
 電気ついてないけど。もう寝てるんじゃないの。それか留守なんじゃ。え、好都合? どういうこと。お姉ちゃん。
 ドアかぎ掛かってるし。お姉ちゃん。本当にここが修也さんの家?
 ……ん。合鍵もってないの? お姉ちゃん。あんなにラブラブって言ってたじゃん。ん、カバンから何か出した。

「鍵はこれだよ」

 ん。針金と……ドリル? お姉ちゃん。なにする気だよ。それって、もしかして……。

(見事なサムターン回しのため、防犯上描写を割愛します)

「開いた」
「お、お姉ちゃん。ちょっと待って」

 今なにしたの。

「ドア開けたの」
「うん。確かに思いっきり開いてるけど……」

 でも、それは明らかに正規の方法で開けたんじゃないよね。鍵じゃないし。
 ちょ、ちょっ! お姉ちゃん! お姉ちゃんはドアノブを掴み開ける。チェーンががちゃりとかかっていたので、少しの隙間だけしか開かない。
 お姉ちゃんは慣れた手つきでカバンから、チェーンカッターを取り出すと…………。お、お姉ちゃん!?

 チャッキン!

「修也く~ん。おじゃましまぁす」

 今度こそ完全に開いたドアを開けてお姉ちゃんは普通に入っていった。
 ……お姉ちゃん。普通の恋人は、彼氏の部屋のドアを開けるのにサムターン回しは使わないよ……? チェーンロックを切断しないよ……?
 ……そういえば。よく考えてみよう。お姉ちゃんは何度も修也さんにメールをしていた。でも修也さんからメールが返信された所を僕は見たことあるか?
 なんだか怖くなってきた。

「お、お姉ちゃん!」

 僕はドアを開けた。小声でオジャマしますとつぶやき、暗い部屋の中へ。
 修也サンの部屋は1LDKで、小さな台所と障子で区切られた部屋しか無い。開けっ放しの障子の間からお姉ちゃんの姿が見えた。
 おそるおそる覗き込むと……。

「うふふふふふふ……。修也くんの寝顔、かぁわいい……、食べちゃいたぁいよぉ」
 うちの姉は、ベッドで寝てるであろう修也さんを四つんばいに覆いかぶさっていた。
「えへへ。修也くぅん……。いつもいつも、見てるからねぇ。教室でも、登校のときも、家で寝てるときも、こうやってずーっとあたしが見てるから」
 そう呟くと、お姉ちゃんはベッド脇に置いたカバンに手を伸ばす。中から取り出したのは、今日編んでいたあのマフラー。
「修也くんのために一生懸命編んだの。所々私の髪の毛で編んでるから、これを使ってくれたらいつも一緒だよ……」
 寝ている修也さんの首元にマフラーを被せるお姉ちゃん。
「うふふふふ、ふふふ、ふふふふふふふふ……」

 そういえば僕はトイレに行きたくて、起きたんだった。
 明日も学校だし、早く家に帰って寝ないと。僕はきびすを返し、お姉ちゃんを置いたままおじゃましましたと部屋を出る。
 外は満天の星空。

「修也くぅ~ん」
「!……おまえ! どっから入ってきた!」
「ふふふ、修也くん。マフラー編んだのぉ」
「そ、それで俺の首を絞めるつもりだな。やめろぉ! 近づくなぁ! うわぁぁぁぁああああ!!」

 なんか、修也さんの部屋から叫び声が聞こえるが、多分気のせいだろう。もしくは木の精だろう。
 さーて。これまで積んだお姉ちゃんに対する尊敬をいくらか見直さないとなー。あははー…………はぁ…・・・。
(おしまい)