461 :Crete島の病少女:2010/03/18(木) 20:45:47 ID:RMem8h1u
外では銃声が鳴り響き、爆音が聞こえる。
味方はどうなったのだろうか、部隊の皆は・・・。
「また、外を見てるの?駄目だよ」
微笑を浮かべながら女が近づいてくる。
美しい少女だ、初めて見た時は純粋にそう思った。
「なあ、もういいだろう。ここから解放してくれないか?」
手に巻きつけられた、鎖を見ながら呟いてみる。
「何言ってるの?そんな体で行ったらすぐ殺されちゃうよ」
またか、何回繰り返せばいいのだ。
「足はもう平気だ、君も知っているはずだろう」
看病してくれたのは彼女だ、知らないはずがない。
「・・・手当てしたのは私だよ、傷の具合は私が一番知ってる」
「なら――」
「足がまだ動かないっていうことは私が一番よく知ってるよ」
「!・・」
くそ、何を言っても駄目か。できることならあの日に戻り、自分に
警告してやりたい気分だった。
そう、この監禁生活が始まったのはあの日からだ・・・。
463 :Crete島の病少女:2010/03/18(木) 21:21:28 ID:RMem8h1u
「降下猟兵」はエリートだ。普通の兵士なんかじゃ出来ない芸当を
軽々しくやってのける。
空から舞い落ち、敵陣の真っ只中で任務をこなす。
だから俺達はエリートなのだ。
5月20日
俺は機内の中にいた。もうすぐCrete島への降下が始まるのだ。
ふと、体中を震えが駆け巡った。
これは俺にとって初めての降下なのだ。
「緊張しているのか?」
部隊長が声をかけてくれる。
「大丈夫です」
嘘だ、本当はこの場で叫びたいほど緊張している。
部隊長は微笑を浮かべた。
「私からはぐれなければ、生きて帰れるさ」
俺はその言葉を胸に刻みつけた。
「降下準備!」
部隊長のそんな声が聞こえた。
立ち上がり、気を引き締める。
「いけ」
「いけ」
「いけ」
どんどん前の奴らは舞い立ち、あっという間に俺の番だ。
風の声と心臓の鼓動以外なにも聞こえない・・・。
「いけ」
ドン!と背中を押され、空へ。
重力が一層、強くなる。
次の瞬間には風の洗礼と対空砲火の嵐。
生きて、帰れるさ。
465 :Crete島の病少女:2010/03/18(木) 22:11:42 ID:RMem8h1u
ビュオオオオという風の音。
今日は風が強い、窓がガタガタ揺れる。
「飛んでいってしまいたい・・・」
そんな呟きは日常茶飯事だ。
私は風が好き。だって自由だしどこへでも行ける。
パルテノン神殿だって、自由の女神だってどこへでも。
しがらみも何もない空が心底羨ましかった。
唐突に外へ出たくなった。
風を感じたい。
1階に降り、玄関のドアを開ける。
「ッ!・・・」
予想以上に強い風が私の顔を打つ。
でも、そんな感覚すら嬉しくて、私は外へと歩き出す。
「はあぁぁ・・・・・」
「すうぅぅ・・・・・」
息をはいて吸ってを繰り返す。
心が軽くなった気がする。
よし、いつもの場所へ行こう。
私は歩き出す、風に打たれながら。
466 :Crete島の病少女:2010/03/18(木) 22:14:23 ID:RMem8h1u
「着いたぁ」
私の家から歩いて少しの所に草原がある。
草原の真ん中には、大きな岩があった。
その石の上が私の定位置だった。
「うんしょと」
石の上に登り、大の字で寝転がる。
空が見える、私の大好きな空が。
ゥーーン
「?」
遠くからかすかに聞こえてくる。
なんだろうか?
467 :Crete島の病少女:2010/03/18(木) 22:15:10 ID:RMem8h1u
ゥーーン
段々と
ウゥーーン
音が
ウゥーン
大きく
ブゥーン
明確に
ブゥン!
あ、大きな影が
通りすぎ――え?
私は弾かれた様に上半身を挙げる。
「何!?」
ついさっき通り過ぎた「それ」を目で追う。
知っている。あれは――
「戦闘機!」
どうしてこんな所に。
頭の中を疑問が飛び交う。
なぜ?
どうして?
何をするつもり?
パパは――
「そうだ!父さまが危ない!」
確か今日は軍の飛行場に行くと行っていた。
知らせないと!
私は岩から飛び降りると、一目散に走り出した
最終更新:2010年03月19日 06:37