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353 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:13:31 ID:vSAt5dVP
おそらく、全ての本の表紙だけをひとつずつ見て回るだけで一日はかかるだろう。
その規模の大きさから、外部からの利用者もちらほらと見かける。当然そういった人達には貸出までは行っておらず入校証も必要となるが、
図書室は朝の10時から17時まで開放しており、委員の生徒が授業でいないときは司書の教員数名が対応を行っている。
図書委員は各クラスから二名選出される。
交代でカウンターの仕事が月に一回回って来るか来ないかだが、固定の仕事があるのは水曜日、ちょうど今日だ。
歌音もついて来る、と言っていたが確実に夜遅くになってしまうため、先に帰して図書室にやってきた。

「あ、桐島君。久しぶり」
「松田か」

松田秀人は僕と同じ図書委員だ。
僕達の間には委員会以外の接点がまったくなく、こうして会うだけだ。
そして松田と僕の数少ない共通点の一つは、先日転任した某体育教師に目をつけられた、ということだ。
もっとも、それをわざわざ話題に出すことは互いにしなかったのだが。

僕達図書委員の仕事は、作業自体は至って簡単だ。
開放の終わる17時半から、司書の教員が事前に調べた本の在庫のリストと、本棚の本の数が一致するかどうかを二人一組でチェックする。一年生の仕事はこれだけだ。
先ほど、全て見て廻ったら一日かかると言ったがそれは一人なら、の話。一年生16人もいれば、2時間ほどで終わる。
司書の人からいつも通りの説明を受け、僕と松田はさっそく小説・ライトノベルの本棚のチェックに向かった。
僕は図書委員の誰よりもライトノベルに詳しく、松田はアニメに詳しい(というより、僕たち以外詳しくない)、という事でいつも最初はこの辺りの担当になるのだ。
ただ、そこが済んだ後は他のエリアに向かうのだが。

「うわ、ここスカスカじゃん。こりゃ10冊分くらいないよ、桐島君」
「"インデックス"のあった所か。たしか貸し出しになってたな」

人気のある本は全巻貸し出しなんてことがたまにある。期限は二週間だが、10巻を超える本なんかはかなりハイペースで読まなきゃならないだろう。
僕みたく、暇な時間にちまちまと読むタイプとは大違いだ。
だが、先々月は涼宮シリーズが三冊盗難に遭った。ここほどよく確認しなければはならない本棚はなく、僕達で端から端までくまなくチェックをしなければならない。
幸い、今週は盗難に遭った本はなかった。だが最近の文庫のアニメ化の影響で一気にメジャーな本が放出され、本棚に空きスペースがいくつもできていた。
こういう場所には小型のスタンドを当てて、隣の本が倒れないようにするのも僕らの仕事だ。
そうして僕らは次々に本棚をチェックしていき、仕事が終わった頃には時計は8時を指そうとしていた。


354 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:15:26 ID:vSAt5dVP

図書室を出て僕と松田は、腹が減ったので帰りにマックに行こうという流れになった。
学校から駅まで歩いて10分。外はすっかり暗くなり、空気も一段と冷え込んでいる。松田も僕も制服の上にコートを着てはいるがとにかく寒く、早く暖かい店内に入りたい。僕らは若干早歩きでマックに向かった。
マックの一階は相変わらずニコチンの煙が充満しており、視界が白い。いくら禁煙席が二階にあるとは言え、発作持ちなら注文を待つだけで具合が悪くなりそうだ。
一階席は混んでいたがレジ前は空いていたので、僕たちはさっさと注文して二階に上がった。
適当な席に腰を下ろし、ようやく一息つく。松田は暖かい紅茶のカップを両手で包むように持ち、暖をとっている。
コーンスープが取り扱われなくなったのが実に惜しい、と思えるワンシーンだ。

「ふぅ…桐島君ってさあ」と、松田が唐突に尋ねてきた。
「水城さんと付き合ってるの?」
「ブルータス…お前もか」
「ははは、その様子だと俺以外のやつにもかなり聞かれたみたいだね」

まったくその通りだ。松田に聞かれる前に、すでに30回以上は聞かれている。ったく…どいつもこいつも、他人事だと思いやがって。

「でも意外だったよ。あの水城さんが桐島君と付き合うなんてね。高校入ってからかなり印象変わったけど、その時以上のびっくりだね」
「…ん? 中学一緒だったのか?」
「うん。といっても三年の時クラスが同じだっただけだけど」
「どのくらい違ってたんだ?」
「うーん…僕が言うのもなんだけど、暗かったね。けっこうイジめられてたっぽいし。桐島君のクラスでいったら、秋津さんみたいな雰囲気?」

秋津の名前が出てきたとき、僕は内心びくり、としてしまった。…落ち着け、松田に悪気はないんだ。何も知らないんだから。
僕は動揺を気取られないように気をつけ、ポテトを食べながら相槌を打った。

「それは、確かに意外だな」
「でしょ? あ…水城さんにはこのこと聞かない方がいいよ。たぶん思い出したくないだろうから」
「そうだな…」

そうして話題は移り変わり、30分くらい経過した辺りでお開きにすることになった。
松田の家はこの駅の南口の近くで、駅はただ通り道の途中というだけだ。改札前で僕と松田は別れ、僕は定期をタッチし改札を抜けた。
すると今度は、柱に寄り掛かり立っている、うちの制服を着た女子が目についた。あの髪の長さには見覚えがある。あれは…

「こんばんわ、真司くん」
「秋津、何やってんだ?」
「真司くんを待ってたの。お話がしたかったから」

そう言って秋津は僕の手をとり、僕の家とは反対側のホームへ続く階段に向かった。
僕は、どこに行くんだと尋ねたが、秋津は何も言わないまま階段を登り、ちょうど来ていた電車にそのまま乗り込んだ。
握られた手は冷たく、身体の震えがかすかに伝わる。


355 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:17:45 ID:vSAt5dVP

「どのくらいあそこにいたんだ?」
「…10分くらい」
「嘘をつけ」

僕は自分の着ていたコートを脱ぎ、秋津の肩にかけてやった。

「…ありがと」秋津は若干口元に笑みを浮かべながらコートに袖を通した。
秋津は普段から表情がわかりにくいが、今のは誰が見ても嬉しそうな表情だ。

電車に揺られること20分、6駅目で秋津と僕は電車を降りた。
その駅は学校や僕の家の駅とは大きく異なり、何もない。視界の先には森が広がる、まるで田舎のような駅だった。
急行も止まらず、利用者も少ないだろう。夜風がもろに吹き付け、身体が一気に冷え込むのがわかる。

「あんたの家はこの辺りなのか?」
「違う。けどここには、お母さんがいる」
「………?」
「ついてきて」

秋津はさくさくと歩を進めた。僕は一瞬出遅れたが、すぐに後を追う。
無人の駅(駅員すらいない)を出て、電灯もわずかしかない薄暗い道を進む。どこに向かっているのかすらわからないが、黙ってついて行く。
そうしてたどり着いた先は…墓地だ。お母さんがいるって…まさか。
秋津はひとつの墓石の前で完全に歩を止めた。その墓石には、"秋山家之墓"と刻まれていた。

「このお墓、私が買ったの。ここにお父さんとお母さんがいる。お姉ちゃんもいる、と以前は思ってたけど…お姉ちゃんはいない」
「…姉がいたのか。両親は、いったいなぜ?」
「事故。12年前にね。私が物心ついた時にはすでにいなかった。
事故があった日、私だけはお祖母さまの家にいた。私以外はお姉ちゃんの進級祝いって言って、旅行に行ったの。
あとからお祖母さまに聞かされたけど、私は両親に"いないもの"として扱われてたらしいの。ネグレクトってやつかしら。
それを知ったお祖母さまは私を引き取った。そしてその翌日、両親は死んだ」

秋津の声には何の色も感じられない。ただ記憶をなぞってるだけのように聞こえた。

「両親が憎くないのか。墓まで建ててやって」
「なんとも思ってないわ。私の親はお祖母さまだから。でもまさか…お姉ちゃんが生きてたなんてね」
「なに…?」

その時点で、秋津の話を聞いてる裏でひとつの思考が巡っていた。
のえるの両親は中学時代に事故死した。のえるは27歳と言っていた。12年前なら、ちょうど中学生くらいの歳だ。
そして両親と姉の三人が事故に遭い、姉だけが生きていた。のえるも、家族で事故に遭い、自分だけ助かった。…まさか?


356 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:21:28 ID:vSAt5dVP

「姉って…のえるのことか?」

沈黙。
木々が風でざわ、と揺れる音だけが聞こえる。秋津は声を出さず、静かに首肯した。

「びっくりしたわ。姉がまさか不老不死?になってたなんて。でも…姉が私を覚えてなかった事の方が衝撃的だったわ」
「のえるが…?」
「お姉ちゃんだけは、私に優しくしてくれた。他は覚えてないのに、それだけは覚えてたの。お姉ちゃんは優しかった。なのに、忘れられてたのよ。どれだけ悔しかったか、わかるかしら…?
でも、どうにかしようなんて考えなかった。それをしたら、両親と同じ人間になってしまいそうで、嫌だったの。
お墓を建てたのもそう。私の邪魔をさせないために、ここに縛り付けるために建てたのよ…!」

秋津の声はしだいに感情が込められていく。

「でも…お祖母さまにとっては大事な息子と娘だから、粗末にはできなかった。縛り付けるためならそこら辺の木の枝で十字架でも作って刺しとけばよかったのに」
「ん? 息子と…?」
「兄妹だったのよ、両親は。でもそれも、どうでもいいわ。…最低な女よね、私。友達の彼氏寝盗るわ、両親をないがしろにするわ」

秋津は僕から顔を背けたまま、声を微かに震わせながら話す。見えないが、恐らくは泣いているのだろう。
僕にどれくらい秋津の気持ちを理解できるのだろうか。僕は母を失いはしたが、父さんには大事にされて育ってきた。虐待を受けた事もないし、親を恨んだこともない。
秋津の経験した辛さは、おそらく少しも味わっていないだろう。だが、これだけは断言できると思った。

「お前は最低なんかじゃない」
「え…?」
「歌がそれを証明してるじゃないか。最低なやつなんかの歌は聞いても何も感じないし、好きになんかならない。…少なくとも、僕はそう思ってるぞ。歌音だって、そうだ」
「…ふふ。本当、あなたって人は…優しいわ」

秋津はこちらへ向き直り、涙目ながらに笑顔を浮かべて答えた。
天使のような、優しい笑顔だ。僕は思わず、数秒見惚れてしまった。秋津はそんな僕に、またも口づけをしてきた。互いの温度だけが伝わる、優しい触れ合いを。

「…ふう。ねえ真司くん、歌音ちゃんと私のどちらかを選べなんて言わないわ。だから…ときどきこうして、触れてもいいかしら。もう、無理矢理襲ったりなんかしないから」
「間に挟まれる僕の身にもなってくれ…」
「大丈夫よ。歌音ちゃん、こうしてるのが私以外だったらとっくに殺してると思うから」
「物騒な事を簡単に言ってくれるな」

秋津の論理は目茶苦茶だ。よほど自信があるのだろう。歌音の友人としての自信が。それなら逆に最初からこんなマネはしないはずなんだが…。
それよりも、このままズルズルと秋津との触れ合いを続けることの方が…僕はもう、歌音を裏切りたくはないのに。
そんな哀しそうな顔するなよ…嫌だ、って言えないじゃないか。ああ、僕の方こそ最低だよ。


357 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:27:49 ID:vSAt5dVP

「ねえ真司くん、土曜日暇かしら?」
「…はい?」

いきなりの話題の飛躍に、一瞬ついていけなくなり、間の抜けた返事をしてしまった。

「これあげるから、来て」と秋津がブレザーのポケットから出したのは、なにかのチケットだった。暗くてよくわからないが、秋山の名前が書いてある。秋山理遠のライブチケットだろうか?
「それが、まだ真司くんに見せてない私の一面。見てほしいの、だから来て。なんなら歌音ちゃんと一緒でもいいわ」

なんと、秋山理遠自らのライブの招待だ。確かに歌音なら泣いて喜ぶかもしれないし、ファンなら感激のあまり発狂しかねない。
だが、僕はこのチケットを渡された意味を反芻する。秋津は今日、僕に両親の事を打ち明けてくれた。僕には、自分の全てを見てほしいと本気で思ってるのだろう。ならば、僕の答えは…。

「楽しみにさせてもらうよ」

#####


薄暗い墓地を出て、地元の駅に着いた時には10時を回っていた。
僕はここで下車をするが、秋津は乗り換えのため、一緒に電車を降りたら簡単に別れの挨拶をし、コートを僕に返して別の路線のホームへ向かっていった。
僕はそれを見届け、改札を出て家に向かおうとした。すると今度は…朝と同じ場所で立っている歌音を見つけた。

「おかえり、真司」
「歌音…先帰ってろって言ったろ! 風邪引くぞ!」

僕は慌ててコートを歌音にかけてやる。さっきまで秋津が着ていたことなど、きれいに忘れていた。
歌音はゆっくりと袖を通しながら、俯いてこう言い放った。

「ねえ真司…理緒ちゃんとはどこまで"シタ"の?」

---背筋に冷たいものが走った。歌音の声は、それだけで対象物を凍りづけにできてしまうほど冷たかった。

「正直に言って? そしたら、怒らないから。ね?」柔らかく微笑むが、その瞳は笑っていない。
歌音はゆっくりと僕の手首を握り、きりきりと力を込める。バスケットボールの7号球を鷲づかみにできる握力が、じわじわと僕の手首を締め付ける。
だが痛さよりも、言い表しがたい恐怖の方が強かった。僕でさえ、身震いしてしまうほどだ。

「……何もない」僕はその恐怖に苛まれつつも、ごまかそうとして言った。しかし歌音の返事はこうだ。

「嘘。」


358 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:29:38 ID:vSAt5dVP

歌音はなおもにこにこと作り笑いを浮かべながら、腕の力を強める。

「真司のことはね、顔見ただけで何考えてるかわかるよ。こないだからずっとそう。なにか私に隠し事してる。で、さっきまで理緒ちゃんと一緒にいたよね?」
「……っ」

僕はそれに対して何も言い返せなかった。

「…まあ、いいや」ふと、歌音は突然腕の力を抜いた。
「理緒ちゃんなら、特別に許してあげる。他の女の子だったらただじゃ済まさないけど…特別だよ?」
「…なんで、だ」握り締められていた腕をぶらぶらと振りながら僕は尋ねる。

「理緒ちゃんは私の親友だからだよ」

この時、のえるがいなくなった日から10日が経過していた。

#####

秋山理遠は、二年前にアイドルユニットから独立した歌手だ。
最初はアイドルのイメージが強く、曲を出したものの当初1stシングルの売上は伸び悩んだと聞く。
だがその並外れた歌唱力と歳不相応な深い表現力で徐々にファンを増やしていき、知名度が上がるにつれて評価もかなり改善されていった。
1stシングルは発売からおよそ一月後にチャート一位を取る、という偉業を。3rdシングルで三週連続一位を果たし、さらに知名度はアップ。
今ではCDを出す度に一位をかっさらって行くように。衣装や番組でのトークの影響でアイドル色が未だに抜け切らないが、間違いなく一流アーティストの仲間入りを果たしている。
ちなみに情報ソースはWI○IPEDIAより。


迎えた土曜日。僕は結局歌音を誘うことはせず、単身で横浜文化体育館へとやってきた。
開場は夜6時。現在は午後4時だ。まだ2時間も前だというのに、辺りは人込みがハンパない。さすがは平成のアイドル歌手といったところが。
だがどこを見渡しても、いわゆる"痛い"ファンが見当たらない。モ○娘やA○B48なんかはそういった痛いファンが必ずいる、というのをTVで見たが、そこは意外だった。
さて、開場まで何をして待っていようか。僕は文化体育館の周りをぶらぶらしながら暇つぶし手段を模索していると、見たことのある人影を見つけた。
そして、相手もそれに気付いたようだ。

「あれ、桐島君じゃん」
「松田か…」今回は、このパターンが多いな。

「へぇ~、桐島君も秋山理遠聴くんだ。意外っちゃ意外だけど、納得もあるような…」
「松田こそ、意外だったな。僕はてっきり、アニメばっかりでアイドルには興味ない男だと思ってたぞ」と、僕は正直な意見を述べた。


359 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:32:35 ID:vSAt5dVP

「正直、理遠さんは最初ただのアイドルだと思ってたね。でもたまたま歌を聴いたとき、こう…なんか、ビビっとキタんだよね。
 理遠さん歌上手だし、良曲ばかりだし、それにすごい美少女。ほんと尊敬しちゃうよ。それにね…」

どうやら松田は、夢中になると能弁になるようだ。僕は適当に相槌を打ち、所々共感しながら松田の会話に付き合った。

「あ、ごめんね桐島君。俺ばっかり喋ってて」
「気にするな」

そうしているうちに時は過ぎ、すぐに開場の時間になった。
入口で係員にチケットを渡し、半券を返してもらう。その後は松田に引っ張られて、いい座席をキープすべく奔走。ステージの真正面という、なかなかの良席を獲得できた。
荷物を座席に置き、僕たちは交代でトイレに行くことに。先に僕が席を立ち、トイレに向かった。
用を足し、さっさと戻ろうとすると、なぜか係員に呼び止められる。

「チケット番号0827…桐島さんですね?」
「はあ…何ですか」

係員はそっ、と僕に耳打ちをしてきた。

「秋山さんからメモを預かっています。…どうぞ」
「メモ?」

係員が手渡したのは、四つ折にされたルーズリーフの1ページ。係員の態度から察した僕は少し歩き、こっそりとメモを見てみた。そこには、

"ライブが終わったら楽屋に来てくれる?  秋山"

と、可愛らしい文字で書かれていた。
僕はすぐにメモをポケットに突っ込んで隠し、松田の元へ戻った。


360 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:33:42 ID:vSAt5dVP

#####

午後6時59分、施設内は暗転し、ステージに明かりが集まる。
いよいよ始まる。松田は隣でわくわくしながら既にステージに釘付けだ。
ステージの上には静かに秋山が現れた。最初は静かに唄い始め、観客たちの間に静寂を作り出す。一曲目はピアノ伴奏だけのバラード曲。
1stアルバムの最後に収録されていたものだった。観客は皆、その秋山の姿に見とれているようだ。
そのまま最後まで静かに唄い上げ、曲が終わるとMCに入った。

『こんばんわー、秋山 理遠です』



こういったライブには初めて来たが、秋山のライブはとても充実していてまさに"楽しめる"ライブだと思えた。
アップテンポな曲では観客と一緒に盛り上がり、しっとりと聴かせる歌では観客はピタッと静かに聴き入る。その一体感が心地よかった。
またMCもなかなかに軽妙で笑いを誘い、飽きが来ない巧みな話術を披露してみせた。特に、マーボーカレー作りに挑戦したくだりはかなり面白かった。
それらすべてが、僕の知る秋山理遠とは掛け離れていた。

アンコールを挟み、23曲目。未だに疲れを全く見せない秋山の、本日最後の曲となった。

『えー、次で最後なんですが…来週の水曜日、12月の頭に発売予定のアルバムに収録されてる新曲です。みんな、買ってね?なんてw』

「まじで!新曲だよ桐島君!」と松田が小声ではしゃぐ。
「それは興味深いな」
「ああもう、給料日前なのになぁ…でも絶対買いだね!」

そして演奏が始まった。曲調はロック調なバラードといったところか。
歌詞は、一人の女性がとある男の大切なものを次々と奪ってしまい、それでもなお男は優しいまま。なぜ貴方はそんなに優しいのか、というような感じだった。
だが、一つ一つのキーワードをよく考えながら聞いてみると…これは、秋山自身のことじゃないか。
秋山は僕の母を奪い、歌音から僕を奪い、僕の体をを無理矢理奪ったことを歌にしたんだとわかった。そして…それでも愛している、と詫びながら曲は終わった。
秋山が静かに一礼するとステージはゆっくり暗転。辺りからはすすり泣くファンの声がちらほらと聞こえてくる。そうした空気を残したまま、ライブは終わった。
僕は松田に「用事があるから先に帰っててくれ」と告げ、楽屋を探しに走り出した。すると、さっきメモを渡した係員に掴まり、そのまま楽屋の前へと案内された。
僕は深呼吸をして、ドアを二回ノックしてから中に入った。そこには、疲れからかソファにぐったりと身を預ける秋山がいた。

「あ…来てくれたんだ」
「ああ。…すごく、良かったよ」

ありがとう、と微笑んで秋山はソファから身を起こした。



361 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:34:57 ID:vSAt5dVP

「ごめんね。今汗びっしょりで、べたべたしてる」秋山はタオルで顔を拭きながら謝る。
「…なあ、最後の曲。あれって秋山…」
「ううん。あれは、一人のずる賢い女の事を書いた曲。真司くんは何ら関係ないよ。…だから」
「だから、"愛している"ってのもフィクションか?」

秋山はぴくり、と動きを止める。タオルを顔から下ろし、僕から目を軽く反らしながら答えた。

「…私はほんとずるい女なの。そんな私に愛を叫ぶ資格なんてない。そんなことわかってる」
「そんなことはない」
「っ…なら真司くんは、私を愛してくれるの!? 無理だよね!歌音ちゃんがいるんだもの! サイテーな女なのよ、私は! …どうして!? 私の方が先に好きになったのに! 何年も前から! なのに歌音ちゃんは憎ませてくれない! 真司くんもよ!
あの日真司くんを犯したのだって、本当は軽蔑されたくてやったのよ…歌音ちゃんだって、絶対気付いてる。なのに二人とも、なんでそんなに優しくするのよ…! もう…私に優しくしないでよ…!」

秋山は僕に初めて激しい感情をぶつけてきた。瞳からは涙がぼろぼろと流れる。秋山の悲痛な叫びが、僕の胸を刺す。
秋山は自分をずるい女と言った。だが今目の前にいる女は、どこまでも純粋に思える。純粋だからこそ、こうまで苦しんで、悲しんでるのだと。
歌音…ごめん。

僕は秋山の座るソファに近付き、隣に腰を下ろしてこう言う。

「今から僕がすることは、すべて僕自身の意志だ」そして、秋山の身体をゆっくりと押し倒した。
「えっ…真司、くん…? だめよ、歌音ちゃんが…んぐっ」

僕は秋山の唇を無理矢理唇で塞ぐ。舌を挿れ、秋山の咥内を味わうように舐める。びくん、と秋山の身体が動いた。

「んっ…やぁ、やだ…だめ、~~~っ!」

衣装の下から右手を入れ、形の良い胸を優しく揉みほぐす。左手は人差し指だけぴんと伸ばし、背中をゆっくりとなぞる。その度に、秋山の身体ががくがくと震える。早くも絶頂に達したようだ。
僕は衣装の短パンに手をかけ、そっと脱がせた。下着も一緒に下ろすと、汗と愛液で蒸れた秘部があらわになる。
指で谷間を開き、秘唇をじかに舐める。

「やぁっ…舐めちゃ嫌ぁ…汗、かいたのに…ひっ!?」

そんなことは気にならなかった。僕はただ秋山を執拗に愛撫し、感度を高め続ける。愛液は滝のように溢れ出し、時折間欠泉のようにほとばしる。指で膣壁をこすってやると、声にならない叫びをあげて身体を痙攣させた。
僕の方も準備は整った。秋山をうつぶせに寝かせ、かちゃかちゃと手早くズボンを下ろし、滾りをあらわにする。

「…挿れるの? だめ、それ以上は来ちゃ…あっー!?」


362 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:36:52 ID:vSAt5dVP

秋山が何か言いかけたのを黙らせるように、後ろから一気に突き入れる。秋山の身体は、ばねのようにのけ反った。
僕は指に愛液をたっぷり塗り付け、注挿をしながら秋山の菊門をぐりぐりとほぐす。

「うそ、おしり…!? だ、だめぇぇ!」

さらに感度を増したのか、秋山の身体は震えっぱなしだ。もはや声にならない叫びをあげるだけ。呂律が回らず、ひとつひとつ聞き取るのさえ困難だ。
だが、「もっとして」「壊して」などの声は聞き取れた。
前回もそうだ。秋山は僕に壊される事を願っているのだろうか。だとしたら、危うい。
僕は壊すつもりはなかった。ただ今は、全身全霊をかけて秋山を愛する事に専念する。
ついに僕も限界が近づく。歯を食いしばり、一分、一秒でも長く堪える。それも限界になると僕はとどめとばかりに秋山の身体に覆いかぶさり、耳元で囁くと同時に白濁を秋山の中に放った。

「…理遠っ」
「あっ…あ、ぁ…?」

秋山は糸の切れた人形のように倒れた。見開かれた瞳は焦点があっておらず、涙を流している。口からは唾液が溢れ、乙女としてはいただけない状態になっていた。僕はタオルでそれらを拭き、まぶたを閉じてやる。
今度はティッシュをがさがさと大量に出し、秋山を起こさないように下腹部の粘液の処理にかかった。
それらを済ますと僕は秋山に毛布をかけ、傍らで寝顔を眺めていた。

僕はもう、目の前ですやすやと寝息を立てる少女がたまらなく愛おしくなってしまっていた。観覧車で歌音に対して抱いた感情とも違う。僕は間違いなく僕自身の意志で、秋山に惹かれていた。
心に棘が刺さる。歌音は悲しみ、傷つくだろう。それでも、秋山のそばにいたい。
歌音といるときは感じられなかった心の充足を、秋山とこうしている今は感じられているからだ。…つくづく、僕という男はクズだな。


363 :少年 桐島真司の場合 6 ◆BaopYMYofQ :2010/03/12(金) 19:38:27 ID:vSAt5dVP

#####

その後は目を覚ました秋山に大慌てで連れられ、体育館の管理人にあいさつを済ませてダッシュで施設を出た。利用時間を危うくオーバーするところだったのだ。
そしてマネージャーの車に乗せられ、僕たちは帰路につく。おそらく車なら2時間は軽く超えるだろう。そうなると日付は確実に跨ぐ。
秋山は車に乗ると僕に寄り掛かり、再び眠りについた。警戒心のかけらもない、無垢な寝顔だ。
マネージャーは鏡ごしにそれを見て、言った。

「理遠は昔から、ライブのあとはこうして泥のように眠るのよ。…でも、そんな赤ちゃんみたいな寝顔、初めて見るわ。ふふ、可愛いわね?」
「そうなんですか…」
「ええ。…あなたが、桐島くんね。のえるちゃんから話は聞いてるわ。私は真田陽子、よろしく」

やはり、このマネージャーがのえるを引き取った人か。

「あの子、異様にできすぎた子ね。今までの人生、辛いことがありすぎたのね」
「のえるは…自傷行為をしてませんか」
「あ、それは大丈夫よ。髪の毛の段階で信じたから」
「髪の毛……そうですか」やはりあれは、誰に対してもやっていたのか。

もうひとつだけ、聞きたいことがあった。

「のえるは秋山の……理遠の姉って」
「本当よ。身の上話が、あまりに理遠のそれと交差しすぎてるから、試しに髪の毛から血液型を調べてもらった。…二人とも、RHマイナスA型だった」
「RHマイナスって…」
「実はマイナスの人自体はけっこういるらしいのよ。芸能界にも何人かいるし。ただ、理遠とのえるちゃんの場合、偶然でここまでの符合はありえないわよね」

確定的だ。もはや覆しようのない一致。二人はやはり姉妹だった。
こうなると、僕とのえるの出会いも偶然なのかどうかわからなくなってくる。

「まあ、深く考えるこたないわよ。…お腹すいたでしょ。今から私の家に行くから、今日は二人とも泊まっていきなさい」

そうして車に揺られることおよそ50分。東京23区内某所のマンションに僕は連れて来られた。
僕は眠っている理遠をおぶさり、真田さんは両手に理遠と自分の荷物を持ってエレベーターで7階まで上がる。
707と書かれたドアの前に立ち、鍵を開けると真田さんは先に僕らを入れてくれた。

すると、中から懐かしい声が聞こえてきた。

「陽子さん、おかえりなさい。お疲れ………真司、さん?」
「久しぶりだな…のえる」

だが、その姿は最後に見たときから少し変わっていた。背丈は少し伸び、顔付きも幼さが少し消えたよう。ツインテールはやめたのか、髪はストレートのまま。
そう…今ののえるはまるで高校生並の身体にまで成長していたのだ。
僕はそれを見て、言葉に表せない焦燥を感じていた。

不老不死でなくなってるのか? ならば…この先はどうなるんだ。