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532 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:45:37 ID:1rbfTWCv
見知らぬ部屋で僕は目を醒ました。辺りを軽く見渡し、それから昨夜の事を反芻する。
確か僕は真田さんのマンションに来て、晩飯とシャワーを頂き、そのまま泊めてもらって……

「………くぅ…」
「……すぅ…」

…僕の両サイドから可愛らしい寝息が聞こえてきて、思わず背筋がびくん、としてしまった。
左右を見てみると右には理遠が、左にはのえるがいた。神よ、これはなんの試練でございますか?
僕は二人を起こさないように、ベッドからの脱出を試みる。だが真ん中という位置にいる以上、脱出は困難。
とりあえずそっ、と掛け布団をめくる。二人には少しの間寒い思いをしてもらわなければならないが、やむを得ま…い…?
…理遠は全裸でベッドに潜り込んでいた。なんだ、お前は裸族か? 家にいるときは裸じゃないと落ち着かない人種なのか?
いずれにせよ…こんな実態を知られたら理遠の歌手生命は別の意味で危機を迎えるだろう。
あとで真田さんから注意するように頼んでおこう。
ひとまず僕は寝室から脱出する。リビングに出ると、真田さんはテレビをじっ、と見ていた。

「いい歳してプリキュアですか…真田さん」
「失礼ねー、これでもあたしは27よ?」

なんと、のえると同い年だったとは。

「いやなに、来期のプリキュアの声優オーディションに理遠をどうかなー、と思ったんだけどさ。大御所が何人か来るみたいだし、やっぱ無理か…」
「まあ、無理に売り込む必要もないんじゃないですか?」
「うん、そうね。君わかってるねぇ。朝ごはん何がいい? お姉さん頑張っちゃうよ?」と、真田さんは腕まくりをしてやる気満々だ。

TV画面の少女達が必殺技のモーションに入った。と同時に、理遠が寝室から現れた。…裸で。

「こーら理遠、また裸で寝たの?」

いいぞ真田さん、もっと言ってやってくれ、と内心僕は思ったが、

「風邪引くわよ? 夏ならまだしも、今は冬なんだから」

夏ならいいのかよ! というツッコミに数秒で昇華してしまった。

「…朝ごはん、私が作るわ」
「頼むからその前に服を着てくれ」



533 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:47:36 ID:1rbfTWCv

#####


「さーんぐらすぅ、はぁーずしたら、ふぅーきだしちゃうほどぉー♪」

理遠はとても朝には似つかわしくない、泥沼展開ドラマの主題歌を口ずさみながら野菜をリズミカルに刻んでいる。
…実際に手錠をかけられたことのある僕からしたら、なんとも落ち着かない。

「理遠さんのマーボーカレーは絶品なんですよ? 最初は何の冗談かと思いましたけど」

まあ…一時期某人気RPGの宣伝も兼ねて全国のコンビニチェーン店でレトルトが売られてたくらいだし。
僕は実際に食べたことはないが、のえるが言うからには本当に絶品…というか、食物として成立しているのだろう。

「そーそー! ほんとビールに合うのよねぇソレ」

そう豪語する真田さんだが、グラスの中身はグレープフルーツジュースだ。

「さなちゃん、そんなんだからいつまでも彼氏できないのよ」理遠は地味に手厳しい一言を放った。
「あによー、独り身上等じゃない。まあ、もしもの時は桐島くんに婿n」
「認めないわ」
「認めませんよ?」

のえると理遠は、示し合わせたようにほぼ同時に真田さんの提案を却下した。その声色がやけに刺々しいと感じたのは…僕の気のせいだと思いたい。

「でさ、桐島くんは一体誰が好きなのかな? かな?」真田さんは僕の肩に手を回し、小声で囁いた。

「誰って…」
「のえるちゃんと、理遠。それと、歌音ちゃん…だっけ?」そう問い掛ける真田さんの目は、真剣だった。
「………っ」

どう答えたらいいものか、わからなかった。僕は言葉に詰まる。のえるはそんな僕の目を真剣な表情で見つめ、こう言った。

「真司さん、中途半端な優しさでは、誰も救えませんよ」

のえるの言葉は僕の心の痛いところを的確に突いていた。
まさしくその通りだ。今の僕は優柔不断もいいところ。
理遠に対して好意を抱いてしまった以上、このまま何もしないわけにはいかない。僕は、答えを出さなきゃいけないんだ。

「のえる、僕は…」最低な男だよな、と言いかけて止めた。
のえるに聞いたところで、肯定はしないだろう。他人に否定してもらい、安堵を得ようとしている事に他ならない。

「…ちゃんと答えを出そうと思う」せいぜいそう言うのが精一杯だった。



534 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:51:08 ID:1rbfTWCv

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結局僕と理遠は朝食を頂いたあと、真田さんの車で家まで送ってもらった。
のえるはやはり、僕の元には戻らないそうだ。真田さんが離す気がない、というのもあるが…のえるは僕ら二人と一緒に車に乗り、理遠の家で降りた。
仕事でテスト勉強がままならない理遠に頼まれ、勉強を教えてあげるそうだ。
僕は彼女達と別れ、真田さんに自宅前まで乗りつけてもらい、そこで降りた。

「んじゃ…少年、がんばんなさい?」
「ええ……ありがとうございます」

自室でひとりベッドに突っ伏して半日を過ごした。その間に頭の中は様々な事象でごちゃごちゃになり、無駄に糖分を消費した。
そして僕は、ひとつの覚悟を決めた。明日…歌音と別れよう、と。

憂鬱な気分で迎えた朝はやはり寝覚めが悪く、シャワーとコーヒーで強制的に意識をはっきりさせる必要があった。
時間はいつも通り。7時42分の電車に乗るつもりで家を出る。駅に着くと歌音はやはりいつもと変わらぬ笑顔で僕を待っており、いつも通りの登校をした。

よくよく考えたら二日後には期末テストが控えており、授業ではテスト対策をやっていたのだが…何一つとして頭に入らなかった。
この三週間ほどでもはや定例と化した歌音との昼食も、他愛ない話をしただけでいつも通りに終わった。
そして早くも迎えた放課後。僕と歌音はやはり一緒に駅まで歩く。僕はとうとう、歌音に話をするべく切り出した。

「歌音、大事な話があるんだ」
「…うん、なに?」

歌音はここでもいつもと変わらぬ笑顔で答える。その笑顔に一瞬、躊躇してしまう。だが僕は、告げるべき意志を搾り出した。

「…別れよう」

静寂。歌音は笑顔のまま、ぴたりと固まった。

「ははっ、やだなぁ。真司、いじわるにしては度が過ぎてるよ」
「本気なんだ」
「嘘だよ。私にいたずらして、からかってるんだよね?、誰か隠れて見てるの? ねえ? ねえ?」

次第に、歌音の声色には焦りが見えてきた。

「そばにいたい人ができたんだ。だから…これ以上は歌音の傍には居られない」
「嘘だよ!」

突然、歌音がそう叫んだので僕は内心たじろいでしまった。だがそれを気取られないように努める。だが歌音は…

「私の事好きって言ったよね!? キスだってしたし、何度も私を守ってくれたし! ねえ、嘘だよね!? 嘘って言ってよ! ねえ! ねえ!?」

ついに笑顔は崩れ、今にも泣き出しそうな顔で僕の肩を掴み、揺さぶりながら必死にそう強く訴える歌音。


535 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:52:09 ID:1rbfTWCv

「嘘だって…言ってよ…! しんじぃ…」
「…すまない」
「しんじぃ…っ、いや、いやだよぉ…うあぁぁぁぁぁん…」

歌音は涙を流し、僕の胸元に顔を埋める。しかし僕は…手を回したりなどはせず、されるがままに立っているだけだ。
こんなにも弱い歌音は初めて見た。痴漢事件なんてメじゃない。今にも壊れてしまいそうなくらい、弱々しかった。そう、思ってたんだ。

「ぐすっ………そっか、そうなんだね真司」

歌音は突然、ぴたっと泣き止み、冷静さに満ちた声でそう言った。わかってくれたのか…?

「ふふっ……あはは、あははははっ…」
「…………歌音、何がおかしい?」

その笑い声に、背筋が凍りついた。冬の寒さなどとは比べものにならない。

「あは、あはははははははは! そう、そうなんだね真司! 理遠ちゃんなんだね! くく、あははははははっ!」
「……な、歌音…?」
「理遠ちゃんにたぶらかされたんだ! まったく、ダメだなあ! 親友なのに…ううん、親友だからこそ、はっきり釘を刺すべきだったね!?
 大丈夫だよ真司、私が目を醒まさせてあげるから!」

恐怖。まるで蛇に心臓を鷲掴みにされたような感覚。今の僕を支配しているのは、その感覚だけだ。
歌音が暗く淀んだような目を見開き、笑いながらまくしたてる。その姿は不気味ともなんとも言えず、ただ僕の心にえも知れぬ恐怖を植え付ける。
瞬間、僕は下腹部に強い衝撃を覚えた。歌音は膝で僕の腹を強く蹴ったのだ。

「く、はっ…!」

歌音を女子だからとナメてはいけない。3.05メートルの高さのリングに余裕で手が届くほどの脚力、瞬発力を持っているのだ。
その脚から繰り出された蹴りは寸分違わず鳩尾に叩き込まれる。その一撃は僕の意識を奪うには十分過ぎた。
僕はすさまじい苦しさに襲われながら、重力に引かれてその場に倒れた。

「何も怖くないよ真司。私が目を醒ましてあげるから」



536 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:53:00 ID:1rbfTWCv

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次に目を醒ました時、僕はどこか知らない部屋のベッドに横たわっていた。
やはり両腕両足は拘束されている。理遠の時と違うのは、手錠がロープに変わっているという所か。
鳩尾には未だ痛みが残る。歌音の力は相当なものだ。僕でさえ一発で意識がもぎ取られたのだから。

「あは、目が覚めた?」
「歌音、何の真似だ!?」
「すぐにわかるよ。これから、ゆっくりと時間をかけて教えてあげる。真司には私しかいないんだ、ってね…!」

歌音は下着類をつけただけの姿で、僕の上に乗る。一度されたことだ。何をされるかは容易にわかった。
歌音は僕のズボンのジッパーを下ろし、手探りで僕の分身を外気に晒す。

「ほら、見ててよ真司。私、真司のためなら何でもできるから」

そう言って歌音は僕の分身を口に含む。舌で転がし、敏感な先端をひたすら舐める。ソコは見る間に充血し、硬度を得た。
歌音はさらに、喉の奥に挿れるように深く飲み込む。

「んっ……んっ……っは、じゅぷ」

歌音は涙目になりながらも口で擬似的にピストンを行う。何度も吐きそうになるのを堪え、必死に顔を上下させ、喉で僕を扱いた。
唾液が滝のようにこぼれ落ち、根本まで濡らす。喉の締め付けは、僕を瞬時に限界まで追い詰める。

「やめ、ろっ! 出る!」
「んっ………ぐぅっ…!」

歌音はそのまま、喉奥で僕の精液を受け止め、喉で搾り出し、嚥下した。

「ごくっ……ごくっ………ぷは。美味しいよ、真司の」

妖艶に微笑みながら、いやらしい言葉を吐く。その姿に全身がぞくり、とした。言っておくが、快楽でぞく、としたわけではない。
歌音は下着を下ろし、脱ぎ捨てる。秘部をくぱっ、と開き、そこに怒張をあてがう。

「やめろ歌音! それ以上は、やめろぉぉ!」

が、僕の叫びは届かない。歌音はついに、一思いに腰を落とした。



537 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:53:42 ID:1rbfTWCv

「~~~~~~~っ!!」

おそらく痛いのだろう。歌音は言葉を失い、息をぜぇぜぇとさせていた。しかしすぐに、腰を振りはじめる。

「どう、気持ちいいでしょ!? 私は理遠ちゃんとは違う! いつでも好きなときにヤらせてあげるよ!?
 真司の好きなプレイでもなんでも、させてあげる! 真司はただ私に吐き出せばいいだけなんだよ!?」

歌音のナカは僕をこれでもかとばかりに締め付ける。だが、その締め付けは快楽よりも…苦しさを伝える。
僕は大きな不快感と、恐怖に襲われた。何もできない。されるがままに、歌音に犯されることしかできなかった。

結局僕は、数えきれないほど精液を搾り取られた。もはや痛みしかない。歌音はようやく満足したのか、僕の上から降りて服を着始める。

「待っててね真司。すぐに戻ってくるから」
「どこに、行くん、だ…っ」今にも途切れそうな意識をなんとか保ちつつ、尋ねた。歌音の答えは…

「理遠ちゃんに教えてあげるの。ひとの物を盗ったらどうなるか。きついお仕置きをしなきゃ、ね?」歌音は服を着ると、押し入れの中から棒のようなものを取り出した。
鈍色に光るソレは…金属バットだ。

「おい、ソレで何する気だ…? 何する気なんだよ!」
「言ったじゃない。きついお仕置き、って。もしかしたら死んじゃうかな?
 でも、おあいこだよね。私だって胸が張り裂けそうだった。痛くて痛くて、死んじゃいそうだったんだよ?
 あは、心配しなくてもいいよ。親友だからね、手加減なんかしないから…ねっ♪」

歌音はそう言い残し、振り向くことなく部屋を出た。

「やめろ歌音! 殺すなら僕をやれ! 歌音!」僕は必死に叫ぶ。だが、叫びは届くことはなかった。その直後に、玄関のドアが開かれる音と、施錠がされる音がした。

理遠が殺される。そう思うと、僕はもはや正気ではいられなかった。全身にすさまじい寒気が襲い掛かる。身体が、恐怖で弛緩している。

「理遠……逃げろ理遠! 理遠ーーーっ!!」



538 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:54:46 ID:1rbfTWCv

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水城歌音は黒いコートに身を包み、秋山理遠の自宅に向かっていた。金属バットは人目につかないように、抱き抱えるように持って。
冬の夜風が歌音の髪をふわり、となびかせる。空は夜の帳が落ち、歌音は闇に溶け込むように歩く。
歌音は自宅からおよそ30分かけて、理遠の家の前にやってきた。
理遠は真田陽子を保証人に立て、小さい平家を購入してそこに住んでいる。歌音は呼び鈴を一度押し、ドアの前で待つ。バットは後ろ手に隠し持つように。

呼び鈴に反応してドアが開かれる。現れたのは、のえるだった。

「歌音さん? どうしたんですか」
「のえる…ちゃんなの? しばらく見ないうちに大きくなったね」

実際は大きくなったどころではない。たった二週間で小中学生並の身体から、高校生程度の身体に育っていたのだから。
だが歌音はそんなことはどうでもいいかのように、家に上がる。
のえるに導かれ、歌音はリビングまでやって来る。理遠はリビングのテーブルで問題集とにらめっこをしていたのだが、歌音がやってくると顔を上げて言った。

「…そろそろ、来ると思ってた」

理遠は眼鏡を外し、歌音の目を見ながら続ける。

「私を、殺しに来たの?」

歌音は何も答えない。代わりに、右手にバットを持ち直し、振りかぶるモーションに入った。

「理遠さん!」

バットの軌道は確実に理遠の頭をえぐるコースを捉えた。しかしそこに、のえるが庇いに行く。
がつん、と鈍い音が響く。のえるの身体は歌音から見て左に吹き飛び、さらに壁に頭を打ちつけた。
ごきっ、と嫌な音がする。おそらく、一撃で命を絶たれただろう。そう、常人ならば。

歌音はのえるを一瞥することもなく、再び理遠を見据える。

「ねぇ理遠ちゃん。ひとの物をとったら泥棒なんだよ?」
「……知ってるんでしょ。私は、歌音ちゃんが好きになるずっと前から真司くんを好きだった」
「知ってるよ。でも真司は、私を選んでくれた。なのに理遠ちゃんは、後から割り込んできた。いっそ最初から真司とくっついてれば、気にしなかったのに」
「そんなこと…っ」


539 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:55:37 ID:1rbfTWCv

歌音はもう一度バットを振る。理遠はとっさに身を引き、バットをかわす。だが、今のバックステップで理遠は壁に追い詰められた。
歌音は三度目の一撃を放つ。今度こそ、理遠を死に至らせるかと思われた。
だがそこに、再びのえるが庇いに入る。理遠を突き飛ばし、代わりに一撃を受けた。
肩の骨が砕ける音と共に、吹き飛ぶ。しかしのえるは痛みを口に出さない。
歌音が理遠に襲い掛かる度に、のえるは理遠を庇った。最終的には理遠に覆いかぶさり、何度も何度も殴られ続けた。

「なんでよ…なんで邪魔するのよのえるちゃん! 私はもう止まれないのに!」

おびただしい量の血液が二人と、床とバットを濡らす。頭蓋は二回割られ、背骨は10回以上砕かれ、腕は何度もへし折られた。
もはや物言わぬ骸となっていてもおかしくはない。むしろ、生きている方が異常。
だが、のえるは"異常"なのだ。
どんなに殴り続けても、数秒で元通りになってしまう。便利、というレベルではない。まさに異常。だがその代償として、のえるには失神は許されない。
すさまじい痛みに意識を失っても、一瞬で強制的に目が覚める。つまりは、意識を失わないのとほぼ同意議。
すべての苦痛を、受け止めなければならないのだ。それでものえるは、理遠を庇う。理遠も、「もうやめて!」と何度も叫ぶ。
それは歌音へ、それとものえるへか。おそらく両方へ、だろう。

のえるが理遠を守る理由は二つあった。一つは、実の妹であること。もう一つは…理遠こそが、真司がようやくたどり着いた"答え"だから。

歌音はついにバットを振り下ろす手を止める。

「どうしてよ……私は、真司が好きなだけなのにぃ…なんでよぉ………」

バットはカラン、と金属音を鳴らし、落下する。歌音もその場にへたりと崩れ落ち、嗚咽を漏らす。
のえるは痛みを必死に堪えながら、ふらふらと立ち上がり、歌音に近づいた。そして、バットを拾い上げる。
理遠は恐怖に打ち震えながら、見ていることしかできなかった。その光景は、スローモーションのように見える。のえるは最初にやられたように、バットを振り上げてこう言った。

「真司さんのしあわせは、私が守ります」



540 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:56:41 ID:1rbfTWCv

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真司は手首の関節を外す事により、拘束からの脱出に成功した。
すぐに衣服を身につけ、大急ぎで部屋を出る。そこはどうやら団地だったようだ。表札には"502 水城"と印されている。
だが真司はそれを確認する間もなく、階段を駆け降りて下に向かう。
真司は焦っていた、どころではない。理遠が殺されてしまう。ただその思いだけが、真司の足を突き動かす。団地の敷地から出ると、見覚えのある景色が広がる。
真司が通学で使っている道だ。真司は真田の車で通った記憶だけを頼りに、理遠の家に向けて走り出す。
車にして5分弱。そこまでは離れていないはず。真司は、犯され消耗させられた体力をを振り絞り、走る。
倒れる余裕などない。真司の脳には理遠のことしかなく、ほぼオートランに近い状態だった。
歌音が徒歩で30分かけてたどり着いた道筋を、真司は10分で駆け、理遠の家にたどり着いた。
息は絶え絶え、意識も朦朧とする。もはや気力だけで、真司は玄関のドアを開く。と同時に、血の臭いが鼻をついた。

「理遠…? おい理遠! 返事をしろ!」

真司はリビングへと駆けた。そこに広がる光景は、真司の予想、杞憂を完璧に裏切った。
床には頭から血を大量に流した女が一人、倒れている。呼吸は見られない。おそらく…既に事切れているのだろう。

「…なんだよ。なんだよこれは!」

その女は、水城歌音だった。

「私が、やりました」 のえるは理遠を優しく抱き寄せたまま、告白した。
「理遠ちゃんの、そして貴方の幸せを守るために」
「のえ…る…?」
「そして、私も限界みたいです。もう、身体が動かないんです。それに、ものすごく眠くて。ああ…私、ついに死ぬんですね」
「なに…言ってるんだよ…!」

のえるはひどく衰弱していた。歌音から受けた暴力のせいだけではない。のえるはとうとう、12年前に終わるはずだった生命を今、終えようとしていたのだ。

「私たぶん、この為に生かされてたんですね。妹と…あなたを…」
「待てよ! 今救急車を呼ぶ! だかr」「真司さん!」

のえるは精一杯、叫んで真司を制す。

「歌音さんはもう死んでいます。私ももう…だから、いいんです。どうか…私の最後のお願いを聞いてください」
「待てよ…っ、最後なんて言うなよ!」

541 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 16:57:44 ID:1rbfTWCv
「どうか…りっちゃんと、しあわせ…に…」

のえるの瞳はゆっくりと閉じられた。もう二度と目覚めることのない、眠りに就いたのだ。

「…のえる? 行くな、行くなよ! のえる! のえる! うっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

真司はただ、泣き叫ぶことしかできなかった。己の愚かさが、二人の命を奪った。そして、理遠をも危険に晒した。
自らの愚かさを怨んだ。あの日、観覧車にさえ乗らなければこんな結末にはならなかったのかもしれないのに。
だが全ては過ぎたこと。いまさら悔やんだ所で二人は帰ってこない。
悲しみに押し潰されそうになる。今の真司に唯一残されたのは、のえるの亡骸に抱かれている理遠だけだ。
真司は理遠にすがるように、嗚咽を漏らす。理遠はそんな真司を包むように、優しく抱きしめる。

「理遠っ…僕は、ぼくはぁ…あぁぁぁぁ…っ」

だが理遠は何も言わない。代わりに、抱きしめる腕の強さを上げる。心地好い体温はまるで、母に包まれているかのような感覚を真司にもたらした。
真司は顔を上げ、理遠と目を合わせる。理遠はゆっくりと真司に口づけ、再び包んだ。

理遠は声を失ってしまったのだ。目の前の惨状に衝撃を受け、のえるの死を悟り、真司以外では唯一自分を好いていてくれた他者、親友を失ってしまったから。
だが理遠は、今はそれを教えまいと決めていた。目の前の愛しい人に、これ以上十字架を背負わせたくなかった。
理遠も、真司にすがりつきたい気持ちで一杯だった。しかし理遠は、真司が幼い頃に失った母の代わり…には遠く及ばないにしても、真司をただ優しく抱きしめた。



546 :少年 桐島真司の場合 7 ◆61GkODg/CI :2010/03/23(火) 17:49:46 ID:V80i+qes

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あれから、五年の歳月が流れた。

理遠は声を失ったことを伏せ、アルバムが発売された次の日に芸能界を突然引退した。日本中に衝撃が走り、最後の作品となったアルバムは伝説的な記録を作りだし、理遠もまた伝説となった。
くだんの事件は、綿密な捜査により被疑者死亡として扱われた。僕たちは聴取を受けたが、何も答えなかった。
いや、答えられなかったのだ。そして事件は謎のまま、報道されることもなく今日に至る。

僕たちは高校卒業と同時に入籍、完全な同棲を始めた。僕は卒業後は大学に進学し、理遠は僕の留守をあずかってくれている。

理遠は今はかつらをやめ、自毛を伸ばしている。最初は肩よりも少し下くらいしかなかった髪も、今は腰まできれいに伸びている。もう理遠は、"秋山"も"秋津"も演じる必要はなくなったから。

理遠は喋ることはできないが、何を言いたいかは僕には簡単にわかる。

(ねぇあなた、たまには今度二人で出かけましょう?)
「そうだな。どこか行きたいところはあるか?」
(そうね…遊園地、行きましょ?)
「ははっ…ジェットコースターは勘弁願いたいな」

理遠の笑顔は、とても幸せに満ち溢れているように見えた。
その笑顔を見てようやく僕は、安らぐことができるんだ。



548 :少年 桐島真司の場合 7 ◆BaopYMYofQ :2010/03/23(火) 17:51:30 ID:V80i+qes



すべてが、うまくいった。

最初に真司くんの家でお姉ちゃんを見た時から、今日に至るまでのビジョンはできていた。
その日のうちに歌音ちゃんに、真司くんをデートに誘うように薦め、二人がいない間にお姉ちゃんと接触。その時にお姉ちゃんが不死の身になっていたことを知り、確実にうまくいくと思った。

真司くんは優しいから、たとえ犯されたとしても私に優しくしてくれると思った。もちろん、軽蔑されるとも思っていたけど、やはり真司はそうはしなかった。
そして真司くんに、墓地で私の全てをさらけ出した時の彼の顔を見たとき、確信は深まった。

最悪、歌音ちゃんを焚き付けるだけでもよかった。本当の歌音ちゃんを知れば、真司くんは歌音ちゃんから離れると思っていたから。

私は、親友としての歌音ちゃんは愛していた。けれど、真司くんに恋をする歌音ちゃんは大嫌いだった。そして、その二つを使い分ける歌音ちゃんはもっと嫌い。
真司くんがライブのあったあの日、私を抱いてくれたのは予想していなかった。あの日は私から抱くつもりだったから。

最後は正直、自信はなかった。というより、予想よりずっと早く結末が訪れた。真司くんは歌音ちゃんから次第に距離をおき、私の元へ徐々にやってくる。それにはもっと時間をかけるつもりだった。
お姉ちゃんが私の家にいたのは偶然じゃない。お姉ちゃんは私を絶対に庇ってくれるという確信があった。歌音ちゃんはやはり私を殺しにやってきたが、お姉ちゃんは私を守ってくれた。

けれど…不死となったお姉ちゃんがまさか、死んでしまうとは万に一つも思ってなかった。

本当の筋書きは、私を殺そうとした歌音ちゃんを真司くんに目撃させ、歌音ちゃんに対し完全に見切りをつけさせる。それだけだった。けれどお姉ちゃんは死に、歌音ちゃんもお姉ちゃんに殺された。

私は、全てを裏切ってでも真司くんを取り戻すつもりだったし、覚悟もあった。なのに結末はどこまでも残酷。二人の命は私が奪ったのも同然。真司くんは五年前から今でもずっと自分を責めているけど、悪いのは私なの。
でも、それをずっと言えずにいた。私はもう、声の出し方がわからない。歌音ちゃんや真司くんが褒めてくれた歌も、もう歌えない。それに、言えば真司くんは私の傍からいなくなってしまうかもしれない…それが一番怖い。

彼が私を抱く度に、私は"ごめんなさい"と心の中で呟く。彼に抱かれている時は本当に幸せすぎて、逆に怖くなる。真司くんは結婚してから「理遠がいなければ僕はどうかしてしまいそうだ」と言ったことがある。けど、それはむしろ私のほう。

全てを裏切った私には、真司くんしかいない。
でも、予感はしてる。そうして手に入れた幸せは、けして永くは続かない、と。
だから私は、今日も彼を心に強く刻み付ける。この幸せが、明日も続きますように、と願いながら。