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185 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 01:56:55 ID:ReNKNHut
「ゴールドもおっぱい大きいほうが好きです?」
「突然何をっ!?」
 槐市に向かう道中。
 少し休憩していると、ポポが突然そんな爆弾発言をした。
「だってゴールド……前のジムで、相手の胸ばかり……」
「そ、そそそそそそんなことはないよ! 何を言うんだポポ!」
 慌てる僕の横で、なぜかやどりさんが自慢げに胸を張っていた。
 いや、着ぐるみのせいで体のラインなんてさっぱり分かりません。
 なんて言ったらいいか分からず、僕は苦笑いを浮かべるばかりだ。

 てなわけで、僕達は槐市にやってきた。
 香草さんが帰ってくるまで古賀根市に留まりたかったけど、槐市でロケット団の目撃証言があったのだ。
 だから僕は古賀根市のポケモンセンターで、受付のお姉さんに頼んで香草さんへの言伝を残し、槐市を目指した。
 香草さんがいないことに対する道中の不安は無くはなかったんだけど、その不安はすぐに掻き消えた。
 ポポとやどりさんの相性の良さは香草さんとのそれをはるかに上回っていたのだ。
 ポポが空から敵の座標を捕捉すると、やどりさんはそこに念力や金縛りを使い、相手に気取られることなく、迅速に敵を行動不能にした。
 まさに無敵。ポポの視界が届く範囲、やどりさんの念動力が届く範囲は完全に彼女達の領域だった。
 これなら、シルバー戦だって、ランを傷つけず、シルバーを身動きが取れなくすることだって簡単だ。
 シルバー、次に会うときがお前の最期だ。
 僕は心の中でそう呟いた。
 それと、道中でポポが進化した。
 空を飛んでいたら突然体が光だし、フラフラと落ちてきて……と最初の進化とほぼ同じ光景だった。
 進化したと言っても、髪が伸びたことと翼が大きくなったことくらいしか大きな違いは無いように思えた。
 そのことをポポに言ったら、
「それならゴールド、試してみるです?」
 といたずらっぽく笑いながら言われたので、試しにどれだけ高く飛べるか見せてもらった。
 速度、高度共にかなりのもので、やどりさんも、あそこまでは念力が届かないと感心したほどだ。
 また、力も強くなったようで、道具を使えば僕達を空を飛んで運ぶことができそうだ。
 こうなることを見越して、古賀根デバートで固定ベルトを買っておいたのは正解だったな。
 普段は使わないけど、飛んで移動する必要があるときや速く移動したい時に役に立つだろう。
 問題はポポと大分密着する形になってしまうということだけど。
 ともかく、これでポポは最終進化。実に頼もしい。


186 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 01:57:40 ID:ReNKNHut

 そして槐市。
 槐市は古くはこの国の首都でもあった場所であり、現在も古都として風光明媚な景観を守っている。
 一方、かつては数多の謀略が渦巻き、幾度となく戦乱の舞台にもなったこともあり、魑魅魍魎が渦巻く魔都として語られることもある地だ。
 尤も、シルフカンパニーがシルフスコープを開発し、『ゴースト』という種類のポケモンが研究、一般化されたことによって幽霊の正体が暴かれ、魔都としての色は薄れつつある。
 そうは言ってもこれだけの古い寺社仏閣に囲まれると、なんとなく厳かな気持ちにさせられる。

 ポケモンセンターに宿を取った僕達は、早々に警察署へ行き、ロケット団の情報を聞くことにした。
 僕はトレーナーだから、今後の旅の進路に危険がないようにロケット団の動向を聞きたいといえば、目撃情報くらいならすんなり教えてくれると踏んだのだ。
 この予想は果たして正解だった。
 行く先の安全のためとあれば、教えないわけにも行かないらしい。
 ロケット団という理不尽な理由で旅が終わってしまえば、ロケット団による犯罪の防止率が思わしくない自分達の体面が立たないというのもあるのだろう。
 巡査さんのくれぐれも目撃のあった場所には近付かないように、決して変な好奇心なんかを起こすんじゃないという言葉に、僕はもっともらしい顔をして応対した。
 どうも目撃されたのは槐市の東の外れ、槐市というより隣の丁子町に近いところらしい。
 本来の順路では丁子町より先に浅葱市に行くべきだから、丁子町に入る前に捕捉したい。
 仮に丁子町に入られてしまった場合、順路をはずれるだけでなく、確か丁子町の手前にはチェックポイントの役割を果たしている通行所があったから、ここを何とか潜り抜ける方法も考えなきゃならなくなる。
 とにかく色々と面倒になる。
 というわけで、とりあえず丁子町のほうに向かうことにした。
 ポケモンジムは後回しでも問題ないだろう。
 僕は数日振りにおいしい食事、暖かいお風呂と柔らかいベッドにありつけてご満悦だ。
 道中は警戒のためだのなんだの理屈をつけられて息がかかる距離で三人一緒に寝ることになってしまったが、今日はきつく言ったので久々に一人でベッドを使える。
 僕は先行きの不安に悩まされながらも、ベッドのお陰ですぐに眠りに着くことが出来た。

「おはよう……ってなんで二人ともボロボロなの?」
 翌朝目を覚ました僕の目に飛び込んできたのは、妙に散らかった部屋と、着衣が乱れたポポときぐるみが解れ、中から綿が覗いているやどりさんだった。
 二人とも長い髪がぼさぼさなのは寝起きのせいだけじゃない気がする。
「お、おはようです!」
 慌てた様子でポポが答える。
 一方のやどりさんは無言で目を閉じ、唇を突き出している。
「……何?」
「おはようの……ちゅー」
 やどりさんがそう答えた瞬間、ポポの翼が強かにやどりさんの後頭部を打った。
「いきなり何言ってるです! まったく、油断も隙もないです」
 険悪な様子で二人はにらみ合う。まったく、どうして二人共こう……まともじゃないんだ。
「はいはい、騒ぎを起こさないって約束しただろ? 丁子町は遠いんだから、早く出発の準備して」
 二人を諌め、僕も自分の準備をする。
 二人は途端におとなしくなり、いそいそと自分達のベッドに戻った。
 やはり彼女達をこの計画に引き入れたのは正解だった。
 以前のままじゃ、どの道事件を起こして警察のご厄介になるのは目に見えていた。
 仕度を終え、一緒に朝食をとった僕達は(現在ポポの食事の世話はやどりさんがしている。念動力のお陰で食事をしながら並行してポポに食べさせることが出来る。ポポは激しく不服そうだけど、僕は見ない振りをした)、早速丁子町目指して出発した。
 しばらくすると市街地を抜け、街道にでる。
 点在する寺社を横目に、一心不乱に歩き続け、そして野宿。
 翌日もまた歩き続け、昼頃にようやく通行所の辺りに着いた。
 そこで僕は驚愕することになる。
「ゴールド、煙が見えるです」
 初めに気づいたのはポポだった。
 空を飛んで哨戒に当たってもらっていたんだけど、どうも行く手に煙が上がってるらしい。
 僕にはさっぱり見えないんだけど、前例もあるし、多分ポポの言うことは事実なんだろう。
 怪訝に思いながらも進んでいくと、再びポポが声を上げた。
「ゴールド、燃えてる、燃えてるです!」
「燃えてるってなにがさ?」
「通行所です!」
 な、なんだって!


187 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 01:58:43 ID:ReNKNHut
「ポポ、本当なのか!?」
「間違いないです!」
 通行所が燃えてるなんてただ事じゃない。
 特に、近くでロケット団の目撃情報があったばかりの今は。
「ポポ、僕を抱いてくれ! やどりさんも飛んで欲しい」
 僕は鞄から飛行用のベルトを取り出しながら指示を出す。
 自分で走るよりポポに掴んでもらって飛んだほうが遥かに速い。それに、やどりさんも走るより念動力で飛んでもらったほうが速い。
 本当は無駄に体力を浪費するべきじゃないんだろうけど、一刻も早く通行所に駆けつけたかった。
「だ、抱いてなんて、ポポ恥ずかしいです」
「……ゴールド、そんなことは許さない」
 この子達はどうしてそうお約束のボケをするかな。
 僕も言葉が足りなかったかもしれないけど、器具を取り出したんだから分かるだろ。
 二人と漫才している暇が無かったので、手早く器具を組み立て、ポポと僕を固定する。
 こうやって密着すると、ポポの胸が僕の背中に当たる。
 見ても分からないくらい慎ましやかなんだけど、こうやって見ると確かにあるんだなあ。
 そんな邪念が頭をよぎる。
 というか、この背中に当たる二つの突起はもしかして……
「やっとゴールドと繋がれたです……。ポポ、幸せです」
「……殺す。後で絶対殺す」
「ああもう、ポポはちょっと黙って! やどりさんも、早く補助お願い!」
 二人のお陰で邪心は見事に吹き飛んだ。
 どう考えても楽しめる状況じゃない。
 体勢の制約上、ポポ一人で飛び上がるのは難しい。そのため、やどりさんの念動力によって離陸の補助をしてもらう。
 やどりさんはブツブツいいがならも、僕達を宙に上げてくれた。
 すぐにポポは自分の翼で力強く羽ばたく。
 やどりさんも浮かんできたのを確認すると、ポポに進んでもらった。もちろん、やどりさんの速さにあわせてもらって。
「ああ、ポポ、ゴールドと一つになってるですよ。すごく気持ちいいです」
 うん、気持ちいいね、風が。
「……殺す。後で絶対殺す。焼き鳥にして殺す」
 一方やどりさんは呪詛のように殺す殺す呟き続けてる。
「にしても、本当にやどりはのろまです。わざわざゆっくり飛ばなきゃいけないなんておかしいです」
「……殺す。後で必ず殺す。その手羽もいで殺す」
 背中に暖かくて柔らかいものが当たってるはずなのに、背筋に悪寒が走るのは、風を切って進んでるからなだけで無いことは確かだ。
 もしかして煙云々っていうのも、僕と抱きつきたいがためだけの狂言なんじゃないか。
 そんな疑惑が胸に浮かんだ。
 しかし、しばらく飛んでると、僕の目にも、地平線の向こうに煙が見えてきた。
 狂言ならそれはそれでよかったんだけど、どうやら本当に何かあったらしい。
「ポポ、通行所の状況はどんな感じ? 建物は見える?」
「建物なんて無いです。黒こげになって崩れてるです!」
 ポポの報告は、僕の予想より遥かに深刻な状況を伝えるものだった。
 もちろん、何の事件性も無い火事かもしれない。
 しかしそんな希望は、ポポの次の言葉によって打ち砕かれる。
「赤い……赤い髪の人間が火を噴いてるです! 人も燃やされてるです!」
 赤い髪。火。
 まさか、そんなまさか。


188 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 01:59:49 ID:ReNKNHut
「……ポポ、その赤い髪の人間の近くに、もう一人赤い髪をした人間がいないか?」
 僕は震える声で、何とかそれだけ聞いた。
 赤い髪なんて炎ポケモンじゃ珍しくも無い。
 だから、まだそれがランだと決まったわけじゃない。
 シルバーと共にいる以上、命じれられてそういう行為に手を染めていても不思議は無い。
 でも、僕はランが人殺しの道具にされているなんて、信じたくなかった。
「……よく分からないです。帽子……みたいなのを被ってる人が多いです」
 帽子……そういえば、前に見たときもシルバーはフードを被っていたな。
 それに、ロケット団もRと書かれていた黒い帽子を被っていたような……
「もしかしてその帽子を被ってる奴らは、赤字でRが書かれた黒い服を着てない?」
「あーる、です?」
 そうか、ポポにRっていっても分かんないよな。
「うーん、なんか文字が書いてある?」
「赤で何か書かれた黒い服を着てるです!」
 やっぱり、ロケット団が関わっているのか。
 当然といえば当然だけど、衝撃といえば衝撃だ。
 僕は軽く身構える。
「で、でも、燃やされてるの、その人達ですよ!?」
「えっ!?」
 そんな馬鹿な。
 その黒い服の人達はロケット団の団員なはずだ。
 それが燃やされてるって。
 通行所を燃やしたのと、ロケット団員を燃やしてるのは違う人なのか?
 ロケット団に焼き討ちにあった通行所の人間が応戦しているってことか?
 事態がさっぱり把握できない。
 通行所ではいったい何が起こってるんだ?
 ポポがランやシルバーを見たことが無いのが悔やまれる。
 どんどん近付いていくにつれ、ようやく僕の目にも、通行所の成れの果てと思われる黒い塊が見えてきた。
 その塊はドンドン大きくなり、全景が少しずつ見えてくる。
 焼け落ちた通行所を背に、追い詰められているロケット団の集団。
 地面に転がった、血を流して倒れているロケット団員と、黒い塊。
 そして……
「シルバー!」
 やはりというか、驚くべきというか、そこにはシルバーがいた。
 ポポの羽ばたく音で気づいたのだろう、向こうもこちらを見ている。
 僕達は見る見る彼らに近付き、そして……あっという間に通り過ぎた。
「ってええええええ!?」
 僕の声に驚いたのか、ポポがビクリと震えた。
「ど、どうしたですっ!?」
「な、なんで通り過ぎてんのさ!!」
「ええっ!? 通り過ぎちゃいけなかったですか!?」
「いけないに決まってるだろ! 何しに僕達は急いで飛んできたのさ!」
 少なくとも、全力でスルーするためじゃないはずだ。
 ポポは急減速し、止まる。
 やどりさんもそれにあわせて止まった。
「二人とも、疲労はない?」
 これからほぼ確実にシルバーとの戦闘だ。
 疲れがあって勝てるような相手じゃない。
「大丈夫です!」
「……むしろ力は有り余っている」
 やどりさんの言葉に恐怖を感じなくも無いけど、戦うには問題なさそうだ。
 当然、ポポは僕と繋がったままでは戦えないから、地面まで降りてもらって金具を外す。
 ポポは思いっきり不服そうだけど、今はそんなのに構ってる場合ではない。
 器具を外すと、急いで通行所の残骸まで寄る。
 通行所はほぼ完全に崩れ落ち、未だに濛々と黒い煙が上がっている。
 元々重厚なつくりではないとはいえ、ここまで酷い有様を見せられると驚かざるをえない。
 近寄ると、明らかに熱気を感じる。


189 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 02:00:45 ID:ReNKNHut
「やどりさん」
「……了解」
 僕が何も言わないうちに、やどりさんは僕の意を察してくれたようだ。
 触れてもいないのに瓦礫が動き出し、僕達の前に道が出来る。
 同時に、熱を下げるために水をまく。
 水は一瞬のうちに蒸発し、眼前は蒸気に包まれる。
 瓦礫を割り、白煙の中から現れるなんて随分と凝った登場シーンだ。
 そんな場違いなことが思考の端をよぎる。
 当然、向こうもこちらのことを把握してるのだろう、最後の瓦礫の壁の前で、僕は唾を飲んだ。
 しかしやどりさんはまったくためらい無く、最後の瓦礫を打ち砕いた。
 瞬間、瓦礫の向こうから火炎が飛来する。
 それを予期していたのだろう、やどりさんは瞬時に念動力で僕達を火炎から避けた。……ただしポポを除く。
 ポポは持ち前の身体能力で飛び上がり、かろうじて回避する。
「やどりぃぃぃぃぃ!!」
 ポポの怒声が降ってきた。
「あれ、いた……の?」
 それを受けるやどりさんは不敵な笑みを浮かべている。
 なるほど、焼き鳥。宣言どおりか。
 そんなことを思ったことはおくびにも出さず、二人を叱る。
「二人とも、仲間割れなんかしてる場合じゃないだろ!」
 そう言っている間にも次々と火炎は飛来する。
 瓦礫に阻まれるとはいえ、その向こうからでも十分な熱気が伝わってくる。
 やどりさんが噴きかけた水が一瞬で蒸発していく。
 ポポは一応回避は出来ているものの、言葉を発する余裕すらない。しかも遠めで見ても、近くを通る炎の熱気で表面が焦がされているのが分かる。
「やどりさん、とりあえずポポをここまで引き寄せてくれ。ちゃんと炎は避けるように」
「私だけでも……」
「いいから!」
「……はい」
 ポポがこちらに近寄ったときを狙って、一気にポポを引き寄せた。
 ポポは息も絶え絶えで僕達のところに落ちてくる。
 そのままやどりさんに飛びかかろうとするポポを抑えて、尋ねる。
「ポポ、ランはどの辺りにいた?」
 壁のせいでこちらからでは相手の位置は分からない。しかし炎を避けるために、今は壁を壊すわけにはいかなかった。
「あの辺り、です」
 ポポは翼で壁の向こうを指す。
「やどりさん、瓦礫を使ってポポの指したほうを攻撃してくれ」
 僕達の周りの瓦礫が次々を浮き、左右に避けて壁の向こうを攻撃する。
 壁から伝わる熱がわずかに弱まった。
「このまま壁を破って攻撃!」
 僕の命を受けると同時に、やどりさんは壁をそのまま向こうに飛ばした。
 それを回避するランが見えた。
 久々に見たランは少し姿が変わっていた。彼女も進化したのだろうか。
「ラン!」
 僕は叫ぶが、彼女はそれをまったく意に介さず、こちら目掛けて火炎放射を行った。
 僕が何も言わないうちに、やどりさんはそれを水を操って相殺する。
 両者の衝突点から激しく水蒸気が立ち上る。
 壁がなくなったことで、槐市側の通行所の様子が詳しく見える。
 あたりには通行所や木々の残骸だと思われる燃えカスや、現在もまだ燃えているものが散乱し、地面は所々煤で黒く彩られている。
 血を流した人間や、人だったものと思われる黒い塊がいくつもも倒れていた。
 通行所の傍は特に酷い。
 炭化した人間が山済みになっていた。
 来るときに通行所を背に追い詰められていたロケット団員達が見えた。
 そして先ほどまで容赦の無い火炎放射が降り注いでいたということは、彼らごと僕達に攻撃を行ったことを証明している。
 今までかいだことの無い嫌な臭いと、今まで聞いたことも無いような阿鼻叫喚で満ち満ちている。
 酷い有様だった。
 そんな地獄絵図の中に、シルバーは泰然と佇んでいた。


190 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 02:01:24 ID:ReNKNHut
 僕はすぐにナイフに手をかける。
「二人とも、しばらくランを抑えてて欲しい。倒してもいいけど、殺さないように」
 それだけ命令すると、僕はシルバーを睨みつけた。
 シルバーは不敵な笑みを浮かべ、僕を見る。
「また会ったな、ゴールド」
「ああ、シルバー」
「どうやらお前はよほど死にたいと見える」
「違うよ。僕は死にたいんじゃなく、殺したいんだ、お前を!」
 そう言うと同時に、僕はナイフを放った。
 シルバーはそれを手に持ったナイフで弾いた。
 しかしこれはただの牽制。僕はすぐにリュックからナイフを取り出し、カバーを外した。
「どうしてこんなことをしたんだ!?」
 僕はそういいながら、シルバーとの距離をつめる。
「こんなこと? こんなことって何だ」
 シルバーはそういいつつ、二本のナイフを抜き、放った。
 狙いは僕ではない。
 突然の事態に対応できず、棒立ちとなっているロケット団員の生き残りだ。
 短い悲鳴をあげ、二人のロケット団員が地に伏した。
「シルバー!!」
 僕はナイフをしっかりと握り、シルバーに襲い掛かる。
「俺は昔言ったよなあ? 弱い奴は生きてる価値が無いんだと」
 彼はナイフで僕のナイフをいなし、そのまま僕に切りかかる。
 僕は何とかそれを交わし、数歩距離をとった。
 黒く焼かれ、地面に転がっている何人ものロケット団員が視界に入る。
 憎いはずのロケット団員が、何故だか哀れに見えた。
「……お前は狂っている」
「俺は狂ってなんかいない。狂っているのは……」
 そう言いかけたところでシルバーは飛んできた瓦礫に倒された。
 視線を向けると、彼女達はランに対して有利に戦いを進めているようだった。
 さすがに二対一.ランといえど二人を相手にするのは厳しいと見える。
「シルバー!」
 ランが叫ぶのが聞こえた。
 ランが負けなくても、二人を完全に抑えなくてはその分シルバーが狙われることとなる。
 シルバーはいまや彼女の弱点となっていた。
 ここぞとばかりに、僕はよろめくシルバーに切りかかる。
 しかしシルバーも然る者で、強撃を受けたばかりにもかかわらず、わずかに斬られるだけで僕の攻撃から逃れた。
 ランと合流しようとするが、それをやどりさんが念力で抑えた。
 それに気をとられたランを、ポポが強襲しようとする。

 勝った。

 そう思った次の瞬間、ランの体は白い炎に包まれた。
 体に火を纏ったくらいではポポの攻撃を止めることはできないはずだ。
 それなのに、僕は恐怖を覚えた。
 ポポ、攻撃を中止してくれ!
 しかし僕の思いはポポには届かず、ポポはそのままランを翼で弾き飛ばす。
 悲鳴が響き渡った。
「ポポ!?」
 ランに一瞬ぶつかっただけのはずのポポが地面に落ち、悲鳴を上げて地面をのた打ち回っている。
 地面に倒され、むくりと立ち上がるランの立つ周囲の地面は、熱によって泡立っていた。
 彼女の纏っている、おそらくは耐火性の高いはずの服が見る見るうちに焼け落ち、消えていく。
 彼女はポポには目もくれず、生まれたままの姿でシルバーの下に駆け寄る。
 やどりさんは水鉄砲を放つが、それはもはやランに届く前に蒸発して消えた。
 ランはやどりさんのほうを向き、揺らめいた。


191 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 02:01:51 ID:ReNKNHut
 いや、揺らめいたんじゃない。熱によって揺らめいて見えたんだ。
 迫り来る熱の波を見た僕は、すぐに顔を覆って地面に伏した。
 やどりさんの悲鳴が聞こえ、次いで熱波が到来した。
 これだけ離れているのに、全身が電熱線で焼かれたかのような熱を感じている。
「やどりさん!」
 顔を上げた僕の目に映るのは、きぐるみから煙を噴き上げ、膝から崩れ落ちるやどりさんの姿だった。
 ランの体を包む炎はすでに消えていた。
 彼女を中心に地面は黒ずみ、熱波を浴びた木々は発火を通り越して炭化していた。
 僕達と同様に、熱風をもろに受けたロケット団員の何人かが悲鳴を上げながら地面をのた打ち回っている。
 まるで焼夷弾でも落とされたようだ。
 そんな地獄絵図と化した辺りを一望すると、ランは満足げに微笑んだ。
「やりすぎだ、ラン」
 いつの間にか伏していたシルバーは平然と立ち上がり、ランに近付く。
 シルバーは耐火服を身にまとっている上、僕に次いでランと離れていた。ダメージはほとんどないだろう。
 戦闘不能のポポとやどりさん、満身創痍な僕に対して、まだまだ余力のありそうなランと、しばらくは動けるだろうシルバー。
 形勢は一気に逆転した。
「ごめんなさい、マスター」
 寄り添うように近付いてきたランに、シルバーは上着を脱いでかけてやった。
「ら、ラン……」
 手を伸ばす僕に、ランから思いもよらない言葉がかけられた。
「……なんだ、まだ生きてたの?」
 そう言い放ったランには少しもオドオドとした様子はない。
 極めて落ち着き払っていた。
「ラン、もういいだろ」
「いいえマスター。マスターを傷つけたアイツをこのまま放っておくわけにはいきません」
 ランはそういいながら、愛おしそうにシルバーの傷口をツ、となぞる。
 顔をしかめるシルバーをみて、ランは実に幸福そうだった。
 そんな様子を見てられなくて、僕は叫ぶ。
「ラン! 君はシルバーに洗脳されてるだけなんだ! 正気に戻ってくれ!」
 が、それに対する二人の反応は思いもよらないものだった。
 なぜか二人ともキョトンとしている。まるで僕がおかしなことでも言ったかのように。
 しかし、すぐに堪えきれないといった様子でランが笑い出した。
「……っあっはははは! ゴールド、アンタどこまでめでたいのよ! 私がマスターに従っているのは私が洗脳されているからだとでも思ったわけ?」
 ランがこんな風に笑ったことがあっただろうか。
「え、だって……」
「そんなわけないでしょ! 私がマスターと一緒にいるのは、私がマスターを愛しているからよ!」
「な、なにを……」
「ラン、もう黙れ」
「だ、だってその男は、君の父親を殺したんだぞ! 君の人生を台無しに……」
「何を勘違いしてるのよ。パパを殺したのは、マスターじゃなくて私よ」
「……えっ?」
 意味が分からない。シルバーは顔をしかめていた。
「ラン……」
「そんなわけない! ぼ、僕は見たんだ! 僕だけじゃない、みんな見たんだ! シルバーが君の父親を刺した後、君にナイフを突きつけて人質にしたのを!」
「ああそう、皆そう思ってたんだ。どうりで、何時までたっても私が指名手配されないわけだわ」
「ラン、もうやめろ」
「皆勘違いしてるの。パパを殺したのも、その後私を人質にとったように見せかけてシルバーを逃がしたのも、全部わ、た、し」
「ラン!」
 鈍器で思いっきり殴られたような衝撃を頭に感じた。
 視界に行く筋かの細かい閃光が走る。
 誰かが照明を弱めたように、急に視界が暗くなった。
 信じられない。そんな訳が……
 僕はもう言葉を作ることができなかった。
 燃える、崩れた家を背景に、倒れたランの父親と、ランにナイフを持った腕を向けるシルバーと、その腕を必死で掴むラン。
 あの時の光景が鮮明に眼前に蘇る。
 確かに、直前の爆発のせいで、誰もランの父親が刺されたところを見ていない。
 だって、だれが考える? この土壇場で実の娘が父親を刺すなんて。
 ロケット団の幹部の息子を庇って人質の振りをするなんて。


192 :ぽけもん 黒  21話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/04/18(日) 02:02:17 ID:ReNKNHut
 僕が見た、つまり皆が見たのはランにナイフを突きつけるシルバーじゃなく、腕ごとナイフを自分に手繰り寄せようとするランを必死に止めようとするシルバーだった?
 そんな、そんなことがあるはずがない。
 だって、それじゃおかしい。
 もしそうなら、全てがひっくり返ってしまう。
 シルバーは本当は何も悪くなかった?
 悪いのはランだった?
 そんなこと、あるはずが無い。
 そんなこと、考えられるはずも無い。

 ランは一歩、僕のほうに歩を進めた。
「ラン、何を」
「殺さなきゃ、アイツ。シルバーを傷つけたんだもの。生かしてはおけないわ」
 一歩、また一歩とランは僕に近寄ってくる。
 ランはそこに絶望的な一言を付け加える。
「パパと同じよ」
 彼女はこともなげに言う。
「君の父親がシルバーに何をした?」
 自分の口からでた声は、まるで自分のものとは思えないくらい掠れていた。
「家に火をつけたの、あれ、パパよ」
「……そんな!」
「ちゃんと考えなさいよ。パパは炎ポケモンよ、炎ポケモン相手に誰が火で対抗しようと思うのよ。ましてマスターだもの、そんな愚行を犯すはずがないでしょ」
「ラン、やめろ、命令だ」
 険しい表情を浮かべるシルバーに、ランは寂しげに微笑んで答える。
「ごめんなさいマスター。でもずっと分かってたの。マスターはまだアイツに未練があるってことに。三人で楽しくすごしたあの頃を忘れられないってことを。でも、ダメよマスター」
「何がいけないんだ。それのどこが駄目なんだ!」
「だってマスター、それじゃ私だけを見てくれることにならないもの」
 いつの間にか、ランは僕の目の前に立っていた。
 僕を見下ろすランの目はどこまでも無慈悲で。
 その瞳の冷たさが、どんな言葉より何より彼女の告白が真実であることを物語っていた。
「ラン、それは嘘だ。君はシルバーにそう信じ込まされているだけなんだ……」
「バイバイ、ゴールド。天国で私とマスターの幸せを願っててね」
 うわ言を言う僕の頭部に、ランは笑顔で爪を振り下ろした。
 絶叫。