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56 :奥様は戦略家  ◆wycmxKO9B. :2010/05/09(日) 18:23:19 ID:CR7T7slx
~宏貴視点~

俺の名前は有森宏貴。何処にでもいる若手の陸士長だ。
今、俺は演習を終え、73式小型トラック(パジェロ)に乗って隊舎に帰っている。
俺は自宅で待っているであろう嫁の事ばかり考えていた。
俺の嫁は優しい。昔から俺のことを支えてくれた優しい人だ。
今回のも笑顔で送り出してくれた。仕事柄、機密事項があるので詳しく話せないのに怒らない。
機密事項とは、演習・作戦等の内容・編成などに始まり、レーダーシステムの性能・操作盤のデザインま
で幅広く存在する。当然守秘義務がある。そのせいで娑婆の女性とはいろいろ難しい。
例を挙げるなら、俺の隣に座っている朝倉三曹はこの間の飲み会の後、浮気疑惑を掛けられたらしい。
酔っ払って道でぶっ倒れてた女性を交番に運んだのが悪かったみたいだな……
俺もその時一緒に運んだから、服に女物の香水臭や髪とか付いてたけど何も言われなかったな。
「理解がある嫁さんじゃないか」と言われそうだが、そんな次元じゃない。
家族サービスができなくても許してくれるし、突然不機嫌になることもない。
さらに俺が冗談で「もし、演習と嘘ついて浮気してたらどうする?」と訊いたら、いつもの笑顔で
「良いよ。でもそれはゲ-ムみたいなものでしょ?私の事を忘れない程度にね。」と言われすごく申し訳
ない気分になった…やっぱり恵美はいい女かもしれない。

高校時代、俺は恵美以外に六人と付き合ったがみんな上手く行かなかったな。
一人は疑心暗鬼の塊で、クラスの女子と喋るだけで嫉妬して喚き散らす人だった。
俺は振られた時、恵美に励まされて立ち直った。まだその時はよく話すクラスメイトだった。
二人目は、真剣に好きになったが、失踪した。不覚にも恵美の胸で泣いてしまった。
文句一つ言わずに俺を抱きしめてくれた……この時から好きになってしまったんじゃないかと思う。
三人目は、失踪したあとの空席狙いで告白してきた。
しかし、恵美の家に行った事がばれて、激しくケンカした後にふられた。
恵美との友人関係も終わると思いながら、告白しようと恵美の家に行ったときに先に告白された。
そして恋人関係になって少しした頃、また他の娘から告白された。付きまとわれた末、交際する羽目に。
恵美に相談したら許可がもらえたが、四人目の女の子とはケンカして別れた。
五人目は恵美の友達だったな。こいつとも確かケンカしたような気がするぞ……
結局、横取りに失敗して引っ越したんだっけか。独占欲さえ出さなかったら友達で居る事ができたのに。
六人目はすっごく物騒な奴だったな。話聞かないし、キレたら暴れだす独占欲の塊みたいな奴で、常に
連絡入れないと騒ぐ。
交際を断った瞬間カッター出した時は焦った。「泥棒猫は始末する。」と言う感じの人だったから、
恵美との事がバレたら危険なのでしばらく接触しないという提案も受け入れてくれた。
10日後、消息を絶った。三人目のこともあり、何か変だと思ったがあの人だから警察にでも捕まっている

のだろうと結論付けた。
こうして高校を卒業し、同じ大学の社会学部に進んだ。
恵美の親父さんに影響された俺はそのまま大卒自衛官となった。恵美は軍事評論家となった。
それからまもなく結婚したんだが、相変わらず優しすぎる。
同期の一人なんてこの間、「結婚してから急にきつくなった。」とか何とか愚痴っていた。

回想しているうちに、身体は官舎の前の駐車場にいた。
俺は官舎の階段を登り、部屋の扉を開けた。
「ただいま。今度の奴はきつかった……やっと恵美の手料理が食べられる。いつも、ありがとう。」
「お疲れ様。ご飯ならもう用意してるわよ。」
感謝の言葉を搾り出し、椅子に座った時にはもう夕食が並んでいた。
しばらく話していたが、睡魔に負け崩れ落ちるように布団へ……

こうして、俺の一日は終わった。


57 :奥様は戦略家  ◆wycmxKO9B. :2010/05/09(日) 18:25:04 ID:CR7T7slx
~恵美視点~

私は、軍事評論家として雑誌のコラムの原稿を書き上げながら夫の帰りを待っていた。
ノートパソコンの画面には米軍との対テロ合同演習のデータが映っている。
作業を始めて数十分。テレビ番組では普天間基地移設問題が取り上げられていた。
そして、台所に炊飯器とお鍋の確認をしに行き、戻ってきた時にはもう、次の番組が始まっていた。

「今月に入ってから、夫がなかなか帰ってこない、これってどうなんですか?」
テレビでは、不安を煽るような番組が垂れ流されている。夫の自由を縛るなんて妻失格だ。
身動きできなくなるまで縛ることでしか維持できない関係なんて、捨ててしまったほうがいい。
他の家はどうか知らないが、ひろ君なら大丈夫だよね。
だって、私だけを見てくれるって約束したから。遊んでも、本気にならないわ。
浮気だってさせてあげるくらい信頼してくれる妻がいるもの。そんな女がそう何人も居るわけない。
あの人は高校時代はかなりもてていたのに、私を選んでくれた。
決して、ひろ君が浮気者で女の子をとっかえひっかえしていた訳じゃない。
どの娘も勝手に言い寄ってきて、勝手に恋人を気取って、勝手に怒り出す。その繰り返しだった。
毎回それを慰めてたっけ。まあ、その女に本気になったら消してあげるけど。
大体、疲れて帰ってきたのにいきなり不機嫌になられて、怒り出すような女を本当に愛せるだろうか。
少しでも香水の香りがすると尋問され、メールを調べられ、女の名前が見つかったら激しく怒られる。
そんな公安の捜査員のような女と過ごさないといけない旦那さんがかわいそうだ。
浮気なんてゲームの一種でしょ。適度な緊張を保ち、ストレスを解消するための。
それにメリットだってある。一種の均衡状態を保つことによって、よりひろ君の周りが安定するもの。
これは理に適った方法だと思う。一人の女が居るうちは未知の脅威に対する牽制となるし、その状況も受
け入れてあげる私の株も上がる。まさに一石二鳥だ。国際情勢からこの方法を編み出した。
ある独裁国家があったとする。その独裁者・政権を倒しても、また別の勢力や第二の独裁者が現れる。
つまり、敵勢力を一定以上弱くしすぎてはならないのだ。
大体、帰ってこない回数で夫婦仲が……とか馬鹿馬鹿しい。一々心配して、問い詰めても仕方ない。
毎回騒いで体力と精神力をすり減らし、夫に嫌われるくらいなら閾値を越えた時のみ動いた方が得策だ。
対テロ戦争のように長期的な目で見るべきだ。
「ただいま。今度の奴はきつかった……やっと恵美の手料理が食べられる。いつも、ありがとう。」
「お疲れ様。ご飯ならもう用意してるわよ。」
私はひろ君の制服をハンガーに掛け、部屋着を手渡しながらキスをした。

ひろ君はご飯を食べた後、しばらくして眠ってしまった。お仕事ご苦労様。