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64 :ヤンデレ素直クール:2010/02/16(火) 21:57:37 ID:SwZnrzYb
第一話 3レス消費

「何度でも言うぞ。私は君がす・・・」
女は困ったような顔をして、すでに二度繰り返した言葉を再び口にした。
女の目の前に立つ男の顔はすでに茹で上がったように真っ赤になっている。
窓が開いて薄ら寒い教室の片隅には、すでに人垣が出来上がっていた。
当たり前だ。学校中で有名な美人の女が、突如告白をしたのだから。
1分前から唐突に始まった事件に、教室中はもう興味深々だ。
顔を真っ赤にした男は焦ったように大きな手振りで女を遮った。
「ストォーップッ!!ストップストップ!分かったから!ちょっとまって!」
女は男の大げさな反応に戸惑って彼の目をじっと覗き込んでいる。
男は、はぁーっ、と大きなため息をついて脱力してみせた。冬の風が沁みる。
思わず、「なんの罰ゲームだよ・・・」と口中で呟いてしまった。
男が顔を上げるとそこには、困惑し、どこか悲しそうな女の顔。
「・・・、あの、さ。」
おずおずと男が語りかけると、なぜか女は俯いて呟いた。
「め、迷惑だった、か・・・?」
右手で拳を作り、左手でスカートの端を握り締める女の表情が男には見えない。
ぽつりと呟く言葉だけが、教室で一番寒い空間に残された。
沈黙。
男には相手の言葉の意味がつかめない。だから聞き返した。
「め、めいわくっていうか、さ・・・。」
そう男が答えると、なぜか今度はポタッ、ポタッと音が。
床に眼を落とすと、なるほど雫がポタポタと落ちてきている。
男は、声にならない叫びを上げた。
『泣いてるよぉぉお・・・。』
女がぐずぐずいいだすと同時に、さぁっと教室の空気は凍っていく。
さっきまでの生暖かい視線は刺すようなトゲトゲしいものへと早変わりしていた。
男は咄嗟にここにいてはいけないと思った。
男に弁解の余地は無い。しかし女を通せば後で評判を回復できるかもしれない。
そう考えた男は、「ここじゃちょっと、ね」と女の手を引いて教室を出る。
何とか、女との関係を修復して、クラスの皆に言ってもらわねば。
立て付けの悪い引き戸をガタンと開けて廊下に出た。
昼休みが終わるまでまだ時間はあるだろう。
空き教室を探す男の背に、泣かせんなよ!と声がかかる。
男の右手に絡みつく指は、血が滲むかとおもうほど爪を立てていた。

※※※※


65 :ヤンデレ素直クール:2010/02/16(火) 22:00:52 ID:SwZnrzYb
逃げ込んだ空き教室は昼でも薄暗く、先刻よりも寒い場所だった。
女はまだ俯いて泣き続けている。
「・・・あの・・・。」
男が声をかけると、女はピクリと肩を震わせた。
「顔、見せてよ。その、話ができないし・・。」
そう言われてあげた女の顔はやっぱり美人だった。
大きな眼に、すっと通った鼻筋。抜けるような白い肌。
きゅっと結ばれた口が解かれて、おずおずと開いた。
「どうして・・・」
先ほどの告白とは打って変わった、呟きのような言葉。
「どうして、止めたんだ?・・・わた、私は、ただ、気持ちを伝えたかったのに。」
強いまなざしと真摯な表情に圧倒され、男に口を挟む余地は無い。
「好き、だ。好きなんだ、君が。」
再び告げると、女は男に詰め寄った。肩に手をかけて目線をそらさせない。
男は痛みを感じるほど強く掴まれ、後ずさりしかかる。
放せとか、やめろとか出てきてもおかしくないはずの言葉が出ない。
深くて暗い女の瞳を見つめることしかできなかった。
「なあ、素直に言っただろう?素直に、私の気持ちを。だから・・・」
「だから・・・答え、くれないか?・・・」
肩を掴んでいた手は男の背に回り、女の顔が息のかかる距離に迫っている。
涙を溜めた眼ですがる女に、男の判断は吹き飛んでいた。
それもそうだ。
モデルなみに整った顔立ちから学校中で人気がある。
これと言って格好良くもない自分を真剣に思ってくれている。
その女にほとんど抱き合うような体勢で、迫られているのだ。
どう考えても男の人生で今後起きないような最高のシチュエーションだった。
どこか違和感を感じないわけではなかったが、男は無視した。
気のせいに決まってる、と。
「なんだか、いきなりでさ。ちょっとびっくりしたけど・・・。」
カチリと音がしそうなくらい、女は完全に視線を合わそうとしてくる。
「うん・・・。」
一息ついて、男は答えを返した。
「お、俺でよければ、その、」
最後まで言う前に男の口は塞がれた。
まるで喰らいつくような、女からのキスだった。

※※※※


66 :ヤンデレ素直クール:2010/02/16(火) 22:03:45 ID:SwZnrzYb
長いキスを終えた後、恋人として女は男にあることを誓わせた。
“嘘と隠し事をしないこと”
“素直かつ率直であること”
“堂々として照れないこと”
後者二つは難しい、と文句を付けると女は微笑んで言った。
「私が訓練する。なに、難しいことはない。反面教師など沢山いるからな。」
そして急に真顔になると、ただし、と付け加えた。
「何があろうと嘘と隠し事は許さん。絶対にだ。」
その瞬間、底冷えのするような瞳が男の深いところを探っていた。
どんな些細なことも逃さぬようにぎりぎりと抉ってくる。
昼休みが終わるまで、二人はそうして互いの肚を探りあい、抱き合っていた。
暗い空き教室は、冬の曇天で真昼にもかかわらず薄暗い。
剣のように凛とした女の言葉と気持ちは、場の雰囲気に似つかわしくない。
ああ、これが違和感の正体か、と男は一人納得していた。
はじめは不審にも思ったが、いまは心地よく感じられる。
男は思わず苦笑した。自分の心はどうにも都合よくできているらしい。
女は、男の耳元に囁いた。
「君を愛している。ずっと、ずっとだ。だから、君も私みたいに、な。」
男の背中には女の爪痕が、服の上から見えるほどくっきりと残っていた。
男の名前は石堂明。女の名前は須崎律。二人の名前だ。

※※※※