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249 :第一話 「目覚め」 1/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:36:22 ID:mjRXjmEu

何度、この窓からこの景色を見ているのだろうか。

確かに素晴らしい眺めだし、少しずつ変化もある。
季節や時間で徐々に景色は移ろっていくし、
その中でここからではとても小さくゆっくりと動く
遠くの車、人、小舟などが見える。
この窓からの眺めは好きだ。
好きではあるのだが――

もう、とうの昔に見飽きてしまっている。
毎日これを見ているのだ。

でも他に時間を潰し、気を紛らわせるいい方法が無い。
時間があるなら本当は勉強などもした方が良いのかもしれない。
でも、やる気など起きるはずもない。
やりがいがない。
どうせ無駄になるのだから。

だから結局、窓の外を眺める。
特別な喜びなど何もないが、
それでもこの空だけは常に自分の傍に居てくれるから。
ほんのささやかだが確かに慰めてくれるから。

でも、本当は――

「――っ。」

そうしているうちにふと、気付いた。
何時しか身体の中を徐々に満たし始めた悪寒に。

まただ。
また、アレがやってくる。
寒くて、熱くて、息が出来なくて、押しつぶされる、あの地獄が。
生きている筈なのに死者しか行けない地獄の底に、
しかも永遠にも思える永い時の流れるあの場所に、
さらには悪夢と違い生きた感覚を残したまま無慈悲に沈められ続ける。

今まで何度、何十、何百と、数え切れない繰り返しを耐えきってきた。
そのために今日も薬を飲んでいる。
でも、それはこの体を治してくれる訳じゃない。

命を繋ぎ、ようやく地獄の底から這い上がれた後に待っているのは、
また次に地獄が訪れるのを待つだけの時間だ。
治療はただ今を、苦しみを維持するだけだ。
時間は苦しみだけを届け、そこに未来はどこにも無い。

それでも耐えられたのは、一縷の望みがあったから。
一人で沈められ、絶望の中で永い時を過ごす内、
芽生えていったその願い。
治らなくてもいいし、助からなくてもいい。
だから――

でも、そんな都合の良いことあるわけがない。

この命はただ永遠に死に続けるためだけにある。
治る事も無いだろう。
そしてせめてもの望みも叶う筈もない。
それならもう、いっそのこと――



250 :第一話 「目覚め」 2/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:39:33 ID:mjRXjmEu



     *      *      *      *     *



深夜に程近い時刻、中橋駅周辺。
駅前にはこの時間にはとっくに閉店している幾つかの大きな百貨店があり、
さらに五階建て前後の様々なテナントの入った商業ビルが立ち並ぶ繁華街が
駅周辺の大通り200m圏内に渡って続いている。
まだこの時間でも駅からは通勤帰りの人間が吐き出されていき、
それらの客を目当てに居酒屋、飲食店、カラオケ、
ビルに掛かった様々な店舗の看板はネオンを放ち続ける。
街には光と活気があった。

だがその中心から少し離れただけでも、人気の消える場所はある。
ここ、手旛経済大学と鉄道線路の間もそのひとつだった。
この大学は繁華街と線路を隔てた隣の立地に、
それなりに広い敷地を持っているのだが、
その一辺がちょうど4本のレールの敷かれた広い線路に面しているのだ。
夜間に大学に出入りするものもほとんどいなければ、
まさか線路に用事があって来る者がいるはずもない。
道の両側とも人の訪れる要素は皆無だった。
そのため大通りと大通りに挟まれていながら、
人通り、車通りの欠けた、まばらな街灯だけがある暗く長い道が
100メートル近く続いていた。
繁華街の光の影に隠れたビルの谷間である。

「……めえ! ……たばれ!」

そこで今、人の怒声が響いていた。
もつれあう三人の高校生くらいの少年。
喧嘩――。
というよりも二人組が一人を一方的に暴行していると言った方が近い。
一応やられている方も抵抗はしているようだったが、
二人組に掴まれ、殴られ、蹴られ、どうにもならないようだ。
その二人組は絵に描いたような不良少年だ。
やたらサイズの大きな服をだぶらせた格好をしていて、
髪型はそれぞれ、パンチパーマと、スキンヘッド。
彼らは仮に自分が何をしても決して後悔しないだろう――
そんなことがわかる野卑な顔をしている。

やられている方の不幸な少年――
パーカーを着ている彼が因縁をつけられたのだろう。
たまたま通りかかり、この道の入り口から様子を遠巻きに眺める
とある通行人の目にはそうとしか見えなかった。

しかし、やられていたかに見えたパーカーの少年が弾かれたように動いた。
その途端、二人組の片割れのスキンヘッドの少年が悲鳴を上げた。
「ぐああっっ!」
彼は目を押さえて後ろにのけぞる。
その隙にパーカーの少年は二人組から逃れるようとするかのように、
足をよろめかせながら二、三歩分走ったが、
そこで独楽のように鋭く回転し振り向く。
振り向いた時には既にパンチパーマの少年を向いて構えていた。


251 :第一話 「目覚め」 3/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:41:22 ID:mjRXjmEu

右拳を胸の中央に当てるよう腕ごと体に付け、
左拳を若干前に突き出している。
体は相手に対し斜めにし、足を肩幅より少し広く開いている。
そして荒い息づかいをしながら、眼光鋭く睨み付ける。

「……っ!」

睨み付けられたパンチパーマの少年は気圧され、
ちらりと横を見た。

「あーっ、目があー! 目がぁー!」

くそったれが。
パンチパーマの少年は舌打ちをした。
仲間のスキンヘッドの少年、彼は目を押さえて悲鳴を上げている。
もう戦力外だ。
ここは自分の力だけで切り抜けなくてはならない。
しかし、自ら仕掛けに行く勇気も無く、その代わりに吼える。
「てめえ! よくも金田をやりやがったな!
 こんなことしてどうなるか、わかってんだろうな! ああ!?」
恥も外聞もなく、下劣さをぶちまけるのをためらうことなく、
パンチパーマの少年は喚く。
するとパーカーの少年が小声で何かを呟いた。
「……せえ。」
「何?」
「……うるせえ。ゴミが人間みたいに口を聞くんじゃねえ。」

そう言った瞬間、パーカーの少年が地を蹴って間合いを詰めた。
それがパンチパーマの少年にも切っ掛けとなり、
前に出ながら、拳を振りかぶる。

影と影が街灯の下、交錯する。
次の瞬間、一方の影が体を反らせながら大きくのけぞり、
もう一方の影がそれを追ったかと思うと二つの影は組み合い、
一つになったまま地に転がった。
そして組み合った影が静止すると、一瞬の間を置き、呻き声が上がった。

声を出したのは下になったパンチパーマの少年の方だ。
上をとったパーカーの少年の膝が、
横向きに地面に寝ている彼の鳩尾(みぞおち)にめり込んでいる。

パンチパーマの少年は体を丸めて、
見えない器具で固定されているかのように口を開いたままの状態で、
虫の音のようにか細く震える呻き声を上げ始めた。

「ぁ……が……ぁぁ……ぇえ……ぉぁ……ぁ……」

鳩尾に対する打撃が完全にしっかりと決まったなら、
その衝撃は腹部を走るのではない。
腹部に"注入"され、異物として滞留する。
気付くと突然、自分の腹に決して有るはずのない
ボーリングの玉よりも重い重量物をねじ込まれているのだ。
すると何一つ出来なくなる。
声を出すことも、立っていることも、体を動かすことも。
腹を拡張する異物感に、重量に、ひたすら苛まれ、のたうち苦しむのだ。


252 :第一話 「目覚め」 4/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:43:15 ID:mjRXjmEu

そうしてパンチパーマの少年も何一つ身動き出来ず、
そうした地獄の苦しみを味わっていたが、
その最中、胸の上に何かが乗しかかる衝撃を感じた。

「ぁあ……ぁ……ぇ……?」

自分の上にあるのは、パーカーの少年らしき姿。
らしきと言うのは、ちょうど街灯の下に居るため
自分の上に乗るパーカーの少年はその眩しい光の逆光となり、
彼の姿がよく見えないのだ。
顔の表情も窺い知ることが出来ず、まるでのっぺらぼうのようだった。
ただその顔に、殺意の塊のような目のぎらぎらした輝きだけが、
浮かんでいて、こちらを見ていた。
そして顔の横には、何かがある。
腹部を苛む苦しみの中でも、目だけは唯一動かすことが出来る。
その目を頼り、必死に目を凝らす。
振り上げられた肘だ。
気付いた瞬間、パーカーの少年の顔の下半分が動いた。
それが何なのかパンチパーマの少年は見た。
左頬を思い切り吊り上げて、嗤ったのだ。

まさかこいつ――

パンチパーマの少年が意図に気付いた時には、
それは彼の顔面めがけて振り下ろされた。

一発。
二発。
三発。
四発。

歯がへし折れたのだろうか。
頬骨が砕けたのだろうか。
わからない。
何もわからない。
ただ、しっかりと体重の載せられた肘が一発一発丹念に打ち下ろされ、
自分の顔より遥かに硬い骨の槌が一つ当たる度に
顔が壊れていくことは感じとれた。
だが体が動かせないため全く何も出来ない。
やめてくれと哀願する事も、手で顔を庇おうとする事も何一つ。
何も出来ないまま骨をも砕きかねない攻撃をただ無防備に受け続けるという、
いつ終わるとも知れぬ地獄の時間を、ただ味わい続ける。
とうに戦意は折れ、パニックを起こしていた。

五発。
六発――

やめてくれ。
やめてくれ。
そう、心の中で叫び続けてどれほど経ったか。
気付くいた時には既に攻撃は止んでおり、
自分の上にはもう誰も乗っていなかった。


253 :第一話 「目覚め」 5/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:44:17 ID:mjRXjmEu

パンチパーマの少年は苦しみながらも心の中では安堵したが、
その代わりに少し離れた所、彼の視界の後ろの方から声が聞こえた。
「や……やめっ……ぎゃ!」
仲間のスキンヘッドの少年の声だ。
何かが他の何かにぶつかる音もした。

そしてそれから約10秒後。
やっと鳩尾に打ち込まれた打撃の効果が薄れて
体が動かせるようになった時には、
既に仲間の悲鳴も聞こえなくなっていた。
パンチパーマの少年は地面に横たえた体を何とか転がし、
恐る恐る悲鳴や音の聞こえていた方向を確認した。
そこでは自分と同じように、スキンヘッドの少年が地面に転がって呻いている。
その更に先に、ここから走り去る背が見えた。

この暗い道から大通りに向かって徐々に彼の背は小さくなり、
道の入り口で遠巻きにこちらを眺めているいくばくかの見物人の間を抜け、
光を放つ大通りに消えた。



     *      *      *      *     *



一帯は比較的最近に高台の山と森を切り開いて作ったばかりの
新興住宅地だった。
ここはその端の方に位置しており、宅地もまだ建っておらず、
先に作られた無駄に広い歩道を備えた新しい道路だけが有り、うら寂しい。
周辺には自然が残っているのでここからは下の方に広がっている
田園風景も見ることが出来る。
その歩道に彼は――
パーカーの少年はもたれるように座り込んだ。
隣にはきちんとスタンドを立てて止めることもせずに放り出したために、
音を立てて倒れてしまった彼の自転車がある。
先程二人組の不良を倒してのけた後、
喧嘩の現場の近くに駐輪しておいた自転車に乗り、
繁華街から相当離れたここまで逃げて来て、やっと自転車を降りたのだ。

嫌に肌寒い夜だ。
三月の月末で、もうじき春に差し掛かろうというのに、
まるで一ヶ月ほど前のように冷たい風が吹く。
そんな中、少年はおもむろに着ている服をめくり、腹を出した。
そして自分の脇腹が今までに全く経験のない腫れ方を
しているのを見て、少年は呟く。

「まずいな――」

今まで感じたことのない激痛が、脇腹に走っている。
冷や汗、脂汗のようなものが止まらない。
先程の喧嘩の際の怪我によるものだが、明らかにただごとではなかった。
怪我を受けた直後、大量のアドレナリンが分泌され痛みが気にならない筈の
喧嘩の最中から既におかしな痛みが走っていた。
興奮状態が収まりつつある今、
その痛みはもう無視など出来ないほどに増していた。


254 :第一話 「目覚め」 6/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:47:05 ID:mjRXjmEu

怪我をした箇所には心当たりがあった。

第十、第十一肋骨――
肋骨の下部二つの骨である。
他の肋骨は全て胸骨と繋がるように輪になって
支え合うような構造になっているのだが、
これらの骨はそこまで繋がっていない上、しかも細い。
更には先細りして尖った先端で終わっている。
強度の低い構造をしたおまけのような肋骨のため折れやすく、
しかもその場合尖った先端部分が内臓、血管などに突き刺さる可能性もある。
危険な怪我だ。

病院に行かなくてはならない。
しかし――

少年は躊躇していた。
先程の喧嘩のことが頭をよぎったのだ。
顔にも傷があるだろうし、拳も腫れている。
医者に診てもらえば、喧嘩での怪我であることを
容易に察っせられてしまうだろう。
そうなれば警察に連絡が行きかねない。

簡単に決められることではない。
少年は悩んだ。
そうして思い悩む内、弱気になった少年の心に後悔が入り込み彼自身を苛む。

どうしてこんなことになった。
何故俺は、こんな災難に遭うんだ?
決まっている。
それは、俺がこんな性格をしてるからだ。
だから僅かなものを得るためだけに、
こんな危険な目に遭わなくちゃならない。

本当は楽に生きていきたいのに、なんでこんなことに。

そうだ。
俺の望むものなんて、結局は見つかりっこない。
ただの妄想だ。
こんなことして何になる。

それよりも世の中には楽しいことなんて幾らでもある。
こんなことと比べれば遥かに簡単なことが。
誰もが行っているのと同じように、
ただ普通に日々を暮らせばそれでいいんだ。
そうすれば俺だって――

なんて、な。

それには受け入れてくれる人間が必要なんだ。
だから、そんな当たり前のことが俺には――


255 :第一話 「目覚め」 7/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:48:56 ID:mjRXjmEu





一体どのくらいの間、そうして少年はそこで俯いていただろうか。
時間の経過で落ち着いたのか。
それとも怪我の弱気ゆえか。
ともかく、やっと病院に行くかどうかの結論を出しつつあった。

一体何を迷っていたんだ。
よく考えてみろ。
俺はあの二人組に確かに重傷を負わせただろうが、
俺の脇腹が折れていたら怪我の程度は同じなんだ。
条件は五分。
警察に通報されたら、その時はその時だ。
病院に行こう。

何はともあれ少年はやっと意を決し、
どこの病院に向かえばよいか考えた。
すると心当たりが浮かび、顔を上げた。
田園を隔てた向こうの山の森の上に、
突き出るように光を放つ病院の建物が見えた。

近いし、大きいし、あそこにするか。
自転車でかなりの距離を逃げたんだから、
あのゴミ達はこの辺の病院送りにはならない筈だ。

決まったなら、いつまでも座り込んでいるわけにも行かない。
下手に動いて脇腹に更なる激痛を味わいたくないが、
少年は歯を食いしばって強引に立ち上がる。
「っ……! …………ふぅ。」
何とか激痛に耐え、声は出さずに息を吐くだけで済んだ。
そうして俯いていた顔を上げた時、少年の目が止まった。

「――っ。」

すぐ目の前の車道。
車の通り道のど真ん中に、少女が立っていた。
もちろんここに来た時は誰も居なかった筈だ。
少年からは八メートル程の距離があり、
歩道に居るこちらの存在に気付いていないのか、
少女は道路の彼方をただ見つめている。

あまりにおかしな様子だ。

何故、車道の真ん中に呆然と立ち尽くしているのか。
まるで車が自分を轢くのを待っているかのようであり、
もしくは交通事故で亡くなってしまい夜ごと現場を彷徨う
幽霊が現れたようにも見える。
だが彷徨う幽鬼にしてはあまりに姿がはっきりしていて、
得体の知れない気味悪さのようなものはない。
その代わり、鮮明に窺えてしまうのだ。

その肩から、腕から、指の先から、立ち方から。
そして何より、道路の彼方どころか更に遠くを見つめるような細められた目。
それが一体何を見ているのか何となく気付いた時、全てが伝わってきた。
得も言われぬ彼女の悲しみが。


256 :第一話 「目覚め」 8/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:52:03 ID:mjRXjmEu

唐突に胸がずきりと痛んだ。

その時、道路の彼方を眺めていた少女が
何気ない仕草でくるりと体の向きを変えた。
それは少年の方向である。
こちらには気付いていなかったのか少女の視線は一瞬通り過ぎた後、
はっとした顔をしてすぐに視線をこちらに戻した。
その瞬間目と目が合う。
驚いたのか、少女は細めていた目を見開いた。

やはり少女は先に来ていた少年の存在に気がついていなかったのだ。
ちょうど歩道に座り込んでいた少年の姿を覆い隠すように、
道路側の植え込みには膝丈より少し上くらいの低木が植えられていた。
立ち上がるまで気付かなくても無理はないかもしれない。

少女にとっては間違いなくまずい所を見られてしまったに違いない。
少年に気付いた少女は怯えた様子を見せ、前にも後ろにも行けずに
その場に立ったまま、目だけが少年に釘付けになっている。
少年も彼女を見つめたままだ。
その脳裏には、何も考えや言葉など浮かばない。
ただ、ほんの僅かな時間がとても長く感じられた。

だがその長い間は、秒数にして二秒と持たなかった。
噴火のように突如上がったエンジン排気音が、
二人の静寂を切り裂いた。

――車!?

少年は咄嗟に音源の右方向を振り向きかけたが、
少女から目が離れたその瞬間
「きゃっ!」
小さな悲鳴を聞き、首を戻した。
先程の場所で少女は尻餅をついていた。
その間にも右の方から車の排気音の哮りがぐんぐんと距離を詰めて――
















257 :第一話 「目覚め」 9/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 05:53:21 ID:mjRXjmEu





























































258 :第一話 「目覚め」 10/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 06:04:23 ID:mjRXjmEu





























































259 :第一話 「目覚め」 11/11  ◆Thmxzr/sD.HF :2010/04/20(火) 06:05:33 ID:mjRXjmEu















――――声。

「この…が慎……んだ……」

額に何かがフれ……動イテ……

アレ。

ナンダっけ。

今日は、起きナキャ活けない日?

計算スるト……眠った解きハ……

なかナか、うまく考エられ……


そうだ。
この体を包むもの、布団、だ。
この、感覚。
は、起きる時の。
そして、これ、何だ。
額を這う、この感触は――

少年の額を柔らかな指が撫でる。
思考が纏まりを持たず、全てが曖昧な目覚めのまどろみの中、
その感覚だけは少年に鮮明に届いた。
まるで天から伸びてきた手に腕引かれるように。
そのいざないのままに、少年は眼をゆっくり開いた。

白い。
瞬時にまばゆい光が視界を覆い、目が眩む。
そしてそれがゆっくり引いてゆくと、
目の前に何かが浮かび上がっていく。

誰かが、居る。
俺を見ている。
あれは――

「――っ。」

少年が目にしたもの。
それは午後の暖かな日差しの中、
日の光を受けてほのかに輝く少女だった。