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89 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/02/18(木) 23:30:18 ID:4C1OhXO0
第11話『ババア無双』

 老婆は当主の情報網から引っかかった情報を頼りにして、ついに見つけ出すことができた。
嘆願していた装備は届き、着実に任務を遂行できる状態となった。

人を殺す快楽を覚えたババアにとっては、任務自体が報酬に等しかった。
老体となった今でも血を見るだけで興奮し、武者震いが起こる。強き者と戦い、勝利をする。
この過程こそがババアの至福の時であり、相手が強ければ強い程、ババアは興奮する。鼻血が出るぐらいに。

「ババア様。当主様から頼んでいた武器が届きました」
「うむ。ごくろう。下がっていいぞ」
「はっ」

 当主の飼い犬の男が持ってきた武器はこの日本では手に入ることができない物ばかり。
普通に銃刀法違反で検挙される危険な品物ばかりであった。
頼んでいた武器が全て来たことにババアは早速戦闘のための準備をする。
 長年着ていた、戦闘用に優れた防御力重視のプロテクターを身に纏う。
使い古して、あちこちに破損箇所が見当たるが、それは仕方ない。
使い込んだ物ではないと従来の敏捷力に影響がする。

 次に武器だ。
 愛用しているのは、刀。剣道という全うな競技に参加したことはなかった。
死線を潜り抜けた中で得た剣術。殺人剣に昇華した流派の名はババア流。人を確実に死をもたらすことができよう。
 現在ではそのような刀すらでは太刀打ちできないぐらいに戦いは変化してしまった。

それゆえに最新の戦闘に対応した武器もまた必要になってくる。
 それが、イスラエル製のデザートイーグルである。あらゆる破壊力を重視した結果、
無難に何か知名度が高そうな拳銃を選ぶことにした。
ただ、女子供や老人が打つと反動だけで肩の骨が外れるようだが。
ババアは他の常人よりも何倍も鍛えているので老体であったとしても気軽に使いこなせる。

そのための訓練も欠かさず行ってきた成果と言える。
 しかし、その装備すらもババアの真の敵にとってはそれらが通用する可能性は低い。
 依頼者の内容次第ではあの地上最悪の生物『ヤンデレ』と交戦することがある。
いや、戦う機会は多い。あの永遠の揺りかごから愛しい人を奪うために恋する乙女は
ヤンデレ化して、敷地内に侵入してくるであろう。
特殊部隊の隊員を軽く上回る身体能力、人間の潜在能力を超える力を持った人間の相手は当主が
いくら金で雇った警備員や私兵団でも容赦なく殺されるであろう。

 だから、ババアがあの敷地の管理人に任されている。
唯一、当主にとってヤンデレに対抗できるカードは老婆しかいない。
歯には歯を。目には目を。常識外の相手には、最高の殺人快楽者を。
人を殺すことを快楽を楽しむことに生涯を捧げた老婆。ババアもすでにヤンデレの域に達している。

 純粋に相手のことを想い、その想いのせいで心が病んでしまった女性たち。
愛しい人を愛する気持ちが激しく間違った方向に向かったとしても、
その想いは原子爆弾の破壊力を勝る。そんなヤンデレな彼女らと長年人を殺すことで快楽を得た自分が劣るとは

ババアは思わない。
 だが、残念なことに今回の任務はヤンデレ駆除ではなく、クズ男の抹殺するという退屈な任務だ。
戦国時代より劣化した軟弱な男児など居眠りしてでも殺すことができるだろう。

 それではババアの淀んだ心は癒されるはずもなく。退屈ならば、面白いやり方でクズな男を殺害することによって、
乾いた喉を癒してやろう。
 さあ、狩りの時間だ。


90 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/02/18(木) 23:33:26 ID:4C1OhXO0
 受け取った情報通りに扇誠が所有しているであろうビルに邪魔者は薬とかで眠らされた状態で連れ込まれたそうだ。
玄関ホールの入り口には怪しげな黒服の男二人が立っていた。それらを視認するとババアは動き出す。
 細い足で走ったとは思えない程の速さで駆け出していた。
見張りを行っている警備員には首だけが動いているババアが自分達の前に突然現れたと思ったことであろう。

その瞬間にババアは愛用している自分の刀を鞘から素早く抜き出す。
そして、彼らの首を強引に力任せで切り落としていた。

「ふむ。やはり、人を斬るには日本刀に限るのぅ」

 地面に落ちている黒服の男たちの首をもう飽きてしまったオモチャのように軽く蹴った。
すでに壊れたオモチャには用はない。
今ここで殺害した人間の命などその辺の蚊を殺した如く、軽くスルーしたババアは任務を果たすために

堂々と隠れることなくビルの中へと進んで行った。
 実際にどうでもいいザコを無残に殺したとしても、ババアは快楽を感じることはない。
何の興味も持たない者を殺しても、何の得にもならないからだ。
仮にも任務以外で自分の快楽のために人を殺害したことはない。

人に理解できない殺人狂だとしても、自分より弱い人間を殺すことは全くないのだ。
本来、戦いというのは命と命の奪い合いであり、その駆け引きを楽しむことが最高のスリルを感じる。
その過程こそがババアが最も重視している事柄だ。
そう、相手が強ければ強い程、その殺人までの過程は面白くなり、

最終的に相手を殺すという結果こそがババアが求める快楽へと繋がっていく。
 とはいえ、人の命はそう軽い物ではない。
だが、殺人快楽者に従来の価値観などすでに存在せずに、己の価値観のみに従って生きている。

弱き者がそれを正そうと言うのはまず不可能。
異常者にこの世界の法律に従わせたければ、強き力を持って排除するしか方法は無い。


 対象は邪魔者を拉致した後に部屋に引き篭もって、存分に今は鑑賞プレイを堪能している最中であろう。
当主の情報工作員によりこのビルの見取り図を受け取っているババアにとっては扇誠が恥辱の限りを行っている部屋を突き止めることは容易であった。
 更に幸いなことにあのビルの前にいた見張り以外の人間は見当たらない。
余程、狩ってきた女との行為を邪魔されたくなかったと思える。

 ババアには好都合であった。
 このビルの内部にはクズな男と邪魔者しか存在していないのならば。
さっさとクズな男を殺害して、邪魔者は依頼者の監禁行為を邪魔させないようにどこかに閉じ込めておくことができる。
依頼内容の完了に一歩近づくのだ。
 そう、この依頼内容こそが我が祖国の命運がかかっていると言ってもいい。
当主や政界の人間達がこの依頼内容の結果次第で事の全てを決める。

 全てはヤンデレ症候群の平和的な活用のために。



91 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/02/18(木) 23:36:33 ID:4C1OhXO0
 男は突然の侵入者に怯えていた。
老婆の威圧的な態度や、小柄な身長よりも長い日本刀を持っている時点で只者ではないことがわかる。

今から人生史上の最高の至福な時間が始まるはずだったが、動揺することはない。
こちらの方が有利な状況にいる。外に待機させている警備員に連絡して警察さえ呼べば、彼の勝ちだ。
扇誠はいつものように人を見下したような目で言った。

「バアさんさぁ。あんたさ、ここは俺の親父が所有している物件なんだよ。
あんたが今やっているのは不法侵入だよ。わかっているのかぁ? あん?」
「自分よりも強い相手以外はそうやって接してきたのか。クズ男よ」
「く、クズだとぉぉぉ!!」
「お前以外に誰がいるのじゃ」
「てめえ、ババアの分際で俺様に……ぐはっっ!!」
 扇誠が喋り終える前に、ババアは彼の足に世界最高峰の威力を誇るデザートイーグルで射撃していた。
射撃した反動など感じさせずに気軽に扱うババアは冷笑した。
「クズの男の話は耳が腐る」
「いてぇぇぇぇ。な、な、なにしやがるんだぁぁぁぁ!!!!」
 撃たれた箇所は太ももではあったが、すでに原型を留めずに肉片があちこち弾き飛んでいた。
血塗れになった部屋の風景に邪魔者が軽く悲鳴を上げていた。
「普通なら意識を失うか、衝撃でそのまま心臓麻痺で死んでもおかしくないのに。このクズは極上のクズってことかのぅ」
「う、う、うるせ。は、早く。救急車をよ、よ、呼んでくれーーー!!」
「嫌じゃあ」
「な、な、なんだと」
「次はこの愛刀の味を楽しませてくれんかのぅ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 鞘から抜いた刀は何の躊躇もなく扇誠の右足を切り裂いた。
鈍い悲鳴に気にすることはなく、今度は右腕を切り裂き、最後には左腕を日本刀で突き刺す。
 この殺害方法は相手を最も苦しめることが前提だと言わんばかりだが。
ババアはつまらないものを斬ったような表情を浮かべていた。
「やはり」
「お、お、お、れがな、な、何を、や、や、やったんだよ?」
「一度殺さないとダメじゃ」
 時間をたっぷりと懸けていた殺し方が急遽、ババアは一気に日本刀で扇誠の心臓を突き刺した。
「ぐぎょぉぉぉぉっぉぉぉおぉぉぉぉぉお」
 どこかの漫画みたいに扇誠の断末魔の声がこの部屋に轟く。
「ふふふっ。何度も聞いてたまらんなぁ。人が死ぬ時の無様な表情と声は!!」
 つまらない任務を満足させるためにはこのような卑劣な殺害でしかババアは快楽を感じることができない。
しかし、それだけでは十分に満足することができなかった。
何度も何度もこの世界に生き続けていたババアにとって、この程度の快楽では足りないのだ。
 すでに死体となった扇誠を見る。
 グロテスクマニアが見れば発狂するぐらいに損壊している。二度と遊ぶことができないのなら、また直せばいいのだ。
「ババア再生!!」
 その一声でバラバラになっていた扇誠の体が元通りに再生された。
先程、傷つけた刃物による損傷はなく、新品同様に扇誠は正常な形へ戻っている。
「な、なんだ、これは」
「無駄に長く生きていると。人を生き返らせるぐらいの秘術だって得ることはあるのじゃ」
 果てしない修羅場の経験を経て、辿り着いた先の領域で修得した秘術
『ババア再生』により、あらゆる生物すらも再生することができるという。
この技の使い道は殆どない。任務は必ず完全抹殺することにあり、抹殺相手を再生することなどあるはずがない。
ただ、ババアの退屈を埋めるためには大いに役に立つ程度なのである。

「や、や、やめろ。来るなぁぁぁぁあぁ!!!!!」
「貴様みたいなクズな人間は何度切り殺しても足らんな。このババアが満足するまで、
殺して、再生して、殺して、再生して、殺して、再生して、何度でも地獄を体験させてやるぞぉ」
「お、お願いだ。や、やめてくれ。お金なら、親父が好きなだけくれてやるからよぉ」
「くれてやる? 残念ながらお金など、一生困らない程の年金が支給されるから必要はないのぅ」
「くそぉ……。こんなとこで俺は……俺は……」
「クズ男が弄ばれた女性もそうやって懇願したようだが。
ならば、お前はよく知っているはずだ。絶対的な強者が取る選択を」


92 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/02/18(木) 23:39:21 ID:4C1OhXO0
 冷笑して見下す老婆を見て、扇誠は自分の命が今日ここで終わることを自覚した。
今まで散々女を食い物にしてきた彼だったが。その最後は何度殺害されたとしても、償うことができない大罪であった。
 最初は記憶喪失の女性を拾って、適当に弄んだ後にその彼女を妊娠したとわかった途端に
あっさりとゴミを捨てるように捨てた。

次は、大人しそうなお嬢様を騙して、大金を貢がせた後に他の女に乗り換えた。
最後の別れ方は携帯であばよと一言だけで済ませたと思う。
その後、そのお嬢様がヤンデレ化して扇誠に関わる女性を襲うのだが、彼の父親の権力により、
この世から抹殺することとなった。
 それまで自分が犯してきた罪を走馬灯のように思い出すのは、この状況が扇誠にとって

今までのツケが返っているかもしれなかった。
 銃声。
 ババアは容赦なく頭に銃弾を撃ち込む。
 斬撃。
 罪人を打ち首にするかのように真っ二つに切り裂かれる。
 殺しては、再生して、また殺して、また再生する。何度も何度も無様な扇誠の絶叫魔が部屋の響き渡っていた。

「あはははは!! もっとじゃ。もっと、ワシを愉しませてくれ!! クズ男よ!!!!」
 もはや、任務よりも殺害する快楽に夢中になっているババアに扇誠の声なんか聞こえているはずもなかった。
 ただ、この部屋にもう一人いる例外を除けば。

「ちょっと待ってください!!」
「ふむ?」
 扇誠の手首をありえない方向に曲げて楽しんでいたババアは予期せぬ声の主に反応して、行為をやめた。
後ろを振り返ると未だに体を分厚い縄で拘束されている少女が何か煩く喚いていた。

「そこの世界最高のクズ店長を何度でも殺せるんですよね? どこぞのお婆さん」
 殺害の現場をずっと見続けていた瑞希は嬉しそうな表情を浮かべて、楽しそうな声を弾ませて言った。

「ワシが飽きるまでずっと殺せるぞ」

「だったら、私も殺します。うふふふ。
私をこんな目に遭わせた挙句に襲うなんて、本気で万死に値しますよ。
後、店長には無限地獄を体験してもらいましょう。確か、店長を泣かせた女性達をここに呼び出してもいいかもしれませんね」

「邪魔者よ。任務が……」
「そこのお婆さん。拘束している縄を解いたら、お婆さんの得物を少し貸してくださいね。
人間の刺身をすぐにご馳走してあげますから」
「いらねぇよ。そんなもの」

 邪魔者と名づけられたコードネームの持ち主である瑞希の拘束を自慢の日本刀で切り裂く。
久しぶりに自由になった瑞希は軽く体の背筋を延ばした。
そして、ババアが持ってきたあらゆる武装オプションを眺めて、自分にとって使いやすい武器を選んだ。

「やっぱり、鋸ですよね。女の子なら一度は憧れる展開です」
 まるで長年の戦いを潜り抜けた相棒のように手に馴染む鋸を握り、積年の相手に優しく瑞希は微笑んだ。

「誠死ねーーーーーー!!」
 それはバイトの日々で溜まった鬱憤が開放された時であった。



93 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/02/18(木) 23:41:13 ID:4C1OhXO0
「なんだ……これは」
 25年の刑事生活を送っている自分ですら狂気を疑うのような惨状に胃液の中の物を吐き出しそうになった。
死体は見慣れている。いや、見慣れすぎて死体を前にして動揺することはなかったはずだが。
 しかし、この事件だけは違う。
 キモい男の声が煩くて眠れないという近所から通報を受けて、
警官がこの部屋を調べた時に一人の男の死体を発見したが。あまりの惨劇にその警官は失神してしまったのだ。

 鋸。
 鋸。
 鋸。
 鋸。
 鋸。
 鋸。
 鋸。
 鋸。
 死体のあらゆる箇所に鋸が突き刺さっているのだ。
目や口や鼻や耳、そして、毛穴にまで多数の鋸が刺さっており、その刺し傷から血が流れていた。
 あまりの残忍な殺害方法に刑事としての勘はこう言っている。
 このヤマには関わってはいけない。そう、事件の真相を知れば、きっと自分がこんな風に殺されてしまうと。
「ヤマさん」
「なんだ、ヤス」
「上層部から命令です。この事件の被害者は、扇誠だから別に犯人とか捕まえなくていい。
面倒臭そうだし。だそうです」
「扇誠だと?」

 扇誠という名前には聞き覚えがあった。
多数の暴行事件などを起こしながら、決して逮捕できない男。
あらゆる場所に権力とコネを行使できるらしく、うちの署長も彼らの一族から多額の献金を貰っている。
地元の有力者に逆らうことができず、彼らの犬として率先として扇誠が起こす事件を揉み消していた。
その男がこんな無様な死に方をするなんて誰が想像できようか。
 ただ、最低最悪の男を殺害した人物に市民を代表して感謝の言葉を述べたい。

ヤマと呼ばれた刑事は部下達に撤退命令を出して、最後にこう呟いた。
「早く浮気相手と別れよう」