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170 :名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 15:52:27 ID:w//C14Cs
翌日

 日は落ちかけていた。
 教室は薄暗く、窓から聞こえていた運動部の喧騒も小さいものになっていた。
 ポケットに突っ込んだ左手が紙切れに触れる。
 今朝になって突如としてロッカーに現れた身に覚えのない手紙。
 『放課後に 多目的教室へ 来て下さい。』
 内容は以上の通り。
 手書きでなくワープロ文字で書かれていて、なにより、差出人不明だ。
 教室棟の最奥の一室。
 心当たりは皆無。
 綾を除けば女友達はいない。
 よって青春の王道イベント・恋の告白の可能性は無し。
 仮に綾だったら家か電話で言うだろうし、ヤツとはどちらかというと兄妹か姉弟って感じの関係だ。
 ならば、我が友が秘蔵の品を密に渡すために呼び出したとか?
 ・・・・そんな回りくどい友人はいねぇ。
 もしかしたら「綾に惚れた」とかいう物好きがいて、比較的近しい男(だろう)俺に協力を仰ぐべく折り入っての相談が?
 ・・・・これが一番現実的かもな。

 自問自答は続く。
 なぜなら差出人がいつまで待っても来ないからだ。
 教室を間違えたワケではない筈だ。
 「多目的教室」と言ったらココだ。
 他は「美術多目的教室」とか「総合多目的教室」と、個別の学科名がつくからだ。
 待ちぼうけ・・なんて虚しく、悲哀に満ちた響きだ・・・。

 マジで来ない・・・なんて事になったらまたトラウマか嫌悪症が出来てしまいそうだ。
 そろそろ帰るか。
 あとで差出人が来ても文句は言われないさ。
 遅れてくるヤツが悪いんだ。
 教室のドアを開け、出ようとした瞬間・・
 胴体、主に胸部へと衝撃が突き抜けた。
 「うぐぉっ・・・」
 衝突したであろう何かと肋骨に挟まれて、胸部の痛覚神経が信号を発する。
 痛みに俺の口からうめきが漏れる。
 走ってた女子生徒が頭から突っ込んできた。
 


171 :名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 15:53:04 ID:w//C14Cs
「あっ!・・す・・すすす・・すいませんっ!!」
 「・・・あぁ、今度から気をつけろよ。放課後でも人はいるからな。」
 わざわざ怒るほどでもない。単なる事故だ。
 衝突した女子生徒はちゃんと謝罪してるから良しとする。
 軽く注意したし、さっさと帰ろう。
 「あ・・あのっ!向坂さん!」
 「ん?なんで俺の名前を?」
 話したことも無く、ましてや会った記憶すら無い女子生徒。
 「て・・手紙は読んで・・くれましたか?」
 「手紙?・・あぁ」
 合点がいった。今朝の手紙の差出人はこの女子生徒で、手紙を出す以上は相手の名前を知っているって事だな。
 「・・・・で、用件は何?」
 ストレートに切り出してみた。
 まさか決闘の果たし状ってことはないだろう。
 「・・・え・・と・・ええ・・うぅ・・・その・・・・・」
 よほど言い出しにくいのか。
 
 もしかしたら我が友の八島(ヤツシマ)との仲を取り持って欲しいとか?
 確かにヤツはイヤミにならない才色兼備という完璧超人だったな。
 だけど最近はヤツも疲れが表面化してるからなぁ。
 少し平穏を持ってやりたいトコだが・・・
 しかし、ここでこっちから話しかけたら追い討ちになって話せなくなりそうだ。
 ここは沈黙を通そうじゃないか。
 そして女子生徒がしどろもどろに、
 「ええ・・と・・す・・好き・・で・・・好きです!・・つ・・付き合ってください!」
 少しばかりの予感もあったが本当に驚いた。
 マジかよ。
 
 落ち着きを取り戻すべく深呼吸。
 日没前の涼しい空気が絶賛炎上中の体細胞を冷ます。
 理性が戦線復帰し、感覚器官が正常化した。
 女子生徒の姿を見る。
 顔は立派に美少女の部類。
 体型は細身。出るとこは出てる体型だ。綾とは大違いだな。
 肩まで伸びた黒髪が印象的で、きっと周囲の男子からもそれなりの人気を持つだろう。
 女子生徒の瞳には期待と怯えが入り混じっている。
 さぁ、返答はいかに?
 「・・・・えっと、さっきのは交際をするという意味の告白と思っていいんだよな?」
 確認。あぁ確認だってするさ。
 チキン野郎とでも何とでも言うがいい。
 もしドッキリだったら今度は人間不信になってしまう。
 俺は心が弱いんだよ。
 「はい!」
 確認はとれた。
 「付き合う分には文句は無いってか大歓迎だ。・・・だけど全く知らない相手と付き合うってのは・・」
 「すっ・・すみません!私、川上咲良(カワカミ サクラ)といいます!」
 女子生徒改め川上はすごく動揺していた。
 「え・・と、君の事は名前以外何も知らない。そんな男でもいいのか?」
 「はい!・・私の方が一方的に知ってるだけです。・・中学校の頃から・・好きでした。」
 ・・中学から!?ヤバイ。俺全く川上のこと知らねぇ。
 


172 :名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 15:53:33 ID:w//C14Cs
なんて返したらいいんだろうか。
 付き合ってから始まる恋愛もあるはずだ。
 据え膳は関係無いが、コレを断る理由は無い。
 つまり、YESなのだが、
 なにしろ生まれて初めてのイベント。
 気恥ずかし過ぎてなんと言ったらいいかわからない。
 とりあえず当たり障り無く・・
 「え・・えぇ・・と・・よろしくお願いします。」
 うわぁ・・男らしさのカケラも無いな。
 「え・・あ・・こちらこそ・・よろしくお願いします。」
 緊張ガチガチな俺に対して川上は喜色満面。
 
 帰りは川上を送ってやり、意外と家が近いことを知った。
 今日は珍しく綾の姿を見なかった。




173 :名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 15:54:54 ID:w//C14Cs
放課後  教室棟の向かい側 特別教科棟

 電波環境は良好。
 ペンを握る手に力がこもる。樹脂製のボディがミシミシと軋む音をたてている。
 今朝、修二の鞄に仕込んだ盗聴器が周囲の会話を拾う。
 イヤホン越しに聞こえる声は修二だ。
 あんまり遅いから盗聴してやる。
 隠し事なんてできないんだよ?
 窓を見やると向い側の教室から修二がでてきた。
 いったい何してたんだろう?
 会話が無かったから一人だったんだろう。
 すると一人の女子が向こうの廊下を駆け抜け、教室から出た修二に衝突した。
 イヤホンを通してノイズ混じりの修二のうめき声が聞こえる。
 ・・事故とはいえ修二にぶつかるなんて、うらやm・・・許さないよ?
 周りの見えてない愚鈍な雌ネコには制裁があるんだからね。
 『あ・・あのっ!向坂さん!』
 雌ネコの分際で修二の名前を呼ぶなんて・・・苗字だから許すけど名前で呼んだら殺してやる。 
 『て・・手紙は読んで・・くれましたか?』
 手紙?・・・今朝は盗聴器仕掛けるのにいっぱいでそこまで手がつかなかった!
 後悔と怒りが湧き上がる。
 手の中で軋み続けているペンに更なる負荷がかかり、ビキビキと本格的にヒビが入る。
 『ええ・・と・・す・・好き・・で・・・好きです!・・つ・・付き合ってください!』
 
 ミシ・・・バキャッ!

 ついにペンが折れた。
 ここまで言われても気づけない修二も修二だけど、なにより許せないのは雌ネコだ。
 殺してやる・・・刺して抉って貫いて・・擦って潰して日本海に撒いてやる。
 



174 :名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 15:55:25 ID:w//C14Cs
『え・・えぇ・・と・・よろしくお願いします。』
 修二!?
 『え・・あ・・こちらこそ・・よろしくお願いします。』
 え?何で?嘘だよね?・・・修二?・・アハハハハ・・きっと盗聴器に気づいてたんだ。
 ・・だからこんな事言って困らせようとしてるんだよね?
 ・・・修二って子供の頃から時々意地悪だったもんね。
 ・・・・盗聴器の仕返しか何かだよね?
 ・・・・・雌ネコなんかの告白を受けるのも打ち合わせなんだよね?
 ・・・・・・嘘だよね?アハハ・・修二も人が悪いよ・・・
 ・・・嘘だ・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だウソだウソだウソだ・・・
 「修・・二ぃ・・・・ぅぅっ・・ぅうぅぅ・・うあああああああああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁああぁぁAAAAAAAAAああぁぁぁああああぁぁ!!!」

 どれくらい経っただろうか。
 周りは既に暗く、学校の怪談な雰囲気をかもし出している。
 校内に居るのは宿直の教員くらいだろう。
 修二は雌ネコと帰っただろう。
 修二の隣に私は居ない。代わりに雌ネコが居る。
 悪いネコに取られないように頑張ったのに。
 アハハ・・取られちゃったねぇ・・・
 
 ゴッ・・・ガッ・・・ゴンッ・・・
 
 怒りのままに空っぽの机を殴る。
 何度も何度も。
 鈍い音が反響して夜の教室の空気を激しく震わす。
 「何でっ!何でっ!何でっ!!・・振り向いてくれないっ!!横取りされたっ!!隣に居たのは私だけなのにっ!!何でっ!どうしてっ!!」
 息を荒げ、机の振動が教室中に余韻を残す。
 荒い呼吸を繰り返し静まる。 
 そうだよ・・・雌ネコを消せばいいんだ・・。
 そしたら・・修二も振り向いてくれる。
 今までに戻るよ・・・。
 修二は恥ずかしがりだもんね・・・。
 草食系ってヤツだもんね・・・・。
 だから悪い雌ネコやハイエナから守ってあげないとダメなんだよ。
 だから修二に手を出したネコは・・・消さないと・・ね。