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211 :サトリビト:2010/05/16(日) 22:59:46 ID:tL81nTxM
僕は電話を受けた後、一目散に恭子ちゃんの家に向かった。
どうしてあの時すぐにでも電話を掛けなかったんだ!?どうして今の今までそのことを忘れていたんだ!?
悔やんでも仕方がないことは分かっていたが、それでも自分の軽率な行動に対して怒りを感じる。
やっとの思いで恭子ちゃんの家に着いた僕は、すぐにチャイムを押した。
「どちら様でしょうか?」
「僕です!早川慶太です!」
訪問者が僕だと分かると、恭子ちゃんのお父さんが慌てて出てきた。
「すまないね、呼びだした形になってしまって」
「いえ、お構いなく。それより恭子ちゃんの容態は?」
「・・・まぁ、上がって話そうか」
廊下を経てリビングに行くと、そこには深刻そうな顔をして座っている恭子ちゃんのお母さんがいた。
「どうぞ楽にしてくれ」
そのまま案内された椅子に座る。ちょうどお母さんの目の前の席だ。
「お茶を入れてくるから少し待っていてくれないか?」
お父さんはそう言って台所に消えて行った。
今この場所には僕とお母さんしかいない。そうすると恭子ちゃんは自分の部屋にいるのかな?
「・・・わざわざ来ていただいて、申し訳ありません」
最初に口を開いたのはお母さんだった。
「本当は私たちでどうにかしなければいけないのに・・・でも、私たちではどうにもならなくて・・・」
恭子ちゃんの鬱は両親のいないさみしさから来るものだったはず。それなのにお父さんやお母さんがお手上げ?
いや、そもそも昨日は二人ともいたはずなのに何で急に・・・
「あの、失礼かもしれませんが昨晩はお二人ともこの家におられたんですよね?」
「ええ・・・二人ともちょうど非番だったので・・・」
なら尚更おかしい。他に恭子ちゃんが不安になる理由なんてあるのか?
「・・・『お兄ちゃんがいない』そうだ」
その時三人分のお茶を入れたお父さんが戻ってきた。
「え?」
「お兄ちゃん・・・つまり慶太君がいないと昨日から泣き叫んでいたんだ・・・」
自分の耳を疑った。お父さんは冗談を言っているのか・・・?
「信じられないかもしれないが本当の事なんだ。どうやら君にあの子の事を任せているうちに重度の依存症にかかってしまったらしい」
そんな・・・確かに恭子ちゃんは今までも僕に懐いてはいたが、これほどまでに依存していたなんて・・・
「・・・でも今まではこんな風になったことは一度もなかったんですよね?どうして急に・・・」
「私もそこのところが分からないんだが・・・なにやら昨日君に電話した後からおかしくなってしまって」
その電話に出たのは陽菜だ。まさか陽菜が何か言ったのか?
「そして朝になってもう一度様子を見に行くと・・・携帯を投げつけられてしまって・・・」
そう言ってお父さんは僕に恭子ちゃんの携帯を渡してきた。
恭子ちゃんがお父さんに対してそこまでするなんて・・・
「あの・・・恭子ちゃんと少しお話をしてもよろしいですか?」
「情けない話だが君だけが頼りなんだ・・・恭子をお願いします」
「お願い慶太君・・・あの子の事、もう一度救ってあげて下さい」
二人はそのまま頭を下げた。
お願いされなくても僕の意思はすでに決まっている。
「お願いなんて言わないでください。僕にとって恭子ちゃんは大事な妹なんですから」


212 :サトリビト:2010/05/16(日) 23:00:39 ID:tL81nTxM
今、僕は恭子ちゃんの部屋の目の前にいる。
ちなみにお父さんとお母さんは刺激しないようにとリビングで固唾を呑んで待っている。
二人のためにも、そしてもちろん恭子ちゃん本人のためにも僕がしっかりしなければ!
気合いを入れ直して部屋のドアをたたいた。
「恭子ちゃん、俺だけど・・・入ってもいい?」
僕がそう言った途端、部屋の中からものすごい音が聞こえてきた。そしてゆっくりとドアが開けられて、
「・・・お、お兄ちゃん・・・?」
部屋から出てきた恭子ちゃんは目が充血していた。
それだけでも驚きなのだが、部屋の中にはさらなる驚きが待っていた。
「な・・・」
あまりの光景に言葉が出ない。
ぐちゃぐちゃに散らかっている服。しかもそれらのうち、いくつかは何かによって引き裂かれていた。
これを恭子ちゃんがやったというのか?
「お兄ちゃんだ~!やっぱり私のところに来てくれたんだ~!」
恭子ちゃんはこの部屋の惨状を、まるで意に介さないという様子で僕に抱きついてきた。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん・・・」
鬱病が再発したと聞いていたが、はたしてこれは鬱病なのか?まるで別の人格になっているみたいだ。
「き、恭子ちゃん・・・?一体何があったの・・・?」
とりあえず本人に直接聞いてみる。何が原因でここまで精神に影響をきたしたのか。
僕の質問に恭子ちゃんは一瞬体をブルッ震わせてから、声を絞り出すように答えた。
「・・・嘘ですよね?・・・お兄ちゃんと陽菜さんはただの友達ですよね?」
陽菜?やっぱり昨日何かあったんだ。
「お兄ちゃんは陽菜さんに無理矢理家に連れて行かれたんですよね?無理矢理お風呂に入れられたんですよね?」
そう言って恭子ちゃんは見上げてきた。その目は・・・まるで感情が欠落しているようだ。
「ち、違うよ!無理矢理じゃなくて僕が勝手に―――」
「いやーーーーっっ!!!嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘っっっっ!!!!!」
恭子ちゃんが錯乱した。
「嫌だ嫌だ嫌だっ!!お兄ちゃんは私だけを見てよぉ!私だけのそばにいてよぉ!」
「恭子ちゃん!?」
「お兄ちゃんの言う事何でも聞くし、何でもするからぁ!!だからずっと私のそばにいてよぉぉぉおおぉぉ!!!」
今の恭子ちゃんに話は通じない。
咄嗟にそう思った僕は恭子ちゃんを抱きしめた。
「・・・そばにいるよ。恭子ちゃんが安心するまで」
陽菜と何があったのかは分からないが、こんな恭子ちゃんを放っておくわけにはいかない。
恭子ちゃんは僕の腕の中でしばらくの間暴れていたが、やがて落ち着きを取り戻していった。
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・私ったら・・・」
「いいよ。たまにはこうやって妹のお願いを聞いてあげないとね」
「・・・お兄ちゃん・・・」
「それじゃあ・・・中に入ってもいい?さすがにこの状況を親御さんに見られるとマズいからね・・・」
主に僕が。
「はい・・・あ、でも散らかってて・・・」
「それじゃあ一緒に片づけよっか?」
「ハイっ!!」
そう言って僕は抱きしめていた手を離した。その瞬間悲しそうな顔をされるかな?と思ったが、恭子ちゃんは何事もなかったように部屋に入っていった。
よかった・・・いつもどうりの恭子ちゃんに戻ったんだ。
この時僕はそう考えていた。



213 :サトリビト:2010/05/16(日) 23:01:54 ID:tL81nTxM
「うわ~・・・これはもう捨てるしかないね・・・」
「・・・ご、ごめんなさい」
今僕たちは恭子ちゃんの部屋に散乱していた服を片づけていた。とはいうものの、ほとんどの服が無残にも破られており、どちらかというとゴミ袋に入れていると言った方が正しいだろう。
本当は何でこんなことをしたのか、そもそも陽菜と何を話したのかを聞きたいのだが、やっと落ち着きを取り戻した恭子ちゃんがまた錯乱するかと思うと恐くて聞けなかった。
(お兄ちゃんとお掃除~♪お掃除もお兄ちゃんと一緒だと楽しいな~)
心の声も今回ばかりは役に立ちそうにない。
「どうしたのお兄ちゃん?何か考え事?」
僕がどうするか悩んでいると恭子ちゃんが話しかけてきた。
「!そうそう、ちょっと考え事してたんだ、アハハ~・・・」
ごめんねと言いながら、どりあえず手近にあったものを手に取った。
「お、お兄ちゃん!?それって・・・///」
なぜか言い淀んだ恭子ちゃんの反応を不審に思った僕は、手に取ったそれを見る。
そこにあったのはブラジャー。
「うわぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!」
僕はとっさにそれを投げ捨てる。
ここに僕と恭子ちゃん以外いなくて本当に良かった・・・ってあれ?本人がいたら一番マズいんじゃないの?
おそるおそる恭子ちゃんの顔をのぞき見ると、そこには数分前の恭子ちゃんがいた。
「お兄ちゃんは私の事が嫌いなの?私の下着はそんなにも汚いの?やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ・・・」
しまった、なんだか恭子ちゃんの様子が元に戻りはじめた!
「いや、違うよ!恭子ちゃんの下着は全然汚くないよ!むしろ山田なんかはお金を出してまで欲しがると思うよ!」
陽菜の家でも似たような場面があったな。それと、すまん山田。多分この時をもって恭子ちゃんはお前を軽蔑しただろう・・・
「・・・お兄ちゃんは?お兄ちゃんは・・・その・・・ど、どう思いますか///・・・?」
何が?何がどうなの?
(お兄ちゃんは私の下着とかに興味ないのかな・・・?)
恭子ちゃんのあまりの過激な質問に僕の思考回路がオーバーヒートした。
「わ、私の・・・その・・・ブ、ブラジャーとかを・・・見て・・・」
多分僕の本心を言ったら恭子ちゃんはまた例の状態になる気がする。だからといって興味があるとは言えない。
「・・・やっぱり私じゃ何も感じませんか?・・・やっぱり陽菜さんじゃないとダメなんですか?」
突然恭子ちゃんの様子が一変した。
「え?陽菜?なんで陽菜が?」
「・・・昨日の夜、陽菜さんの家に行ったんですよね?シャワーも借りて。・・・一体何をしていたんですか?」
恭子ちゃんの様子は先ほどとは比較にならないほど暗くなっている。
なるほど・・・僕が陽菜と付き合う事で自分が捨てられるんじゃないか?と思ったのか・・・
「あの後電話を待っていたのに・・・結局かけてきてくれませんでしたね・・・そんなに陽菜さんとは楽しいことをしていたんですか?」
恭子ちゃんが僕に手を伸ばしてくる。それがなぜか・・・とても恐ろしく感じる。
「答えて下さい。昨日の夜、陽菜さんの家で何をしていたんですか?」
恭子ちゃんの手が僕の首筋に添えられる。その感触は恐ろしいほど冷たかった。
「な、何もしていないよ!昨日は陽菜が心配で家に行っただけで・・・シャワーだって僕がずぶ濡れで風邪をひくからって陽菜が・・・」
なんで僕は浮気が見つかった亭主みたいな言い訳をしているんだ?それになんでこんなに怯えているんだ?
「・・・本当ですか?嘘じゃないって・・・誓ってくれますか?」
「ち、誓うよ!俺は何もやましいことはしてないよ!」
僕の返答に満足したのか、ようやく恭子ちゃんが笑ってくれた。
本当は抱き合って眠ったけど・・・それにはやましいことは何もなかった・・・はず・・・
「そうですよね・・・私ったら勘違いをしてしまって・・・お兄ちゃんが私を裏切るなんてするはずないのに・・・」
なぜか恭子ちゃんの使った裏切るという言葉が頭の中でエコーして鳴りやまなかった。


214 :サトリビト:2010/05/16(日) 23:05:13 ID:tL81nTxM
あらかた部屋を片づけた時には時計の針が七時を指していた。
さすがにこの時間になると僕も家に帰りたいのだが、はたして恭子ちゃんはすんなり帰してくれるだろうか?
「お兄ちゃんは晩御飯、下で食べます?それともこ、この部屋でふ、二人っきりで・・・///」
(お兄ちゃんにもう一度あ~んしてもらいたいな・・・そのためにはこの部屋で・・・)
どうやら恭子ちゃんは帰してくれそうにもない。
帰ることをあきらめた僕は家に電話を掛けた。
「あ、母さん?今日は恭子ちゃんの家に泊ろうと・・・え?違うよ、僕には特殊な性癖はないから安心してよ。それで一つお願いがあるんだけど、姉ちゃんの事お願いするよ。
・・・え?姉ちゃんに言ってもいいか?ダメに決まってるじゃないですか。何を考えてるんですか?・・・修羅場が楽しみ?姉ちゃんはあなたの娘なんですよ?その姉ちゃんが
修羅場をしている姿が楽しいのですか?それに被害を被るのもあなたの実の子なのですよ?・・・そっちの方はどうでもいい?うすうす気づいていましたけどはっきりと言うんですね。
というかこんな無駄話はどうでもいいので、僕の言ったことお願いしますね。それでは」
そう言って電話を切った。
なぜ僕は母親相手に敬語を使ったのだろう?それにやっぱり僕はだんだん父さんに似てきてるんだな・・・
「・・・特殊な性癖?」
「あ、聞いてたの?ダメだよ、恭子ちゃんがそんな言葉を使ったら」
「なんで?」
「俺の中にある恭子ちゃんのイメージが崩れるからね」
「私のイメージって?」
「そりゃあもちろん女神だよ」
「私が女神ならお兄ちゃんは?神様?」
「ハハ、それなら僕と恭子ちゃんがまるで夫婦みたいじゃないか」
「///!!・・・私とお兄ちゃんが夫婦・・・♡」
僕の負けです。だからもう僕の失言を誘わないで・・・
「夫婦なら・・・私の事恭子って呼んでください・・・あなた♡」
恭子ちゃんは僕の妹だよね!?僕のことはお兄ちゃんみたいで好きなんだよね!?
「やっぱり子供は二人ほしいですよね・・・女の子だと嫌だから、男の子二人がいいな~♡」
完全に恭子ちゃんは別の世界に行ってしまった。お願いだから帰ってきて。
その時、天の助けが僕の耳に届いた。
「恭子、ご飯食べれる?それに、慶太君も一緒にどうかしら?」
お母さんは恭子ちゃんがまだ鬱になっているかと、おそるおそる訊ねてきた。
「あ、今日はこの部屋で―――」
「自分も誘っていただいてありがとうございます!今すぐ下に行きますんで!」
なんとか恭子ちゃんの爆弾発言を未然に防ぐことができた。
「なら下で待ってるわね」
そのままお母さんは階段を下りて行った。
「・・・なんでこの部屋で食べないんですか?」
恭子ちゃんが拗ねたような目を向けてくる。
「それに・・・お母さんとあんまり仲良く話さないでください」
(お母さんもお母さんよ!私の目の前でお兄ちゃんと仲良くおしゃべりするなんて!自分の年を考えなさいよ!)
・・・僕は何も聴いていない。何も聴こえない。
「・・・それじゃ、下に行こうか」
「ハイ!あ・な・た♡」
(キャ~キャ~キャ~!!)
僕はがっくりと肩を落として階段を下りていった。


215 :サトリビト:2010/05/16(日) 23:06:44 ID:tL81nTxM
夕食の時間、僕の恐れていたことが起きてしまった。
目の前には口を開けたままポカンとしている恭子ちゃんの両親。
それもそのはずだ。なぜなら自分の娘がおかしくなっているのだから。
「ハイ、あなた・・・あ~ん♡」
「・・・あ、あ~ん・・・」
先ほどから僕は自分の意思でごはんを食べていない。全部こうやって奥さんが食べさせてくれている。
「ありがとう、恭子ちゃん。でも自分で食べれるから・・・」
「フフ、もう~照れちゃったんですか~?それに奥さんにちゃん付けなんておかしいですよ?恭子って呼んでください♡」
「・・・」
謝るから!謝るからこの新しい拷問はもうやめて!それに語尾にハートもつけないで!
こうやって仮想夫婦の営みを無理強いさせられていたとき、ついにお父さんの我慢が限界に来てしまった。
「・・・慶太君と恭子は・・・その・・・付き合っているのかね?」
(慶太君は何を考えているんだ!?ウチの子はまだ13歳だぞ!!)
や、やばい!お父さんがお怒りだ!
「い、いえ!!付き合っているなんてまさか―――」
「私たちは夫婦になったんです!そうですよね、あ・な・た♡」
欲しいものがあるなら何でも買ってあげるから、今は何もしゃべらないで!!
「・・・夫婦になった・・・?ま、まさか!?」
(慶太君の家に泊りに行ったとき、まさか・・・子供ができたんじゃ!?)
お父さんの眉間にしわが寄る。このままだと僕は殺されてしまうかもしれない。
「・・・慶太君には悪いが今すぐ帰ってくれないか?」
お父さんの言葉はオブラートには包んでいるが、怒りを隠し切れていない。どうやら本格的に僕は嫌われてしまったらしい。
そんな僕に対して天どころかさらなる地獄に突き落とす声がした。
「なんで?お兄ちゃんが帰るのはこの家でしょ?何言っているのお父さん?」
恭子ちゃんが僕の呼称をあなたからお兄ちゃんに戻してくれたのはありがたかったが、こんな抑揚の全くない声で言われたら恐怖の方が残ってしまう。
「お兄ちゃんは私とずっと一緒にいるのよ?もしお父さんがそれが嫌だって言うなら・・・お父さんが出ていけば?」
・・・今なんて言った?お父さんが出ていけ?
おおよそ恭子ちゃんが言いそうにない言葉が恭子ちゃんの声で聞こえた気がした。
そのまま僕の腕にしがみつき、恭子ちゃんはこの場にいる全員に宣言する。
「私はお兄ちゃんと死ぬまで一緒にいる。ずっと・・・」
「え?あの・・・」
「もしお兄ちゃんが嫌だって言ったら・・・私の事が嫌いになったら・・・私、死ぬから」
恐ろしいことを淡々と話す恭子ちゃん。その目はこれが冗談ではないという事を物語っていた。
「死ぬって・・・冗談だろ・・・?」
「大丈夫!お兄ちゃんが私を裏切るはずないもん!!だから安心してね!!」
いつからだ・・・?一体いつから恭子ちゃんはこんなにも精神が不安定になってしまったんだ?
この場にいる恭子ちゃん以外の人間が全員そう思ったことだろう。
「やっぱり私のお部屋で食べよ~?いいでしょ、お兄ちゃん?」
(そうだよ、やっぱり二人っきりで食べたほうが絶対にいいよ!)
今の恭子ちゃんに対して僕は否定の言葉を使えない。使ったらどうなるか・・・
「・・・分かったよ・・・」
「わぁ~い!!」
僕は先ほどから唖然としている両親を残して、もう一度恭子ちゃんの部屋に戻った。


216 :サトリビト:2010/05/16(日) 23:08:07 ID:tL81nTxM
部屋に戻ってからは本当の地獄が待っていた。いや、ある種の人間にとっては極楽か?
「私が食べさせてあげたごはんはおいしい?」
「・・・おいしいよ・・・」
相も変わらずごはんを食べさせてくる恭子ちゃん。もう今の僕はただ言う通りに動くマリオネットと化していた。
「じゃあ次は・・・口移ししてあげるね!」
もう何も驚かない。たとえそれが恭子ちゃんが絶対に言わないセリフだったとしても。
「ふぁい、ふぁなふぁ!(はい、あなた!)」
また僕に対する呼称があなたに戻っていた。一体どのタイミングで変わるんだ?
「ふも~、ふぁやふふぃふぇよ!(んも~、早くしてよ!)」
お願いだからやめてよ・・・僕は恭子ちゃんとそんなことはしたくないよ・・・
でもここで拒否をしたらまた例の状態に戻ってしまうかもしれない。いや、さっきは裏切ったら死ぬと言っていた。
恭子ちゃんが死ぬよりはマシだ。
そう思い口を開ける。
それを見た恭子ちゃんはゆっくりと僕に近付いて食べ物を供給してきた。ほのかに生温かい刺身。
「お兄ちゃんが私の口に入っていたものを・・・///」
(好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き、お兄ちゃん♡)
どうやら興奮がある一定を超えると呼称がお兄ちゃんになるらしい。漠然とそんなことが頭をよぎった。
「次は・・・ご飯だね!」
言うと同時にご飯を口に入れる恭子ちゃん。いや、それはさすがに・・・!!
「もうお腹いっぱいだからもういいよ!」
「・・・」
恭子ちゃんは僕の言葉に返事を返さず、あたりをきょろきょろし始めた。
そして目的のものがその目に映ったのか、ある一点をみつめて動き出す。
その視線をたどると・・・多分この部屋の服を切り裂いたときに使ったであろうカッターナイフがあった。
その瞬間、恭子ちゃんのセリフがフラッシュバックする。
『裏切ったら死ぬから』
僕はとっさに恭子ちゃんの肩を捕まえてこっちを向かせた。
「何やってるの恭子ちゃん!!」
だが恭子ちゃんの顔はカッターナイフを見たまま動かない。
なんで・・・何でこんなことに・・・
僕は唇を思いっきり噛んだ。口の中に血があふれる。
これは僕への罰だ・・・恭子ちゃんをこんな風にしてしまったことと・・・これからする行為への・・・
肩を掴んでいた手を離し、今度は顔を掴みこっちを向かせた。恭子ちゃんと目が合う。そして・・・

・・・チュッ・・・クチュッ・・・

恭子ちゃんの唇を無理矢理奪ってしまった。その時受け取ったごはんの味は一生忘れないだろう。
「・・・お兄ちゃんとキスしちゃったお兄ちゃんとキスしちゃったお兄ちゃんとキスしちゃったお兄ちゃんとキスしちゃったお兄ちゃんとキスしちゃった!!」
恭子ちゃんの口はお兄ちゃんと一回言うたびに吊り上がっていった。
だが僕はお兄ちゃんと一回言われるたびに心が壊れていく気がした。
「しかもお兄ちゃんからしてくれるなんて!!どうしよう~、嬉しすぎて死んでしまいそう!!」
「お願いだから!!死ぬなんて言わないで・・・」
「・・・冗談だよ。お兄ちゃんが私を好きでいてくれる限り死ぬわけにはいかないよ!!」
もういい・・・恭子ちゃんが無事なら・・・僕は・・・


217 :サトリビト:2010/05/16(日) 23:10:04 ID:tL81nTxM
「もう一回キスして?」
もう何回目だろう?恭子ちゃんがそう言うたびに僕は唇を重ね続けた。
「・・・ん・・・ちゅっ・・・」
しかも回数を重ねるごとにその時間も長くなっていく。一体いつになったら終わりが来るのだろうか想像がつかない。
「あ~・・・ずーーーーーーっっとこうしていたな・・・お兄ちゃんは?」
「・・・お願いだから・・・いつもの恭子ちゃんに戻ってよ!」
もうこんな恭子ちゃんは見たくない。
「一生の・・・お願い・・・」
だが僕の願望は聞き入れてもらえなかった。
「何言ってるの?私はいつもの私だよ?それより・・・」
出して?とばかりに、こちらに向かって手を差し出してくる。一体何を?
「さっきから携帯がずっと鳴りっぱなしでお兄ちゃんも迷惑でしょ?私が代わりにでてあげる!」
恭子ちゃんの様子に意識が集中していたせいか、携帯が震えていたことにまったく気がつかなかった。
「いや、これくらい自分で出る―――」
「ふ~ん・・・私が出たらまずいんだ相手は女の人なんだ浮気してるんだ私を・・・」
言いながら瞳をだんだん濁らせていく。そして僕が今最も聞きたくなかった言葉を告げた。

「うらぎるんだ」

恭子ちゃんの被害妄想は常軌を逸している。
だがそんなことを考える余裕が僕にはなかった。その時感じたことはただ一つ。
早く謝らないと。
「ごめん!勘違いさせるような態度を取ってしまってすいませんでした!いいから、僕の携帯にでてもいいから!」
叫びながら携帯を恭子ちゃんに手渡す。せめてこの電話が親か男友達でありますようにと願いながら。
「はい、もしもし早川ですけど?」
僕の名字を名乗る恭子ちゃんはまるでいつも電話ではそう言っているといった様子だ。なんの躊躇も感じられない。
「あれ~、もしかして陽菜さん?」
え?陽菜?陽菜がこんな時間に僕に何の用だろう?いや、それより・・・
「お兄ちゃんなら私の目の前にいるけど・・・何でって、私たちは夫婦になったから♪」
(アハハハハハハハハハ!!昨日のお返しだ!!)
恭子ちゃんの心がものすごく荒み始めている。もう元には戻れないくらいに。
「・・・冗談じゃないよ?だって私たちはもう何度も唇を重ねた仲だもん!ね、お兄ちゃん♡」
そう言って携帯を渡してきた。
これから僕がやらなければいけないことは分かる。そうしないと今度こそ恭子ちゃんは何をするか分からない。
だけど・・・このままでいいのか?このまま何も抵抗しなくていいのか?
「・・・」
「どうしたの?早く電話にでてよ~」
そうだ、このままでは何も解決しない。恭子ちゃんのためにもここではっきりと言わないと・・・
「・・・陽菜、そのままで聞いてくれ」
「それよりどういう事!?本当に恭子ちゃんとキスしたの!?」
「・・・ああ、今の今までキスをしていた。それは紛れもない事実だ」
電話の向こうで息を飲んだのが分かった。
ごめん、陽菜。でもここからの事をどうしても聞いてほしかったんだ。
恭子ちゃんの目をじっと見つめる。そして、
「だけど・・・俺には恭子ちゃんに対して恋愛感情は持っていない。俺は他の子が好きなんだ。だから・・・恭子ちゃんのお願いは聞けない」
僕は禁断の扉を開けた。