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287 :私の居場所:2010/03/07(日) 21:49:36 ID:HW+a6mw5
彼女を見つけたのは、強い雨の日だった。
ずぶ濡れのボロ衣を纏い、暗い瞳を携えた白い長髪の少女。
「気まぐれ」、「憐れみ」、「憐憫」。
そんな感情だったかもしれないし、違うかもしれない。
手にぶら下げていたスーパーの袋の中からパンを取り出し、少女にくれてやった。
僕の手の中から、それを奪うように掴み取り、慌てたように食べる。
パンを食べ終えた後、僕の方をじっと見続ける少女に……
「もうない、付いて来たかったら勝手に付いて来るといい」
と言い、傘を置いて家路に着いた。
僕は後ろを振り返ることなく歩く、周りの人からの奇異の視線にさらされながら。
マンションに着き、エントランスのロックを解除し、自室に入る。
少女の姿は無い、まぁそんなものだろう。
その日はいつものように夕飯を作り、風呂に入り、寝た。
いつもと何ら変わらず、退屈に。
翌日、僕はドアを叩く音とインターフォンの音のコンボで目が覚めた。
「……誰だよ、こんな朝っぱらから、バカじゃないの……」
以前鳴り終わる気配のない騒音にうんざりしながら玄関のドアを開ける。
「何なんですか、こんな朝っぱらか、ら……?」
居た、そこに、少女が、いや、美少女が。
「……お腹空いた……ご飯……ちょうだい……?」
可愛く小首をかしげながら。



288 :私の居場所:2010/03/07(日) 21:50:07 ID:HW+a6mw5
「……で、此処に代入……?」
「…………スゥ…………」
「……あれ? xの値が……」
「…………クゥ…………」
「ん~、わかんない、もういいや」
数学の課題から視線を離し、時計を見る、もうそろそろお昼時だ。
「チノ、起きて」
「…………ヤダ…………」
「ご飯、要らないの?」
「……ご飯よりもクゥが欲しい……」
「じゃあ左手でも食べる?」
「…………バカ…………」
渋々といった表情で僕の膝から頭をどけるチノ。
「おはよう、今日のお昼ご飯は何がいい?」
「オムライスとコンソメスープ」
「ん、じゃあ少し待っててね」
キッチンへ向かい、食事の準備をする、今日の献立はオムライスとコンソメスープ(インスタント)だ。
卵はまだある、ご飯も……冷やご飯があるかな?
コンソメスープは買い置きがたくさんあるはずだし、買い物に出なくても大丈夫かな。
ポットにお湯を入れ沸騰させている間、オムライスに取り掛かる。
冷やご飯をレンジで解凍し、玉ねぎとベーコンと混ぜて炒め、ケチャップを加えてご飯は出来上がり。
更にもう一つのフライパンに油を敷き溶き卵を入れる、そしてよーく伸ばして……
「……よっ」
ご飯の上にかぶせて出来上がり。
最後にコンソメスープのインスタントをカップに入れて、お湯を入れれば出来上がり。
「出来たよ」
テーブルに料理を並べる、残念ながらご飯が一人分しかなかったので僕の昼食はスープだけだ。
「さぁ、召し上がれ」
「うん……クゥのは?」
「あぁ、僕はあんまり食欲ないから、スープだけ」
嘘だ、本当は結構お腹もすいている。
それでもチノに心配はかけたくない、彼女は僕の恩人なのだから。


289 :私の居場所:2010/03/07(日) 21:50:41 ID:HW+a6mw5
「……お腹空いた……ご飯……ちょうだい……?」
へ……? いやいや、何故? っていうか誰?
「……昨日……約束……ご飯……」
昨日、約束、ご飯……?
「もしかして、昨日のずぶ濡れだった子?」
「……うん……」
そう言って彼女は一本のビニール傘を差し出す、昨日あの場所に置いてきたはずの僕の傘だった。
あの時は暗くて解らなかったが彼女はものすごい美少女だったらしい。
「まぁ……上がりなよ」
「……うん……」
僕は傘を靴箱にかけ、少女を招き入れた。
そこからはよく覚えていない、いや覚えてはいる。
ただ、自分が冷蔵庫の中身をありったけ使って料理を作ったこと。
そのおかげでその月は普段の倍の量のバイトをこなさなければいけなくなったこと。
その二つを早く忘れたいので割愛させてもらおう。
その後、ぐっすり眠ってしまった彼女が起きるのを待ち、事情を聴くことにした。
そこで彼女の名前が「チノ」ということ、年齢は15歳であること。
彼女には家族がおらず、保護施設にも入ってはいないこと。
今までは母方の祖父母に育てられていたが、二人とも事故で死んでしまい、今まで飲まず食わずで過ごしていたこと。
もうあんな生活には戻りたくないことを話してくれた。
「それで、君は一体これからどうしたいの?」
「……此処に……居たいです……」
消え入りそうな声で彼女は答える。
「施設に入った方が幸せになれるよ?」
「……嫌……なんでも……しますから……迷惑には……なりませんから……っ!」
うつむきながら、さっきよりも強い口調で、彼女は続ける。
彼女ならすぐに養子にしたいという里親が現れるだろう、そして此処にいるよりもずっと幸せになれるはずだ。
それを説明しても彼女は此処に居たいという。
「……食事は一日三回、ベッドは僕と兼用、おこずかいなんてあげられない、それでもいいの?」
「……!」
「これ以上はどうやっても無理だけど、それでもいいなら置いてあげる、どうするの?」
「はい! お願いします!」



290 :私の居場所:2010/03/07(日) 21:51:11 ID:HW+a6mw5
それから半年、僕は彼女のおかげで明るくなった……らしい。
彼女は僕が少しでも嫌な顔をすると、涙目になって謝ってくるのだ。
その結果、いつ何時も笑顔を絶やすわけにはいかなかった。
そしてずっと彼女と生活していたおかげで、女性の扱い方にも慣れてきていたらしい。
彼女と出会う前、自慢じゃないが僕は暗かった、それも相当に。
何をやるにしても面倒くさく、やる気が出なかったというのと、それ以上に毎日が退屈だった。
変わり映えのしない毎日に絶望していたのかもしれない。
それを彼女という存在が一変させた。
彼女のために料理を覚え、彼女のためにバイトを増やした。
以前と変わらない生活なのに、彼女のためと思うと自然と楽しくなった。
簡単な話、僕は誰かに必要とされたかったのかもしれない。
そして以前よりも笑顔が増え、他人への接し方を覚えた僕を待っていたのは「友達」だった。
男性女性を問わず、いろいろな人が僕に話しかけてきてくれた、サークルに誘われたことも一度や二度ではない。
残念ながらバイトとチノのことがあるので、サークルに入ることはできないが、それでも嬉しいと思える、もちろん今でも。
だから、僕は彼女を必ず幸せにしようと決めた。