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576 :K,A  ◆ZHJ3ved3EQ [sage] :2010/05/02(日) 01:45:04 ID:66x/lnTc
この後すぐ、作品投下します。
夏目漱石の『夢十夜 第一夜』の二次創作です。
NGワードは第一夜IFエンド でお願いします。

577 :第一夜IFエンド  ◆ZHJ3ved3EQ :2010/05/02(日) 01:47:19 ID:66x/lnTc
第一夜IFエンド

こんな夢を見た。
腕組みをして枕もとに座っていると、あお向きに寝た女が、静かな声でもう死にますという。
女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかなうりざね顔をその中に横たえている。
真っ白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。
とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり言った。
自分もたしかにこれは死ぬなと思った。
そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上からのぞき込むようにしてきいてみた。
死にますとも、と言いながら、女はぱっちりと目を開けた。
大きな潤いのある目で、長いまつ毛につつまれた中は、ただ一面に真っ黒であった。
その真っ黒な瞳の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。
自分は透き通るほど深く見えるこの黒目のつやを眺めて、これでも死ぬのかと思った。
それでねんごろに枕のそばへ口をつけて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまたきき返した。
すると女は黒い目を眠そうに見張ったまま、やっぱり静かな声で、
でも死ぬんですもの、しかたがないわと言った。
じゃ、私の顔が見えるかいと一心にきくと、見えるかいって、そら、そこに写ってるじゃありませんかと

にこりと笑ってみせた。
自分は黙って顔を枕から離した。腕組みをしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
しばらくして、女がまたこう言った。
「死んだら、埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちてくる星の破片(かけ)

を墓標に置いてください。そうして墓のそばに待っていてください。また会いに来ますから。」
自分は、いつ会いに来るかねときいた。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょ

う___赤い日が東から西へ、東から西へと落ちてゆくうちに、___あなた、待っていられますか。」
自分は黙ってうなずいた。女は静かな調子を一段張り上げて、「百年待っていてください。」と思い切っ

た声で言った。
「百年、私の墓のそばで私の為だけに待っていてください。きっと会いに来ますから。」
自分はただ待っていると答えた。すると黒い瞳の中に鮮やかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れてきた。
静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の目がぱちりと閉じた。
長いまつ毛の間から涙が頬へ垂れた。
___もう死んでいた。


578 :第一夜IFエンド  ◆ZHJ3ved3EQ :2010/05/02(日) 01:52:00 ID:66x/lnTc
自分はそれから庭に下りて、真珠貝で穴を掘った。真珠貝は大きな滑らかな縁の鋭い貝であった。
土をすくうたびに、貝の裏に月の光が差してきらきらした。湿った土のにおいもした。
穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。そうして柔らかい土をそっとかけた。
掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。
それから星の破片の落ちたのを拾ってきて、かろく土の上に乗せた。星の破片は丸かった。
長い間大空を落ちている間に、角が取れて滑らかになったんだろうと思った。
抱き上げて土の上に置くうちに、自分の胸と手が少し暖かくなった。
自分は苔の上に座った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組みをして、丸い

墓石を眺めていた。
そのうちに女の言ったとおり日が東から出た。大きな赤い日であった。それがまた、女の言ったとおり、

やがて西へ落ちた。赤いまんまでのっと落ちていった。一つと自分は勘定した。
しばらくするとまた唐紅の天道がのそりと登ってきた。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定

した。
自分はこういうふうに一つ二つと勘定してゆくうちに、赤い日をいくつ見たかわからない。
勘定しても、勘定しても、し尽くせないほど赤い日が頭の上を通り越していった。
それでも百年はまだ来ない。しまいには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女にだまされたのではなか

ろうかと思い出した。
それならば、いっそ此処を離れ生きてみるのも悪くない。
私は、昔と変わらぬ容姿で街に出た。そこで女を買った。その女の感触に私は溺れた。
そうして、情事を終えた後、宿から出ようとした時、情婦に腹を刺された。
情婦の顔は女のものへと変わり、死を告げた調子でわたしだけを見て欲しかったと告げ、消えていった。
唐紅の血潮を噴出しながら天を仰いだら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
「百年はもう来ていたんだな。」とこの時初めて気がついた。

終わり

もし、待つことを捨てていたらと言うIFを自分なりに考えてみた。
漱石先生・文学ファンの皆様。ごめんなさい。