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477 :6~風見乃音の5月1日~その1:2010/03/18(木) 23:54:25 ID:y5mr/T4y

ついに今日がやってきた。
今日こそ愛しの吉川君……いえ、翔君を手に入れなければ。
問題は誰にも怪しまれないで吉川君を捕まえなければいけないということ。
誰かに怪しまれて警察を呼ばれたら最後、私の計画は台無しになってしまう。
それどころか、警察につかまって翔君に会えなくなってしまう。

それだけは避けなければいけない。
そのために吉川君を遊びに連れだしたんだし。
このまま、暗くなってから一緒に帰ってもらってその途中で我が家に拉致してしまえば……。
でも、どうやって送っていってもらえばいいんだろう?
幸い、私の家と吉川君の家は近くにあるから送ってもらえないことはないだろうけど。
直接言ってみようかな?
でも今、翔君には華岸さんがべったりくっついてるし……。

「うわ、怖いな……。知ってるか?昨日通り魔事件が起こってたらしいぞ?スタンガンで気絶させた後にめった刺しだってさ。」
携帯のニュースフラッシュを見ながら、翔君がみんなに言う。
「俺もそれ昨日のニュースで見たぞ。」
「俺も見た。てか今更だな。」
「私もみたよ。この近くっていうかこの市だよね。」

私は知らなかった。
やはり、神様が私に味方しているのかも知れない。
これで格好の口実ができた。

「もしよかったら……」
「じゃあ私は吉川に送っていってもらおうかな。襲われたら危ないし。」
「おう、構わんぞ。俺がついてれば体重80キロまでの奴なら倒せる。でもそれ以上ならお前を餌にして逃げる。」
「何それ?!ひどっ!」

私が翔君を誘おうとすると、華岸さんに遮られてしまった。
多分わざとじゃないだろうけど……ひどい。
これで通り魔を装って気絶させた後に、私の家に運んで行くしかなくなった。
「じゃあ、風見さんは俺が送って行くよ!」
「いや、ここは俺が!」
「私は一人で帰れるから大丈夫です。みんなも気をつけて帰ってくださいね。」

何人かが送ると申し出てくれたが、丁重にお断りする。
ここで誰かに送られてしまったら、翔君を尾行して捕まえることができなくなってしまう。



478 :6~風見乃音の5月1日~その2:2010/03/18(木) 23:55:29 ID:y5mr/T4y

「じゃあここで解散にしようよ。」
「OK。また今度な~。」
「みんなお疲れ~。」
「では失礼しますね。」

みんな思い思いの挨拶をして帰っていく。
華岸さんと翔君のエアホッケーの試合が終わった後、昼食をとったり、他のゲームをしたり、カラオケに行ったりしていたので、もう外は暗い。
駅前からはなれるほど街灯が少なくなって真っ暗になるので、翔君を捕まえるのはおあつらえ向きだ。
とりあえず、私は帰ると見せかけて近くの物陰に隠れ、二人を観察する。
華岸さん……最近、翔君に積極的にアプローチしているように思える。

聞いた話だが、二人はどうやら幼馴染らしい。
きっと彼女は私の知らない翔君をたくさん知っているに違いない。
他のひとならまだしも彼女と翔君をとり合うことになれば、間違いなく負けてしまうだろう。
だから、今回の計画を練った。
こうでもしなければ、きっと翔君は私には振り向いてくれない。
だから、仕方ないんだ……。

「さっきの罰ゲーム何にしようかな~。来週の朝礼の時に全校生徒の前で踊ってもらおっか?キューティーハニーをフルコーラスでもいいけど。」
「いやいやいやいや、勘弁してください。」
「あ、踊りなら沖縄の踊りね。ちゃんと練習してくるように。」
「なんなのそのチョイス?!俺をそんなに登校拒否にさせたいの?!」
「じゃあ、譲歩してあげるわよ。全校生徒の前で阿波踊りでいいわ。」
「どこに譲歩があったのかな?!一番危険な全校生徒の前でっていうのがまんま残ってるよね?!」
「じゃあクラスメイト全員の前で私に告白してみる?後から嘘でしたって言ってもいから。」
「ファンクラブの奴に殺されます。そんなに俺に死んでほしいんですか?!」

楽しそうに話しながら歩いている。
うらやましいです。
でももうすぐ私も翔君と二人っきりに……。



479 :6~風見乃音の5月1日~その3:2010/03/18(木) 23:56:35 ID:y5mr/T4y

「じゃあここまででいいわ。送ってくれてありがとね。」
「ああ、お前を送るのが罰ゲームみたいなもんだったから、罰ゲームをなしにしてくれると嬉しい。俺的には。」
「……本当に躍らせるわよ。」
「マジすいませんでした。調子こきました。」

翔君が華岸さんへと頭を下げる。
華岸さんはそれをみると家の中へとはいって行った。
「ふう、疲れた~。」
翔君が自分の家へと歩き出す。
そしてそれはその途中にある、私の家へと近づいているわけでもある。

……よし、もうすぐ私の家の近くだ。
家に一番近いところで襲えば人に見つかるリスクは少ない。
念のため用意しておいたタオルで顔を隠し、スタンガンを片手に持って準備する。
もうすぐ翔君は私の物に……。

……よし、次の交差点を超えたところの一本道で襲いかかろう。
翔君の後ろを歩く私の中に緊張が走る。
あと少しあと少し……。

今だ!
出来るだけ足音をさせないようにして翔君へと走る。
そして……。
えいっ!
心の中で声を出す。
失敗した時のために正体を知られるわけにはいかないから。

「おっと……甘いな。」
「っっ!!」
しまった……。
かわされてしまった。

「人を後ろから襲うとは卑怯にも程がある。まだ普通に喧嘩を売ってくる不良の方がましだ。」
どうしよう……逃げてもたぶんすぐに追いつかれる。
こうなったらなんとか気絶させるしかない。

「まあ、剣道と合気道と捕縛術を極めた俺をターゲットにしたのが運のつきだな。大人しくつかまってもらうぞ。」
それは嘘だ。
合気道と捕縛術は本でちょっと読んで習得しただけって言ってた。
剣道は本当に二段を持ってるらしいけど。



480 :6~風見乃音の5月1日~その4:2010/03/18(木) 23:57:57 ID:y5mr/T4y

翔君が一歩一歩と間合いを詰めてくる。
詰め切られる前にしかけないと!
スタンガンを両手で構え、一気に突っ込む。

しかし、またしても翔君の体には当たらない。
両手の手首を下からはじかれ、左手がスタンガンから離れてしまう。
そしてスタンガンを持った右手と胸倉をつかまれ、背中で抱えて投げ飛ばされる。

柔道の背負い投げだ。
全然合気道でも捕縛術でもない。

「ぅぅっ……。」
なんとか受け身に近いものはとれたけど、素人だし、そもそも本物の受け身を知らないのでかなりダメージを受けてしまう。
投げ飛ばされた時のあまりの痛みに、思わずうめき声をあげてしまった。
それでも、計画をやめるわけにはいかない。
意地でなんとか立ち上がる。

「加減しすぎたかな?じゃあ次は本気で行くぞ。」
とんでもない。
十分痛いです。
今度は翔君の方から仕掛けてきた。
まだ少しふらついている私に近寄ってくると、スタンガンを持っている右手をひねって、背中の方に回してきた。

間接を固められてしまった。
これはまずい。
全く抵抗も出来ないし、相手の意志で腕を上にあげられればそのたびに痛みが増す。

「よし、捕まえたぞ。9時49分、現行犯逮捕だ。」
翔君は携帯で時間を確認して私に告げる。
ああ、なんてことだ。
最後の最後で失敗してしまった。

「全く、ご丁寧にタオルなんかで顔を隠しやがって。顔をさらす度胸もないのかよ。」
翔君のあきれたような声が聞こえる。
このまま私は刑務所に入れられて一生翔君に会えなくなるのだろうか。



481 :6~風見乃音の5月1日~その5:2010/03/18(木) 23:58:55 ID:y5mr/T4y

そんなの嫌だ。
そんなの嫌だ。
そんなの嫌だ。

なんとかこの間接技から逃れようと暴れる。
「おいっ、このっ!おとなしくしろっ!」
腕をさらに上にあげられる。

「痛いっ!痛いよぉ……。」
あまりの痛みに思わず泣き声混じりの声が出てしまう。
もともと私は体育会系じゃないし、そんなに強いわけでもない。
それが武道の有段者相手によく頑張ったと思う。

「えっ?!お前まさか……。」
私の声を聞いたとたんに、翔君の私の腕を持つ力が緩む。

今しかない!とっさにそう思った。
その瞬間、持てる全ての力を尽くして翔君の腕から逃れ、下に落としてしまったスタンガンを拾い、翔君に押し当てる。
翔君は私の声を聞いてかなり驚いたようで、その間全く動けなかったようだ。

スタンガンがバチバチっと光った直後、翔君の「うっ」といううめき声が聞こえて、彼は地面に倒れた。
私の家はもう目の前。
引きずっていくと、誰かに見られた時に怪しまれるかも知れないから、酔った人を送っていますといった感じで、肩を貸す格好で歩く。

「ふふふ、これからどうしようかなぁ……。」
本当に最後の最後で私に味方してくれた神様に感謝しながら、翔君を部屋まで運び込んだのだった。