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424 :小ネタ 大佐と捕虜の騎士:2010/03/17(水) 03:07:54 ID:K/P5DSU6
「ステイ…また空を見ていたのか?」
薄暗くカビ臭い部屋。
明かりといえば部屋に一箇所だけある換気用の窓から夕日が差し込むだけ。
その窓も鉄格子で防がれている。
粗末なベッドに一人の青年が座っていた。
その青年は窓の外を見つめるだけで時折入り込む風に、その綺麗な金色の髪を揺らす。

青年は私が部屋に入った事を気がついたようで、首だけ動かしこちらを向く。
「ああ…。すまないアイリーン大佐。気がつかなかった」
薄いターコイズブルーの瞳が少しだけ申し訳なさそうに語る。

「ノックはしたんだ。それとリーンでいい。何度も言っているだろう?」
後ろ手で扉を閉めながら食事をのせたトレイを簡素なテーブルに置く。

「なんだ。せっかく市場で買ってきたのに一冊も手を付けていないじゃないか。」
先日街を視察した時に部下に数点見繕って貰った、流行り物の書物。
そのどれもが先日置いたまま薄く埃を被っていた。

…すまない。と一言詫びた後、また窓の外をステイは眺める。
私はその瞳を見ると拳を少しだけ握り締めた。

「…また、祖国の事を思い出しているのか?」
彼の隣に座りながら問う。

「ひと時も忘れる事なんてないさ。それだけ大切な事なんだ。国王陛下、騎士中隊を忘れる事なんてない。」

窓を眺める青年の首に背後から腕を廻しながら問う。
「それは…、私の事よりもか。」
肩に顔を埋める。私の赤髪が彼の肩を覆う。
「…リーン。私はあなたの事は好きだが愛してはいない。心はいつも祖国にある。」
「違う。それだけではない。違うだろう、ステイ。お前の心はいつも、ある女の場所だ。」



425 :小ネタ 大佐と捕虜の騎士:2010/03/17(水) 03:08:20 ID:K/P5DSU6
戦場で彼と別れた女。アリマテア王国騎士の女。彼と婚約の約束を交わした女。

「ドリィの事は諦めていると言っただろう。元々貴族との婚約なんて不可能だ。それに…んっ」
続く言葉を切り、口付けを交わす。
「…それなら、今日も私を満足させてくれ。ステイ。」
足が不自由な彼をそのまま押し倒し、続けて口付けを交わす。

「お前といないと辛いんだ。寂しいんだ。…ステイ。お前は私を直ぐに不安にさせる。私はお前が消えてしまうのが怖いんだ。お前を失うのが怖いんだ。…ステイ、一緒にいてくれ…。」

真っ直ぐに彼の瞳を見つめる。

しかし彼の瞳は私には向いていなかった。

「…こんな時間。きっと長くは続かない。」
彼は明後日の方向を向きながら呟いた。

そう、きっと狂っている。佐官の座に着きながら敵国の捕虜と身を寄せ合っている。
彼が足を負傷していて抵抗もうまく出来ない事を知っていて迫っている。卑怯な女。
いずれどちらかが失ってしまう。こんな時間は続かない。それでも…

「それならば、もう少しだけ。…あと少しだけ。こうさせてくれ。私に捧げてくれ。」

返答を待たずに三度目の口付けを交わす。そのまま二人は交わった。

グラスランドのグラン帝國は現在戦争中である。
そして帝國佐官、アイリーン大佐は敵対国に加入している連合軍の捕虜、ステイを愛していた。