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342 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:23:44 ID:946/fIYE
今僕は自分の家のリビングにいる。
僕の家のリビングにはL字型の4人掛けソファがあるのだが、僕は地べたに正座していた。別に正座が好きなわけではない。
ただ4人の女性が占領しているからだ。
今日は土曜日。秋祭り当日。
祭りは夜からだがみんなで一緒に行こう、という事でこうして僕の家に集まっていた。
集まって行くのには問題ないのだが・・・人選を間違えたのだろうか、空気が重たく感じる。
ふと隣を見る。大和だ。
大和は気合いを入れているのか髪の毛を立てている。服も昨日僕と街に行ったときに買ったものをさっそく着てきた。2万円のTシャツだ。
(やべー!!写メで見るより実物の方が超きれいだ~!)
ちなみに大和の熱い視線は真っ正面に座っている姉ちゃんに向けられていた。
大和、悪いことはいわないからその人だけはやめておけ。この能力がないと立ち直れなくなるぞ?
大和の斜め前には友達の山田君がいる。
山田君は眼鏡をかけていて知的なインテリ風男子に見える。
しかも僕と同様正座している。律儀なやつだ。
だが僕にはわかっているぞ、お前の頭の中が!
(恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃんっ!!)
・・・最っ低だな、山田。ってか恭子ちゃんに手を出したらお前の秘密を全校生徒にバラしてやるからな!!
山田君の横には太郎君がいる。体育会系のマッチョボーイだ。
実は太郎君とはしゃべったことがほとんどない。
昨日大和と山田君に今日のことについて話しているのを太郎君に聞かれたのだ。
すると急に土下座してきて、「一生のお願いです!どうか私も連れて行って下さい!」とお願いされたのだ。
そういうわけで今ここに太郎君がいる。
彼の目的はただ一つ。
(はぁ~・・・俺の結衣は今日もかわいいな~・・・っ!!も、もう少しででミニスカートの中が!!・・・ハァハァ・・・)
こっちは山田君とは違い、興奮が顔ににじみ出ていた。よだれも少しでている。
そんな太郎君の様子に女性陣は完全にドン引きしている。中でも陽菜の引き具合が顕著だ。
太郎君の斜め前には姉ちゃんが座っている。
(・・・なんでこんなにいんだよ・・・まじうぜぇ・・・)
そんなこと言わないで姉ちゃん!せめて・・・せめて、大和には優しくしてあげて・・・
その横には陽菜。
陽菜は恭子ちゃんを食い入るように見ていた。初めて会ったかわいい女の子によくやる陽菜の癖だ。
なぜかは不明だが小学校からよくやってるんだよな~・・・まさかそっちの趣味・・・なのか?
陽菜の斜め前には恭子ちゃん。
(う・・うぅ・・・知らない人がこんなにいっぱい・・・助けて、慶太さん!)
心配しないで!恭子ちゃんだけはこの命に代えても山田の魔の手から守ってやるからな!
最後は恭子ちゃんの隣、つまり僕の斜め前は岡田。
確かに太郎君の思った通り今日の岡田はいつもよりかわいく感じる。・・・ミニスカートのせいなのか?
(っっ!!今慶太が私の足を見てたっ!?す、少しは意識してくれてるのかな・・・///)
あ、危ない危ない!!思わずじっと見入ってしまっ――――
ガチャン!
突然大きな音がした。


343 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:25:01 ID:946/fIYE
何かと思って辺りを見回す。が、どうやら陽菜が机にコップを置いただけのようだ。
「・・・ねぇ慶太・・・私も含めてみんな知らない人がいるみたいだから紹介してよ?」
あ、あれ?陽菜さん、テンションがおかしいくらい低くないですか?
そんな陽菜にチキンな僕は完全にビビってしまった。
「わ、分かりました!で、では時計回りに紹介したいと思います・・・まず彼が大田大和君です」
「どうも~」
「姉ちゃんはこの大和君に優しくしてあげて下さい」
「!」「ハァ?」
僕は頭が混乱していた。自分でも何を口走ったか分からない。
なにやら大和が心の叫びをあげているが、今の僕には紹介を続けることで精一杯だ。
「その次が山田君です・・・恭子ちゃんは彼と話をしたらダメだからね?」
「な、何を言って!?」「え?は、はい・・・」
「その横が太郎君・・・岡田、今すぐスカートを押さえろ」
「ちょ、おまっ!」「え?・・・キ、キャーッ!!」
女性陣の軽蔑のまなざしが太郎君と・・・僕に向けられた。
「その斜め前が俺の姉ちゃん・・・この中で唯一20を超えて・・・」
ものすごいスピードで携帯が飛んできた。これもツンの一種なのだろうか?
僕はたんこぶのできた額をさすりながら紹介を続ける。
「その横が陽菜・・・陽菜はいつみてもかわいいな」
陽菜の顔が途端に赤くなる。
うん、やっぱりかわいいな。みんなもそう思うだろ?え、違う?ブス?おたふく?
そんなこと言ったら陽菜が悲し・・・あれ?なんだか陽菜さんの顔がおたふくと言うより般若みたいだぞ?
「はん・・・陽菜の斜め前にいるのが恭子ちゃん・・・僕のエンジェルさ!!」
陽菜もかわいいけど、違った意味で恭子ちゃんもかわいい。
(う、うれしいよ~!!今僕のって・・・僕のエンジェルって・・・!!)
僕のを強調されるとちょっとマズいから訂正するね?みんなのエンジェルさ!
陽菜がニコニコしている。そうか、陽菜も共感してくれたんだな!さすが幼馴染!さっきから恭子ちゃんを罵倒しているそこの二人も少しは陽菜を見習え!
「そしてその横が岡田・・・う~ん、岡田に関しては特に言う事はないな~」
次の瞬間ローキックが飛んできた。
僕は正座していたのでローキックがハイキックになる。鼻血が止まらない。
「死ねっ!」
僕の頭の中に蹴られる直前に見えた岡田のパンツが走馬灯のようにループしている。最後にいいものを見れたんだ。悔いはない・・・
「結衣ちゃんもこういってるんだし・・・死んでみる?」
陽菜さん、それは冗談でいってるんですよね?目がマジっぽいんですけど冗談なんですよね?
とりあえずみんなの紹介を終えたところで、僕は冷静さを取り戻した。
なんだか空気が重たい。
男性陣は僕に対して恨み節を唱えているし、僕は額が痛くて鼻血も出ている。
一体なにがおこったんだろうか?


344 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:26:07 ID:946/fIYE
「ババ抜きでいいか?」
祭りまではまだ時間があったので、みんなでトランプをすることになった。
「それじゃ~何か賭けようよ~」
陽菜だ。事ババ抜きに関して陽菜は最強だ。負けた姿を一度も見たことがない。
「賭けるって・・・金はちょっとキツいんだけど・・・」
「それなら1位は最下位と、2位は7位と、3位は6位と、4位は5位と、それぞれ向こうでペア行動するってのはどう?」
岡田の出した意見にみんなが賛成した。というかみんなの目が血走っている。
(絶対に慶太とペアになってやる!)
(慶太さんと・・・一緒に屋台を周りたい!)
(慶太はババを持っているとき、必ず手札の右端に持っていく癖がある。それをうまく利用できればいける!)
(慶太!俺の心の声が聴こえているだろう!なら俺とお姉さんの未来に協力してくれ!)
(恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃんっ!!)
(結衣と二人で祭り・・・これで公認のカップルに!!・・・ハァハァ・・・)
みんなの顔は終始穏やかだったが、頭の中は熱い思いがあふれかえっていた。
だが僕にだって熱い思いがある。陽菜が一位なら僕は最下位を目指さなければ!
みんなの熱意がトランプに移ったのか意外な結果になった。
一位太郎君、2位陽菜、3位大和、4位山田君、5位恭子ちゃん、6位僕、7位姉ちゃん、8位岡田―――
「じゃあみんながルールを知っている事が確認できたので本番始めますか」
「「「「賛成」」」」
「「なんでだよっっ!!!」」
多数決により本番が再開された。太郎君と山田君が心の中で号泣しているが関係ない。
泣いても笑ってもこれが最後となるので、誰かがカードを一枚ひくたびに辺りが緊張に包まれた。その結果・・・
一位陽菜、2位姉ちゃん、3位岡田、4位大和、5位恭子ちゃん、6位太郎君、7位山田君、8位僕。
明暗が分かれた結果となった。僕としては陽菜と一緒になれてよかったし、恭子ちゃんも大和となら安心だ。
様々な心の声が聴こえる中、姉ちゃんの声だけがとても小く聴こえた。
(・・・りだった・・・には勝てないのか・・・)


345 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:26:33 ID:946/fIYE
現在午後8時。すでに祭りが始まっている時間だ。
にもかかわらず今いるのは男4人だけ。
初めはみんなで一緒に来るはずだったのだが、4時間前に僕らが家から追い出されたのだ。
僕は別になんとも思わないけど、他の3人は一緒に行きたかったのかさっきからブーブー言っている。
「なんで野郎だけで・・・」
太郎君が昨日僕に頼んできたときの態度とまったく違う。
「はぁ~せめて祭りに向かうときだけでも祥子さんと一緒にいたかったのにな・・・」
「それよりも13才の女の子がこんな夜遅くまで・・・しかたがない。僕が責任を持って家まで送り届けるか・・・」
山田、お前はもう帰ってもいいぞ。
男性3人がぐちぐち言っていたとき、後ろから声をかけられた。
「おまたせ~!」
その声に振り返った僕たちは言葉を失った。
そこにいたのは先ほどの私服とは違い、浴衣を着ている女性陣だった。これには浴衣を着てくる事を知っていた僕でさえ驚いた。
なぜなら4人があまりにも綺麗だったからだ。
「どうかな?似合うかな?」
岡田が上目づかいで僕を見つめながら聞いてきた。正直、理性を保つのに必死だ。
「あ、ああ・・・めちゃくちゃかわいい・・・」
岡田は僕の言葉にこれでもかというくらい嬉しそうだ。
(めちゃくちゃかわいい!?どうしよう・・・嬉しくて死んでしまいそうっ!!)
「・・・のまま・・・ばいいのに・・・」
さっきまで下を向いてぼそぼそと呟いていた陽菜が、急に顔をあげた。ニコニコしている。
「ねぇ慶太~わたしは~?」
なぜか陽菜の笑顔が怖い。ここで間違った答えをだしたら大変なことになりそうだ。
「陽菜もめちゃくちゃ似合ってて・・・か、かわいいよ・・・」
岡田の時とは違いものすごく恥ずかしい。好きな人だから?
「・・・も?」
「え?」
「ううん、なんでもない。ありがと~♪」
なんだろう?答えは間違っていない・・・はずだ。
「慶太さん・・・あの・・・私は・・・」
恭子ちゃんがもじもじとしている。心の声に頼らなくたってこの時の恭子ちゃんの気持ちは分かる。
「かわいいよ。すごく恭子ちゃんに似合っている」
「あ、有難うございますっっ!!」
ここまできて僕は男性陣の嫉妬の叫びに気がついた。そろそろやめたほうがいいな、うん。
「じ、じゃあみんな揃ったんでペアになって祭りを楽しみますか!」
そう言って僕が一歩前に踏み出したとき、聴こえるか聴こえないか程度の声が頭に響いた。
(慶太はウチには何も言ってくれなかった・・・そうだよな、実の姉が浴衣着たところでなんだっていうんだよ・・・)
僕はとっさに振り向くが、姉ちゃんはすでに山田君と歩き出していた。
(・・・馬鹿かウチは・・・慶太にかわいいって言ってもらえるかと思って期待したなんて・・・)
「どうしたの慶太?早くいこ~よ~」
「あ、ああ、わかった」
陽菜と二人っきりの祭り。それなのに気分が晴れないのはなんでだろう?



346 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:27:06 ID:946/fIYE
「あれおいしそう~」
今僕は陽菜と屋台巡りをしている。
二人っきりだし、デートといっても過言ではない。
楽しいはずなのに・・・なぜか心から楽しめていない自分がいる。
さっきの姉ちゃんが気になっているのだ。
僕が姉ちゃんの浴衣姿を褒めなかったのは単に聞かれなかったからだ。決してかわいくないと思ったわけではない。
でも他の女の子全員を褒めて一人だけ褒めなかったら?その子はどう思うだろうか?
そこまで考えて僕は自分を責めた。
くそっ、なんであのとき気付かなかったんだ!姉ちゃんだって褒めてほしかったはずのに!
「どうしたの慶太?なんか恐い顔してるよ?」
陽菜の声に僕はハッとなった。そうだ今は陽菜とのデート中だ。
「い、いや別に・・・」
なんでもない、と言おうとしたが口が動きを止めた。
今からでも遅くない。
「悪い陽菜!!ちょっとついてきてくれ!!」
そう言って陽菜の手を引き僕は走った。
しばらく適当に走ったところで目的の人物を捕らえた。そのまま近づいて行く。
「姉ちゃん!!」
僕の叫びに目の前の二人が振り返る。姉ちゃんと山田だ。
神様・・・陽菜とのデート、ツケってことにしてくれませんか?・・・
「悪い陽菜、俺ちょっと姉ちゃんに用事があるから!!山田、陽菜を頼んだぞ!!」
返答する暇さえ与えず、僕は姉ちゃんを連れて走り去った。
「け・・・慶太?」
「ごめん姉ちゃん、今はなにも聞かないで!」
そのまま人気のないところを目指して走る。
勢い余った僕達は神社を抜け出し、近くの公園まで来てしまった。
「ハァハァ・・・ごめん・・姉ちゃん・・・勝手に・・・」
「ハァハァ・・・ったくなんだよ・・・こんなところまで人を走らせやがって・・・」
そのまま二人揃って公園のベンチに座る。
「ウチはまだ全然祭りを満喫してないんだけど?」
「う・・・ごめん」
姉ちゃんが嫌味ったらしい視線を送ってくる。
(でも、ま、いっか・・・こうして慶太と二人きりでいれるんだし・・・)
ものすごく小さい声だったが確かに聴こえた。
「ところで・・・ウチになんの用だよ?」
き、来た!!今が言うタイミングだ・・・恥ずかしいけど・・・
「姉ちゃんにだけは言ってなかったなと思って・・・姉ちゃんの浴衣姿、めちゃくちゃきゃ、綺麗だよ///」
肝心な時に噛んでしまった。情けない・・・。でもこれで姉ちゃんも元気になるはずだ。
(こいつ、わざわざそんなことを言うために?・・・ハハ、慶太のそういうところ変わってないな・・・)
姉ちゃんが見たこともないくらい穏やかな表情になっていた。
「馬鹿かお前?なに実の姉に綺麗とかいってんだよ」
姉ちゃんはそう言うと視線を上に向けた。
心の声はそれ以降聴こえてこなかった。



347 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:30:51 ID:946/fIYE

遠くを見つめながらぼんやりしている姉ちゃん。
時々姉ちゃんはこういう表情をするのだ。
しかもこの時にかぎって心の声が聴こえてこない。
なんとなく姉ちゃんの横顔を盗み見る。僕と違って整った顔だ。自分の姉ながら見とれてしまう。
すると突然姉ちゃんがこっちを見た。どこか悲しそうな顔で―――
「なぁ慶太・・・一つだけ聞いてもいいか?」
「え?・・・うん・・・」
なんだろう?心の声は聴こえてこない。
「陽菜のこと・・・好きなのか?」
「っ!?」
予想もしなかった質問に僕は戸惑ってしまった。
「なんでそんなこと・・・」
「いいから・・・まじめに答えろよ」
命令形だがいつものような凄味がまるでない。
こんなに弱々しい姉ちゃんを見たのは初めてだった。男にさえもひるんだことのない姉ちゃんが・・・
僕は悩んだ。でも姉ちゃんはまじめな答えを求めてるんだ。姉ちゃんには残酷かもしれないが本当のことを言おう。
「姉ちゃんの言うとおり、僕は陽菜のことが好きだ」
「・・・そっか・・・」
(・・・やべー・・・まじで泣き・・・ぞ・・・う゛っっ!!)
やっと心の声が聴こえた。だが・・・よりにもよってこんな言葉を聴きとるなんて・・・
でも僕はここで話をやめてはいけない。ここからが本題なのだ。
「・・・でも、だからといって姉ちゃんのことが好きじゃないなんてことはないよ」
姉ちゃんが顔をあげた。驚いている顔にはうっすら涙の跡が見えている。
「姉ちゃんのことも・・・陽菜に思っているのとは少し違うけど・・・大好きだよ」
これが僕の本心だ。別に姉ちゃんに同情して言ったわけではない。
姉ちゃんはいつも僕に対してきつい事を言っていたが、心の底では僕のことを思っていてくれたのだ。
「・・・本当か?本当にウチのことが・・・好き・・・なのか?」
(なんで?いつもお前に対してつらく当たってたのに・・・なんでウチのことが好きだって言えるんだ?)
「姉ちゃんは僕がいじめにあったときも助けてくれたし、いやいや言いながらも勉強を教えてくれたりもした。それに・・・生まれたときから一緒に
暮らしていた仲じゃん!そんな姉ちゃんのこと好きになるのは当然だろ?・・・もし、恋愛感情じゃなくて、一人の人間としてどっちが好きかって
聞かれたら・・・俺は姉ちゃんって答えたかもしれない」
今まで姉ちゃんがため込んできた思いを決壊させる引き金になったのだろう。
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!!」
姉ちゃんが泣きながら僕の胸に飛び込んできた。
「ごめんなさい!今まで慶太に冷たく当たってごめんなさい!慶太に暴力をふるったりしてごめんなさい!」
初めて姉ちゃんが自分から心を開いてくれた。その様子は姉というより妹のようだ。
そっと姉ちゃんの頭をなでる。
「謝らなくてもいいよ。姉ちゃんの気持ち・・・分かっているつもりだから」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
(慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!慶太!)
姉ちゃんは心の中でずっと僕の名前を叫んでいた。まるで子供が親の名前を呼ぶように。


348 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:31:23 ID:946/fIYE
「グズっ・・・もう大丈夫・・・だから・・・」
姉ちゃんがそう言って僕から離れた。
「ごめんな慶太。なんかかっこ悪いところ見せちまって・・・」
驚いた。姉ちゃんが素直になっている。
「これからはお前にできるだけ優しくする。そして・・・」
(慶太のためだ・・・距離を置こう・・・)
そのまま押し黙った姉ちゃん。
僕のために距離を置く。姉ちゃんがこの言葉を使ったということは、もう僕に会わないつもりだ。
やっぱり姉ちゃんと僕は似ていない姉弟のようだ。姉ちゃんは人の気持ちに鈍感すぎる。
「姉ちゃん、これからも今までのままでいてよ。いつもみたいに冷たく・・・はちょっと嫌だけど、ムカついたら怒ったり怒鳴ったりしてよ。それから東京に戻ったとしても・・・俺のために時々でいいから帰ってきてよ」
姉ちゃんは僕の言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべた。が、すぐにフワリと笑った。
「本当に慶太は昔から人の心に鋭いな。もしかして人の心が読めるんのか?」
ドキッとした。やばい、心の声に反応しすぎたか?
「まぁそこが慶太の唯一のとりえだけどな」
そう言って姉ちゃんは笑いだした。
なんて失礼な!他にもとりえはあるはず・・・だ・・・よね?
(あのときも・・・こうしてウチが慰められたっけ?そういえばあのときからだな・・・慶太のこと好きになったのは・・・)
あのとき?
僕は必死に記憶の糸をたどったがなにも思いつかない。
「それにしても実の弟に告白されるなんてな~」
「ち、違っ!!」
「照れんなよ」
く、くっそ!さっきのセリフは取り消しだ!姉ちゃんなんか大嫌いだし、これからは俺にもっと優しくしろよ!
「・・・帰っか」
「・・・うん」
姉ちゃんが手をつないでくる。今日はよく姉ちゃんと手をつなぐ日だ。
・・・たまにはこういうのも悪くないな、うん。
(やっぱり慶太はウチのことを理解してくれる。それならウチは・・・誓う)
穏やかな姉ちゃんの声が僕の頭に届いた。
何を誓うんだ?


349 :サトリビト:2010/04/22(木) 19:31:52 ID:946/fIYE
「ねぇ慶太~一緒にご飯食べよ?」
祭りのあった日から最初の月曜日、陽菜が昼食を誘ってきた。
「ごめん、今日朝起きたらなぜか弁当がなくて・・・今からパンを買いに行かないと・・・」
陽菜の誘いを断腸の思いで断った僕は購買に向かって走った。
「あ、待ってよ・・・」
陽菜の声が聞こえた気がしたが、一刻も早く行かないとパンが売り切れてしまう。
購買に向かう途中、ちょうどパンを買い終えた友達が話しかけてきた。
「おい早川いまからパン買いに行くのか?」
「そうだけど?」
「あきらめろ。今日は何一つ、あのカロ○ーメイトすら残ってないぞ」
「なにっ!?」
早すぎる。いつもならまだ半分くらいは残っているはずだ。
それに高級(の割に腹も膨れない)すぎて誰も買わないカロ○ーメイトすなない・・・だと!?
(それにしても新しく購買に来た人かわいかったな~・・・よし、もう一回見に行こう!!)
なるほど、どうやら購買に新しく美人が入ったおかげでパンが売り切れたのか。
しかし・・・だからと言ってこのまま何も買わないわけにはいかない。
とりあえず購買に行ってみるとすごい人だかりができていた。
その光景に今日の昼飯を完全にあきらめかけたとき、聞きなれた声が人混みの中から聞こえた。
「あーもううっせーなっ!!ないものはないっつってんだろっっ!!」
なんとその声の主は姉ちゃんだった。
「姉ちゃん!?なんで!?」
「おっ、慶太か!?なにやってんだよ、早くこっちにこい!!」
何が何だかわからなくなった僕は人混みをかき分け、姉ちゃんの元へと近寄った。
「姉ちゃん何やってんのさ!!」
「見て分かんだろ?それより・・・ほら、お前の分な!!」
そう言って売り切れたはずのパンを僕に渡してきた。周囲の目が冷たい。心の声も。
「お前のために一番人気のパンをとっといたんだぞ?感謝しろよ」
「う、うん、ありがとう・・・ってそうじゃなくて!!なんでここにいんの!?」
「なんでって・・・ここがウチの職場だからな」
え?今なんて?
「今日からよろしくな」
姉ちゃんは銀行員だよね!?仕事は学校の購買とまったく関係なかったよね!?
・・・無茶苦茶だ。昨日の今日で転職したのか?一体どうやって・・・
(いままで慶太に冷たくした分、これからは慶太のために生きてやるんだ!)
いや、自分のために生きて下さいよ。
そんなとき、背後に人の気配がした。
「あれ!?祥姉ぇだー!!」
「早川のお姉さん・・・?なんで・・・?」
仲良くやってきた陽菜と岡田。
「今日からここで働くことになったんだ。・・・よろしくな?」
(一昨日の夜誓ったんだ。一生ウチが面倒を見るって。慶太はだれにも渡さないって。だから・・・テメーらはさっさと消えろっっ!!)
「・・・えぇ・・・こちらこそよろしくお願いしますね?」
(この人なんでこの学校に?まさか慶太の事が!?いや、ありえない、だって姉弟だよ?そんなの許されるわけがない!)
「祥姉ぇと一緒~、やったーっ!!」
陽菜だけがこの状況を喜んでいる・・・んだよね?それは本心で言ったんですよね陽菜さん?
はたして僕は無事にこの学校を卒業できるのだろうか・・・